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2015年8月

2015年8月 5日 (水)

「第四百七十七話」

「よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。私は、この課の課長だ。」
母さん!僕は今、子供の頃からの夢だった刑事になりました!刑事になっての第一歩を歩き出しました!母さん、天国の母さん?きっと喜んでくれてますよね?
「分からない事があったら、恥ずかしがらずに何でも私に聞いてくれ。」
「はい!」
「因みに私は、課の連中からは課長と呼ばれている。」
「はい?」
「まあ、課長だから課長と呼ばれているのは当たり前じゃないかと新人君も思っただろ。」
「はい。」
「誰も私にニックネームを付けてくれないんだ。」
「ニックネーム?」
「まあ、私が課の連中のニックネームを付けてるから、私にニックネームがないのは当たり前と言えば当たり前なんだがな。だがしかし、薄情な連中だとは思わないか?私は、ニックネームを付けてやっていると言うのに、その私にニックネームを付け返してくれないんだからな。」
ニックネームか!母さん!ニックネームだよ?ニックネーム!刑事と言ったらニックネーム!まさに今僕は、刑事になった実感を堪能してます!
「聞いてるのか?新人君。」
「課長!」
「ど、どうした!?急にハッスルして!?」
「僕のニックネームは何でしょうか!」
「残念ながら新人君、キミにはニックネームはない!」
「そんなー!」
「安心しろ。最初はここにいる連中も新人君からのスタートだった。そうだなぁ?だいたい三ヶ月ぐらい行動を見たら私がニックネームを付けている。だから、新人君。私に思う存分、働きっぷりを見せてくれ!」
「はい!」
母さん!天国の母さん!やっとここまで来ました!刑事になって母さんを殺した犯人を捕まえる!子供の頃、心に決めたスタート地点に、ようやく立てました!母さん?僕が絶対にあの犯人を捕まえます。だからその日まで、僕の刑事魂溢れる働きっぷりを天国から見てて下さい!

