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2016年1月

2016年1月 6日 (水)

「第四百九十九話」

「・・・・・・ん?」
頭がボーッとする。ここは?どこだ?グラス?ボトル?どっかのバーで酔い潰れたのか?ダイス?何だ?記憶が、思い出せない。
「ここは?」
バーじゃない。バーって雰囲気じゃない。部屋?地下室?何だ?全く記憶を辿れない。
「ジャー!」
トイレ?誰か他にも居るのか?ここは、その誰かの家か?家にしてはまるで生活感がない。廃墟の一室って感じだ。駄目だ。頭も視界もまだ戻らない。椅子から立ち上がったら、そのまま床に倒れそうだ。えっ!?
「嘘だろ!?」
死体?人形?服装からしたら、女性だ。あれは、血か?頭から血を流して倒れてるのか?人形じゃなくて死体だとしたら、どう言う事だ?まさか俺が殺したのか?それとも、トイレの中に居る誰かか?何が起きた?一体この部屋で何が起きたんだ?俺は、別に拘束されてる訳でもない。グラスは?四つ。四つ!?俺とトイレの誰かと女性とまだ一人居るのか?
「な、何!?」
女性の反対側にも!?服装からすると男、しかも老人だ。やっぱり頭から血を流して倒れてる。
「お、おい!」
駄目だ。やっぱり女性も老人もきっと死んでる。ダイス?8つのダイス。何か賭け事をしてたのか?俺達四人は、ここで酒を飲みながら賭け事を?思い出せない。何でこんなにも記憶が?
「え!?」
あれは、銃か?賭け事って、命を賭けてたって事か?何で!何で俺がそんなゲームに参加しなきゃならないんだ?ん?部屋の隅に鞄がある。
「まさか!?」
大金が入ってるのか?この命を賭けたゲームに勝った人間が大金を手にする事が出来るってのか?そんな馬鹿げたゲームが現実に存在するってのか?
「・・・・・・・・・。」
いや、完全に否定する事は無理だ。今の俺の状況で、それを完全に否定出来ない。むしろ、可能性としたらそんな馬鹿げたゲームに参加してしまったって方が高い。
「ちょっと待てよ?」
だとしたら、ゲームはまだ続いてるって事じゃないか!トイレの奴が戻って来たら再開されるって事じゃないか!何て事だ。逃げよう!大金なんかいらない!きっとここまで生きてたのが奇跡なんだ!酔っ払った勢いでこんなゲームに参加するなんて、俺は大馬鹿野郎だ!あそこの扉まで!
「どこかへお出掛けかな?」
「えっ?」
「まだ、ゲームは終わってないんだ。座ったらどうだ?」
「金なら、アンタにくれてやる。だから、俺は帰る!」
「くれてやるって、そりゃあそうだろう。」
「えっ?」
「4、6、11、12。俺の勝ちだ。」
「何っ!?」
既に終わってたのか!?ゲームは既に終わってた?俺は、負けてるのか?殺される!俺も床の二人と同じ様にこの男に殺される。
「急に腹が痛くなってな。飲み過ぎたかな?さあ、ゲームを終わらせようか。」
「バン!」
「てめぇ!何してんだ!」
「テーブルの上に銃を置いてトイレに行くなんて、間抜けだな。」
「この野郎!」
「バン!」
「ぐはぁっ!」
「死ぬのは、アンタだ!」
「ふふ、ふははははははははは!」
「おかしくなったのか?いや、そもそもこんなゲームにまともに参加してる時点で狂ってる!」
「お前のこの先の人生を嘲笑ってんだよ!」
「何だと?」
「おい、間抜けはどっちだ?」
「何を言ってる!」
「お前、ここで本当に大金を賭けての命の奪い合いのゲームが行われたと思ってんのか?記憶、無いんだろ?」
「何?どう言う事だ!」
「ただ、ここで目覚めただけなんだよ。そう、別に二日酔いで記憶が吹っ飛んでる訳でもない。そもそも記憶があるはずがない。お前が勝手にシチュエーションから記憶を作り出しただけなんだからな。」
「何だと!?」
「間もなく警察がここへ来る。お前は、強盗して仲間割れで三人を殺した凶悪犯だ!」
「まさか!?あの鞄の中身は!?」
「宝石だ。」
「何の為に!何の為にこんな事を!」
「これは、そう言うゲームなんだよ。」
「ふざけるな!」
「ふざけちゃいない。真面目なゲームさ。ふふ、ふははははははははは!」
「バン!」
俺は、これから一体どうなるんだ?

