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2016年3月

2016年3月 2日 (水)

「第五百七話」

「アタシは!アナタの夢を一緒に追い掛ける為に一緒にいるの!結婚したの!」
妻は、怒っていた。
「ねぇ!聞いてるの!」
「聞いてるよ。キミには感謝してるよ。こんな歳にもなって夢を追い掛けてる僕と変わらず一緒にいてくれてさ。」
「だったら書こうよ!小説書こうよ!」
「でも、今日は書く気分じゃないんだよ。」
「そう言う台詞は!文豪にでもなってからいいなよ!今はとにかく!一つでも多くの作品を書くのが大事でしょ!一つでも多くの武器を作っとかないと!戦いには勝てないんだよ!」
「分かってる。でもさ。文豪だろうが、文豪に夢を抱く男だろうが、小説を書く気分になれない日は、何にも書きたくないんだよ。」
「何それ!逃げじゃん!」
「逃げてる訳じゃないよ。」
「とりあえず、モグラの恋愛小説書いてみようよ!」
「とりあえずで書く題材じゃないだろ!いきなり何言い出すんだよ!」
「いい?何でもいいから、とりあえず書く事が大事なの!こう言うのは、インスピレーションが肝心なの!」
「モグラの恋愛小説なんか書き方すらも分かんないよ。いいかい?そもそも僕は、恋愛小説は苦手なんだよ。僕の得意とするのは、どんでん返しのある短編小説なんだよ。」
「そこなんじゃない?」
「そこ?」
「どんでん返しどんでん返しって、世の中そんなにどんでん返しなんか求めてないっつぅの!」
「物凄い斬新な発言をするんだな!?」
「簡単に言うと、どんでん返しって、犯人だとは思わなかった人が犯人とかって話でしょ?」
「凄く分かりやすい例えだけどね。」
「イライラするのよ!」
「はい?」
「そう言うの見ててイライラするの!ドラマや映画なんて犯人に終始ずっと果てしなくどこまでも矢印付けとけばいいのよ!」
「いやもうそれは、あえて見なければいいだけの話じゃ?」
「とりあえず、モグラの恋愛小説を書きましょう!」
「だから!どう書いたらいいのかさえも分からないんだよ!しかもだよ?誰をターゲットにしてんだよ!モグラの恋愛小説って!」
「女子モグラが、先生モグラに恋をする!学園モノよ!ラブコメよ!ラブコメ!」
「モグラである必要があるのか?」
「キリンでもカマキリでもランでもいいわよ!」
「人間でいいだろ!」
「やっと言ったわね!」
「はあ?」
「よし!じゃあ、人間のラブコメ!書いてみよう!」
「強引の向こう側だなぁ!ラブコメなんか書いた事ないから書けないよ!」
「あのね?人間も大昔は、火なんか扱った事なかったの。」
「何の話だ?」
「誰もに最初は必要不可欠って話!アナタには実は、ラブコメの才能が眠ってるかもしれないじゃない!」
「眠ってる才能の話をされてもなぁ。」
「ラブコメ!!」
「鼓膜が!?何やってんだよ!耳元でそんな大声出して鼓膜破れたらどうすんだよ!」
「眠ってるラブコメ才能が目を覚ますなら鼓膜の一つや二つなんだい!」
「眠ってればね!眠ってれば、そりゃあいいよ!でもさ!眠ってなかったら一大事だよ!」
「で?ラブコメ才能は、目を覚ました?」