第四百七十七話
「刑事魂」

「とりあえず新人君。キミに課の連中を紹介しよう。」
「は、はあ、ですが課長?」
「と言っても今はあの事件で全員出払ってるな。」
「あの事件?」
「殺人事件の捜査だ。」
「じゃあ、僕も行きます!」
「まあ、待ちなさい新人君。右も左も分からないで捜査に参加するのは、逆に足手まといだ。キミのバディが戻るまで、とりあえず課の連中をこの写真と共に紹介しよう。」
「集合写真、分かりました。」
「あそこのデスクは、思い出し笑い刑事。」
「え?」
「ん?何だ?既に顔見知りか?思い出し笑い刑事と。」
「いや、ここに来る途中でぶつかった的な、え?じゃありませんよ。今のはもしかしてニックネームってやつですか?」
「そうだよ。」
「思い出し笑い刑事って?」
「そのままだよ。コイツはな。よく思い出し笑いをするんだよ。」
「よくって、ニックネームにする程ですか?」
「見てみろこの写真の笑顔。」
「これ!思い出し笑いなんですか?」
「コイツはな。リアルタイムで笑った事がないんだ。」
「病気ですか?」
「なかなか面白い発想をするな新人君!思い出し笑い刑事は健康そのまものだ。」
「刑事が勤まるんですか?」
「思い出し笑い刑事を侮るな?コイツの思い出し笑いはただの思い出し笑いではない。その時の全てを記憶しているんだ。風景から匂い。周囲の会話。そこから何度も事件を解決に導いている。」
「凄いですね。」
「超記憶術とでも言ったらいいのか?まあ、難点はコイツが思い出し笑いするぐらいの出来事でなければ記憶しないってとこだな。」
「なるほど。」
「次にあそこのデスクは、この独り言刑事だ。」
「独り言ばっかり言うんですか?」
「そんなレベルで私がニックネームに採用する訳がないだろう?」
「と、言いますと?」
「コイツは、独り言しか喋らない。」
「はい?」
「だから会話は成立しない。覚えておくといい。」
「それこそ刑事が勤まるんですか?」
「新人君。キミは映画やドラマで、刑事モノや探偵モノを観た事はないか?」
「あります。」
「その時、事件解決になるような一言を言うキーパーソン的な人間がいるだろ?」
「はい。」
「独り言刑事は、まさにそのキーパーソン的な人間だ。コイツの発する独り言をきっかけに何度も事件を解決した。」
「そうなんですか。」
「次はあそこのデスクのこの下痢刑事だな。」
「そのニックネームでこの流れだと、つまりこの人は、ずっと下痢って事ですか?」
「察しが良いな、新人君!そう、コイツは常に下痢だ。」
「それこそ病気なんじゃないですか?」
「これは病気だな。」
「病院には行ったんですか?」
「ああ、さすがに私もガリガリの姿を見て、病院に行かせたよ。」
「治ったんですか?」
「ああ、治った。」
「え?治ったのにまだ下痢刑事はおかしいですよ。」
「いや、おかしくない。私が通院をやめさせたから、下痢だ。」
「何でやめさせるんですか!」
「事件を解決出来なくなったからだよ。」
「まさか、下痢だと事件を解決出来るって言うんですか?」
「私もそんな事あるかって思ったよ。だが、歴然だ。下痢時のトイレと言う個室空間で発揮するコイツの推理力は物凄い。」
「死んじゃうのでは?」
「下痢か辞職か選べと言ったら、コイツは迷わず下痢を選んだ。自分を犠牲にしてでも世の中を悪から守ろうとするその正義の心は誰にも負けない。」
「じゃあ、ニックネーム変えて上げましょうよ。」
「次はあそこのデス」
「課長!どう言うつもりですか!」
「おっ!丁度キミのバディが戻って来たぞ。」
「彼女がですか?」
「課の連中の紹介はまた後でゆっくりとするとして、まずはキミのバディの紹介だ。」
「課長!どう言うつもりですか!何でアタシが新人とバディを組まされなきゃならないんですか!」
「初々しいだろ?ほら、挨拶しなさい。」
「よろしくお願いします!」
「課長!アタシにバディは必要ありません!」
「そう言わずに、新人君を鍛え上げてくれよ。」
「そんなの絶対音感刑事や!」
「絶対音感刑事?」
「観葉植物刑事や!」
「観葉植物刑事?」
「しりとり刑事に任せればいいじゃないですか!」
「しりとり刑事?」
「彼らには既にバディがいて、キミだけだろ?バディがいない一匹狼は。」
「だから!アタシには必要ないって言ってるじゃないですか!」
「先輩!」
「はあ?何?」
「確かに僕は新人君です!他の先輩刑事方のような特殊な能力で事件を解決に導けないかもしれません!でも、僕にも先輩刑事の皆さんに負けない能力があります!それが捜査の約に立つか分かりませんけど。」
「はあ?」
「おっ!それは一体どんな能力なんだ新人君!」
「はい!僕は一度見たお母さんの顔と名前は絶対に忘れません!」
「だから!そう言うのが気持ち悪いって言ってんの!」
「き、気持ち悪い?」
「一度見た何々は忘れないとか!無機物と会話出来るとか!病気が分かるとか!そう言うの気持ち悪いのよ!」
「まあまあまあ、落ち着きなさい。新人君に八つ当たりしても仕方ないだろう。すまんな、新人君。」
「え?課長?これは一体?」
「とにかく!アタシにバディは必要ありませんから!それだけです!」
「お、おい。どこへ行くんだ?」
「犯人捕まえたんで!これから取り調べです!」
「捕まえたって、万引きか?銀行強盗か?」
「あの事件のですよ!」
「あの事件のだと!?」
「そうです!」
「相変わらずだな。」
「課長?彼女は?かなりの凄腕刑事っぽいですけど、一体彼女のニックネームは?」
「普通刑事だ。」
「普通刑事!?」
「普通なんだよ、彼女は。」
「普通刑事って、刑事って普通ですよね?この課の方達が少し変わってるだけで、殆どの刑事は普通刑事ですよ。」
「まさか、あの事件の犯人を捕まえて来るとはな。さすが普通刑事だ。」
「課長、そのさっきからちょくちょく出て来るあの事件って何ですか?」
「この写真の男が起こした事件だ。キミもよーく知っているだろう。」
「コイツは!?」
母さん!天国の母さん!刑事として母さんを殺した犯人を絶対に捕まえてやるってスタート地点に立った初日の1時間もしないうちに僕は、ゴールテープを切っていました。