第四百九十九話
「バッドモーニング」

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2016年1月13日 (水)

「第五百話」

第五百話の一
「オアシスを作る男」

 私は、冒険家。今は、砂漠を冒険している。しばらくすると、不思議な光景に出会した。年老いた男性がジョウロで花に水をやるように、砂漠に水をやっている。
「何をしているんですか?」
「オアシスを作っているんじゃ。」
「オアシス?」
私は、この年老いた男性は、きっと頭の病気なんだろうと思った。だが、面白そうだったのでもう少し話に付き合う事にした。
「アンタ、何者じゃ?」
「私は、冒険家です。」
「それは、ご苦労様じゃ。」
「なぜ、オアシスを?」
「こんな砂だらけの場所を冒険して、面白いのか?」
「え?はい、面白いです。」
「この砂漠に財宝などありゃせんぞ?」
何だ?この違和感は?
「いやいや、財宝なんか探してませんよ。」
「そうか。」
「あのう?」
「何じゃ?」
「なぜ、オアシスを作っているんですか?」
「面白い質問じゃ!」
「ありがとうございます。」
「じゃがな。とてもつまらん質問でもある。」
「え?」
このとてつもない違和感の正体は一体何なんだ?
「考えてもみなさい。この砂漠にオアシスが無かったとしたら?一大事じゃろ?」
「ええ、まあ、それはそうですけど。」
「お前さんだって、困るじゃろ?砂漠で迷って水が無かったら!」
「ええ、まあ、それはそうですけどね。」
「わしだって、砂漠で迷って水が無かったら一大事じゃ!」
「はい、そうなんですが。」
この恐ろしい程の違和感は何だ?
「だから、オアシスを作るんじゃ。」
「オアシスは、どれぐらいで完成するんですか?」
「そうじゃなぁ?そればっかりは、わしにも分からんよ。」
「分からない?」
「一分後かもしれんし、一週間後かもしれん。一年後かもしれんし、十年後かもしれん。五十年後かもしれんし、百年後かもしれん。自然が相手なんじゃ。いつになるかは、誰も分からんよ。」
「・・・・・・・・・。」
分かったぞ!違和感の正体が!年老いた男性が持つジョウロからは、さっきからずっと水が流れ出でいる!
「お前さん、冒険家だと言ったな?」
「はい。」
「まだまだ世界には知らない事があるもんじゃろ?」
「はい。」

第五百話の二
「金のタマゴ」

「コケのコッコー!」
いつもと違うニワトリの鳴き声を聞き、僕は庭に飛び出した。小屋を覗いてみるとそこには、金のタマゴがあった。
「お義父さん!お義父さん!」
こう言う時は、お義父さんを呼ぶに限る!
「どうしたんだ!朝から騒々しい。」
「来て下さいお義父さん!そして、見て下さいお義父さん!」
「何だ何だ?来たぞ?見たぞ?って、金のタマゴだー!!」
「どうですか?お義父さん?」
「金のタマゴだー!!」
「そうなんですよお義父さん。」
「金のタマゴだー!!」
「ビックリですよね?お義父さん!」
「き、金のタマゴだー!!」
「金のタマゴです!お義父さん!」
「ききききき金ののののタマタマタマタマタマゴだー!!」
「お義父さん?」
「・・・・・・・・・。」
「お義父さん?」
やっぱり、こう言う時は、心臓に持病をかかえるお義父さんを呼ぶに限る。驚きのあまり死んだ。これで莫大な遺産は僕のモノだ。

