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2015年6月 3日 (水)

「第四百六十八話」

空港に向かうハイウェイの車内、スーツ姿の男2人。黒い車の運転席の男が助手席の男に話し掛けた。
「走れるか?」
「もちろんだ。」
「お前、分かってない。」
「分かってるよ。」
「走るを理解してない。」
「理解してるよ。空港でお前がバッグを男から預かる。そして俺にそのバッグを渡す。俺は走って駐車場に向かう。車に乗り込み空港を後にする。局に戻る。任務完了だ。」
「あのな?それは全体的な段取りの話だろ?俺が言ってるのは、走れるか?って事だ。お前が走る部分に関してだけの話をしてるんだ。」
「いやいやいや余裕だよ。」
「分からない奴だな。」
「どっちがだよ。走れるかって聞くから走れるって答えてるだろ?」
「イメージだよ!お前の頭の中できちんと走るイメージが出来てるかの問題だよ!俺はそれを心配してんだよ!」
「イメージ?イメージって何だよ。」
「ほらこれだよ!思った通りだよ!ああ、良かった!このタイミングで聞いといて良かった!」
「なんかバカにされてんのか?俺は?イメージってあれか?イメージトレーニング的な事か?バッグを受け取ってから駐車場までの。」
「そうだよ!」
「それなら何回か空港に行ってルートは下見してるから大丈夫だ。」
「お前な。」
「何だよ。」
「お前なぁだよ。」
「どんなだよ!」
「それは下見で、イメージトレーニングではないっ!」
「何なんだよ!何で大声で叱られなきゃなのかが理解出来ないよ!俺の何がどうダメなのかを説明してくれよ!」
「ルートを下見しただけじゃダメだって事だ。いいか?お前は、バッグを受け取ってから駐車場までのあらゆる事態を想定してない。」
「あらゆる事態?」
「とにかく今から俺が空港に着くまで簡単な走るイメージについてレクチャーしてやる。」
「なんか物凄く上からであんまり感じ良くないけどお願いします。」
「イメージしろ?お前は、俺からバッグを受け取った。」
「ああ。」
「そして走り出す!」
「走り出す。」
「すると目の前に初恋のあの子が!」
「はあ?」
「初恋のあの子が!」
「何だよそれ。」
「お前、初恋してないのか?もしかしてまだ恋とかしてないのか!?」
「30ぐらいのオッサンが初恋まだなんて事あるかよ!だいたいお前、俺の結婚式来ただろ!」
「そう言う結婚じゃないかもしれないだろ。」
「そう言う結婚だ!で、何なんだよ!目の前に初恋のあの子がって!どんなイメージだよ!」
「あらゆる事態を想定しなきゃ任務完了にはならないって言ってるだろ!甘いんだよお前は!」
「はあ?分かったよ!ばっちり駐車場まで辿り着いてやるよ!」
「目の前に初恋のあの子が!」
「ああ、初恋のあの子な!」
「どうする?」
「どうするって何だよ。どうもしないよ。俺は一直線に駐車場に向かうよ。」
「裸なのにか!初恋のあの子が裸なのにか!初恋のあの子が抱かれる準備万端なのにか!」
「どう言う状況だよ!空港で裸なんて有り得ないだろ!」
「何が起こるか分からないのが人生だろ!」
「何が起こるか分からないのが人生かもしれないけど、空港で初恋のあの子が裸で立ってない事は分かる!」
「じゃあ、通り抜けるんだな!お前は裸の初恋のあの子の横を通り抜けるんだな!抱かないんだな!」
「抱かないだろ!空港だぞ!」
「通り抜け際にオッパイは触るのか?」
「はあ?」
「裸の初恋のあの子の横を通り抜けた時にオッパイは触るのか触らないのかを聞いてるんだ!」
「触らねーよ!」
「お前ー!裸の初恋のあの子に恥かかせるつもりかー!」
「何でちゃんと任務を全うしてるのに叱られなきゃならないんだよ!」
「お前が男として最低だからだ!」
「触るよ!触ればいいんだろ!裸の初恋のあの子の横を通り抜ける時にオッパイ触るよ!」
「よし!」
「どう言う、よし!なんだよ!で、俺は駐車場に辿り着く!無事任務完了!」
「おい!だからお前は甘いんだよ!そんなイメージしか出来ないから甘いんだよ!」