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2015年8月12日 (水)

「第四百七十八話」

「先生、死って、呆気ないですね。」
若い看護師が患者の居なくなった病室で僕に言った。
「呆気ないか。」
「はい。昨日の夜は元気だったのに、今日の夜にはもう、この世に居ない。ホント、呆気ないですよ。」
僕は看護師の話を聞きながら窓の外に目を向けた。
「満月だ。」
「え?」
「綺麗な満月だ。」
「本当だ。」
「満月の夜は不思議だと、神秘的な感じで言われている。」
「先生、もしかして狼男ですか?」
さっきまで悲しみを表情に浮かべていた看護師が、少し笑った。
「狼男か。そうだな。」
「まさか、狼男を信じてるんですか?」
「まさか。信じちゃいないさ。ただ、狼男なんて話が出来上がってしまうほど、満月の夜ってのは神秘的だって事だよ。」
「あのう?」
「ん?」
「先生は、一体何が言いたいんですか?」
「神秘的な満月の光を浴びたらキミに告白したくなってね。」
「ちょっ!?ププププロポーズですか!?」
死に対して悲しみの表情を浮かべていた看護師は笑い、そして今は恥ずかしさで顔を赤らめていた。
「ハハハハハハハ!」
「ちょっと先生!亡くなられた患者さんの病室でジョークなんて不謹慎ですよ!」
そして今度は、怒った。
「ごめんごめん。僕の言い方が悪かったな。」
「もう!」
「ただ、キミに告白したいって言うのは本当だ。ちょっと来てくれないか?」
「え?どこへですか?」
「来れば分かるさ。」
「先生?」
死は呆気ない。久し振りに聞いた頭に血が上る言葉だった。確かに死とは何とも呆気ないものだろう。誰もがそう信じ込んで今日を生きている。だがそれは、真実を知らないから信じ込める幻想に過ぎない。人はこの世に生まれてから死に向かって生きている。どこかの真実を知らな過ぎる人間が発した愚かな言葉だ。
「先生?どこへ連れて行くつもりですか?」
看護師の言葉は耳に入っていたが、その問いに答えたくもないほど、僕は頭に血が上っていた。エレベーターに乗りキーを差し込み秘密のボタンを押した。
「何ですか?そのボタンは?」
「もうすぐ分かる。」
看護師の表情は、少し恐怖を浮かべていた。死とは、確かに生物としての終わりを意味する。そう、あくまで死は生物の終わり、だと。歴史上の人物は、死んでもなお、人々の心で生き続ける。人はそれを愚かな人間の言葉を鵜呑みにして、永遠に生き続けると言う。死とは、確かに生物としての終わりを意味する。確かに生物としての終わりを意味しているのだから、生物としての終わりだ。人の心で生き続けて何の意味がある?自分の意志とは関係なく虚像に祭り上げられるのが関の山だ。
「チーン!」
エレベーターが開き、この長い廊下の先にある病室を目にしてもなお、この看護師の価値観が変わらなかったら、僕は医者を辞めて非日常にひっそりと溶け込み残りの人生を生きて行こう。
「死は呆気ない。キミはさっき、そう言ったよね?」
「はい。」
「もう少しその言葉の意味を掘り下げてみよう。」
「はい?」
「可哀想だ。」
「先生?」
「昨日の夜は元気だったのに、死んでしまって、とても可哀想だ。或いは、死はいつ自分の身に襲い掛かって来るかもしれないから、後悔しないように生きよう。もう少しひねくれて言うなら、健康体で若い自分とはまだまだ無縁の死と言う現象を巻き起こした患者への優越感。」
「何言ってるんですか!私は優越感なんかありません!担当看護師として一生懸命看病していた患者さんに対して健康体に生きてる優越感なんか持った事ありません!」
「ごめんごめん。最後のは僕が言い過ぎた。謝るよ。ただ、キミが何か死と言うものを勘違いしてるから少し意地悪になってしまっただけだ。」
「勘違い?私が何を勘違いしてるって言うんですか!」
「この病室の扉を開けるといい。そこに真実がある。」
「0号室?」
「特別な患者さんだ。」
「特別な患者さん?」
看護師の手は震えていた。扉の向こうには一体何があるのか?きっと、ありったけの想像力をフル回転させているんだろう。だが、一方的な感情が働かせる想像力に対して現実は常に、それを上回る。
「ガチャ。」
好奇心が恐怖心を上回ったのか?それとも恐怖心が好奇心を上回ったのか?看護師は真実の扉を開けた。
「先生、これは?」
「患者さんだって言っただろ?」
そう、真実とはこんなものだ。看護師が何を想像したのか?怪物だろうか?それとも自分が殺される事だろうか?エトセトラ。しかし、真実は、ベッドに寝る老人だ。
「この人は?」
「この男はな。こうしているだけだ。」
「はい?」
「分からないか?」
「分かる訳がないじゃないですか!」
「死なないんだよ。」
「死なない!?」
「男は今年で602歳になる。」
「またジョークですか?」
看護師の表情を見れば分かる。言葉とは裏腹に、頭の中ではその価値観が変わった。
当たり前のように死ねる事が、キミの言う呆気ない死が、どれほど価値のあるものかってのが、分かってくれたか?」
「・・・・・・先生。」
看護師は、それ以降何かを語ろうとはしなかった。今まで感じた事のない。普通に死ねる喜びと死に向かって生きる喜びを実感しているんだろう、おそらくは・・・・・・・・・。

