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2015年9月

2015年9月 2日 (水)

「第四百八十一話」

 妻は、生きている。僕が目を覚ましてキッチンに行くとテーブルには、朝食が用意されていた。
「おはよ。」
スープをかき混ぜていた妻がイスに座った僕に気付くと、スープをスープ皿に入れ、テーブルに置いた。そして自分もいつもの向かいのイスに座った。
「いただきます。」
トーストを食べ、スープを飲み、サラダを食べ、スクランブルエッグを食べ、フォークに刺したソーセージを口に運ぼうとした時、妻は僕の視線の異変に気付いたようだ。
「どうしたの?ずっと私の顔ばっか見て、え?何か付いてる?」
顔に何か付いてる。いや、顔には何も付いていない。正確には、頭に包丁が突き刺さっている、だ。
「食べないの?」
昨日の夜、僕は確かに妻を殺した。夢じゃない。それは妻の頭に突き刺さっている包丁が物語っているし、何よりも右の太ももが尋常じゃないぐらいに痛い。
「もしかして、体調でも悪いの?」
それとも、人を殺すと確率でこう言う悪夢に悩まされるのだろうか?幻覚のような無間地獄に突き落とされたのだろうか?
「なあ?」
「病院行く?」
「死んだよな!殺したよな!昨日の夜!僕はキミを!」
「ああ、その事ね。」
そう言うと妻は笑ってソーセージを口に運ぶと、ゆっくりと咀嚼し飲み込んだ。
「何で生きてるんだよ!どう言う事だよ!」
「どう言う事?どう言う事って?」
「だから!何で普通にいつもみたいな感じの朝なんだよ!」
「だって別に何か特別な事をしなきゃならない朝じゃないでしょ?」
「そうじゃなくて!」
「スープ冷めるよ。」
「スープの温度とかどうでもよくって!」
「よくなくないよ!スープはあったかい方が美味しいに決まってる。まあ、確かに冷製スープなんてのもあるけどさ。」
「ちょ、ちょっとどうでもいい話すんのやめてくれないか?何で、昨日の夜、殺したのに生きてんの!?」
「知らない。」
「はあ?」
「だから、私にもよく分からないんだってば!殺されたなって思って目を覚ましたら天国でも地獄でもなくキッチンだったの。幽霊になったのかなって思ったけど頭に包丁が突き刺さってる以外は、いつも通りだったの。さっきもトイレに行ったし、こうしてお腹も減る。」
「死んだ事を受け入れられてないだけなんじゃないのか?」
「いやいやいや、生死はスポーツじゃないんだから!そんな精神論でどうにかなるもんじゃないでしょ!」
何だ?何がどうなったんだ?確かに妻の言う事には説得力がある。頭に包丁が突き刺さってる人が死んだかと思ったけど生きてたって言うなら、そうなんだろう。ビジュアルに圧倒されずに冷静に考えよう。簡単な話だ。僕は妻を殺し損ねただけだ。頭に包丁を突き刺したけど偶然にも妻は生きてただけだ。そう、納得は出来ないけど、この納得に縋るしか僕にはすべがない。
「ちょ、ちょっと!?アナタ!?」
