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2015年5月27日 (水)

「第四百六十七話」

「おじさん!」
「ん?」
「バイト仲間から聞きましたよ!」
「何をだ?」
「おじさん実は、拳法の達人だったんですね!」
「その事か。」
「いやぁ!何か俺!おじさんは只者じゃないって思ってたんですよ!」
「そうか。無駄話は事務所に戻ってからでいいだろ?さっさと仕事を片付けよう。」
「あの俺!お願いがあります!」
「バイトのシフトの事か?」
「俺に!今ここで!おじさんの拳法教えて下さい!」
「何?」
「お願いします!」
「自分で言ってる事が分かってるのか?」
「分かってます!拳法初心者ですけど、俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!だから俺に今から拳法を教えて下さい!」
「そうじゃない。」
「分かってます!きっと物凄く辛い修行なんだと思います!でも俺!中途半端な気持ちでおじさんに弟子入りしようと思ってません!どんな辛い修行が待ち受けていようとも!俺!頑張ります!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「そう言う意気込み的な話じゃなくてだな。今ここで拳法教えてくれって、今ここは超高層ビルの99階なんだぞ?しかも俺達は今、ゴンドラに乗って窓の清掃をしてる最中なんだぞ?」
「はい!」
「いや、そんなキラキラした目で返事をされてもだ。別に今からじゃなくて、明日からでもいいだろ?」
「今がいいです!今からがいいです!」
「たから!状況を考えろよ!」
「でも今から拳法教え欲しいってなっちゃったんで!」
「子供かよ!」
「大人です!」
「そんなの見たら分かるよ!でもこう言う場合ってのは、そう言う感じの事を言うだろ!」
「言います!俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「それはもう聞いた。だから、明日からでもいいだろ?」
「ダメですよ!」
「何でだ!明日から教えるって言ってんだからいいだろそれで!」
「明日からじゃダメです!」
「何がだ!もう教える事は確定してんのに何がダメなんだ!」
「もしかしたら師匠が今晩、闇の拳法使いに寝込みを襲われて殺されるかもしれないじゃないですか!」
「どんな設定で俺を捉えてるんだよ。そんな組織とトラブルなんかないから安心しろ。」
「闇の拳法使いに寝込みを襲われて殺されないかもしれないけど!拳法使いなのに帰り道、ダンプに轢かれて死ぬかもしれないじゃないですか!拳法使いなのに!」
「拳法使いはスーパーヒーローじゃない!」
「でも!ダンプがこう来たら!瞬時にダンプの構造上1番弱い部分を、はいぃぃぃ!ってやって運転手は無傷でダンプ粉々にすれば轢かれずに助かりますよね!」
「まず、ここで大きな動きをするな!で、漫画読み過ぎだし映画観過ぎだ!」
「出来ないんですか!?」
「それに近い事は出来るが、お前が描いてる想像とは大きく掛け離れてる!」
「師匠!」
「大きく掛け離れてるって言ってるだろ!いや、そもそもだ!さっさと目の前の仕事を終わらせなきゃ、社員の人に怒られるぞ!」
「そんなの師匠の拳法で社員の人をやっつけちゃえばいいじゃないですか!」
「正統な理由で怒る相手を!正統な理由で怒られてる俺が!何で拳法でやっつけなきゃならないんだ!」
「だって相手は武器を使って怒ってくるかもしれないじゃないですか!それに武器を使って怒ってくる相手は!必ずしも1人とは限らないじゃないですか!」
「ゲームかなにかのやり過ぎだろ!」
「じゃあもう、この際、社員の人がとか関係なく!武器を使って沢山の悪者が襲って来たら師匠はどうするんですか!」
「どの際だ!今、話が社員の人から怒られるってとこから逸脱してどうすんだ!」
「どうするんですか!師匠!」
「お前の想像とは大きく掛け離れるが、やっつけるよ。」
「師匠!」
「絶対!お前の想像とは違うからな!」
「はいぃぃぃ!!って感じですね!」
「地面殴って大勢を吹っ飛ばすような拳法じゃない!俺のは!って、大きく動くなって言ってるだろ!とりあえず清掃しよう!なっ!」
「超高層ビルの窓を清掃して俺は拳法使いになれるんですか!」
「超高層ビルの窓を清掃したって拳法使いにはなれない。なれないが、仕事な!これは仕事!アルバイトしてお金を貰うために超高層ビルの窓を清掃するバイトの面接受けたんだろ?強くなる為にじゃないだろ?」
「目の前のお金より!目の前の拳法使いなんです!」
「だからその熱い気持ちは十分分かったから、明日からじゃなくて、仕事終わった今日から教えるから、なっ?」
「今がいいです!」
「何でだよ!この後教えるって言ってるだろ!」
「もしかしたらこのゴンドラが落ちるかもしれないじゃないですか!」
「何でそうマイナス思考な事を言いたがる!普通に作業してればそんな事にはならないから安心しろ。むしろ逆にここで俺がお前に拳法を教えた方が危険だ!」
「覚悟の上です!」
「どう言う覚悟なんだよ!」
「本望です!」
「どんな本望なんだよ!おかしいだろ?一瞬だけでも拳法を教えて貰えればそれでいいのか?この仕事終えて下に行ったらこれからずっと拳法を教えて貰えるんだぞ?」
「今がいいです!今からずっとがいいです! 俺!子供の頃から拳法使いになるのが夢だったんです!」
「何回も聞いたよ。でもな?時と場所を選ぶのが大人だろ?」
「じゃあ俺!大人辞めます!」
「大人辞めますって宣言して辞められるもんじゃないだろ!大人って!分かった。お前がどうしても今じゃなきゃ嫌だ。仕事終わってからじゃ嫌だって言うなら考えがある。」
「お願いします!」
「今から拳法の修行をするって事じゃない!その逆だ!どうしてもお前が気持ちを抑えられなくて今からじゃないと嫌だって言うなら、俺はお前に拳法を教えない!」
「それは俺に子供の頃からの拳法使いになるって夢を諦めろって事ですか!」
「違うだろ!我慢しろって事だ!」
「分かりましたよ。窓拭きしますよ。子供の頃からの拳法使いになるって夢を人質に捕られたんじゃ仕方ないです。」
「言い方おかしいだろ!」
「こうなったら師匠!さっさと終わらせましょう!早く!」
「何でちょっと俺が悪いみたくなってんだ?」
「ところで師匠?」
「今度は何だ?」
「師匠の使う拳法は、何拳なんですか?」
「俺の使う拳法は少し変わってる。」

四百六十七話
「屁拳」

「それは握りっ屁だ!」
「握りっ屁とは大きく掛け離れてる!」

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