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2015年7月 1日 (水)

「第四百七十二話」

「何してんだ?」
朝起きてリビングに行くと妻は、窓越しにベランダの貝割れ大根のプランターを眺めていた。
「世界が平和にならないかなぁって思ってさ。」
「貝割れ大根を眺めてるだけで世界が平和になる訳ないだろ?」
「でもさ。凄く頭の良い偉い人達が何百年も何千年も知恵を出し合ったって世界が平和にならない。と言うことはつまり世界平和って、こう言うことなんじゃない?」
「どう言うことだよ!」
「貝割れ大根を眺めてるってことよ。貝割れ大根を眺めて世界が平和にならないかなぁって思うことよ。」
「はあ?」
「凄く頭の良い偉い人達が何百年も何千年もやってなかったことにこそ!世界が平和になる方法があるのよ!やってないでしょ?こうして貝割れ大根に世界平和を願うことを?」
「まずやらなかっただろうな。」
「でしょ!」
「それはなぜか!そんなことをしても世界が平和にならないって分かってるからだ。」
「なに?アナタも凄く頭の良い偉い人達派?」
「そんな派はない!」
「やらなくても分かるって、やってもないのにどうしてやらなくても分かるって分かるの!」
「本気で言ってるのか?」
「本気じゃなかったら、こんなことしてないでしょ。」
「貝割れ大根だぞ?」
「貝割れ大根よ?でもそれはたまたま貝割れ大根なだけで、何でも良かったのよ。」
「まあ、別に世界の滅亡を願ってる訳じゃないからいいけど、貝割れ大根に世界平和を願うのも程ほどにしとけよ。ん?でもそれって、どうなんだ?」
「何が?」
「いやだって、どうなったら終わるんだ?」
「世界が平和になったらよ。」
「そっちじゃなくて!世界が平和にならなかったらの方の話だよ。貝割れ大根に世界平和を願って、やっぱり貝割れ大根に世界平和を願っても世界が平和にならなかったの終わりの話だよ。仮に貝割れ大根に世界平和を願って世界が平和になるのが、貝割れ大根に数ヶ月間願い続けるんだとしたら?いや数年かもしれないし数十年かもしれない。もしかしたら何代にも渡って何百年、数千年かもしれない。」
「バカね。」
「このタイミングで俺が言われることなのか!?」
「今何時?」
「11時45分。」
「正午になったらやめるわよ。」
「たった数十分、貝割れ大根を眺めてるだけで世界が平和になったら凄く頭の良い偉い人達も苦労しないな。」
「数十分?何言ってるの?」
「何だよ。もしかして朝起きてからずっと数時間も貝割れ大根を眺めてるのか?」
「違うわよ。昨日、アナタが眠ってからよ。」
「えっ!?まさかおい!12時間以上もこうして貝割れ大根を眺めてるのか!?」
「ただ、ぼーっと眺めてるだけじゃなくて、世界の平和を願いながらなんだからいいでしょ?」
「異常だろ!それって異常ってやつだろ!」
「そう言う言い方は、どうなんだろう?」
「なあ?今から病院行こう!なっ?」
「どうしてどこも悪くないのに病院なんか行かなきゃいけないのよ!」
「どこか悪いから12時間以上も貝割れ大根眺めて世界平和願ってんだろ!」
「嫌よ!」
「だったら今日はもう部屋で寝てろよ。」
「無理よ。」
「無理って何だよ!」
「動けないのよ。」
「動けない?」
「そう!動けないの!何だか分からないけど貝割れ大根眺めて世界が平和にならないかなぁって思ったら体が動かなくなっちゃったの!」
「そんなバカな!?だってお前さっき正午になったらやめるって!」
「もう12時間にもなるし動くかなって思ったの!でも動かないのよ!」
「嘘だろう?」
「嘘じゃないわよ!ねぇ?アナタ?」
「何だよ。」
「もし、もしもよ?正午になってもアタシが動けなかったら、その時はアタシを殺して!」
「何でそうなる!世界平和を願ってた人間が何でそんなこと言い出すんだよ!」
「だってこのまま貝割れ大根を眺めて世界平和を願って生きて行くなんて耐えられない!」
「大丈夫だ!動けるようになるから!」
「ねぇ?アナタは、動けるわよね?」
「何言ってるんだ!こうして動いてるじゃないか!」
「腕や頭じゃなくて、足よ!足を動かしてみてよ!」
「な、何言ってるんだよ!動くに決まっ」
「どうしたの!?ねぇ!アナタ!」
「動かない!動けない!」
「どう言うこと!もしかしてこのままアタシ達は!一生貝割れ大根を眺めて世界平和を願いながら死ぬってこと!」
「そんな訳ないだろ!」
「ねぇ?アナタ?」
「ん?」
「世界が平和になるといいわね?」
「ああ、そうだな。」

第四百七十二話
「オペレーションカイワレダイコン」

「つまり、これが我々の辿り着いた世界平和です。大統領。」
「どう言うことだ博士?映像を見ただけでは理解出来ん。もう少し詳しく皆にも説明してくれないか?」
「つまり、何もしないってことですよ。この貝割れ大根から発生する我々が作り出したガスが、人間の闘争本能を麻痺させるのです。」
「そんなことをしたら人類が滅びるんじゃないのか?」
「それが世界平和です。大統領。」
「そんなものは世界平和と呼ば」
「どうしました?大統領。もしかして動けませんか?」
「貴様!」
「だいたい、貴方方のような権力者が権力を振りかざすから世界が平和にならないとは考えなかったのですか?」
「なぜ貴様は動ける!」
「薬を飲んでるからです。ああ、でもご心配なく。別に世界征服を企んでいる訳ではありません。私達は、世界平和を見届けたら速やかに自害します。既に、地球上にこの貝割れ大根の種は散布されています。あと数ヶ月もすれば世界平和ですよ。大統領。」
「ありがとう。博士。」
「いえいえ。大統領。」

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