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2015年12月23日 (水)

「第四百九十七話」

 俺は、妙な世界に足を踏み入れてしまったのだろうか?
「そろそろだな。」
午後23時30分。間もなくこの人通りのない工事現場の夜道に男がやって来る。
「今日こそは・・・。」
そして男は、倒れて来るクレーン車の下敷きとなって死ぬ。なぜ俺にそんな未来予知が出来るかって?違う。これは未来予知じゃなくて、俺が今日を繰り返しているだけだ。あの日、男がクレーン車の下敷きとなって死ぬのを目撃してから何百回と今日を繰り返し、何百回と男を助けようとした。きっと、男を助けないと明日が来ないからだ。だが、いつも結果は同じだった。必ず男は、死んでしまう。気が変になりそうにもなったが、どうせ気が変になるなら気が変になる前に俺は、あの分からず屋の男をぶん殴らないと気も変になれやしない。あんなに何百回も忠告したのに、あんなに何百回もいろいろと手を尽くしたのに、なのに何百回も死にやがって!どうせ何をしたって男を助けない限り俺に明日が来ないなら、一度ぐらい怒り任せに男をおもいっきりぶん殴ったって罰は当たらないだろう。だいたい、既に罰が当たってるみたいな状態なんだ。今日は、殴ってやる!
「おい!」
「ん?」
「いつもいつも初めましてみたいな顔で俺を見やがって!」
「酔っ払いか?」
「俺は、酔っ払ってなんかいない!」
「そうか。なら、通してくれるか?今日は仕事で疲れて、もう家に帰って眠りたいんだ。」
「家に帰らなくたって、すぐに眠れるさ!」
「何を怒ってるんだ?私がキミに何かしたのか?」
「俺に何かしたんじゃなくて!俺の言う事を聞かないからだよ!」
俺は、ありったけの何百回分の怒りを込めて男に殴り掛かった。
「それは、こっちの台詞だ。」
「え?」
だが、逆に俺は男に殴られた。痛い。物凄く痛い。どう言う事だ?何が起きているんだ?こんな展開は、初めてだ。
「なぜ、お前は何百回も邪魔をするんだ!」
そう言うと地面に倒れる俺の腕を掴み、男は俺を立ち上がらせた。
「何言ってんだ!人が目の前で死ぬのを見過ごせるか!え!?何百回も邪魔をするって、まさか!?アンタも繰り返してんのか!」
「そうだ。」
「だったら!何で何百回も同じ結末になるんだよ!」
「それが今日だからだ。」
「何!?」
「たぶん、私はキミよりも先に今日を繰り返してる。」
「何だって!?」
「そこで気付いたんだよ。今日を変える者に明日は来ない。」
「どう言う事だよ。」
「私が今日を受け入れた時、キミが今日を受け入れるのを拒否した。だから、今日が繰り返されてる。」
「お、おい!?ちょっと待ってくよ。それじゃあ!」
「そう、明日は誰にも来てない。」
「バカな!?」
「いいか?だから、今日がまた繰り返した時、キミは一番最初の今日を過ごすんだ。私を助けよう思うな。私を助けようと思いたいなら、日付が明日に変わってからにしてくれ。これ以上、クレーン車の下敷きになって死ぬのは嫌だからな。」
そう言うと男は、笑みを浮かべて俺の横を通り過ぎて行った。そして、間もなく男はクレーン車の下敷きとなって死んだ。そして、また今日が始まる。

第四百九十七話
「死ねない男」

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