納得した次の瞬間、僕は身を乗り出して妻の首を絞めていた。
「く、苦・・・しい・・・・・・。」
妻は、ぐったりした。死んだ。安堵から来る空腹を目の前の朝食で満たした僕は、熱いシャワーを浴びる事にした。朝食を食べ終えた時もバスルームに行く時も妻を確認したけど、死んでいた。
「きっとこれで妻を殺せた。」
バスルームから出た鏡に映る自分に言い聞かせた。きっと人を殺すなんて生まれて初めてだったから、知らず知らずのうちに手加減してしまったんだ。そう自分の心に言い聞かせながらキッチンに向かうと妻は、フォークに刺したソーセージを口に運ぶ途中だった。
「シャワー浴びたの?」
「どうして生きてるんだよ!?」
「どうしてって、だからそれは私にも分からないわよ。」
「確かに脈も呼吸も止まってたはずだ!」
「んまあ、それでもこうして生きてるだから、しょうがないでしょ。」
そう言うと妻は笑ってソーセージを口に運ぶと、ゆっくりと咀嚼し飲み込んだ。
「どこ行くの?」
僕は、ぶつぶつ小言を言いながら早歩きで寝室に戻り、ぶつぶつ小言を言いながらクローゼットの奥にあるものを手にして、ぶつぶつ小言を言いながらキッチンに戻った。
「ちょっと、ヤダ!裸でショットガンって!」
「ダーン!」
僕は妻の心臓を撃ち抜いた。死んだ。これは、どう考えたって死んだ。向こう側のシンクが見えるって事は、妻の心臓ごと吹き飛ばしたって事だ。それはつまり、今の妻には心臓がないって事だ。心臓がないって事はすなわち、死ぬって事だ。
「やった!やったぞ!」
僕はその歓喜のままリビングのソファーに座り、録画しといたテレビドラマを観賞しようとリモコンをテレビに向けて電源を入れようとした。
「何で生きてるんだよ!?」
真っ黒なテレビ画面には、僕の後ろに立つ妻の姿が映っていた。
「だから、分からないっていってるでしょ?」
「いや、もうこれは幽霊だぞ!?さっきまでとは違って、穴が空いてるんだからな!?」
「ドラマ観るの?じゃあ、一緒に!」
そう言うと妻は笑いながらいつものように僕の横に座った。
「呑気にドラマなんか観てる場合じゃない!」
「えっ?観ないの先週あんなに続きが気になってたのに?」
「今はドラマの続き以上に気になる事があるんだよ!」
「そう言われても生きてるんだからどうしようもないじゃない。え?ちょっとどこ行くの?何探してるの?」
僕はキッチンの棚の奥のガスボンベを手にしてそれを妻の心臓があった場所に入れ、ショットガンを放った。
「ボン!」
妻は砕け散った。部屋中が妻の血や肉片で汚れまくってしまったが、これでようやく落ち着いて気になるドラマの続きが観られる。
「ねぇ?」
「え?」
僕は血と肉片だらけの部屋中に目をやった。でも、妻の姿は見当たらなかった。
「空耳か。」
あんな異常事態な状況下にいたら、空耳がしたって仕方ない。
「空耳じゃないから!」
「何で生きてるんだよ!?」
恐る恐るソファーの背もたれの部分に目をやると、飛び散っていた妻の唇が喋っていた。
「だから!私にも何が何だか分からないんだってば!」