第四百七十八話
「マジで永遠に生きる人」

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2015年8月19日 (水)

「第四百七十九話」

「何なんだこれは!」
「だから、さっきから何度も言ってるだろ?お前の家に来る途中で迷子になってたんだよ。」
「迷子になってた少女を普通!そのまま友人宅に連れて来るか?」
「だって、可哀想だろ?」
「だったら、俺の家じゃなくて!警察に連れて行けばいいだろ!」
「あの公園からだったら警察よりお前の家の方が近かったからさ。」
「どう言う理屈だよ!」
「だってお前、公園で急に腹が痛くなってウンチしたくなったら、遠くの警察署より、近くの友人宅だろ?」
「どう言う理屈だよ!公園で急に腹が痛くなってウンコしたくなったら、公園のトイレですればいいだろ!おい、いいか?お前は、迷子の少女を可哀想だからって俺の家に連れて来たかもしれないけどな!分かってるのか?これ、誘拐だぞ!」
「僕は誘拐なんかしてない!」
「お前にはその気がなくても、これってそう言うシチュエーションだろ!」
「だったらお前は!少女を置き去りにしとけばよかったって言うのかよ!」
「そうは言ってないだろ?警察に連れて行けばよかったって言ってるだろ?」
「警察は信用出来ない!」
「はあ?」
「奴等とグルかもしれない!」
「映画の観過ぎだろ!この少女は何だ?国の重要機密でも知っちゃったのか?」
「その可能性はゼロじゃないだろ?」
「限りなくゼロに近いゼロだ!だったらその可能性で話を進めるけどな!仮に少女が国の重要機密を知っちゃっててだぞ?だいぶ俺達の立場もヤバいだろ!」
「相当ヤバいよ。」
「だったら連れて来るな!」
「お前、放って置けるか?そんな少女を一人公園に放って置けるか?僕には出来ない!例え自分達の立場がヤバくなっても僕には出来ない!」
「お前なぁ?国と戦うには、俺達はあまりにも無力なんだぞ?」
「そうかもしれない!僕等は無力かもしれない!それでも!公園にあのままにしといたら!少女はすぐに奴等に捕まって!殺されてた!僕等は無力かもしれないけど!それでも!一分でも一秒でも少女の命を助けたかった!」
「お、おいちょっと待て。」
「結局、僕等も少女も捕まって殺されるかもしれない!でも、殺されない可能性だってゼロじゃない!もしかしたら全員無事なハッピーエンドになる可能性だってあるだろ!」
「ストップストップストップ!現実世界に戻って来い!」
「ただいま。」
「おかえり。あのな?少女が国の重要機密を知っちゃってる可能性はゼロじゃないかもしれないけど、限りなくゼロだ。それ以上にもっと可能性が高いのがるだろ?」
「実は今、僕等が知らないだけで、世界は大量のゾンビウイルスに感染してて、この少女にはそのゾンビウイルスに対しての免疫があるって話?」
「どうしてそうやって限りなくゼロの可能性から言ってくんだよ!え?次は何だ?少女は未来から来たタイムトラベラーか?地球を征服に来た宇宙人か?そうじゃないだろ?研究施設から逃げ出して来た超能力少女か?違うだろ?公園で迷子になってただけの少女だろ!」
