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2015年9月 9日 (水)

「第四百八十二話」

「この潜水艦は、間もなく沈む!」
「艦長!どうしたらいいんです!」
「落ち着くんだ博士。」
「落ち着けって!ここは海底1万メートルなんですよ!」
「それより博士?」
「何ですか?」
「そもそもが沈んでる潜水艦なのに、この潜水艦は、間もなく沈む、って、おかしくないか?」
「こんな時にこんな場所で一人旅で訪れた国道沿いの田舎のバーで言うようなジョークを言ってる場合ですか!」
「しかし、深海調査だからへっちゃらな仕事だと高をくくっていたら、深海のカニに攻撃されるとはな。」
「あれは、新種のカニです。地上で言う軍隊アリのようなもんですね。」
「何とか振り切って逃げたものの。この潜水艦は、間もなく沈む!」
「いやちょっと笑いながら言うのやめてもらえませんか!」
「だって博士。既に沈んでる潜水艦なのに、この潜水艦は、間もなく沈む!って、真面目な顔で言えるか?」
「艦長なんですから、そう言う事も真面目な顔で言ってもらわないと!」
「これはあれだな!これからの時代には、艦長試験にこの台詞を笑わずに言えるかを加えないとだな。」
「こんな危機的な状況でその台詞にツボるのは貴方だけですよ!」
「さて、どうしたものか。」
「何ですか急に真面目な顔して。」
「キミはこの状況を理解していないのか!この深海調査の潜水艦は、新種のカニ達に攻撃されて、間もなく沈むんだぞ!」
「なぜ仕切り直すんです?」
「次の艦長更新時に実技の試験で落とされたくないからな!」
「だいたい潜水艦の艦長に車の免許的な制度が存在するんですか!」
「何とも言えん!」
「何でですか!艦長なんですから言えるでしょ!」
「国によっては存在するかもしれないだろ?この世界は広い。私の知らない事がまだまだある。さっきのカニが良い例だ。」
「そんな丘の上から夕陽に照らされた広大な自然を眺めながら言うような事を悠長に言ってる場合ですか!」
「言ってる場合なのだよ。」
「それは艦長、まさか!?既に死ぬ覚悟が出来てるって事ですか!?だから、最後に笑って死ねるようにあんなジョークを?そうですよね。絶体絶命中の絶体絶命ですもんね。」
「違う!」
「違った!?」
「その逆だよ。」
「逆!?逆と言うと、助かるって事ですか?この絶体絶命中の絶体絶命で!?」
「当たり前だ!私は艦長だぞ!ベンガルトラも恐れる艦長だぞ!艦長中の艦長だぞ!」
「出会さないでしょ海中でベンガルトラに!それにだとしたら、さっきの不謹慎な発言は問題ですよ。」
「うむ。」
「うむ、じゃなくて!しかし、艦長?この状況で生きて海上まで行くなんてどう考えたって不可能ですよ!操縦不能、連絡不通、酸素低下、そもそもがこのクラスの深海調査の潜水艦には脱出ポットはないんですよ?それでどうやって助かるって言うんですか!」
「瞬間移動だ!」
「瞬間移動!?」
「海洋生物学者でも聞いた事があるだろ?」
「物体が一瞬にして別の場所に移動するって、あれの事ですか?」
「そうだ!」
「何の話ですか?」
「瞬間移動の話だよ。いいか?瞬間移動すれば、こんな危機的な状況なんかへっちゃらだろ?」
「確かに瞬間移動を使えば、こんな危機的な状況は、へっちゃらです。」
「なっ!」
「なっ!じゃなくて!」
「私は、いつでも構わんぞ?」
「いや、これは一体何の握手なんでしょうか?」
「だから、キミが瞬間移動で海上まで連れてってくれるんだろ?」
「僕にそんな特殊な能力ある訳ないでしょ!だいたい今の話の流れからしたら僕じゃなくて艦長が瞬間移動使えると思うでしょ!」
「私がそんな映画やアニメや小説のような現実離れした事が出来る訳ないだろ!」
「そこまで分かってて、なぜ僕に出来ると思ったんですか!」
「海洋生物学者だからだ!」
「どんな理不尽な理由ですか!」
「こう言う状況で!そう言う事が出来ないのに、なぜキミはここにいる!」
「深海生物の調査をする為だ!」
「はっ!それでよく海洋生物学者になれたもんだ!」
「僕!?むしろ瞬間移動の能力が備わっててもおかしくないのは艦長の方でしょうが!」
「ファンタジーのゲームじゃないんだ!これは現実なんだぞ!この潜水艦は、新種のカニ達に攻撃されて、間もなく沈むんだぞ!」
「分かってますよ!ファンタジーを持ち出したのは艦長でしょ!」
「なあ?」
「何ですか?」
「試してみないか?」
「何をですか?」
「だから、瞬間移動だよ。」
「貴方はまだそんな事を言ってるんですか!」
「言うよ!言うだろ!この絶体絶命中の絶体絶命を回避するにはもう!瞬間移動しかないんだったら!言うよ!」
「どう言う事です?」
「だからな?人間には、秘められた能力ってのがあるだろ?火事場の馬鹿力的なもんだよ。だいたい、我々は最初から瞬間移動と言うもんを否定してる。だから、そんな事を試みた事もない。」
「つまりは、この危機的な状況下で、眠っている能力が開花すると?」
「試みてみる価値はあるだろ?」
「どうすればいいんですか?」
「お互い手を握り、行きたい場所を頭の中にイメージするんだ!」
「馬鹿馬鹿しい。」
「おい!馬鹿馬鹿しいかもしれないが、方法を探って選んでる暇はないんだ!これは艦長命令だ!」
「どんな権力の使い方ですか!分かりましたよ。やってみます。」
「目を瞑って。」
「目を瞑って?」
「頭の中に行きたい場所をイメージする。」
「イメージする。」
「イメージしたか?」
「はい。」
「どこをイメージしてる?」
「我が家です。艦長は?」
「火星だ。」
「大馬鹿野郎ですか!仮に艦長の瞬間移動の能力が開花したって、危機的な状況がもっと危機的な状況になるだけじゃないですか!」
「シーッ!黙って集中しろ!」
「火星をイメージしてる人を相手にこの状況で黙ってられないでしょ!」
「分かった。私も我が家にしよう。」
「お願いしますよ。」
「では、改めて集中だ。」
「はい。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・今だ!目を開けろ!」
「・・・・・・どうやら我々にはそんな特殊な能力が眠ってなかったようですね。艦長?もう諦めましょう。不本意ですが、死を受け入れて遺書でも書きましょう。」
「残念だ。」
「仕方ありません。この仕事をしてる以上、こう言ったリスクは覚悟していたはずです。」
「私には瞬間移動の能力がなかった。」
「そっちですか!?」
「やれやれ、どうやらこのボタンを押す時が来たようだ。」
「自爆スイッチってヤツですか?構いませんよ?もう覚悟は出来てます。」
「いや、瞬間移動スイッチだ。」
「何この茶番劇!!」

第四百八十二話
「潜水艦からの脱出」

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