第四百八十一話
「妻は今日も生きている」

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2015年9月 9日 (水)

「第四百八十二話」

「この潜水艦は、間もなく沈む!」
「艦長!どうしたらいいんです!」
「落ち着くんだ博士。」
「落ち着けって!ここは海底1万メートルなんですよ!」
「それより博士?」
「何ですか?」
「そもそもが沈んでる潜水艦なのに、この潜水艦は、間もなく沈む、って、おかしくないか?」
「こんな時にこんな場所で一人旅で訪れた国道沿いの田舎のバーで言うようなジョークを言ってる場合ですか!」
「しかし、深海調査だからへっちゃらな仕事だと高をくくっていたら、深海のカニに攻撃されるとはな。」
「あれは、新種のカニです。地上で言う軍隊アリのようなもんですね。」
「何とか振り切って逃げたものの。この潜水艦は、間もなく沈む!」
「いやちょっと笑いながら言うのやめてもらえませんか!」
「だって博士。既に沈んでる潜水艦なのに、この潜水艦は、間もなく沈む!って、真面目な顔で言えるか?」
「艦長なんですから、そう言う事も真面目な顔で言ってもらわないと!」
「これはあれだな!これからの時代には、艦長試験にこの台詞を笑わずに言えるかを加えないとだな。」
「こんな危機的な状況でその台詞にツボるのは貴方だけですよ!」
「さて、どうしたものか。」
「何ですか急に真面目な顔して。」
「キミはこの状況を理解していないのか!この深海調査の潜水艦は、新種のカニ達に攻撃されて、間もなく沈むんだぞ!」
「なぜ仕切り直すんです?」
「次の艦長更新時に実技の試験で落とされたくないからな!」
「だいたい潜水艦の艦長に車の免許的な制度が存在するんですか!」
「何とも言えん!」
「何でですか!艦長なんですから言えるでしょ!」
「国によっては存在するかもしれないだろ?この世界は広い。私の知らない事がまだまだある。さっきのカニが良い例だ。」
「そんな丘の上から夕陽に照らされた広大な自然を眺めながら言うような事を悠長に言ってる場合ですか!」
「言ってる場合なのだよ。」
「それは艦長、まさか!?既に死ぬ覚悟が出来てるって事ですか!?だから、最後に笑って死ねるようにあんなジョークを?そうですよね。絶体絶命中の絶体絶命ですもんね。」
「違う!」
「違った!?」
「その逆だよ。」
「逆!?逆と言うと、助かるって事ですか?この絶体絶命中の絶体絶命で!?」
「当たり前だ!私は艦長だぞ!ベンガルトラも恐れる艦長だぞ!艦長中の艦長だぞ!」
「出会さないでしょ海中でベンガルトラに!それにだとしたら、さっきの不謹慎な発言は問題ですよ。」
「うむ。」
「うむ、じゃなくて!しかし、艦長?この状況で生きて海上まで行くなんてどう考えたって不可能ですよ!操縦不能、連絡不通、酸素低下、そもそもがこのクラスの深海調査の潜水艦には脱出ポットはないんですよ?それでどうやって助かるって言うんですか!」
「瞬間移動だ!」
「瞬間移動!?」
「海洋生物学者でも聞いた事があるだろ?」
「物体が一瞬にして別の場所に移動するって、あれの事ですか?」
「そうだ!」
「何の話ですか?」
「瞬間移動の話だよ。いいか?瞬間移動すれば、こんな危機的な状況なんかへっちゃらだろ?」
「確かに瞬間移動を使えば、こんな危機的な状況は、へっちゃらです。」
