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2015年12月 2日 (水)

「第四百九十四話」

 男は部屋の真ん中で座り込んで腕を組んで目を瞑り、何か重要な事を考えていた。男の人生に関する重要な事を。
「死のう。」
目を開けるなり、男は決意した。
「何でよ!」
そういって肩に手を当てながら、人生を決意した男の横に、女が座った。
「えっ!?」
「何で、死ぬの?」
「はい?」
「えっ?見た目はそうでもないけど、実は随分な老人なの!?」
「いや、耳が遠くて聞こえないとかじゃなくて、誰っ!?」
「逆に分からない?」
「分かる訳ないだろ!えっ?彼女?」
「そうそうそう!すぐ朝ご飯作るからね!って、馬鹿野郎!何でアタシが貴方の彼女なのよ!」
「新しい彼女の出来方なのかなって。」
「ある日突然、部屋の中に見ず知らずの女が彼女としている訳ないでしょ?斬新過ぎるでしょ!」
「泥棒?」
「そうそうそう!何を盗んでやろうかな?って、馬鹿野郎!家主に話し掛けちゃうおっちょこちょいな大泥棒がいる?」
「大泥棒とは言ってないけど、サンタクロース?」
「そうそうそう!今日は何をプレゼントしてやろうかな?って、馬鹿野郎!こう見えて随分な老人か!アタシは!どっからどう見ても死神でしょ!」
「どっからどう見たらこんな美人が死神に見えるんだよ!」
「こんな、何?」
「えっ?」
「こんな、の後に何て言ったの?」
「こんな美人が。」
「よく言われる。」
「面倒臭いな。えっ?死神!?」
「どうぞよろしく!」
「何で!?」
「何が?」
「だから、何で死神がこんなとこにいるんだって!」
「だって貴方、今さっき死のうって、変な顔で言ってたじゃない。」
「生まれ付きだ!失礼な死神だな。ん?と言う事は、僕をあっちの世界に連れて行くって事か?」
「朝から下ネタですか?ドン引き!」
「あっちってワードで下ネタ連想するアンタの方がよっぽどドン引きだ!つまり、僕を地獄に連れて行くって事なんだろ?」
「そうそうそう!今日はどこの地獄に連れて行ってやろうかしら?って、馬鹿野郎!地獄に連れて行く死神がいるかよ!」
「はあ?」
「いや、こっちが、はあ?」
「何で、そっちが、はあ?なんだよ!」
「いやいやいや、はあ?」
「ずーっと続けるつもりか!この果てしなき無駄な、はあ?の時間を!」
「アタシ達、死神は地獄になんか連れて行きませんよ?」
「死神は、地獄に連れて行くもんだろ!」
「死神が、死神は地獄に連れて行きませんよって言ってるんだから間違いないでしょ!パン屋が、つぶあんだよって言ったら、つぶあんでしょ!」
「比較する例えの内容の 重さが違うだろ!」
「あのですね?死神はですね?人の命を奪いに来る存在ではないですよ?」
「なら、アンタはここに何をしに、のこのこやって来たんだ。」
「のこのこは来てませんよ。そそそって来たんですよ。」
「別に音を聞いてんじゃないんだよ!」
「そそそそそ、だったかな?すいません。その辺、覚えてません。」
「だから!別にその辺はどうだっていいんだって!あの世に連れて行かないんなら、死神が何でここにいるのかを教えてくれよ!」
「むしろその逆だからです!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・はあ?」
「いやこっちが、はあ?だよ!むしろその逆って?」
「だーかーらー!確かに死神は、あの世に連れて行く存在でした!」
「過去形?」
「そうなるでしょ!」
「何で僕が分からず屋扱いされなきゃならないんだか納得いかないが、その死神の存在意義がいつからか変化したって訳か?」
「正解!50死神!」
「どんな単位だよ!貯まると何が貰えるんだよ!」
「何も貰えませんよ。」
「じゃあ、ポイント丸ごといらないよ!」