「眠ってる才能が、こんな事で目を覚ましたら誰も苦労しないよ。」
「ちょっと、覚めたかどうか書いてみようよ!おっちょこちょい女子のドタバタ恋愛活劇!」
「コメの部分が強調され過ぎだよ!」
「美人になってやろうと整形したら、目が鼻になっちゃって鼻が三つになっちゃったの!」
「もうそれは一体誰がどんな風におっちょこちょいなのか分かんないよ!てか、ホラーだよ!」
「ホラー恋愛!」
「その何かいいアイディアが浮かんだ時のポージングやめてくんないかなぁ?」
「あまり開拓されてないジャンルだと思わない?」
「開拓されてないんじゃなくて、開拓しようがないから、誰も掘り進めないだけだと思うけど?」
「そこを掘り進めて行きましょうよ!大丈夫!アナタには、アタシがついてるから!」
「無駄な気がしてならないよ。」
「無駄って!暇なんだから無駄なんてないでしょ!だってそれは!暇が既に無駄なんだもの!」
「何で格言っぽい言い方で若干傷付けるんだよ。」
「人はね。傷付いた方が成長するって、小学校の保健の生生が言ってたよ。」
「傷付くの意味が違うし、そもそもが意味が分かんないよ。その保健の生生が言ってる事も!」
「ホラー恋愛だから、何かもうこの世のモノとは思えないほどの気持ち悪い生物が人間の女子に恋をするでいいね!」
「よくないだろ!」
「ホラーだよ?」
「ホラーだけども!この世のモノとは思えないほどの気持ち悪い生物ってアウトだろ!」
「見ただけでゲボだよ!」
「だから!そんなにホラーの部分を強調しまくってどうすんだよ!」
「ホラー恋愛だよ?」
「いやだから!ホラー恋愛、ホラー恋愛って言ってさ。ただただ単純にさ。ガチガチのホラーとガチガチの恋愛を混ぜたって、混じり合わないんだよ。混じり合う訳がないんだよ。だから、ホラーってジャンルと恋愛ってジャンルが、あるんだもの。」
「難しいのね。」
「それをやらせようとしてんだよ?」
「でも大丈夫!」
「何が?不安感しかないけど?」
「ブレンドしていい具合になればいいんでしょ?」
「言葉では簡単だよ。読者を引き込むのが難しいんだよ。」
「この世のモノとは思えないほどの気持ち悪い女子に恋をすればいいじゃん!見ただけでゲボだよ?」
「もう、ただただ気持ち悪い小説じゃん!何でホラー側を恋愛に寄せないで、恋愛側をホラー側に寄せちゃうんだよ!この世のモノとは思えないほどの気持ち悪いモノ達の恋愛小説なんか誰が読みたがるんだよ!」
「読んだだけでゲボだよ?」
「方々から叱られるよ!そんな小説書いたら!」
「ホラー恋愛、ムズい!」
「だから言っただろ。ムズいんだよ。ムズいから開拓の手が止まってるんだよ。」
「ホラコ!」
「次は、ホラーコメディ?」
「違うよ!ホラーラブコメディよ!」
「あのさ?何でもかんでも最終的にコメディにすればいいってもんでもないんだよ?」
「この世のモノとは思えないほどの気持ち悪い生物が、おっちょこちょい女子に恋をするドタバタ恋愛活劇!これもう!映画化まで漕ぎ着けたんじゃない!で、おっちょこちょい女子は名探偵だから、これってもう!シリーズ化まで辿り着いたんじゃない!」
「もういいよ!頭の中が大パニックだよ!だから、とりあえずモグラの恋愛小説書いてみるよ!」
「うん!」
妻は、笑顔だった。