第五百話の三
「欠陥」

「キミが死ぬ夢を見た。」
「あらそう。」
「だから僕はキミを助けに来た。」
「あそう。それは、わざわざどうもありがとう。」
「おい!真面目に僕の話を聞け!キミは死ぬんだぞ!」
「あのね?死ぬ訳ないでしょ?」
「死ぬんだ!」
「そりゃあ?人間いつかは死ぬわよ。」
「そのいつかが今日なんだよ!」
「馬鹿じゃないの?」
「いいか?信じてもらえないかもしれないけど!僕には、人の死ぬ瞬間が夢で見れるんだ!予知夢ってヤツだ!」
「予知夢?誰が信じるの?そんな気持ち悪い話。」
「おい!本当なんだ!キミは死ぬんだよ!」
「このアタシが死ぬ?有り得ないわ!それだけは絶対に有り得ない!」
「有り得るんだよ!僕の予知夢は絶対なんだよ!何度も何度も目の前で人が死ぬのを経験してるんだ!」
「いい?アタシは!例えこの地球が大爆発したって死なないの!アタシのストーカーなら帰ってくれる?何を言われようが扉を開ける気はないの。さようなら。」
「ストーカーなんかじゃない!いいか?例え地球が大爆発してもキミは死なないかもしれない!」
「当たり前じゃない!」
「でも!キミは死ぬんだよ!今日、死ぬんだ!」
「いいえ!この究極のシェルターにいる限り、アタシは絶対に死なない!隕石が衝突したって、マグマの中に落とされたって、病気になったって、アタシは死なない!アタシは、寿命を全う出来る。」
「とりあえずもう喋るな!でないとキミの窒息死が早まる!」

第五百話の四
「歯磨きマン」

「クソ!ロープがなかなか切れない!このままだと悪い奴らが仕掛けた爆弾で、この建物ごと吹っ飛ばされちまう!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「ん?何の音だ?」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「だんだんこっちに近づいて来る!まさか!?悪い奴らが戻って来たのか!?」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「クソ!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャ!」
「だ、誰だ!」
「歯磨きマン!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「歯磨きマン?」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「正義の味方なのか?」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「そうだ!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「よかった!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「早く助けてくれ!」
「シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「助けろよ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・シャコシャコシャコシャコシャコシャコ!」
「おいっ!」

第五百話の五
「完成!タイムマシーン」

 
気付くと私は、似た世界にいた。とても似た世界だった。ただ一つの違う点を除いては、まるで同じ世界だった。
「私は、ただの椅子を作る為に人生を費やしたと言うのか?」
私が迷い込んだこの世界には、時間の概念が存在していなかった。

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2016年1月20日 (水)