「僕、お前が校長のハイスクールには、絶対娘を入学させたくないね!」
「俺は、校長にならないから安心してくれ。」
「お前が運転手のタクシーにも娘を乗せたくないね!」
「タクシーの運転手にもならないよ。」
「お前が神父の教会にも娘を通わせたくないね!」
「神父にもならないよ。そして、まず!娘が出来てから言ってくれ!」
「母親を捜そう!」
「はあ?俺達でか?」
「そうだよ!お前は、このまま誘拐犯の濡れ衣を着せられたままでいいのか?僕達で真母親を捜して無実を証明しよう!」
「誘拐犯の濡れ衣はまだ!誰にも着せられてない!」
「着せられてないのか!?」
「着せられてないだろ!」
「僕はてっきり、お前に着せられたのかと思ってたよ。」
「俺が?あれは、このままだと誤解されるぞって話だ。」
「何だよ。それならそうと早く言ってくれよな。ああ、よかった。」
「何で冷蔵庫からビールを取り出してんだ?」
「安心したら喉が渇いたんだよ。お前も飲むだろ?とりあえず乾杯しよう!」
「何一つ状況が変わってないのに乾杯なんか出来る訳ないだろ!あのな?これだけは口にしないって思ってたんだけどな。」
「無理無理無理!僕は、お前の事を親友だって思ってるけど!それ以上は思ってない!だいたい、同性同士で結婚しても子供は出来ないだろ?僕は娘が欲しいんだ!おいちょっと待て!もしかしてこの少女を僕達の娘にしよってのか!それはマズいよ!かなりマズい!」
「何でこのタイミングで俺がお前にプロポーズしなきゃならないんだよ!いろんな角度から妄想を膨らませるのやめろよな!」
「じゃあ、何だよ。」
「今、真夜中だぞ?」
「そうだよ。」
「真夜中に公園で少女が一人って、おかしくないか?」
「そうか?こんな時代だし、何があってもおかしくないだろ。」
「何でもかんでも時代のせいにすんな!いいか?いつの時代だって、だいたい真夜中にいる少女は決まってるんだよ。」
「決まってるって何だよ。」
「幽霊だ。」
「お前、幽霊なんか信じてんのか!」
「むしろ逆に、幽霊を信じてないお前にびっくりだよ!」
「仮に少女が幽霊だったとしてもだよ?公園に一人ってのは、あまりにも可哀想だよ。」
「何なんだよお前のその平等な優しさ!」
「人として当然だろ。」
「どっかの大統領になって世界を平和にしてくれよ!」
「努力してみる!」
「だがまず、お前に言いたいのは!幽霊だとしたら俺の家に連れて来るんじゃねぇ!自分の家に連れて行けっ!」
「お前、恐いのか?」
「恐いよ!恐いに決まってるだろ!もうな!少女がずーっと無表情で無言な時点でメチャメチャ恐いよ!」
「だったら、幽霊かどうか本人に聞いてみればいいよ。」
「幽霊だったらどうするんだよ!」
「それはそれで、そん時また考えればいいよ。」
「いいか?幽霊じゃなかったら、今すぐ警察に連れて行くからな!」
「分かったよ。」
「・・・キミはそのう?幽霊?」
「違うよ。」
「ほら違ったじゃないか。」
「信じた訳じゃないが、よし、じゃあ約束通り警察に連れて行くからな。」
「まあ、それが無難か。」
「警察はダメ!」
「え?」
「え?」
「警察は信用出来ない。きっと国の重要機密を知っちゃったアタシを殺すわ!」