第五百七話
「愛する人には笑顔を」

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2016年3月 9日 (水)

「第五百八話」

 最近、右のふくらはぎが痛い。痛過ぎる。だから原因を究明する為に僕は、総合病院を訪れた。触診後に医者の口から飛び出した言葉は、想像を遥かに越えるものだった。
「生生?もう一度、言ってもらえますか?」
「ええ、もちろんです。患者さんが納得するまで、何度でも言いますよ。」
「お願いします。」
「貴方の右のふくらはぎには、ドラゴンがいます。」
「すいません。そのドラゴンの部分がいまいち一般人にはよく分からないので、医学用語じゃなく言ってもらえますか?何か、血管がヤバい事になってるんですか?それとも何か他の命に関わる事ですか?」
「いや、ドラゴンはドラゴンです。医学用語でもなんでもありませんよ。ほら、映画や漫画なんかで目にした事あるでしょ。」
「だとしたら!ふくらはぎにドラゴンがいるって何なんですか!」
「それは、私の台詞ですよ。まあ、落ち着いて下さい。座って話をしましょう。そんなに興奮されて、もしもドラゴンが目を覚ましてしまったら、事ですよ?」
「いや、ちょっと待って下さいよ。そもそも生生は、触診しかしてませんよね?」
「はい。」
「どうして触診だけで、ふくらはぎの中にドラゴンがいるって分かるんですか!もっといろんな検査して下さいよ!」
「無闇に検査しても、患者さんの費用の負担になるだけですし、何よりもレントゲンやら機器を使用した検査は、患者さんの体の負担になるんですよ?触診でドラゴンがいるって分かってる以上、医者としてそんな事は出来ません。」
「ドラゴンは、眠ってるんですか?」
「だと思いますよ。仮に目覚めているんだとしたら、物凄いおとなしいドラゴンと言う事になります。」
「ドラゴンって!医学用語なんですよね!血管がドラゴンみたくなってて、僕はヤバいって事なんですよね!」
「ですから、ドラゴンはドラゴンです。医学用語でもなんでもありませんよ。安心して下さい。」
「それが安心出来ないんですってば!いやじゃあ!もう、ドラゴンが僕のふくらはぎにいるでいいですよ!だとしたら、何とかして下さい!」
「何とか?具体的に何とかとは?」
「だから!治療ですよ!手術でドラゴンを取り出すとか!薬でドラゴンを殺すとか!とにかく僕の右のふくらはぎの中にいるドラゴン何とかして下さいよ!」
「逆にちょっと待って下さい。これが、何とかした結果なんじゃないんですか?」
「はい?言ってる意味が全く理解出来ません!」
「つまりですよ?仮に勇者様御一行が、貴方の右のふくらはぎに、ドラゴンを封印したとは、考えられませんか?」
「身に覚えがないんだから、考えられる訳がないじゃないですか!何なんですか!勇者様御一行って!だいたい何で僕の右のふくらはぎにドラゴンを封印するんですか!」
「だから、伝説の右のふくらはぎの持ち主の貴方が寝ている時に、伝説のドラゴンを封印したとは、考えられませんか?」
「伝説の右のふくらはぎの持ち主とか伝説のドラゴンとか!後から伝説を付け加えないで下さい!ゲームの世界じゃないんですから勇者様御一行がまず!有り得ないでしょ!」
「人生とは、ゲームのようなもんですよ?」

「訳の分からない文章で諭さないで下さい!とにかく、僕はふくらはぎの痛みをどうにかして欲しいんですよ!」
「正気ですか?」
「はい?正気に決まってるじゃないですか!痛みは誰だって取り除けるもんなら取り除いて欲しいでしょ!そして、それをするのが医者の役目じゃないんですか?」
「本来ならそれが医者の本分です。」
「だったら!」
「しかしね!この場合、貴方の右のふくらはぎの痛みを取り除くと言う事は!すなわち貴方の右のふくらはぎの中からドラゴンを引きずり出すと言う事です!それが意味する事は、この世界の消滅です!」
「マジで言ってるんですか?先生は、マジでそんな事を言ってるんですか!」
「私には、そんな恐ろしい事は出来ない。もし、そんな事をしてしまったら、私の名は魔界の医者として後世に語り継がれ続けてしまう!」
「世界が消滅するんだから、その心配はいらないんじゃないですか?」
「世界が消滅しても!何人か生き残りがいるパターンも考えられるじゃないか!」
「何ですか、そのパターン!だいたい、僕の右のふくらはぎに入るぐらいのサイズのドラゴンで世界が消滅するとは思えませんけどね!」
「だからそれは、勇者様御一行が地球サイズの伝説のドラゴンを小さくして貴方の伝説の右のふくらはぎに封印したんでしょう!」
「いやもう、そんなサイズのドラゴンがいたんなら、地球人全員が目撃者だ!先生!いい加減にして下さい!僕は先生のくだらないファンタジーの妄想話に付き合ってるほど暇じゃないんですよ!」
「何言ってるんですか?」
「それは、僕の台詞ですよ!」
「貴方が、自らここへ受診されたんですよ?あの封印されしドアから魔法の力を使って入って来たんですよ?」
「受け付けで、ここへ行けって言われたからね!そりゃあ、自ら来ますよ!来ちゃいますよ!とりあえずそのファンタジー要素を取り除いて会話してもらえません?」
「それは無理ですよ。」
「何で無理なんだ!」
「だってここは、ファンタジー科ですよ?整形外科でしたら、もう一つ上の階ですよ?」
「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・失礼しました。」
「いえいえ、お大事に。」