「第五百一話」

「ビーーーー!」
「ガチャ!」
「こんばんは!」
「どちら様ですか?」
「今日、このマンションの隣に引っ越して来たので、挨拶をと思いまして!引っ越しの片付けで挨拶が夜になってしまってすいません。」
「いえいえ、それは、わざわざご丁寧に。」
「改めまして、今日から隣に引っ越して来た殺人者です。」
「え?」
「はい?」
「え何て言ったんですか?」
「今日から隣に引っ越して来た殺人者です。」
「え?」
「はい?」
「え?」
「はい?」
「え今、殺人者って言いました?」
「言いました。」
「え?」
「はい?」
「え?」
「はい?」
「言う?」
「はい?」
「いや、だから、それをわざわざ言う?」
「それと言うのは?」
「だから、殺人者って事をさ!」
「言わないんですか?」
「普通、言わないよね?」
「でも、僕も経験があるんですけど、隣に引っ越して来た人は、自分が何者かを告げますよね?」
「職業的なな!それは、自分がどんな仕事をしてるかは言ったりもするよ!聞いた方も、ああそうですかって感じだよ!」
「今日から宜しくお願いします。」
「メチャメチャ物騒な話を聞かされて宜しく出来るか!それとも?ジョーク?引っ越しジョーク?」
「引っ越しジョークって、何ですか?」
「知らないよ!ただ、殺人者って言うのがジョークじゃないのかなって思ったんだよ!ジョークだろうなって思いたかったんだよ!」
「ジョークじゃないですよ。」
「え?」
「はい?」
「え?」
「ちゃんと殺しましたから。」
「え?」
「はい?」
「え?」
「はい?」
「え言う?そう言う事!例えば、俺がそれを警察に言ったらどうするの?」
「言っても大丈夫ですよ!」
「恐い恐い恐い!」
「僕、恐いですか?」
「殺人者の時点でだいぶ恐いのに、警察に言っても大丈夫ですって、笑顔で言われたら更に恐いに決まってるだろ!」
「どこがですか?」
「それってつまり、俺が警察に言う前に、俺も殺すって事だろ?」
「僕は、貴方を殺したりなんかしませんよ!」
「説得力の欠片もない!」
「警察に言っても大丈夫ですよって言うのは、警察に言ったとこで、僕が殺人者って証拠が見付かる訳がないからです!」
「え?」
「はい?」
「え?」
「はい?」
「えそれってやっぱり殺人者って言うのはジョークなんじゃなくて?」
「ちゃんと人は殺してます。ただ、それが僕に辿り着く事はないって意味です!僕、完全犯罪が得意なんです!まず、死体は絶対に見付かりません。死体が見付からないって事は、それはつまり事件にすらならないって事です。」
「どう言う自慢だよ!他人に言っちゃダメな自慢だろ!」
「他人に自慢出来るぐらいの腕なんです!」
「それを聞かされて、俺はどうすりゃいいんだよ!」
「ああ、世の中には、そんな人もいるんだなぁって、軽く受け流せばいいじゃないですか。」
「軽く受け流せるレベルの自慢話じゃないだろっての!」
「じゃあ、ジョークでいいです。」
「今更?今更ジョーク?今更ジョークは、無理だなぁ?がっつり否定された後にジョークへ切り返すの無理でしょ!」
「ならほら、医者だと思えばいいんじゃないですか?」
「どう言う事?」
「極論で言えば医者って殺人者じゃないですか?」
「それは絶対違う!例え、物凄く頑張って医者を殺人者だと思ったとこで、本物の殺人者とは種類が大きく違う!」
「この間も手術失敗しちゃって患者、殺しちゃいましてねぇ!」
「急に医者ぶっても無駄だろ!だって医者じゃないんだからさ!で、医者だって、引っ越しの挨拶でそんな軽々しく失敗談語らないだろ!」
「実はね。僕、人なんか殺してないんですよ。」
「今更の否定は肯定感を高めるだけだろ!だったら、最初っから言わないで欲しかったなぁ!殺人者だって知りたくもなかったなぁ!」
「何でですか!隣に引っ越して来た人が、殺人者か殺人者じゃないかって知っときたいじゃないですか!」
「知ってどうするんだよ!殺人者だった場合の今回のこの何とも言えない感覚はどうすりゃいいんだよ!」
「分かりました。どーぞ!」
「え?」
「はい?」
「え?」
「はい?」
「えどーぞって?何が、どーぞ?」
「だから、僕も貴方と同じ何とも言えない感覚にして下さい!」
「いや、俺は殺人者じゃないから!」
「嘘でもいいじゃないですか!どーぞどーぞ!」
「嘘でもいいなら、嘘なんだなってなるだけじゃん!そこに何の感覚が生まれるって言うんだ!」
「大丈夫ですよ!僕は、貴方を殺人者だと信じますから!さあ!どーぞ!」
「何で俺が殺人者じゃないのに、隣人に殺人者だと思われながら、これから生活して行かなきゃならないんだよ!」
「じゃあ、やり方教えますよ!」
「恐い恐い恐い!何?何で俺まで殺人者の道に引きずり込もうとしてんの?」
「赤信号の横断歩道を車の往来がないからって渡られた事ありますよね?」
「あるよ。」
「それだって立派な犯罪なんです!」
「いや違う違う違う!犯罪と言う大きな括りの中では同じかもしれないけど、信号無視と殺人は犯罪のレベルが違う!」
「僕は信号無視した事ありませんっ!!」
「そんな正義感を振りかざすなら!何で人は殺すんだよ!」
「そこに人がいるから!」
「それは高名な人がドキュメンタリーで口にする言葉だ!」
「僕、明日も人を殺さないといけないんで、そろそろいいですか?」
「どんな意表を突いた話の終わらせ方だよ!仕事感覚じゃん!もう、仕事感覚で人殺ししてんじゃん!え?暗殺者?」
「いえ、死刑執行人です。」
「だったらだったでそれを最初に物凄くオブラートに包んでやんわりと言ってくれればいいだろ!何で逆にストレートで回りくどく言うんだよ!」
「自分一人で抱え込んでたら、とてもじゃないけど正気でいられないんですよ。誰かに聞いてもらえるだけで、それだけで少し救われた気分になれるんです。」
「急に真面目!?」
「なーんちゃって!」
「なーんちゃってっては、今言っちゃダメだろ!部屋に帰ってから言う事だろ!」
「あそっか!次は上手くやります!」
「次とかも言わなくていいんだよ!」
「難しいですね。殺人みたいに上手くいかないや!まあ、とにかくこれからちょくちょく作り過ぎた料理とか持って行くと思いますんで、宜しくお願いします。」
「絶対食わねぇよ!」

