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2015年6月24日 (水)

「第四百七十一話」

 俺は、公園のベンチで売り物のメガネを拭いていた。

第四百七十一話
「メガネを売り歩く男」

今日はやけにガキが多いと思ったら、パレードの日か。
「おじさん!」
すると数多くのガキのうちの一人のガキが俺に話し掛けて来た。ガキは嫌いじゃないが好きでもない。
「何だ?ボーイ。」
「何してるの?」
「見れば分かるだろ?」
「メガネ?」
「そうだ。メガネだ。」
「何でメガネを拭いてるの?」
「俺の横に大きな黒いカバンがあるだろ?」
「うん。」
「この中には、沢山のメガネが入ってる。」
「何で?」
「売り物のだからさ。」
「おじさん、メガネ売りなの?」
「そうだ。だからこうして商品のメガネを丁寧に拭いて、綺麗にしてるんだ。」
「ふ~ん!ねぇ?」
「何だ?」
「おじさんの横、座ってもいい?」
「おじさんの横でいいなら、いくらでも。」
「ありがとう!」
ガキは嫌いじゃないが、好きでもない。 別にメガネが珍しい時代でもないってのに、一体何がこのガキの好奇心を刺激したんだ?
「おじさんの横に座っても、これと言って特別何か面白い事がある訳でもないぞ?」
「あるよ!」
「そうか。」
ガキの考える事は、さっぱり分からない。別にメガネ拭きの邪魔にはならないが、いつも以上にメガネ拭きがはかどる訳でもない。
「ねえ、おじさん?」
「何だ?」
「このオーソドックスなメガネの他に、どんなメガネを売ってるの?」
「それは何か?つまり、この黒い大きなカバンの中の他のメガネが見たいって言う事か?」
「うん!」
ガキにメガネを見せたとこで金になる訳じゃないが、見せない理由も特には見付からない。
「いいだろう。」
「わーい!」
「これは、勇気のメガネだ。」
「勇気のメガネ?」
「そうだ。このメガネを掛けると勇気が湧いて来るんだ。」
「ホントに?」
「ボーイ、キミが信じようが信じまいが、このメガネを掛ければ勇気が湧いて来る事に何ら変わりはない。」
「掛けさせて掛けさせて!」
「ダメだ。」
「何で?」
「いいか?これは売り物だ。商品なんだ。友達の家に置いてあるオモチャと違う。それに、メガネは人を選ぶ。本当に勇気を必要としない者が掛けたとこで、それは勇気のメガネじゃなく、単なるメガネだ。」
「おじさん、僕が子供だからって、からかってるんでしょ!本当は勇気のメガネじゃなくて単なるメガネなんでしょ!」
「だったらボーイ、勇気が必要になった時、このメガネを買いに来るといい。」
「そう言うの詐欺って言うんだよ!」
「ハッハッハッ!ボーイ、詐欺かどうかは結果論で話してくれ。」
ここら辺は、大人も子供も同じだな。全ての事象が理屈付け出来なきゃすぐに許容範囲をオーバーして人を詐欺師扱いだ。メガネは理屈じゃない。理屈じゃない事を理屈で説明しろって方が無理だ。
「もう気が済んだだろ?ママのとこに帰ったらどうだ?」
「もっと見せて!」
「やれやれ。じゃあ、次のメガネはこれだ。」
「それはどんなメガネなの?」
「これは、超勇気のメガネだ。」
「えっ?」
「この超勇気のメガネを掛ければ、この勇気のメガネを掛けた時以上に勇気が湧いて来る。」
「何だよそれ!」
「そんなリアクションされても困る。」
「おじさん、もしかして僕が子供だからバカにしてる?」
「それは心外だ。俺はただボーイの望み通り黒いカバンの中のメガネを見せてるだけだ。」
「じゃあ!もっと見せて!」
「お望みなら。」
「そのメガネは?」
「このメガネは、もっと超勇気のメガネだ。」
「ねぇ!」
「超勇気のメガネを掛けた時以上に勇気が湧いて来る。」
「ねぇってば!」
「何だ。」
「どう言う事?」
「どう言う事も何もない。勇気のメガネ、超勇気のメガネ、もっと超勇気のメガネって事だ。」
「だったら次は、超もっと超勇気のメガネ?その次は、もっと超もっと超勇気のメガネ?その次は、超もっと超もっと超勇気のメガネ?」
「いや違う。もっと超勇気のメガネの次は、存在しない。」
「存在しないの!?こんなに存在しそうな空気感なのに存在しないの!?」
「ああ、存在しない。存在しないと言うより、これ以上の勇気は必要ないってだけの話だ。存在させようと思えば存在させられるが、意味がないってだけの話だ。無意味で高価なメガネを作ったとこで、誰も買わないんじゃ作る意味が無いって話だ。」
「意味が分かんないよ!」
「さあ、おじさんがどんな感じのメガネを売ってるか分かったんだ。そろそろママのとこに帰ったらどうだ?」
「全然分かんないよ!」
「そうか。」
「そうだよ!」
「これは、憤怒のメガネ、超憤怒のメガネ、もっと超憤怒のメガネ。これは、悲愴のメガネ、超悲愴のメガネ、もっと超悲愴のメガネ。分かったろ?」
「分からないってば!」
「これは、快楽のメガネ、超快楽のメガネ、もっと超快楽のメガネ。これは、博愛のメガネ、超博愛のメガネ、もっと超博愛のメガネ。分かったろ?」
「だから何にも分からないってば!」
「もういいだろ。おそらくボーイが望むメガネは出て来ない。ママのとこに帰るんだ。」
「ヤダよ!こんなモヤモヤした気分じゃ帰れないよ!ねぇ?おじさんが掛けてるメガネは何のメガネなの?」
「これか?これはまだ売り物じゃないんだ。試作品でな。こうして自分で効果を確かめてるんだ。」
「何のメガネなの?」
「教えたらこのエンドレスな遊びを終わりにしてくれるか?」
「それは分かんないよ。」
「死者が見えるメガネだ。」
「えっ?」
「ボーイ、そろそろママのとこに安らかに帰るんだ。」

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