第五百八話
「ファンタジー科」

「・・・・・・・・・。」
「どうされました?伝説のドラゴンが封印されてる伝説の右のふくらはぎが痛んで歩けないなら、看護師を召喚して空飛ぶ車椅子で整形外科までお連れするように連絡しますよ?」
「・・・・・・・・。」

「大丈夫ですか?」
「・・・この科、いる!?」
振り返りざま僕がそう言うと、ファンタジー科の先生は笑顔で軽く会釈した。ファンタジー科を後にした僕は、真っ直ぐ整形外科へ向かい、適切な受診により、ふくらはぎの痛みは、疲労が原因の肉離れだと分かった。受診を終えて1階で会計しようと乗り込んだエレベーターの中で、ふと、ファンタジー科が気になって、そのフロアーで降りた僕の目に飛び込んで来たのは、勇者様御一行だった。

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2016年3月16日 (水)

「第五百九話」

 人は、死に直面した時、何か得体の知れない想像を越えた力を発揮する事がある。俺は、物書きだ。数十年物書きだ。数十年も物書きをしてると分かってくる事が二つある。一つは、このまま死ぬまで小説を書き続けたとこで、俺の作品が世の中に評価される事はないと言う事。もう一つは、死に直面した時の想像を越えた力を手に入れる方法だ。いつ死ぬか分からないから、人生は楽しく儚い。だが、いつ死ぬか分からないからこそ、人は必死に生きようとしない。マヌケ面で、今日の自分は死なないって、本気で考えている。だとしたら、想像を越えた力を自ら作り出せばいい。その力を手に入れて最高傑作を書き上げればいい。だから俺は、一年後に爆発する超小型の時限爆弾を出来るだけたくさん日常生活に差し支えがない程度に体内に埋め込んだ。世の中は、この行為を自殺と呼ぶかもしれない。だが、自殺とは全くの別物だ。自殺には躊躇いが生じるが、体内の時限爆弾は、冷酷に時を刻み、事務的に仕事を終える。俺の人生とは関係なく、確実に一年後には爆発する。余命宣告よりも確実な余命を俺は手に入れた。と同時にそれは、想像を越えた力を手に入れた事になる。つまり、燻ってた俺の物書き人生の終わりのカウントダウンだ。死の恐怖感より俺は、一年後の俺が、一体どんな最高傑作を書き上げているのだろうと言う幸福感と希望の絶頂だった。
「さあ!書き上げてやるぞ!待っていろ!俺の最高傑作!」

第五百九話

「一年後」

 俺は、最高傑作を書き上げた。こんな最高傑作、この力を手に入れてなければ、一生書き上げられなかっただろう。だが、それはあくまで俺の最高傑作であって、世の中の反応は、一年前と何一つ変わらなかった。だとしたら、俺のした行為は最高に無意味だったのか?いいや、それは違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。
「ボン!」

第五百九話
「一年後」

「つまり、この作者は、最高傑作を書き上げる為に、自分の体内に一年後に爆発する小型の時限爆弾を埋め込んでたって事か?」
「そうです。」
「狂ってる。」
「確かに、でも警部?これで捜査もようやく終わりを迎えたのでは?」
「ああ、動機が不明の爆弾テロ事件だったからな。まさか、こんな結末を迎えるとは想像もしてなかった。」
「で、作品の修復に一年掛かりましたが、これが彼が最後に書き上げた作品です。」
「これが、爆弾を埋め込んでまで書きたかった最高傑作って事か。」
「そうです。読まれますか?」
「ああ、どうせなら、この最高傑作を読んで事件に終止符を打つとしよう。で?お前は、もう読んだのか?」
「はい。」
「どうだった?」
「ゲボが出るほどクソつまんなかったです。」
「何っ!?」

第五百九話
「一年後」

「まさか、こうなるとは思ってもみませんでした。社長が、この作品の著作権を買い取るって言った時は、私も本気で辞表を書きましたからね。ですが、辞表を提出しないで良かった!さすが、社長です!先賢の目をお持ちだ!」
「ダイヤモンドの原石は、どこに転がっているか、分からないからね。」
「読んだらゲボが出る本、今や全世界で売り上げトップです。評論家の間では、この先、この作品を越える最高傑作は世に出ないとまで言われています!」
「ゲボを出したくても出せないで困っている人は、世界にたくさんいる。それだけの需要があっただけの事だ。読んだらゲボが出る本、いやいや、読んだら命が救われる本、だったな。」
「最高傑作です!」

