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2015年5月13日 (水)

「第四百六十五話」

「ヤバいヤバいヤバいよ!遅刻だよ!」
私は大学生。ママが朝からパパとケンカしてて起こしてくれなかったおかげで、こうして朝からバス停まで走らなきゃならなくなったってだけの話。
「ヤバいってば!これマジでヤバいから!」
ママのせいにするのは簡単な話だけど、実際には私が昨日提出期限のレポートを家に忘れたのがいけないの。寛大な先生が明日の朝一番までなら受け付けるって言ってくれたそれが今日。こんな事なら昨日の夜にでも届けとけばよかった。こんな事で単位を落として3年になれないなんて有り得ないから!
「おい!」
「今急いでるの!」
私の目の前に突然現れて私の未来を邪魔するこの老人は、近所で変わり者と煙たがられてる発明家の老人。でも私はわりと昔から嫌いじゃないけどね。
「さては、急いでるな?」
「たから急いでるって言ってるよ!」
「急いでるとこ悪いんだけどな。新しい発明品が完成したんだ。」
「はあ?今じゃなくてよくない?大学から帰って来てからでよくない?」
「お前さんの未来に関わる事なんだ。」
「既にこの段階でエラく関わってますけど?」
「車を発明品したんだ。」
「車?もしかしてその車で大学まで送ってくれるって事?なんだ!それを早く言ってよ!どれ?どれその車?ねぇ?どれどれ?」
「そんな慌てなくても発明品は逃げはせんよ。」
「いや慌てるでしょ。この状況慌てない大学生いないでしょ。」
私は、慌てる気持ちを抑えて発明家の家のガレージまで着いて行った。ガレージの中にはドアが翼みたいに開くモスグリーンの車が止めてあった。
「どうだ!」
「どうだって、どうだっていいから早く大学まで送って!ヤバいの!」
「おいおいおい、簡単にこの車で大学に送ってくれなんて言うもんじゃない。」
「はあ?簡単にでしょ?車って簡単に大学に送るもんでしょ?博士は簡単に大学に送れない、そんなポンコツを発明したの?」
「いいか?迂闊にこの車を運転したら、お前さんは大学に辿り着く前に驚いて心臓停止させるぞ。」
「どんな車よ!いやもうややこしい!急いでる時のややこしいは殺意覚えるよ?安易に大学に送れないならこれは何?タイムマシーン?タイムマシーンで私を遅刻する前の朝まで戻してくれるの?それで私が私の代わりにレポートを提出してハッピーエンド?だったら行こうよ!今すぐ朝に出発しようよ!」
「何を言ってるんだ。タイムマシーン?タイムトラベルの仕組みも知らないで簡単に都合良く言ってくれる。いいか?確かに朝に戻ってレポートを提出すればレポートを提出した事になる。」
「いいじゃん!タイムトラベルいい事尽くしじゃん!」
「お前さん、タイムパラドックスと言う言葉を聞いた事ないのか?」
「ないわよ。」
「何の為の大学だ。」
「別にタイムパラドックスって言葉を聞く為に行ってないから!タイムパラドックスの講習受けに行ってないから!やってないし!」
「タイムトラベルには常にタイムパラドックスがつきまとう。つまりだ。過去に戻ってお前さんが若き日の自分の父親に恋をしたら?過去に戻ってお前さんが若き日の自分の父親を殺したら?お前さんの存在は?」
「パパがママに出会わなければ私は生まれないから、えーと?私の存在は消える?」
「そうだな。それがタイムパラドックスだ。タイムトラベルが不可能だと言われる要因だな。だがどうだ?お前さんがタイムトラベルした時点で別の時間軸の世界が存在したとしたら?」
「はあ?」
「つまりだ。この現実とは別に新たに現実が生まれる。そこで若き日の父親と恋に落ちようが若き日の父親を殺そうが、その世界ではお前さんが生まれない時間軸が流れるだけだ。」
「海外旅行的な?」
「んまあ、物凄く頭悪く言うとそんな感じだ。だから、お前さんがタイムトラベルしてレポートを提出しようがだ。それはタイムトラベルした先の時間軸の話で、タイムトラベルから戻って来たお前さんの本来の時間軸では、レポートを提出しないって時間が流れてるだけだ。根本的な現実は何ら変わらないって話だ。」
「いやもうややこしいって!ややこしくてややこしくて、ややこしいって!何なの?何が言いたいの?」
「つまりこの車は、今の超弦理論と言うヤツを利用した車、人を轢き殺さない車だ!」
「はい?いやいやいや、だったら簡単に大学に私を送れるじゃん!」
「話を最後まで聞くんだ。人を轢き殺さないと言っても、実際には轢き殺す。」
「何を言ってんの?大丈夫?」
「つまりだ。この車は、人を轢き殺しそうになった時に、自動的にタイムトラベルをする。そして、タイムトラベル先でその人を轢き殺す。轢き殺した時点で再び自動的にタイムトラベルをして本来の時間軸に戻って来る。だからここでは人を轢き殺したと言う現実は存在しない。死ぬまで人を轢き殺さない優良ドライバーであり続けられる!」
「訳の分からない事を熱弁中に悪いけど、倫理的にどうなのかしら!いくら別の時間軸の話でも実際に人を轢き殺しちゃってるんだし!いくら別の時間軸の話でも悲しむ人間がいるんだし!その理論だともしかしたらこの世界が基本世界だと限らないし!」
「だから化学は面白いな。」
「いやいやいや!そんな改めて化学の奥深さに浸ってないでさ!そもそも、車で大学に私を送る気がないなら、それは単なる発明品自慢の発明家って事ですよ?」
「発明家が発明品が完成した時に誰かに自慢するのは極々当たり前の現象だろ?」
「そんな身勝手で私の未来を台無しにしないでよっ!!」
「女の子が声を荒げたりしたらダメだ。」
「今荒げないで私は一体いつ声を荒げればいいのよ!」
「簡単に大学に送れなんて言うなとは言ったが、大学に送らないとは言ってないだろ?」
「えっ?」
「さあ、乗りなさい。」
「あのさ?博士さ?そう言う事は、もっと早く言ってよね!で、別にこの車がどんな車なのかは大学に送りながらでもよかったよね?」
「急げばまだ間に合うだろ?それに、この車がどんな車なのかを知った上で乗って欲しかったんだよ。仮に説明なしでわしがいきなり人を轢き殺してもニヤニヤ笑ってたらヤバいだろ?」
「んまあ、そうだけどさ。でも、人を轢き殺しても人を轢き殺してないけど、やっぱり結局人は轢き殺してるって、倫理的にどう?こんな車が発明出来るなら、もっと別の発想なかったの?」
「もっといい発想は、平行宇宙の別のわしがしてるかもしれないな。ほら、家族団らんのお前さんがいるようにな。」
「いやいやいや、この宇宙でも私は家族団らんですけど?」
「朝早くから、父親の浮気が原因でケンカしてるのにか?」
「はあ?」
「たまたま朝の散歩でお前さんの家の前を通ったら聞こえて来たんだ。離婚だとかそえじゃないとか?でもまあ、わしの長年の経験からすると離婚は決定的だな。」
「どう言う事?」
「言ったろ?お前さんの未来に関わる事だって。ほら、お前さんの父親がちょうど家から出て来たぞ。」
「轢き殺して!」

第四百六十五話
「向こうの私には申し訳ないと思ったけど」

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