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2016年3月 9日 (水)

「第五百八話」

 最近、右のふくらはぎが痛い。痛過ぎる。だから原因を究明する為に僕は、総合病院を訪れた。触診後に医者の口から飛び出した言葉は、想像を遥かに越えるものだった。
「生生?もう一度、言ってもらえますか?」
「ええ、もちろんです。患者さんが納得するまで、何度でも言いますよ。」
「お願いします。」
「貴方の右のふくらはぎには、ドラゴンがいます。」
「すいません。そのドラゴンの部分がいまいち一般人にはよく分からないので、医学用語じゃなく言ってもらえますか?何か、血管がヤバい事になってるんですか?それとも何か他の命に関わる事ですか?」
「いや、ドラゴンはドラゴンです。医学用語でもなんでもありませんよ。ほら、映画や漫画なんかで目にした事あるでしょ。」
「だとしたら!ふくらはぎにドラゴンがいるって何なんですか!」
「それは、私の台詞ですよ。まあ、落ち着いて下さい。座って話をしましょう。そんなに興奮されて、もしもドラゴンが目を覚ましてしまったら、事ですよ?」
「いや、ちょっと待って下さいよ。そもそも生生は、触診しかしてませんよね?」
「はい。」
「どうして触診だけで、ふくらはぎの中にドラゴンがいるって分かるんですか!もっといろんな検査して下さいよ!」
「無闇に検査しても、患者さんの費用の負担になるだけですし、何よりもレントゲンやら機器を使用した検査は、患者さんの体の負担になるんですよ?触診でドラゴンがいるって分かってる以上、医者としてそんな事は出来ません。」
「ドラゴンは、眠ってるんですか?」
「だと思いますよ。仮に目覚めているんだとしたら、物凄いおとなしいドラゴンと言う事になります。」
「ドラゴンって!医学用語なんですよね!血管がドラゴンみたくなってて、僕はヤバいって事なんですよね!」
「ですから、ドラゴンはドラゴンです。医学用語でもなんでもありませんよ。安心して下さい。」
「それが安心出来ないんですってば!いやじゃあ!もう、ドラゴンが僕のふくらはぎにいるでいいですよ!だとしたら、何とかして下さい!」
「何とか?具体的に何とかとは?」
「だから!治療ですよ!手術でドラゴンを取り出すとか!薬でドラゴンを殺すとか!とにかく僕の右のふくらはぎの中にいるドラゴン何とかして下さいよ!」
「逆にちょっと待って下さい。これが、何とかした結果なんじゃないんですか?」
「はい?言ってる意味が全く理解出来ません!」
「つまりですよ?仮に勇者様御一行が、貴方の右のふくらはぎに、ドラゴンを封印したとは、考えられませんか?」
「身に覚えがないんだから、考えられる訳がないじゃないですか!何なんですか!勇者様御一行って!だいたい何で僕の右のふくらはぎにドラゴンを封印するんですか!」
「だから、伝説の右のふくらはぎの持ち主の貴方が寝ている時に、伝説のドラゴンを封印したとは、考えられませんか?」
「伝説の右のふくらはぎの持ち主とか伝説のドラゴンとか!後から伝説を付け加えないで下さい!ゲームの世界じゃないんですから勇者様御一行がまず!有り得ないでしょ!」
「人生とは、ゲームのようなもんですよ?」

「訳の分からない文章で諭さないで下さい!とにかく、僕はふくらはぎの痛みをどうにかして欲しいんですよ!」
「正気ですか?」
「はい?正気に決まってるじゃないですか!痛みは誰だって取り除けるもんなら取り除いて欲しいでしょ!そして、それをするのが医者の役目じゃないんですか?」
「本来ならそれが医者の本分です。」
「だったら!」
「しかしね!この場合、貴方の右のふくらはぎの痛みを取り除くと言う事は!すなわち貴方の右のふくらはぎの中からドラゴンを引きずり出すと言う事です!それが意味する事は、この世界の消滅です!」
「マジで言ってるんですか?先生は、マジでそんな事を言ってるんですか!」
「私には、そんな恐ろしい事は出来ない。もし、そんな事をしてしまったら、私の名は魔界の医者として後世に語り継がれ続けてしまう!」
「世界が消滅するんだから、その心配はいらないんじゃないですか?」
「世界が消滅しても!何人か生き残りがいるパターンも考えられるじゃないか!」
「何ですか、そのパターン!だいたい、僕の右のふくらはぎに入るぐらいのサイズのドラゴンで世界が消滅するとは思えませんけどね!」
「だからそれは、勇者様御一行が地球サイズの伝説のドラゴンを小さくして貴方の伝説の右のふくらはぎに封印したんでしょう!」
「いやもう、そんなサイズのドラゴンがいたんなら、地球人全員が目撃者だ!先生!いい加減にして下さい!僕は先生のくだらないファンタジーの妄想話に付き合ってるほど暇じゃないんですよ!」
「何言ってるんですか?」
「それは、僕の台詞ですよ!」
「貴方が、自らここへ受診されたんですよ?あの封印されしドアから魔法の力を使って入って来たんですよ?」
「受け付けで、ここへ行けって言われたからね!そりゃあ、自ら来ますよ!来ちゃいますよ!とりあえずそのファンタジー要素を取り除いて会話してもらえません?」
「それは無理ですよ。」
「何で無理なんだ!」
「だってここは、ファンタジー科ですよ?整形外科でしたら、もう一つ上の階ですよ?」
「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・失礼しました。」
「いえいえ、お大事に。」

第五百八話
「ファンタジー科」

「・・・・・・・・・。」
「どうされました?伝説のドラゴンが封印されてる伝説の右のふくらはぎが痛んで歩けないなら、看護師を召喚して空飛ぶ車椅子で整形外科までお連れするように連絡しますよ?」
「・・・・・・・・。」

「大丈夫ですか?」
「・・・この科、いる!?」
振り返りざま僕がそう言うと、ファンタジー科の先生は笑顔で軽く会釈した。ファンタジー科を後にした僕は、真っ直ぐ整形外科へ向かい、適切な受診により、ふくらはぎの痛みは、疲労が原因の肉離れだと分かった。受診を終えて1階で会計しようと乗り込んだエレベーターの中で、ふと、ファンタジー科が気になって、そのフロアーで降りた僕の目に飛び込んで来たのは、勇者様御一行だった。

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