第五百九話
「一年後」

 地球は、宇宙から消滅した。それは、火星人が地球から放たれる猛烈な異臭に激怒し、総攻撃を行ったからだ。

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2016年3月23日 (水)

「第五百十話」

 とある公園での映画の撮影現場。
「監督!」
「何だよ!もう、撮影開始なんだから、あんまり語り掛けるなよ!ナーバスなんだからさ!」
「それが!大変なんです!」

「何っ!?近くで事件でも起きたのか!?」
「違います!」
「何なんだよ!じゃあ、何が大変なんですなんだよ!分かるか?撮影直前の監督は、ナーバスなんだよ!助監督には、分からないか?俺は、助監督時代もナーバスだったぞ?」
「主役の女優が、まだ来てないんです!」

「主役の女優がまだ来てないんですだと!?」
「はい!」
「おいおいおいおい!主役の女優がまだ来てないんですって何だよ!結局、事件じゃねぇか!大事件じゃねぇか!」
「事件と言えば事件です!」
「何で来てねぇんだよ!大便か?大便なら、待つぞ?とことん待つぞ!」
「いえ、大便じゃありません!と言うか、そもそもが、ここに来てないんです!」
「現場自体にか!」
「はい。」
「連絡は?家とかで大便なら、待つぞ?とことん待てるぞ?」
「それが、連絡がつかないんです!」
「連絡がつかないだと!?この時代に誰かと連絡がつかないだと!?」
「はい!」
「企業努力が足りない!」
「監督、どうしますか?」
「んじゃあ、サボテンとかでいいよ。」
「はい?」
「主役の女優がいないんだろ?この時代に連絡がつかないんだろ?」
「そうです!」
「なら、仕方ないから、このシーンは主役の女優の代わりにサボテンでいいよ。」
「え?待たないんですか?」
「大便じゃねぇんだろ?」
「はい!と言うか大便かどうかすらも分かりません。連絡が取れないんで。」
「待たねぇよ!何で待つんだよ!」
「主役の女優ですよ?」
「主役の女優だろうが脇役の女優だろうがエキストラだろうが!今日、この時間にこの場所で撮影があるのに来てないんだから、来てない方が悪いだろ!俺だってお前だって来てんだよ!みんな来てんだよ!来てないのは、主役の女優だけなんだよ!来てない理由が大便かどうかも分かんねぇなら!撮影開始するしかねぇだろ!俺はいいよ?俺は、今抱えてる仕事は、この映画だけだからさ!でも、みんながみんな、今抱えてる仕事が、この映画だけじゃねぇだろ?」
「はい。」
「だったら、サボテンとかで撮影開始するしかねぇだろ!」
「監督?このシーンって、この映画の中でも重要なシーンの1つですよね?」
「そうだよ?重要なシーンだよ?だから俺は、いつも以上にナーバスなんだよ?」
「映画も半ばで、しかも重要なシーンで、いきなり主役がサボテンになるんですか!?」
「いやだから、サボテンとかだよ!サボテンとか!別にそこはサボテンじゃなくてもいいよ!サボテンにこだわりはねぇよ!マネキンでも犬の糞でも何だっていいんだよ!とりあえず撮影開始しようぜ!って事だよ!いつ来るのか分からない、ましてや連絡がつかない、来ないかもしれない主役の女優を待つんなら、やっちゃおうぜ!って事だよ!」
「いやでも!そんな事しちゃったら、この映画、台無しじゃないですか!」
「映画全体のクオリティを考えたら、別に台無しじゃないだろ。」
「映画全体のクオリティを考えて台無しって言ってるんですよ!」
「結果的に観客がそう感じたんなら仕方ない話だ!」
「待ちましょうよ!」
「何でだよ!いやちょっと待てよ!なあ?全員時間通りに撮影現場に来てんだよ!俺なんか昨日からずっと、ここにこうしてメガホン片手に座ってんだよ!何で主役の女優だからって、待たなきゃなんねぇんだよ!」
「主役の女優だからですよ!主役の女優が事件を解決する為に殺害現場で回想するからです!だから!逆に言えば、このシーンは、主役の女優だけいてくれればいいんですよ!待ちましょうよ!」
「お前さぁ?遅刻厳禁って言葉知ってるか?」
「はい。」
「仕事だろうがプライベートだろうが、この世界は遅刻厳禁で成り立ってる部分があるんだよ。」
「いやもう、監督の言ってる事は、凄くよく分かるんですよ!でも、映画の事を考えると、主役の女優を待つしかないんですよ!」
「いやだから、サボテンとかでいいだろ?セリフは後からアフレコでいいだろ?何が問題なんだよ。」
「問題だらけなんですよ!サボテンかマネキンか犬の糞か分からないですけど、監督が映画を観てていきなり主役がそんなモノになったら、何なんだこの映画ってなるでしょ?」
「主役の女優が撮影現場に来なかったんだなぁ、って思うよ。現場は苦労したんだなぁ、って思うよ。仕方なかったんだろうなぁ、仕方ない映画、だなぁ、って思うよ。」
「何ですかそのジャンルの映画!観客みんながみんな、監督目線で映画を観ませんよ!」
「悪いだろ?」

