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2016年3月23日 (水)

「第五百十話」

 とある公園での映画の撮影現場。
「監督!」
「何だよ!もう、撮影開始なんだから、あんまり語り掛けるなよ!ナーバスなんだからさ!」
「それが!大変なんです!」

「何っ!?近くで事件でも起きたのか!?」
「違います!」
「何なんだよ!じゃあ、何が大変なんですなんだよ!分かるか?撮影直前の監督は、ナーバスなんだよ!助監督には、分からないか?俺は、助監督時代もナーバスだったぞ?」
「主役の女優が、まだ来てないんです!」

「主役の女優がまだ来てないんですだと!?」
「はい!」
「おいおいおいおい!主役の女優がまだ来てないんですって何だよ!結局、事件じゃねぇか!大事件じゃねぇか!」
「事件と言えば事件です!」
「何で来てねぇんだよ!大便か?大便なら、待つぞ?とことん待つぞ!」
「いえ、大便じゃありません!と言うか、そもそもが、ここに来てないんです!」
「現場自体にか!」
「はい。」
「連絡は?家とかで大便なら、待つぞ?とことん待てるぞ?」
「それが、連絡がつかないんです!」
「連絡がつかないだと!?この時代に誰かと連絡がつかないだと!?」
「はい!」
「企業努力が足りない!」
「監督、どうしますか?」
「んじゃあ、サボテンとかでいいよ。」
「はい?」
「主役の女優がいないんだろ?この時代に連絡がつかないんだろ?」
「そうです!」
「なら、仕方ないから、このシーンは主役の女優の代わりにサボテンでいいよ。」
「え?待たないんですか?」
「大便じゃねぇんだろ?」
「はい!と言うか大便かどうかすらも分かりません。連絡が取れないんで。」
「待たねぇよ!何で待つんだよ!」
「主役の女優ですよ?」
「主役の女優だろうが脇役の女優だろうがエキストラだろうが!今日、この時間にこの場所で撮影があるのに来てないんだから、来てない方が悪いだろ!俺だってお前だって来てんだよ!みんな来てんだよ!来てないのは、主役の女優だけなんだよ!来てない理由が大便かどうかも分かんねぇなら!撮影開始するしかねぇだろ!俺はいいよ?俺は、今抱えてる仕事は、この映画だけだからさ!でも、みんながみんな、今抱えてる仕事が、この映画だけじゃねぇだろ?」
「はい。」
「だったら、サボテンとかで撮影開始するしかねぇだろ!」
「監督?このシーンって、この映画の中でも重要なシーンの1つですよね?」
「そうだよ?重要なシーンだよ?だから俺は、いつも以上にナーバスなんだよ?」
「映画も半ばで、しかも重要なシーンで、いきなり主役がサボテンになるんですか!?」
「いやだから、サボテンとかだよ!サボテンとか!別にそこはサボテンじゃなくてもいいよ!サボテンにこだわりはねぇよ!マネキンでも犬の糞でも何だっていいんだよ!とりあえず撮影開始しようぜ!って事だよ!いつ来るのか分からない、ましてや連絡がつかない、来ないかもしれない主役の女優を待つんなら、やっちゃおうぜ!って事だよ!」
「いやでも!そんな事しちゃったら、この映画、台無しじゃないですか!」
「映画全体のクオリティを考えたら、別に台無しじゃないだろ。」
「映画全体のクオリティを考えて台無しって言ってるんですよ!」
「結果的に観客がそう感じたんなら仕方ない話だ!」
「待ちましょうよ!」
「何でだよ!いやちょっと待てよ!なあ?全員時間通りに撮影現場に来てんだよ!俺なんか昨日からずっと、ここにこうしてメガホン片手に座ってんだよ!何で主役の女優だからって、待たなきゃなんねぇんだよ!」
「主役の女優だからですよ!主役の女優が事件を解決する為に殺害現場で回想するからです!だから!逆に言えば、このシーンは、主役の女優だけいてくれればいいんですよ!待ちましょうよ!」
「お前さぁ?遅刻厳禁って言葉知ってるか?」
「はい。」
「仕事だろうがプライベートだろうが、この世界は遅刻厳禁で成り立ってる部分があるんだよ。」
「いやもう、監督の言ってる事は、凄くよく分かるんですよ!でも、映画の事を考えると、主役の女優を待つしかないんですよ!」
「いやだから、サボテンとかでいいだろ?セリフは後からアフレコでいいだろ?何が問題なんだよ。」
「問題だらけなんですよ!サボテンかマネキンか犬の糞か分からないですけど、監督が映画を観てていきなり主役がそんなモノになったら、何なんだこの映画ってなるでしょ?」
「主役の女優が撮影現場に来なかったんだなぁ、って思うよ。現場は苦労したんだなぁ、って思うよ。仕方なかったんだろうなぁ、仕方ない映画、だなぁ、って思うよ。」
「何ですかそのジャンルの映画!観客みんながみんな、監督目線で映画を観ませんよ!」
「悪いだろ?」

「悪いですよ!もちろん、撮影開始の時間に来てない主役の女優が1番悪いですよ!でも、ここは、映画の為に、監督には我慢してもらわないとですよ!」
「おい!この世界は、正義が我慢する世界なのか?正しい時間に正しい場所に来た正しい人間が、悪が来るのを待ってなきゃなんねぇのか?大体、自分が来なけりゃあ、撮影は開始されないと思ってんだよ!そのにやけ面を思い浮かべたら、腹立つだろ!」
「でも、もしかしたら、一生懸命時間に間に合わせようとしてて、何かのトラブルに巻き込まれちゃったって事も考えられるじゃないですか!」
「おい!言っとくぞ?俺はなぁ?大便以外のトラブルは、認めねぇ!渋滞や病気とか許す奴いるだろ?そんなのプロとして何かの理由になんねぇんだよ!渋滞で遅刻すんならもっと早く家を出ろだしな!病気を理由にすんなら、病気んなってんじゃねぇよだ!中途半端な気持ちで仕事、引き受けてんじゃねぇよ!ギャランティもらって渋滞や病気じゃねぇよ!」
「容赦ないですね!?」

「よし!何か動物の糞を用意しろ!もう、それで撮る!俺はなぁ!悪は絶対許さない!許しちゃいけねぇんだよ!最終的には正義が勝つ世の中でなきゃなんねぇんだよ!」
「監督・・・。」
「もうあれだ!動物の糞が見付からないならな!俺の大便でいいよ!何がなんでも出すから!ちょっとトイレ行って来る!」
「あ、ちょっと監督!公園のトイレは確か清掃中ですよ!」
「なら、どっか他探してするまでだろ!待ってろよ!すぐにスゲェ大便持って帰って来てやるからな!」
「スゲェ大便って・・・。」
監督が現場を後にして数分後、主役の女優は頭を下げまくって現れた。そしてその数分後、とある公園で映画の撮影は開始された。

第五百十話
監督の椅子の上には鳥の糞」

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