「なっ!」
「なっ!じゃなくて!」
「私は、いつでも構わんぞ?」
「いや、これは一体何の握手なんでしょうか?」
「だから、キミが瞬間移動で海上まで連れてってくれるんだろ?」
「僕にそんな特殊な能力ある訳ないでしょ!だいたい今の話の流れからしたら僕じゃなくて艦長が瞬間移動使えると思うでしょ!」
「私がそんな映画やアニメや小説のような現実離れした事が出来る訳ないだろ!」
「そこまで分かってて、なぜ僕に出来ると思ったんですか!」
「海洋生物学者だからだ!」
「どんな理不尽な理由ですか!」
「こう言う状況で!そう言う事が出来ないのに、なぜキミはここにいる!」
「深海生物の調査をする為だ!」
「はっ!それでよく海洋生物学者になれたもんだ!」
「僕!?むしろ瞬間移動の能力が備わっててもおかしくないのは艦長の方でしょうが!」
「ファンタジーのゲームじゃないんだ!これは現実なんだぞ!この潜水艦は、新種のカニ達に攻撃されて、間もなく沈むんだぞ!」
「分かってますよ!ファンタジーを持ち出したのは艦長でしょ!」
「なあ?」
「何ですか?」
「試してみないか?」
「何をですか?」
「だから、瞬間移動だよ。」
「貴方はまだそんな事を言ってるんですか!」
「言うよ!言うだろ!この絶体絶命中の絶体絶命を回避するにはもう!瞬間移動しかないんだったら!言うよ!」
「どう言う事です?」
「だからな?人間には、秘められた能力ってのがあるだろ?火事場の馬鹿力的なもんだよ。だいたい、我々は最初から瞬間移動と言うもんを否定してる。だから、そんな事を試みた事もない。」
「つまりは、この危機的な状況下で、眠っている能力が開花すると?」
「試みてみる価値はあるだろ?」
「どうすればいいんですか?」
「お互い手を握り、行きたい場所を頭の中にイメージするんだ!」
「馬鹿馬鹿しい。」
「おい!馬鹿馬鹿しいかもしれないが、方法を探って選んでる暇はないんだ!これは艦長命令だ!」
「どんな権力の使い方ですか!分かりましたよ。やってみます。」
「目を瞑って。」
「目を瞑って?」
「頭の中に行きたい場所をイメージする。」
「イメージする。」
「イメージしたか?」
「はい。」
「どこをイメージしてる?」
「我が家です。艦長は?」
「火星だ。」
「大馬鹿野郎ですか!仮に艦長の瞬間移動の能力が開花したって、危機的な状況がもっと危機的な状況になるだけじゃないですか!」
「シーッ!黙って集中しろ!」
「火星をイメージしてる人を相手にこの状況で黙ってられないでしょ!」
「分かった。私も我が家にしよう。」
「お願いしますよ。」
「では、改めて集中だ。」
「はい。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・今だ!目を開けろ!」
「・・・・・・どうやら我々にはそんな特殊な能力が眠ってなかったようですね。艦長?もう諦めましょう。不本意ですが、死を受け入れて遺書でも書きましょう。」
「残念だ。」
「仕方ありません。この仕事をしてる以上、こう言ったリスクは覚悟していたはずです。」
「私には瞬間移動の能力がなかった。」
「そっちですか!?」
「やれやれ、どうやらこのボタンを押す時が来たようだ。」
「自爆スイッチってヤツですか?構いませんよ?もう覚悟は出来てます。」
「いや、瞬間移動スイッチだ。」
「何この茶番劇!!」

