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2015年10月 7日 (水)

「第四百八十六話」

 殺人事件とは、いつでもどこでも巻き起こる。しかし今回は、山だ。若い女の刑事が、若い女の死体を前にブツブツと独り言を呟いていた。
「首をヒモのようなもので絞めたあと、全身を刺した。相当な恨みか、あるいは快楽、か。」
「おはよう。」
「えっ!?警部、いつの間に!?」
「今来たところだ。それで、どんな具合だ?」
「いやいやいや、警部!今来たところだって、間抜け顔で言ってる場合じゃないですよ!」
「キミは、相変わらず口が悪いな。難事件を何度も解決していなかったら、今頃は辺境の交番に飛ばされてるぞ?」
「いつの間に感が、いつの間に過ぎますよ!」
「あそう。で?どうなんだ?」
「瞬間移動ですか?もしかして警部は、瞬間移動の能力があるんですか?」
「マジで言っているのか?キミは?」
「大マジです!」
「そんな技が使える訳がないだろ?そんな技が使えてたら、警察なんかやっていないで、今頃は大金持ちになっているよ。」
「表の顔は間抜け顔の刑事で、裏の顔は間抜け顔の暗殺者とか?」
「間抜け顔は付けなきゃダメなのか?」
「それは譲れません!」
「キミに天才的頭脳が無かったら今頃は、辺境の交番に飛ばされてるぞ?」
「たまには他の事言えないんですか?」
「キミが譲らないから、私も譲らないんだ!」
「なるほど。」
「それで?被害者の女性の身元は分かったのか?」
「アタシも数々の殺人現場に来てますけど、こんなのは初めてです。」
「キミの刑事の勘ってヤツもお手上げか?だが見たとこ、そう変わった様子も見当たらないが?」
「あんないつの間には、初めてです!」
「まだその話!?」
「驚きと共に感動です!警部は、あれですか?前世は暗殺者とかですか?」
「知る訳ないだろ!前世なんか!」
「ここは山ですよ?落ち葉とか枝とか土とか、なのにあのいつの間に感!どう言う事ですか!」
「どうだっていいだろ!」
「どっかの博士と太いパイプで繋がってるんですか!」
「何で博士と太いパイプで繋がってると、いつの間にが凄い事になるんだよ。」
「メチャメチャ最新鋭の技術で作った靴を履いてるんじゃないんですか!」
「そんな訳がないだろ!だいたいそんな博士と太いパイプで繋がってるんだとしたら、警察なんかやっていないで、今頃は大金持ちになっているよ。」
「表の顔は間抜け顔な刑事で、裏の顔は間抜け顔な武器商人とか?」
「そんな訳がないだろ!キミがその天才的頭脳で数々の難事件を解決していなかったら!今頃は辺境の交番に飛ばされてるぞ!もういつの間に感は置いといてだ!マジでどうなんだ?」
「置いとけませんよ!こんな国家機密レベルのいつの間に感!」
「何で国家機密レベルだ!どうだっていいだろ!いつの間に感なんか!そもそもキミが集中し過ぎていたから私の存在に気付かなかったんじゃないのか?」
「それは有り得ませんね。」
「なぜそう言い切れる!キミは全神経を集中させ被害者の女性から犯人に繋がる手懸かりを頭をフル回転させて必死に探していた。だから私の存在に気付かなかった。」
「だってそもそも集中なんかしてませんもん。」
「しろ!刑事だろ!」
「だからビックリしてるんじゃないですか。そんな状態のアタシに対してのあのいつの間に感。頭悪いですね。」
「キミよりかは頭悪いかもしれないが、世間一般では良い方の部類だ!」
「もしかして警部!少し浮いてます?」
「そんな訳がないだろ!天才的頭脳がはじき出す考えか!」
「天才的頭脳でも凡人的な発想しか思い付かないほどのいつの間に感だったんですよ!あれは!」
「キミは私をからかっているのか?」
「からかってなんかいませんよ。むしろからかってるのは、警部の方でしょ。」
「殺人事件の現場で私がそんな事するはずがないだろ!ちょっと浮きながら登場って、どんだけ不謹慎なえづらだ!」
「だったらアタシも言いたいです!」
「何をだ。」
「殺人事件の現場で、あんな凄いいつの間に感を出す必要性がありますか!」
「出してないよ!いつもな感じでここまで来たよ!むしろ山だから足が重くなってたよ!」
「だったら警部!あのいつの間に感は何だったんですか!」
「知らないよ!キミが勝手に言っているだけだろ!」
「分かりました。」
「犯人の手懸かりの話か?犯人の手懸かりの話なんだろうな?」
「これしか考えられません!」
「犯人の手懸かりの話じゃないのか!」
「警部は、時間を」
「止められない!」
「なぜそう言い切れるんですか!」
「止めた事がないからだ!」
「止まった事に気付いてないだけでは?」
「どんだけおっちょこちょいなんだ私は!何で自分が時間を止めといて自分で気付かないんだ!」
「いやいやいや、違いますよ。そうじゃなくてですよ。」
「何がだ!」
「今まさに能力が開花したって事ですよ!」
「山道を歩いている時にか?」
「山道を歩いてる時だからこそですよ!」
