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2015年7月22日 (水)

「第四百七十五話」

「もう無理だ!」
「あと少しだから頑張れ!」
「無理無理無理!」
「あと一歩だから!あと一歩で頂上だから!頑張れよ!」
「とにかく下山しよう!」
「冗談だろ?」
「お前、この顔が冗談だと思うか?」
「顔は冗談じゃないけど、どう考えたってこの状況、冗談だろ?」
「無理!下山だ下山!」
「あと一歩で頂上なんだぞ?」
「だから?無理なもんは無理!」
「いやいやいやいや!あと一歩って別に精神的なあと一歩って訳じゃなくて、物理的なあと一歩だぞ?あと一歩前へ踏み出せば頂上なんだぞ?」
「お前、ジャンボ餃子食った事あるか?」
「何の話だよ。」
「あと一口で完食だけど、そのあと一口がもう入らない!」
「いや、ジャンボ餃子に限った話じゃないだろ?」
「そう言う感覚だよ。わかりやすく言えばな。」
「登山を大食いで例えたら分かりにくいだろ!」
「ジャンボドーナツ食べた事あるか?」
「餃子がドーナツに変わっただけでそれ今さっき聞いたよ!」
「そう言う感覚なんだよ。」
「だから分からないっての!」
「じゃあ、ジャンボオムライス食った事あるか?」
「今のこの状況をジャンボな食い物で例えるのやめろ!」
「とにかくもう下山だ!下山!」
「あと一歩なんだぞ!」
「分かってるよ!」
「あと一歩で頂上なんだぞ!」
「分かってるって言ってる!」
「何で下山の一歩が踏み出せて、頂上へのあと一歩が踏み出せないんだよ!」
「お前!ここで下山の一歩を頂上への一歩に使ったら!下山出来ないだろ!」
「歩数で登山してる訳じゃないだろ!だったら頂上で少し休めばいいだろ?それで体力が少し回復したら下山すればいいじゃないか。」
「物事、そんなに上手く行かないだろ。この世の中。」
「この場合、上手く行くだろ!」
「プロの考え方だろ?」
「普通の登山の考え方だ!これは!」
「でもな?無理なんだよ。」
「何が無理なんだよ!その無理が理解出来ないんだよ!」
「理解して貰おうとは思ってないよ。」
「理解させてくれよ!とりあえず話の続きは頂上でしようぜ!」
「話の続きをするなら下山してからでもいいだろ?」
「あと一歩で出来る事を何で数時間後にしなきゃならないんだよ!」
「あのな?俺も分かってるよ。あと一歩前へ踏み出せば頂上だって事はさ。でも無理!ホントに無理!だから、そんなに頂上へ行きたいなら、俺はここで待ってるから、お前だけ頂上行って来いよ。」
「どうしてだよ!何なんだよそれ!どう言う状況なんだ!おかしいだろ!外で待ってるからお前見て来いよ的なショッピングじゃないんだぞ!」
「あのな?ちょっとそこを指摘したいんだけどさ。」
「何だよ。」
「何か、山登りが特別なモノだって思い過ぎてないか?ジャンボ食べ物もショッピングも山登りも同じだろ!同じ並びで考えなきゃだろ?山登りだから頑張らなきゃいけないとか!山登りだから我慢しなきゃいけないとか!おかしいだろ!山登りだって無理なもんは無理!」
「違うだろ!俺もこれが山の中腹とかだったら下山するよ!でも、あと一歩前へ踏み出せば頂上なんだぞ!」
「山のどこにいようが下山するのは自由だろ!何であと一歩前へ踏み出せば頂上って状況だけ特殊ルールが適用されんだよ!」
「いや、そう言う話じゃなくてさ!天気もいいし、お前だってどこか怪我した訳でもないし、急病でもない訳なんだから、ここで下山はおかしいだろ!むしろ悪天候や怪我や急病だったらこんな斜面にいないで、あと一歩なら頂上で救助を待つよ!」
「だからだろ!逆にそうじゃないからこそ!無理なんだから下山だろ!」
「何でここで下山出来ちゃうんだよ!多少元気であと一歩前へ踏み出せば頂上なら!頂上行くだろ!」
「無理に逆らえないだろ?無理に逆らって痛い目に遭ってる無理人間を俺は沢山知ってるよ。」
「ちょっと待てよ!下山するとしてだよ。まず一歩を踏み出すだろ?」
「ああ。」
「じゃあ、その上げた足をちょっとだけ頂上の草むらに付けてくれよ。で、その流れで一回りして下山へ踏み出してくれよ。」
「無理!」
「何が無理なんだよ!どうして無理なんだよ!」
「何がとかどうしてとか、無理なんだから仕方ないだろ。それに、別にこの山が凄く高い登山料だとか、それなりに有名だとかじゃないんだから、気軽にまた来ればいいだろ?あと一歩前へ踏み出せば頂上のとこで下山したっていいじゃない。」
「いや何か凄く気持ち悪いだろ、それって!」
「それは、お前の感覚だろ!お前の感覚に俺を巻き込むな!」
「ちょっとお前、背中に乗れ!」
「おいおいおい、まさか俺をおぶるって訳じゃないだろな?」
「当たり前だろ!そうするしかないだろ!」
「無理だ!」
「何で無理なんだよ!俺がお前をおぶって一歩前へ踏み出すんだぞ!」
「あのな?考えてみろよ。おぶさるにも俺は一歩踏み出さなきゃならないんだぞ?そんなおぶさる一歩を踏み出せるなら、俺はとっくに自力で頂上へ一歩踏み出してるよ。」
「おお!分かった!だったら踏み出さなくていい!俺の背中に倒れ込め!そしたら踏み出した事にならないだろ!」
「ああ、それは一歩踏み出した事にはならないな。」
「よし!来い!」
「でもな?それってあまりにも根本的に反則じゃねぇ?」
「反則って何だよ!」
「いいか?あと一口でジャンボ餃子を完食出来るけど、俺はもう無理!それを横で見てたお前がその一口を食ったら、果たしてそれを店の店主は許すだろうか?俺が完食したと回りのお客さんは拍手喝采だろうか?例え、店主が許して鳴り止まぬスタンディングオベーションの中、賞金を手にしたとしても俺は俺を許せない!」
「今は俺とお前の二人きりだし、ジャンボ餃子もないだろ!」
「いや、神が見てる。」
「問答無用っ!」
「なぬっ!?」

第四百七十五話
「頂上一歩手前の背負い投げ」

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