第四百八十二話
「潜水艦からの脱出」

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2015年9月16日 (水)

「第四百八十三話」

「あのう?」
「何なんだキミは!?どうして手術室にいるんだ!?」
「ちょっと道を尋ねたいんですけどいいですか?」
「いやよくないだろ!見て分からないか?私はね。これから1時間後に難しい手術を控えてるんだよ。だからこうして手術室でイメージトレーニングしてるんだよ。」
「僕もこれから難しい道が控えてるんです!」
「難しい道って何なんだよ!だいたいどうして手術室まで来るんだ?受付に人がいなかったとしても、ここに辿り着くまでに沢山の人がいたろ!何で手術室なんだ!そもそもここは立ち入り禁止だぞ!手術中だったらどうすんだ!命が危険にさらされてたかもしれないんだぞ!」
「すいません。地図に集中してて、聞いてませんでした。本当にすいません!」
「そんなに深々と頭を下げて謝るぐらいなら聞いておけばいいだろ!もういい!地図を見せてみなさい!」
「ここなんですけどね?」
「宝?」
「ええ、宝の地図です。」
「キミ、海賊か!?」
「陸賊です。」
「単なる強盗の類いじゃないか!」
「失礼な!」
「キミが失礼を口にするな!」
「父が死んで、これが相続財産として僕の手元に来たんです。」
「この地図が相続財産?」
「上3人には、マンションやマンションやマンションだったんですけど、末っ子だったんで、ラッキーでした。」
「これをラッキーと捉えられる脳天気だから騙されるんだ!」
「騙される?まさか!?」
「どう考えたってそうだろ!そう言う事だろ!」
「医者じゃないんですか!?」
「医者だよ!これでも名医と呼ばれるぐらいの医者だよ!神の手と尊敬の念で呼ばれている医者だよ!逆に手術室でイメージトレーニングしてて医者じゃなかったら私は何なんだ!」
「尋ね人?」
「何で行方をくらましてるのに神の手とか呼ばれるぐらいまでに有名になってしまうんだよ!」
「客寄せパンダ?」
「実力は今でも健在だ!だからこうして手術室にいるんだろ!」
「客寄せカバ?」
「それはもう私の容姿からの悪口だろ!いやいやいや、そうじゃなくてだ!その宝の地図が偽物なんじゃないかと言う話だ!」
「この地図が偽物!?だったら本物はどこにあるんですか!」
「私が知る訳がないだろ!いや、そもそも本物の宝の地図なんか存在しない。いいか?キミは兄弟に騙されたんだよ。本来は4人で分けるべき相続財産を3人で分けたと言う事だ!」
「そんなはずはない!」
「一般常識で考えたら宝の地図が相続財産なんておかしいだろ?そもそも宝の地図を持っていたのなら、どうしてキミのお父さんは死ぬまで宝を発見しなかったんだ?私だったら宝探しに行くよ。」
「目の前に苦しむ患者さんがいてもですか!それでも先生はその患者さんより宝を選ぶんですか!」
「キミのお父さんの立場だったらの話をしているんだ!仮に目の前に苦しむ患者がいたら、手術してから宝探しに行くよ!」
「素晴らしいです!」
「何の握手だこれは?」
「僕も先生のような医者になりたいです!」
「何だ?もしかしてキミは研修医か?」
「いえ、単なるさつまいも好きです!」
「職業を好物で返したら訳が分からないだろ!」
「3度の飯よりさつまいもが好きです!」
「3度の飯よりもを食べ物で例えたら不成立なんだよ!いいからもう手術室から出て行ってくれ!」
「出て行きません!」
「道なら他の人に聞けばいいだろ!いいか?キミがここに入って来てしまったと言う事はだ!ここに何かしらの菌を持ち込んだかもしれないって事なんだぞ!つまりはだ!一旦この手術室は使用出来なくなるって事だ!たまたま今日は他の手術室が空いてるからいいようなものの!そうでなかったらこれは重大な事だぞ!人一人の命が懸かってる事なんだぞ!」
「すいません。ここに来る前に美味しそうなシュークリームが売ってるお店を見掛けたもんで、そのシュークリームを絶対に帰りに買うぞ!って事で頭がいっぱいでした!」
「だったら聞いてますよみたいな顔をするな!長々と言っちゃうだろ!時間の無駄もいいとこだ!」
「話はちゃんと聞いてました。ただ、頭がシュークリームでいっぱいだっただけです。」
「ならシュークリームの話はしなくていいだろ!頭の中はシュークリームでいっぱいでも聞いてましたよ的な事で丸く収まるだろ!」
「先生はそれでいいんですか!」
「何がだ!」
「先生が手術の流れを丁寧に説明してるのに、聞いてる患者さんの頭の中がシュークリームでも!」
「聞いてますよ!って、そう言う顔していればそれはそれでいいよ!それが大人の社会だろ!」
「僕は、そんな大人にはなりたくない!」
「何の話をしているんだ!」
「ここまでの道が分からないんですよ。」
「だから!家って書いてあって!宝って書いてある地図を見せられても私にも分からないだろ!そもそも家って書いてあって、宝って書いてあるだけだろ!それ以外に何も書いてないんだからそもそもが地図として成立してないんだこれは!道を教えようにも道が書かれてないんだから教えようがないだろ!」
「それって!?」
「そうだよ。可哀想だが、やはりキミは兄弟に騙されてたんだよ。ここまで言えば、さすがのキミでも分かるだろ。」
「この地球の僕の実家以外は全て宝だって事ですか!?」
「地球王か!キミのお父さんは!」
「僕は相続財産として地球を受け継いだって事ですか!」
「キミ、ちょっとここへ横になりなさい。」
「痛っ!?」
「いいから早く!」
「は、はい。こうですか?」
「これも何かの運命と言うヤツかもしれないな。」
「先生?なんか眠くなって来ましたけど?」
「これより緊急手術を開始する!」
「はい!?」

第四百八十三話
「悪性ポジティブ思考」

「な、何だこれは!?頭の中がシュークリームでいっぱいだ!?」

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2015年9月23日 (水)