「どんな理屈なんだよ。」
「聞いた事ありません?人間の脳はまだ100パーセント機能していない。」
「ああ、聞いた事あるよ。」
「眠ってる脳を目覚めさせるには、山を登れ!」
「それは初耳!」
「おめでとうございます!」
「何で祝賀会とかでするような握手をする。」
「時間を止められる能力が開花したんですよ!世界を征服出来るんですよ!」
「どうしてキミは、ちょくちょく悪っぽい発想を織り交ぜて来るんだ?いや、そもそも私に時間を止められる能力なんか開花していない!山を登って眠っている脳を目覚めさせるならば!キミだって条件的にそうだろ!」
「えっ!?」
「キミだけじゃない!他の捜査員達もだろ!」
「そうか!でも、あいにく今回の山登りではアタシの眠ってる脳は目覚めませんでした。もしかしたら!」
「どこへ行く気だ!」
「放して下さい!もしかしたら警部以外にも眠っていた脳が目覚めた人がいるかもじゃないですか!」
「言いたい事は山ほどある!が、これだけは言わせてくれ!」
「どうぞ。」
「事件を解決しろ!」
「分かりましたよ。」
「何だそのふてくされっぷりは!難事件を何度も解決していなかったら、今頃は辺境の交番に飛ばされてるぞ!」
「ちょっと待って下さい?」
「手懸かりか!」
「警部?」
「どんな手懸かりだ?」
「警部は、本当に警部ですか?」
「はあ?当たり前だろ!私は私だ。手帳を見なさい。」
「そう言う事じゃなくて!」
「どう言う事だ!ちんぷんかんぷんな前置きじゃなく!結論から言いなさい!」
「幽霊!」
「どう言う事だ!」
「警部が結論から言えって言うから言っただけですよ。」
「そんな奇天烈な結論を言うと誰が思うんだ!」
「つまり、警部は幽霊なんですよ。殺人現場に来る途中で、山道から転げ落ちて死んだんです。」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「警部が幽霊だとしたら、あのいつの間に感も納得です。」
「勝手に納得するな!私は生きている!足だってあるだろ!」
「警部?幽霊に足がないなんて、一体いつの時代の話をしてるんですか?」
「あるのか!」
「まあ、ないタイプもいるかもしれませんけど、警部のそれはあるタイプです!」
「なぜキミに幽霊のタイプ分けが出来るんだ!」
「アタシは天才的頭脳の持ち主ですよ?」
「知っているよ。」
「難事件を何度も解決して来たんですよ?」
「知っているよ!」
「タイプ分けぐらい初見で出来るっしょ!」
「天才的頭脳だからって、何でもかんでもそれで納得出来る訳がないだろ!」
「じゃあ、警部が幽霊か幽霊じゃないかを証明しましょう。」
「証明も何も私が幽霊じゃないと言っているだろ!」
「幽霊は、こぞってみんなそんな事を言うもんなんですよ。」
「会った事あるのか!」
「銃は持ってますよね?」
「ああ、持ってるよ。」
「じゃあ、頭を撃ち抜いて下さい。」
「何でだ!」
「幽霊か幽霊じゃないかを証明するには、この方法が手っ取り早いんですよ。」
「結果的に幽霊だろ!詐欺だろこの方法は!」
「詐欺じゃありませんよ。恐いんですか?自分が死んでた事に気付く事が。」
「違うよ!自分が死ぬ事が恐いんだよ!何で警察が殺人事件の現場で自殺しなきゃならないんだよ!」
「それは警部がいつの間に感が凄過ぎたからでしょ!」
「いつの間に感が凄過ぎて幽霊かもしれないって疑われて!自殺しなきゃならないっておかしいだろ!だいたいいつの間に感が凄過ぎたって、いつの間に感が凄過ぎるんだなって、どうしてキミは簡単に受け入れられないんだ!」
「あまりにも非日常な奇天烈な状況をなぜ!そんな簡単に受け入れられか!人はそこまで単純で単細胞な生き物ではない!!」
「ええ!?私は何についてこんなにも激怒されているんだ?」
「もっとガツガツ音を立てて近付いて来ればよかったんですよ!バカだな!」
「謝ればいいのか?私は深々と頭を下げてキミにおわびすればいいのか?」
「別に謝っても状況は何一つ変わらないですけど、謝りたければ謝ってもいいですよ。」
「じゃあ、謝らないよ。状況が何一つ変わらないなら謝らないよ。」
「分かった!」
「手懸かりか!」
「手懸かりな訳ないでしょ!この状況で!」
「威張るな!警察がこの状況で手懸かり以外を考えてる事が問題だろ!」
「警察は、音を消せる能力が開花したんですよ。」
「全く無駄な開花をしてしまったもんだな。」
「いや、使い方によっては世界を征服出来ますよ!」
「私は生まれてから一度として世界を征服したいだなどと思った事はない!」
「じゃあ、何なんですか!あのいつの間に感の正体は何だったんですか!納得のいく説明して下さいよ!そしたらこんな事件あっという間に解決してみせますよ!」
「たまたまだろ。」
「あ、そっか!」
「納得した!?」

第四百八十六話
「犯人逮捕三時間前」

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