「まだ何かあんのかよ!」
「裸の初恋のあの子のオッパイを触った走るお前の目の前に次に待ち受けるのはテロリストだ!」
「はあ?」
「武装した20人のテロリストだ!」
「はあ?」
「止まるな!走れ!」
「いや無理だろ。」
「とにかく走れ!」
「撃ち殺されて終わりだろ?」
「撃ち殺されて終わりだと思うから撃ち殺されて終わるんだ!」
「どんな格言だよ!気持ちでどうにかなる状況じゃないだろ!」
「いいから走れ!弾丸をかいくぐりながら走って走って走りまくれ!」
「いや、これイメージだからいとも簡単に弾丸の中をかいくぐれるけど、実際は絶対無理だろ!」
「かいくぐったか!」
「かいくぐったよ!」
「武装集団の横を通り抜けたお前の前には大きな穴だ!」
「そんな空港があるかよ!」
「あらゆる事態を想定しろって言ってるだろ!」
「あらゆるがあらゆる過ぎるんだよ!」
「大きくて深い穴がある!」
「飛び越えるよ!」
「いや、残念ながら走り幅跳びの世界記録保持者でも飛び越えるのは不可能だ。よってお前は穴に落ちる!」
「どんな設定だよ!どうなるんだよ俺は!穴に落ちて死ぬのか!」
「死ぬとか簡単に言うな!」
「そう言う意味で言ったんじゃないだろ!打ち所が悪くて死んだんじゃないかって話だ!」
「安心しろ!お前は生きてる!そしてお前は穴から這い上がる!」
「だから、これはイメージだからいとも簡単に這い上がってるけど、実際は絶対無理だろ!」
「大きくて深い穴から這い上がったお前はそこで体の異変に気付く!」
「どうしたんだよ俺の体!」
「打ち所が悪くて右足の膝から下がない!」
「打ち所悪かったんじゃねーか!」
「どうする!」
「どうするって、右足の膝から下がないんだったらもう走れないだろ!」
「諦めるな!」
「諦めるだろ!」
「回りをよく見てみろ!」
「だいたい何で他の奴等は裸の女がいたり武装集団がいたり大きくて深い穴が開いてたりすんのに普通なんだよ!」
「イメージだからだ!事細かに一人一人の行動までイメージする処理能力なんかないだろ?あんのかお前に!」
「ある!」
「じゃあ、やってみろ!そこまでリアルにイメージしてみろ!」
「した!」
「空港は大パニックだ!」
「そうだな。」
「お前のせいだぞ!」
「お前の無茶苦茶な設定のせいだろ!」
「探せ!」
「何を!」
「大パニックの空港の中から探し出すんだ!」
「だから何を探すんだよ!」
「博士だよ!」
「博士?」
「お前のなくなった右足の膝から下をサイボーグ化してくれる博士だ!」
「そんなのいる訳ないだろ!」
「ここは空港だぞ?なくなった右足の膝から下をサイボーグ化してくれる博士の一人や二人いる!」
「いたとしても見分けがつかないだろ!空港なんだから!」
「ちょっとサイボーグっぽい人を探せばいいだろ!」
「ちょっとサイボーグっぽい人って何だよ!」
「がっつりサイボーグじゃないって事だ!」
「ちょっとサイボーグ?手が機械っぽいのでいいのか?」
「バカ!手が機械っぽかったら、これから改造手術を受ける時に支障があるだろ!顔が銀色の老人を探せ!」
「がっつりサイボーグだろ!」
「いいから早くしないと死ぬぞ!」
「死ぬんじゃん!いたよ!顔が銀色の老人!」
「よし!博士を捕まえてトイレに連れ込め!」
「トイレ!?」
「仕方ないだろ!この場合!」
「いやだから、この場合がおかしいだろって!」
「つべこべ言ってないで早くしろ!」
「連れ込んだよ!」
「よし!これでお前は足がサイボーグ化して5倍早く走れる!」
「左足の負担が半端ないな!」
「遅れを取り戻したお前は無事駐車場に辿り着いた。」
「無事じゃないけどな。」
「車に乗り込みバッグを助手席に置き、エンジンをかける。」
「あれ?」
「どうした?早くエンジンをかけて駐車場を出ろ!」
「いやそれが。」
「何してんだ!」
「バッグがない!?」
「何してんだお前は!」

第四百六十八話
「バッグは穴の中」

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