「第四百八十四話」

「ん?何だ?このスイッチ?」

第四百八十四話
「THE SWITCH」

男がトイレに入り、扉を閉め、下半身を露出し、便座に座り、扉に目をやると、そこには平凡なスイッチがあった。
「いやそんな事より今はもっと大事な、やるべき事が俺にはある!」
そう言って男は、踏ん張った。血管がはち切れんばかりに踏ん張った。そしてそれは、一気に放出された。男の顔は、爽快感とロマンに満ち溢れていた。
「さてと、このスイッチは一体何なんだ?」
最適な温度と水圧のウォシュレットに包まれながら、男はスイッチと対峙していた。
「押してみるか?」
トイレットペーパーでケツを拭きながら男は呟いた。
「と言うか冷静に考えてみると、何で一人暮らしのトイレの扉に?もしかしてあれか?不思議ワールドに誘われてるのか?」
ベルトを締めなから男は言った。
「押したら、死ぬとか?」
死にはしない。
「どっかの重要なスイッチと繋がってて、この世が大変な事になるとか?」
そんな事はない。
「まあ、どっちにしろ物がスイッチなんだから、押さなきゃ何も起こらないんだろう。このまま無視するのが一番だ。」
そう言って男はトイレから出て行った。ある意味、男の言う事は正解だ。何かを起こす為にわざわざスイッチにしているのだから、押さなければ何も起こらないのが、スイッチ。単純な話であるが、人間はそこまで完璧な生き物でもない。
「何だこれはー!!」
トイレから出た男の目に飛び込んで来たのは、スイッチだらけの光景だった。押さなければ何も起こらないのがスイッチだが、押させる為に作ったのもまた、スイッチ。
「どう言う事だ?」
男はトイレに戻り、便座に座り、頭を抱えていた。
「うわぁ!?」
不意にウォシュレットを作動させてしまった男は、驚いて飛び上がった。
「あっ
!?」
そして、扉のスイッチを押してしまった。
「お、おい?押しちゃったぞ?どうなるんだ?一体何が起こるんだ?」
答えは何も起こらない。だが、男は骨になるまでこのトイレから出る事はない。押させる為のスイッチだが、必ずしも何かが起こるとは限らない。
「だ、誰か、助けてくれー!!」

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2015年9月30日 (水)