第五百一話
「隣人は肉料理を持って来る」

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2016年1月27日 (水)

「第五百二話」

「月があったら、今日はもっとこう、平和って感じの夜空だったろうね。」
「変な事言う子だね。でも、そうかもしれないね。」
「さてと、ごちそうさま!」
「お粗末さまでした。」
「ああ!やっぱり母さんのご飯が一番美味いや!」
「何言ってんの!そんな事言っても何にも出ないよ!はい、叔母さんから送られて来たみかん!」
「おお!もうそんな時期かぁ。」
「それで?」
「甘い!さすが叔母さんのみかん!」
「ちょっと!みかんはいいから、どうしたの?」
「どうしたのって?」
「アンタが家に帰って来るなんて、何かあったんじゃないの?って話よ。病院で何かあった?」
「ああ、病院?辞めた。」
「あそう。辞めたの。ええ!?辞めた!?辞めたってアンタ!何考えてんの!?」
「母さん、俺さ。医者よりもなりたい仕事見付けたんだ。」
「見付けなくていいわよ!頑張って勉強して!物凄い根性で頑張って!やっと大学病院に入れたんじゃない!それを、辞める?一人でも多くの人を助けたいってのが、アンタの夢だったんじゃないの?」
「それは今も変わらないよ。」
「だったら!辞めなくてもいいでしょ!」
「母さん、俺、ヒーローになる!」
「母さん、俺、ヒーローになる!って、何!?救命救急だっけ?そこで、何?毎日毎日休みもなく働き過ぎて疲れちゃったの?だったら、しばらく休養すればいいじゃない!それだけの事じゃない!そしてまた、多くの人を助ければいいじゃない!」
「母さん?俺は、疲れてなんかないよ。むしろ、めちゃくちゃ元気!」
「ならば、大学病院に戻ろうよ!」
「医者でいるよりもヒーローでいる方が、より多くの人を助けられるって事に気付いただけだよ!」
「何を子供みたいな事を医者になってから言い出してんのよ!」
「医者になったから気付けたんだよ!」
「分かった!母さん!一緒に院長先生のとこに行って、頭下げてあげる!ほら!みかんなんか食べてないで!行くよ!」
「無理だよ、母さん。二人で頭下げたって、どうにもならないよ。」
「そんな事やってみなくちゃ分からないだろ!ほら!早く支度しなさい!」
「殴ったんだ。」
「誰を!」
「院長。」
「何で殴るのよ!殴るのは完全にアウトでしょ!」
「悪だからだよ。」
「何なのよ、悪って!」
「ヒーローは、悪を許さない!」
「アンタは、ヒーローじゃないでしょ!」
「母さん?俺は、あの時、院長の机に全指突き指するぐらい辞表を叩き付けた瞬間から、医者じゃなくて、ヒーローになったんだ!」
「何を訳の分からない事と訳の分からない怪我してんの!」
「あの院長さ。裏で政治家と繋がっててさ。まだ認可されてない薬を患者に投与して、金貰ってたんだよ!多くの患者が、命を落としたり副作用に悩まされてるんだよ!患者をまるで実験道具としてしか考えてないんだよ!許せないよ!」
「よくある事じゃない!」
「確かに、母さんの言う通り、どこでも裏ではそんな事が行われてるのかもしれないよ!俺が守れる範囲は狭いかもしれない!でもさ!それでも救える人はいるんだよ!」
「そう言う事じゃないでしょ!」