第四百七十九話
「ありのままのメアリー」

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2015年8月26日 (水)

「第四百八十話」

「あちぃー!」
「どう言う事ですか?」
「エアコンが壊れてて暑いって事だよ!」
「いやそうじゃなくて!そんな事は私だって分かってますよ!」
「修理はいつ来るんだよ!」
「明日です。」
「こんな暑かったらな!仕事にならないよ!もう、今日はやめだやめ!やめやめ!」
「やめだやめって、子供の夏休みの宿題じゃないんですよ?」
「こんな数字の山に囲まれて、エアコン無しで数字を追跡出来るかってんだよ!」
「同じ事、遺族の方々にも言えるんですか?」
「・・・。ジョークだよ!ジョーク!暑い部屋を涼しくする為のジョークだよ!」
「体感温度誤差ゼロですけど?それで、彼は誰に殺されたんですか?」
「誰に殺された?それは警察屋さんのお仕事だろ?」
「屋さんって!」
「俺達数字屋の仕事は、誰に殺された?じゃなく、なぜ殺されなきゃならなかったか?だ。」

第四百八十話
「数字屋」

都会のビル群のあの辺の煙草屋を曲がって細道を行くとこの辺に小さな五階建ての建物があり、その真ん中の三階の部屋にそれはあった。
「なぜ彼は殺されなければならなかったんですか?」
「お前、美人だけど頭悪いな。」
「はあ?」
「それとな。美人だ美人だって世間に持てはやされてるかもしれないけどな。確かに、お前は美人だけど、俺のタイプじゃない。タイプじゃない美人は、ブスと同じ!」
「それは違うでしょ!」
「興味無いんだからさも似たりだよ!」
「はあ??何の話をしてるんですか?所長は真面目に仕事をする気が無いんですか?」
「おい!まさか刑事課に連絡する気じゃないだろうな?」
「仕方ありませんよ。所長が仕事する気無いんですから、所長が仕事する気無いって報告しないと!」
「産業スパイだ。それも三重スパイだ!」
「三重スパイ?」
「そう、彼が殺された理由はそこにある。」
「三重スパイって何ですか?」
「おいおいおい!三重スパイも分からないタイプじゃない美人と俺は数字調査してたってのか!」
「すいませんね!勉強不足で!」
「いいか?三重スパイってのは?二重スパイの一重上だ。」
「ざっくりとした説明をありがとうございます!」
「つまりだ。B社に雇われてA社をスパイする。これがスパイ。で、 B社に雇われてA社をスパイしてると見せ掛けてB社をスパイしていて実はA社に雇われていたってのが、二重スパイ。そんでもって、 B社に雇われてA社をスパイしてると見せ掛けてB社をスパイしていて実はA社に雇われていたと見せ掛けて本当はやっぱりB社に雇われていたんだよってのが三重スパイ。 」
「何ですか?それは?行って来いでドンなら!普通にスパイでいいじゃないですか!」
「これだからタイプじゃない美人は参るよな。」
「タイプじゃない美人は関係ないでしょ?」
「スパイのふりをしといた方が、普通のスパイよりも相手が油断して情報が引き出しやすいだろ?」
「なるほど。」
「これを見てみろ。」
「これは?」
「彼が所持していた改竄した書類だ。おそらくセセセソソソ社のモノをソソソセセセ社に渡そうとしてたんだろう。」
「はい。」
「はい、タイプじゃない美人君。」
「三重スパイでもややこしいのに、社名が絡むと更にややこしさが倍増されます。」