「第四百八十五話」

「ご、強盗!?」
死なれたくない男。
「おはよう。」
死にたい男。
「な、何してるんだ!?ボクの家のリビングで!?」
「見たら分かるだろ?」
「金は無い!お前が思ってる以上に金は無い!だから、帰れ!さっさと帰れ!」
「オレは、強盗じゃない。」
「リボルバーを手にした強盗じゃないが有り得るか!」
「リボルバーを手にした強盗じゃないが有り得るんだよ。」
「おい!訳が分からないぞ!だったら、お前は人の家のリビングでリボルバーを手にして何をしてんだ!」
「してると言うか、これからするんだ。」
「何をだ!」
「自殺だ。」
「そうか!」
「そうだ。」
「いや何でだよ!何でボクの家のリビングで自殺なんだよ!」
「強盗じゃない。」
「強盗じゃないのかもしれないけど!それはある意味強盗よりタチ悪いだろ!」
「見られてると恥ずかしいから、少しあっちに行っててくれ。」
「ああ、そっか。って、ああ、そっかじゃない!こんなとこで自殺されたら困るって言ってるだろ!」
「そんな事を言われても、オレはここで自殺するって決めたんだ。」
「決めたって何だよ!決めたって!ここはボクの家だぞ!いや、そもそも自殺するのに他人の家ってどう言う事?普通、自殺するなら人気の無い場所を選ぶだろ?」
「自殺にルールは無いだろ。」
「ルールは無いかもしれないけど!自殺するからって何でも有りって訳でもないだろ!」
「じゃあな。」
「いやいやいや!勝手にお別れの挨拶をするな!」
「見ての通り、オレは死にたいんだ。だから、邪魔しないでくれ。」
「するよ邪魔!全力でしてやるよ!邪魔!」
「正義感か?」
「ボクの家だからだ!ここがボクの家のリビングだからだ!自殺するなら他でしてくれよ!そしたら邪魔なんかしないよ!どうぞ!死んで下さいだよ!」
「オレは、ここで自殺したいんだ。」
「どうしてここなんだよ!別にここは自殺の名所でもないだろ!」
「直感だ。」
「だったらその直感、間違ってるだろ!」
「なぜだ?」
「現にスムーズに自殺出来てないじゃん!ボクに邪魔されてんじゃん!」
「少し黙っててくれ。」
「ああ、ごめん。って、ああ、ごめんじゃない!黙ったら自殺するだろ!」
「いいか?自殺ってのは、死ぬ事に意味があるんだ。どんなに邪魔されようが、確実に死ねればそれでいい。逆に、どんなに邪魔がなくても死ねなかったら憐れだろ?」
「まあ、確かにそうだな。」
「じゃあな。」
「じゃあなじゃない!だからってそれは、じゃあなじゃない!」
「死なせてくれよ。」
「待て待て待て!考えてもみろよ!ここで自殺するって事は!アンタが死んだ後に、アンタの死体が転がってて、ここに警察が来て、ボクが殺したんじゃないかって疑われるだろ!」
「遺書を書けばいいか?」
「そう言う問題じゃない!遺書を書いたって警察はボクが殺したんじゃないかって全力で疑うよ!いいか?とにかくどうしたって、ボクの家で自殺したら、ボクは疑われるんだよ!それはなぜか!前代未聞だからだ!他人の家で自殺ってケースが前代未聞だからだ!すんなりボクの意見を受け入れてくれないからだ!」
「まあ、それでもキミがオレを殺したって証拠は無いんだからいいだろ?何だったら、これからしばらく旅行にでも行けばいい。これなら完璧なアリバイだ。」
「何でアンタを自殺させる為に金の無いボクが、わざわざ旅行に行かなきゃならないんだよ!それならアンタの方が、ボクが旅行に行くタイミングで自殺しに来ればいいだろ!」
「今日、自殺したいんだ。」
「だから!ボクの家じゃなかったら!どうぞ好き勝手に自殺して下さいよ!」
「一つ聞きたいんだが?」
「何だよ!」
「もしかして、トイレに行きたいんじゃないのか?」
「そうだよ!オシッコしたいから起きたんだよ!そしたらリビングにリボルバーを持った男がいたんだよ!」
「そんなにモジモジしてるなら、トイレに行ってくればいいだろ。」
「行けるかよ!ボクがトイレに行った瞬間に絶対自殺する気だろ!」
「しないと約束しよう。」
「誰が信じられるか!」
「ああ、何だか、自殺するのがバカらしくなってきたな。」
「そんな棒読みな言葉を一体誰が信じると思ってるんだ!」
「いや、本当だ。トイレを我慢してモジモジしてる滑稽な大人を目にしたら、自殺するのがバカらしくなった。」
「バカにしてんのか!」
「だから、言ってこい。」
「信じられないっつってんだろ!」
「本当だ。」
「なら、アンタがボクの家から今すぐに出てってくれよ!」
「いや、オレは無事にキミがトイレでオシッコをしてリビングに戻って来るかを確認してから帰る。」
「幼子か!ボクは!どんな使命感だよ!それ!」
「これも何かの縁だ。」
「縁を持ち出すな!縁を!」
「それなら、こう言うのはどうだ?」
「どう言うのだ!」
「このリボルバーをキミに預ける。」
「えっ?」
「それなら安心だろ?」
「うーん?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・本当だな?本当にトイレからボクが戻って来たら、帰るんだな?」
「もちろんだ。」
「分かった!じゃあ、リボルバーを!」
「トイレに落とすなよ。」
「落とすかよ!」
リボルバーを預かった男は、慎重に慎重に、急がないように急いでトイレへ向かった。
「ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ!」
「バン!」
「アイツ!もう一丁持ってたのか!」
「ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ!」
「マズいぞ!非常にマズい!ボクはリボルバーを手にしてるじゃないか!警察にメチャメチャ疑われるじゃないか!?」
「ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ!」
「何か考えないと!どうする?どうすればいい?」
「ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボ!」
「って、その前にこのオシッコ!!」

第四百八十五話
「オシッコが止まらない男」

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