「悪いですよ!もちろん、撮影開始の時間に来てない主役の女優が1番悪いですよ!でも、ここは、映画の為に、監督には我慢してもらわないとですよ!」
「おい!この世界は、正義が我慢する世界なのか?正しい時間に正しい場所に来た正しい人間が、悪が来るのを待ってなきゃなんねぇのか?大体、自分が来なけりゃあ、撮影は開始されないと思ってんだよ!そのにやけ面を思い浮かべたら、腹立つだろ!」
「でも、もしかしたら、一生懸命時間に間に合わせようとしてて、何かのトラブルに巻き込まれちゃったって事も考えられるじゃないですか!」
「おい!言っとくぞ?俺はなぁ?大便以外のトラブルは、認めねぇ!渋滞や病気とか許す奴いるだろ?そんなのプロとして何かの理由になんねぇんだよ!渋滞で遅刻すんならもっと早く家を出ろだしな!病気を理由にすんなら、病気んなってんじゃねぇよだ!中途半端な気持ちで仕事、引き受けてんじゃねぇよ!ギャランティもらって渋滞や病気じゃねぇよ!」
「容赦ないですね!?」

「よし!何か動物の糞を用意しろ!もう、それで撮る!俺はなぁ!悪は絶対許さない!許しちゃいけねぇんだよ!最終的には正義が勝つ世の中でなきゃなんねぇんだよ!」
「監督・・・。」
「もうあれだ!動物の糞が見付からないならな!俺の大便でいいよ!何がなんでも出すから!ちょっとトイレ行って来る!」
「あ、ちょっと監督!公園のトイレは確か清掃中ですよ!」
「なら、どっか他探してするまでだろ!待ってろよ!すぐにスゲェ大便持って帰って来てやるからな!」
「スゲェ大便って・・・。」
監督が現場を後にして数分後、主役の女優は頭を下げまくって現れた。そしてその数分後、とある公園で映画の撮影は開始された。

第五百十話
監督の椅子の上には鳥の糞」

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2016年3月30日 (水)