「はい、注目!いいですか?地球の人口が増える=あの世の人口も増える!分かりますよね?で、あの世の人口が増えると、いろいろと弊害が起こる!よって死神は、ある時期からあの世へ連れて行く仕事ではなく!この世に留める仕事となったのです!」
「人の家の壁をホワイトボード代わりに使うのやめないか?しかも電話しながらの落書き程度に使うなら尚更。」
「と言う訳で、死なれたらあの世の人口が増えるから、死なないで下さいご主人様、です。」
「何で急にメイド?」
「死神ジョークです。」
「はあ?」
「はあ?」
「こんなに短時間で、はあ?のやりとりしたの初だよ!」
「よかったですね!」
「いいか悪いかは分からない!つまり、僕に死なれたら困るんだろ?」
「そうです。」
「でも、死ぬよ。」
「ええー!こんなに説得してるのにー!」
「してないだろ!死神の現状を説明しただけだろ!」
「何となくですけど?さっきより死ぬ気が失せません?」
「全然。」
「シヌキウセールしたんだけどな?」
「虫扱いか!」
「ところで、何で死にたいかをまだ詳しく伺ってないんですけど?どうして、死にたいんですか?」
「上手く行かないからだよ。」
「上手く行かない?何がですか?」
「人生がだよ。」
「ちょっと待って下さい。そんな事で死のうとしてるんですか?」
「そんな事でって何だよ!」
「人生が上手く行かないって、誰もが皆、人生なんか上手く行ってないでしょ!」
「行ってるだろ!偉人とか成功者は人生が上手く行ってるじゃないか!」
「行ってませんよ!偉人も成功者も!」
「輝かしい人生だろ!」
「それは客観的に見たらです!偉人や成功者の良い人生の部分を繋ぎ合わせて見てるからです!偉人や成功者だって、貴方のように日々人生が上手く行かないって悩んでるんです!急にある日突然、偉人や成功者になった訳じゃないんです!偉人や成功者から見ても貴方の人生が羨ましいって思う部分があるはずです!」
「僕にそんな他人に、ましてや偉人や成功者に羨ましいって思われる人生の部分なんかないさ。」
「美人の死神に出会ったじゃないですか!」
「どの角度で自画自賛放り込んで来てんだよ!」
「死神ジョークです。」
「死神ジョークムズいからやめてくれ!」
「とにかくですよ?別に愛する者を失った訳でもお医者さんに余命宣告された訳でも借金まみれで怖い人に脅されてる訳でもないんですよね?」
「ああ。」
「だったら!これからですよ!人間なんて何度でも人生やり直せるんですから!軌道修正しましょうよ!ねっ?あの時、死ななくて良かったー!って日が来ますって!」
「本当に、そんな日が来るのか?」
「保障は出来ません。けど!」
「けど?」
「貴方はまだまだこの先何十年も生きれるんです!」
「寿命が分かるのか?」
「これでも死神ですよ?バンバン見えちゃいますよ!吐き気がするほど!」
「吐き気がするのか!?そうか。まだまだ生きれるのか。僕は・・・。」
「辛い事や悲しい事もあるかもですけど、楽しい事も愉快痛快な事も待ち受けてるはずです!」
「そうかもしれないな。死ぬにはまだ、早いかもしれないな。」
「と言う事は?」
「死ぬのはやめるよ。」
「やったー!」
「誰にも話さずに、一人で悩みを抱え過ぎて煮詰まってたのかもしれないな?」
「そうですよ!一人で抱え込むのはダメダメ!」
「因みに明日も死にたいって考えたら、アンタが来てくれるのか?」
「はあ?」
「ジョークだよ。ジョーク!」
「ふふっ。」
「はははははは!」
「それじゃあ、良い人生を!」
「ありがとう。」
そう言って差し出された女の手を男が握ると、女は笑みを浮かべながら消えた。
「さてと、腹が減ったな。」
そう言うと男はキッチンへ向かって歩き出した。

第四百九十四話
「人類滅亡兵器を作る男」

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