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2016年3月16日 (水)

「第五百九話」

 人は、死に直面した時、何か得体の知れない想像を越えた力を発揮する事がある。俺は、物書きだ。数十年物書きだ。数十年も物書きをしてると分かってくる事が二つある。一つは、このまま死ぬまで小説を書き続けたとこで、俺の作品が世の中に評価される事はないと言う事。もう一つは、死に直面した時の想像を越えた力を手に入れる方法だ。いつ死ぬか分からないから、人生は楽しく儚い。だが、いつ死ぬか分からないからこそ、人は必死に生きようとしない。マヌケ面で、今日の自分は死なないって、本気で考えている。だとしたら、想像を越えた力を自ら作り出せばいい。その力を手に入れて最高傑作を書き上げればいい。だから俺は、一年後に爆発する超小型の時限爆弾を出来るだけたくさん日常生活に差し支えがない程度に体内に埋め込んだ。世の中は、この行為を自殺と呼ぶかもしれない。だが、自殺とは全くの別物だ。自殺には躊躇いが生じるが、体内の時限爆弾は、冷酷に時を刻み、事務的に仕事を終える。俺の人生とは関係なく、確実に一年後には爆発する。余命宣告よりも確実な余命を俺は手に入れた。と同時にそれは、想像を越えた力を手に入れた事になる。つまり、燻ってた俺の物書き人生の終わりのカウントダウンだ。死の恐怖感より俺は、一年後の俺が、一体どんな最高傑作を書き上げているのだろうと言う幸福感と希望の絶頂だった。
「さあ!書き上げてやるぞ!待っていろ!俺の最高傑作!」

第五百九話

「一年後」

 俺は、最高傑作を書き上げた。こんな最高傑作、この力を手に入れてなければ、一生書き上げられなかっただろう。だが、それはあくまで俺の最高傑作であって、世の中の反応は、一年前と何一つ変わらなかった。だとしたら、俺のした行為は最高に無意味だったのか?いいや、それは違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。
「ボン!」

第五百九話
「一年後」

「つまり、この作者は、最高傑作を書き上げる為に、自分の体内に一年後に爆発する小型の時限爆弾を埋め込んでたって事か?」
「そうです。」
「狂ってる。」
「確かに、でも警部?これで捜査もようやく終わりを迎えたのでは?」
「ああ、動機が不明の爆弾テロ事件だったからな。まさか、こんな結末を迎えるとは想像もしてなかった。」
「で、作品の修復に一年掛かりましたが、これが彼が最後に書き上げた作品です。」
「これが、爆弾を埋め込んでまで書きたかった最高傑作って事か。」
「そうです。読まれますか?」
「ああ、どうせなら、この最高傑作を読んで事件に終止符を打つとしよう。で?お前は、もう読んだのか?」
「はい。」
「どうだった?」
「ゲボが出るほどクソつまんなかったです。」
「何っ!?」

第五百九話
「一年後」

「まさか、こうなるとは思ってもみませんでした。社長が、この作品の著作権を買い取るって言った時は、私も本気で辞表を書きましたからね。ですが、辞表を提出しないで良かった!さすが、社長です!先賢の目をお持ちだ!」
「ダイヤモンドの原石は、どこに転がっているか、分からないからね。」
「読んだらゲボが出る本、今や全世界で売り上げトップです。評論家の間では、この先、この作品を越える最高傑作は世に出ないとまで言われています!」
「ゲボを出したくても出せないで困っている人は、世界にたくさんいる。それだけの需要があっただけの事だ。読んだらゲボが出る本、いやいや、読んだら命が救われる本、だったな。」
「最高傑作です!」

第五百九話
「一年後」

 地球は、宇宙から消滅した。それは、火星人が地球から放たれる猛烈な異臭に激怒し、総攻撃を行ったからだ。

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