「今はまだ、目の届く範囲かもしれないけど、そのうち俺は、この緑の地球全体を救うヒーローになる!」
「何を宣言してるんだ!アンタは!それに、ヒーローになるって、婚約者のほら、女医の彼女さんは知ってるのかい?アンタ達、来年には結婚すんだろ?」
「彼女とは別れた。」
「何別れてんのよ!母さん、一緒に行って彼女さんに頭下げてあげるから!」
「無駄よ。」
「無駄じゃない!アンタ達、何年間も一緒にいたんでしょ?」
「六年。」
「だったら分かってくれるわよ!二人で頭下げたら、彼女さん絶対分かってくれる!だからほら、みかんなんか食べてないで!早く支度しなさい!」
「殴ったんだ。」
「誰を?」
「彼女。」
「何で殴るのよ!殴るのは完全にアウトでしょ!」
「悪だからだよ。」
「悪って、女の子じゃない!母さん、アンタを女の子に手をあげる男に育てた覚えはないよ!」
「母さん?悪に、老若男女は関係ないんだよ。ヒーローは平等に裁くんだよ。俺の彼女さ。実は、裏で政治家と繋がっててさ。」
「何でアンタの回りは、みんな裏で政治家と繋がってんの!」
「臓器売買してたんだ。」
「だったら、裏で繋がってる政治家を殴りなさいよ!」
「俺だってそうしたいよ!でも、まだ無理なんだ!俺にはまだ、ヒーローとしての力が足りない!ヒーロー力不足なんだ!」
「ヒーロー力って何よ!?」
「母さん?俺が、何で帰って来たか分かる?」
「医者辞めてヒーローになるって言ってる息子の考える事なんか分かる訳ないでしょ!」
「ヒーロー力をつける為に帰って来たんじゃないか!」
「もうずーっとね!ずーっと訳の分からない事を言い続けるね!」
「母さん、確か博士の友人がいたよね?」
「いるけど、それが何なの?」
「頼む!母さん!」
「どうしたのよ!あんなにも頭下げるの拒んでたのに、どうしたの!?」
「母さんの友人の博士に頼んで、俺を改造して欲しい!」
「言ってる意味が分からない!」
「目からビーム出るようにして欲しいんだ!あと、何らかの形で、飛べるようにもして欲しいんだ!それと、これは出来ればなんだけど、パンチが発射するみたいな感じにもして欲しいんだ!」
「何言い出すの!そんな事したら!」
「大丈夫!金なら俺が出すから!もし足りなかったら、頑張ってヒーローで稼いで払うから!」
「お金の心配じゃなくて!」
「この地球の明日の平和の為なんだ!母さん!頼む!」
「やれやれね。」
「いや、母さん。みかんなんか食べてないで!頼むよ!博士紹介してくれよ!」
「まさか、アンタまでお父さんと同じ事を言い出すとはね。」
「え?」
「顔なんか見た事もないのにね。やっぱり親子なのね。」
「俺が生まれる前に死んだ父さんも?」
「そう。」
「ヒーローだったの!?」
「学校で学ばなかった?この地球が一度滅亡しかけた話。」
「月の衝突!でもあれは確か、大量のミサイルで!」
「父さんよ。」
「え!?」
「地球の明日の平和の為に、ね。」
「父さん。」
「会った事もないのに、口癖まで似るなんてね。ほら、何干渉に浸ってんの!」
「え?」
「行くんでしょ?博士のとこに!」
「か、母さん!?今から!?」
「ん?ほら!」
「おう!」

第五百二話
「月のない世界」

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