「仕方ないだろ!!」
「怒り方が尋常じゃない!?」
「こう暑かったらな!誰だって怒り方が尋常じゃなくなるわい!」
「早くエアコン修理して欲しいですね。紙のゴミ袋に顔を突っ込んで大声で怒鳴る姿なんか見たくないです。」
「ところで?この紙のゴミ袋は何だ?」
「ああ、それは数字調査の為にセセセソソソ社から押収した資料です。」
「彼は、ソソソセセセ社のスパイなんだぞ?何でセセセソソソ社から押収すんだよ!」
「所長がセセセソソソ社に在籍してたから押収しに行くって言ったんじゃないですか!」
じゃあ、あれだ。押収しに行く会社を間違えた。なんてややこしい社名なんだ!」
「それ、私が言ったら怒りましたよね。でも、その所長の有り得ない間違いで面白いモノを発見しましたよ。」
「このシュレッダーの紙くずの中から面白いモノが出て来るとは思えないけどな!」
「お見せしたいんで、とりあえず紙のゴミ袋から顔を出してもらっていいですか?」
「で?面白いモノって?」
「これです。」
「書類?」
「シュレッダーの中の紙くずを解析し復元したんです。これって、彼が持っていた書類ですよね?」
「ん?んん?そうだな。」
「なぜ、シュレッダーに?」
「改竄する前のやつだろ?」
「え?でも、おかしくないですか?」
「何が?改竄する前の書類をシュレッダーに掛ける!スパイの基本だろ?」
「だから、ソソソセセセ社の三重スパイだとして、どうしてソソソセセセ社にセセセソソソ社の改竄した書類を渡すんです?そしてなぜ、その改竄した書類がセセセソソソ社のシュレッダーの中に?」
「ちょっと二枚の書類を見せろ!」
「はい。」
「はいはいはいはい!なるほどね!そう言う事だったのかよ!こんちくしょいっ!」
「どう言う事ですか?」
「ここを見てみろ。300ベロリンルンチョって書いてある。」
「それが何か?」
「通常、この手のエンジンには、300チョッチョリーチョリンポンが普通だ。」
「300チョッチョリーチョリンポンと300ベロリンルンチョって、単位が一つ違うじゃないですか!」
「そう、単位が違う。」
「え?ええ?どう言う事ですか?」
「これを元にソソソセセセ社が開発を進めても途中で中止になるのは目に見えてる。ソソソセセセ社が開発中止になって得をするのは?」
「セセセソソソ社ですか?え、でも何で?彼はソソソセセセ社のスパイですよね?辻褄が合いません!」
「辻褄は合う!」
「合うんだ!」
「つまり彼は、セセセソソソ社が雇った四重スパイって訳だ!」
「四重スパイ!?それ、五重スパイって可能性は無いですよね?」
「・・・たぶんな!」
「間が恐い!とても!」
「兎にも角にもだ!セセセソソソ社を捜査しても犯人は出て来ない!ソソソセセセ社だ!と、刑事の皆さん方に伝えて差し上げなさい。」
「はいはい、分かりましたよ。でも!もうこんなややこしい仕事引き受けないで下さいね!」
「人間が数字を扱わなくなったら考えるよ。」
「人間が数字を扱わなくなったら私達の仕事は成立しないじゃないですか!」
「あちぃー!喫茶店行って来まーす!」
「ちょっ!ちょっと!」
小さな五階建ての建物のその真ん中の三階の部屋を出て、細道を行って煙草屋を曲がって都会のビル群のあの辺にそれはある。

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