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2015年11月25日 (水)

「第四百九十三話」

 高いビルの屋上に刑事が二人いるよ。一人はベテラン、一人はルーキーだよ。二人とも顔面蒼白で互いに見合ってるよ。
「先輩?」
「新人。」
二人は息が合ったように、柵とは反対方向のドアの方を向いたよ。
「先輩?」
「新人。」
二人の視線の先には、壁に頭をぶつけた衝撃でぐったりしてる若い女性がいたよ。
「先輩?」
「新人。」
「死んでますよね?」
「いや、死んでないんじゃないか?」
「いや死んでますよ!あんな壁がへこんでるし、ちょっと脳みそ出てるし、100パー死んでますって!」
「そうか?ちょっと動いてるぞ?」
「ピクピクしてるだけじゃないすか!死んだ時のピクピクですってば!あれは!絶対、死んじゃいましたって!」
「だとしたら、可哀想に。」
一体何があったんだろうね?気になる解決編は、このあとすぐだよ。
「先輩があんな馬鹿力で引っ張るからですよ!」
「あの場合、そうするのが刑事だろ!」
「ああするのが刑事かもしれないすけど!あの馬鹿力はダメですよ!」
「出ちゃったんだよ!命を粗末にしようとした女性を助けようとつい、出ちゃったんだよ!」
「屋上から飛び降り自殺しようとした人間を壁にぶつけて死なせるって、どんだけナンセンスなんすか!」
「今にも飛び降りそうだったんだぞ!襟首掴んで引っ張るのが当然だろ!」
「だから、それは刑事として当然なのかもしれないすけど、手加減して下さいよ!」
そう言う事だったんだね。あれ?あれあれ?でも、死んだと思ってた若い女性が立ち上がったよ。
「先輩?」
「新人?」
フラフラと歩き出したよ。
「生きてたんだ!」
「そらみたことか!生きてるって言っただろ!」
「いや絶対、先輩も死んだと思ってたじゃないすか!でも良かった。」
「ああ、めでたしめでたしだ。」
「めでたしめでたしではないすけどね。」
「おいキミ、何があったか知らないが、命を粗末にするも」
若い女性は、フラフラ歩きながら刑事達の真ん中を通って柵に手を掛け、また飛び降り自殺しようとしているよ。
「ちょっと待て!」
「いや、待つのはお前だ!新人!」
「はあ?何言い出すんすか!」
「いいか?このまま飛び降り自殺しないで女性が死んじまったら、理由は何であれ、俺は殺人犯だ。」
「何を言ってるんすか!目の前で人が飛び降り自殺しようとしてるんですよ!」
「同じ人間がな。」
「先輩が助けないって言うなら僕が助けますよ!」
「最後に触った奴の責任だからな。」
「何で子供のそう言うやり取りみたくなるんすか!」
そう言うとルーキーの刑事は、飛び降り自殺する為に柵を乗り越えようとする女性の腰に抱き付いたよ。
「いいか?女性は、死にたがってるんだ。死にたい人間を死なせてやるのもこれ、刑事の仕事じゃなかろうか?」
「誰を説得してるんすか!説得するなら女性の方を説得して下さいよ!と言うか、手伝って下さいよ!」
「そうしたいんだが、手が震えて足がすくんで動けないんだ!」
「何、トラウマ発動しちゃってるんすか!」
「さっきの今だぞ!発動するだろ!また命を粗末にしようとしたヤツを助けようとして殺しそうになったらって思ったら!」
「分かりますけど!僕一人じゃ絶対無理です!」
「男と女だぞ!いくら何でもお前の力の方が上だろ!踏ん張れ!」
「そうしたいのは、山々なんですが、踏ん張ったら今にもウンコが溢れ出しそうなんすよ!」
「人の命とウンコ、何天秤に掛けてんだ!いいだろ別に、ウンコ漏れたって!」
「よくないっすよ!こんなとこでウンコ漏らしたら、先輩が絶対に言いふらすじゃないすか!変なニックネーム付けるじゃないすか!」
「俺は小学生か!そんな事する訳ないだろ!」
「信用出来ません!」
「お前の中で俺をどんなキャラに仕上げてんだ!」
「じゃあ、先輩帰って下さい!先輩が見てないなら、ウンコ漏らしながらも女性は助けます!」
「だから!足がすくんで動けないんだよ!」
「何なんすか!じゃあ、どうしろって言うんすか!」
「助ければいいだろ!」
「だから!踏ん張ったら確実にウンコ大爆発って言ってるじゃないですか!」
「それはいいだろ!」
「よくない!と言うか、このままだと僕も落ちちゃうんすよ!」
「だったら手を放せばいいだろ!元々、死ぬ予定だった女性なんだ。死なせてやるのも乙なもんだぞ?」
「こんな時に風情な感じで言わないで下さい!それに!手を放す事は出来ません!」
「何でだ!別にその女性と交際してた訳じゃないだろ!」
「僕の事を捨てないでくれって抱き付いてるんじゃないですよ!」
「だったら、逝かせてやれ。」
「良い感じで均衡を保ってるから無理です!」
「何だ!均衡って!」
「だから、こうしてるからウンコが溢れ出さないですんでるんす!お互いのこのパワーバランスだからこそウンコが溢れ出さないですんでるんす!」
「それはつまり身動きが取れないって事か?」
「簡単に言うとそうです!」
「お前はウンコが漏れたくないのか女性を死なせたくないのかどっちなんだ!」
「両方です!」
「何なんだ?俺達三人は、この広い世界のこんな狭い空間で一体何をしてんだ!」
「好んでこうなった訳じゃないですよ!まだ動けないんすか!」
「まだまだ動けそうもないな。」
「何なんすか!」
「それは俺の台詞でもあるぞ!」
実に不条理だね。そしてなんてシュールリアリズムなんだろうね。この話の結末がどうなったかって?幕は、呆気なく閉じたんだよ。そうこうしてる間に若い女性は息を引き取り、均衡が破られたルーキー刑事はその場でウンコを漏らし、ベテラン刑事は殺人犯になった。でもね?こんな不可思議な夜もあるけど、今日も地球はいつも通りな人にはいつも通りな感じで回り続けてるんだよ。

第四百九十三話
「五話オムニバスだったら二話目的作品」

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