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2016年3月30日 (水)

「第五百十一話」

 ロープウェイ山頂駅の近くに佇むホテル。シーズン中ならば、たくさんの人で賑わうその食堂に、今は二人の男と一人の女しかいなかった。
「おい!探偵の男!」
「ん?」
「そして、その助手の女!」
「何でしょうか?」
「お前らは、何なんだ!」
「探偵の男です。」
「その助手の女です。」
「そう言う事を聞いてんじゃねぇよ!この状況は何なんだ!って話だよ!」
「まあ、今日にはロープウェイの修理も終わるって話ですからね。そうだよな?」
「はい、先程、ようやく下と連絡が取れました。」
「吹雪も夜中のうちに止んだようですし、だから、間もなく下山出来ますよ。」
「だから、探偵!俺は、そう言う事を言ってんじゃねぇんだよ!」
「ん?じゃあ、何が言いたいんだろう?分かるか?」
「さあ?あのう?何が仰りたいんですか?」
「何で殺人事件を解決しないんだよ!」
「「えっ!?」」
「何で二人揃って驚いてやがんだよ!普通、探偵が宿泊してるホテルで殺人事件が起きたら!犯人を暴くだろ!ここで何人が殺されたと思ってんだよ!」
「9人?」
「所長、10人です。」
「おい!お前達!呑気に食後のコーヒー飲んでる場合じゃないだろ!10人だぞ!10人も殺されてるんだぞ!平気なのか?探偵として、平気なのか?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・って!何だこの沈黙は!」
「いやだって、犯人は貴方ですよね?なあ?」
「はい。このホテルには、もう私達三人しかいませんから、自動的に犯人は、貴方です。」
「はあ!!!!!!」
ロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。
「びっくりするじゃないですか!?急に大声を出したら!?な、なあ?」
「は、はい。雪崩が起きたらどうするんですか?」
「ちょっと待て!何なんだ?今の発言は!」
「えっ?僕、おかしな事言いました?言ってないよな?」
「言ってません。」
「言ってんだよ!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「「犯人ですよね?」」
「そうだよ!犯人だよ!10人殺しの連続殺人鬼だよ!」
「白銀のクリムゾンさんですよね?」
「そうだよ!」
「白銀のクリムゾンさんなんですよね?」
「だからそうだっつってんだろ!二人して別々に同じ事聞くんじゃねぇよ!イライラするから!」
「では、ここからは僕だけが質問します。白銀のクリムゾンさん、僕等は、貴方の言っている事が全く理解出来ません。」
「理解出来ないだと!?」
「ええ、出来ません。だって、白銀のクリムゾンさんは、10人殺したかったんですよね?」
「そうだよ。」
「このチャンスを待ち望んでいた。」
「そうだよ。」
「その為に、ロープウェイ山頂駅の仕事に就いた。」
「ああ、その通りだ。」
「で、ホテルにターゲットを集めて、ロープウェイを故障させ、缶詰にした。それも、天候が悪化する時期をわざわざ選んでですよね?」
「そうだよ。」
「で、何がダメなんでしょう?目的は達成されたじゃないですか。喜ばしいこの状況をなぜ、憤怒なんでしょう?」
「招かれざる客のお前達の存在だよ!」
「10人殺したら、自首しようとしていましたよね?」
「ああ、そうだ。」
「では、物語は無事、完結じゃありませんか。」
「いや俺が言いたいのは!招かれざる客の探偵とその助手がいたにも関わらず物語が無事完結って、おかしいだろ!!!!」
再びロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。
「まあまあ、落ち着いて下さい。白銀のクリムゾンさん。あそうだ!コーヒーのお代わりでも淹れて上げなさい。」
「はい。」
「コーヒーのお代わりいらん!いいか?探偵!普通は、招かれざる客の探偵と助手がいたら、10人殺して物語が無事完結しないんだよ!途中で俺が犯人だって暴かれて未完結で終わるんだよ!」
「それは、小説や映画のような?」
「そうだよ!」
「「なるほど。」」
「いいか?10人殺して目的達成してスカッとしてる反面!俺は、10人殺して目的達成してモヤモヤしてんだよ!」
「白銀のクリムゾンさん?貴方は、何か大きな勘違いをしています。」
「大きな勘違い?」
「そうです。僕等は、探偵と助手ですが、そっちの探偵と助手では、ありません。」
「はあ?何だよ、そっちとかってのは!」
「ですから、僕等は浮気調査専門の探偵事務所の探偵とその助手なんです。なあ?」
「はい。」
「だから、めちゃくちゃビビってたよな?」
「はい。めちゃくちゃビビってました。」
「僕等も殺されるんじゃないかってな?」
「はい。生きた心地がしませんでした。」
「ですから、白銀のクリムゾンさんが言うように、途中で殺人事件を解決する事なんか出来ないんです。犯人が分かったの10人目が殺された時だもんな?」
「はい。」
「・・・ちょっと待て!じゃあ、お前らは、ここに浮気調査をしに来たって事か?」
「「はい!」」
「誰の!」
「「貴方です!」」
「何だと!?!?!?!?」
三度ロープウェイ山頂駅のホテルから響き渡る男の声で、山鳥達が一斉に羽ばたいた。

第五百十一話
「妻は依頼人の殺人鬼」

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