「第五百十一話」

 ロープウェイ山頂駅の近くに佇むホテル。シーズン中ならば、たくさんの人で賑わうその食堂に、今は二人の男と一人の女しかいなかった。
「おい!探偵の男!」
「ん?」
「そして、その助手の女!」
「何でしょうか?」
「お前らは、何なんだ!」
「探偵の男です。」
「その助手の女です。」
「そう言う事を聞いてんじゃねぇよ!この状況は何なんだ!って話だよ!」
「まあ、今日にはロープウェイの修理も終わるって話ですからね。そうだよな?」
「はい、先程、ようやく下と連絡が取れました。」
「吹雪も夜中のうちに止んだようですし、だから、間もなく下山出来ますよ。」
「だから、探偵!俺は、そう言う事を言ってんじゃねぇんだよ!」
「ん?じゃあ、何が言いたいんだろう?分かるか?」
「さあ?あのう?何が仰りたいんですか?」
「何で殺人事件を解決しないんだよ!」
「「えっ!?」」
「何で二人揃って驚いてやがんだよ!普通、探偵が宿泊してるホテルで殺人事件が起きたら!犯人を暴くだろ!ここで何人が殺されたと思ってんだよ!」
「9人?」
「所長、10人です。」
「おい!お前達!呑気に食後のコーヒー飲んでる場合じゃないだろ!10人だぞ!10人も殺されてるんだぞ!平気なのか?探偵として、平気なのか?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・って!何だこの沈黙は!」
「いやだって、犯人は貴方ですよね?なあ?」
「はい。このホテルには、もう私達三人しかいませんから、自動的に犯人は、貴方です。」
「はあ!!!!!!」
ロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。
「びっくりするじゃないですか!?急に大声を出したら!?な、なあ?」
「は、はい。雪崩が起きたらどうするんですか?」
「ちょっと待て!何なんだ?今の発言は!」
「えっ?僕、おかしな事言いました?言ってないよな?」
「言ってません。」
「言ってんだよ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「「犯人ですよね?」」
「そうだよ!犯人だよ!10人殺しの連続殺人鬼だよ!」
「白銀のクリムゾンさんですよね?」
「そうだよ!」
「白銀のクリムゾンさんなんですよね?」
「だからそうだっつってんだろ!二人して別々に同じ事聞くんじゃねぇよ!イライラするから!」
「では、ここからは僕だけが質問します。白銀のクリムゾンさん、僕等は、貴方の言っている事が全く理解出来ません。」
「理解出来ないだと!?」
「ええ、出来ません。だって、白銀のクリムゾンさんは、10人殺したかったんですよね?」
「そうだよ。」
「このチャンスを待ち望んでいた。」
「そうだよ。」
「その為に、ロープウェイ山頂駅の仕事に就いた。」
「ああ、その通りだ。」
「で、ホテルにターゲットを集めて、ロープウェイを故障させ、缶詰にした。それも、天候が悪化する時期をわざわざ選んでですよね?」
「そうだよ。」
「で、何がダメなんでしょう?目的は達成されたじゃないですか。喜ばしいこの状況をなぜ、憤怒なんでしょう?」
「招かれざる客のお前達の存在だよ!」
「10人殺したら、自首しようとしていましたよね?」
「ああ、そうだ。」
「では、物語は無事、完結じゃありませんか。」
「いや俺が言いたいのは!招かれざる客の探偵とその助手がいたにも関わらず物語が無事完結って、おかしいだろ!!!!」
再びロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。
「まあまあ、落ち着いて下さい。白銀のクリムゾンさん。あそうだ!コーヒーのお代わりでも淹れて上げなさい。」
「はい。」
「コーヒーのお代わりいらん!いいか?探偵!普通は、招かれざる客の探偵と助手がいたら、10人殺して物語が無事完結しないんだよ!途中で俺が犯人だって暴かれて未完結で終わるんだよ!」
「それは、小説や映画のような?」
「そうだよ!」
「「なるほど。」」
「いいか?10人殺して目的達成してスカッとしてる反面!俺は、10人殺して目的達成してモヤモヤしてんだよ!」
「白銀のクリムゾンさん?貴方は、何か大きな勘違いをしています。」
「大きな勘違い?」
「そうです。僕等は、探偵と助手ですが、そっちの探偵と助手では、ありません。」
「はあ?何だよ、そっちとかってのは!」
「ですから、僕等は浮気調査専門の探偵事務所の探偵とその助手なんです。なあ?」
「はい。」
「だから、めちゃくちゃビビってたよな?」
「はい。めちゃくちゃビビってました。」
「僕等も殺されるんじゃないかってな?」
「はい。生きた心地がしませんでした。」
「ですから、白銀のクリムゾンさんが言うように、途中で殺人事件を解決する事なんか出来ないんです。犯人が分かったの10人目が殺された時だもんな?」
「はい。」
「・・・ちょっと待て!じゃあ、お前らは、ここに浮気調査をしに来たって事か?」
「「はい!」」
「誰の!」
「「貴方です!」」
「何だと!?!?!?!?」
三度ロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。

第五百十一話
「妻は依頼人の殺人鬼」

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