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2016年4月 6日 (水)

「第五百十二話」

 仕事でヘマをした。いやまあ、実際にヘマをしたのは、僕じゃない。ただ、会社の商品が不具合を起こしたのは間違いない。そして、その商品をセールスしたのは僕だ。朝一番で、そのお客に対してこれでもかってくらい頭を下げた会社への帰り道、海が見える遊歩道のベンチで僕は、コーヒーを飲んでいた。
「どう言う事だ!?」
しばらく海を何となくただただ眺めていたら突然、中年男性が、僕の顔を見るなり、驚いて話し掛けて来た。
「はい?」
「どう言う事だと聞いてる!」
「どう言う事だとは?」
「原作通りなら!お前はもうこの世にいないはずだろ!」
「はい?」
「死んでいるはずだろ!なぜ生きてる!」
「すいません。物凄く意味が分からないんです。」
「隣に座らしてもらうぞ!」
「どうぞ。」
「何をコーヒー飲みながら海を見て黄昏れてるんだ!」
「いや別に僕は黄昏れてた訳じゃないですよ。」
「だいたい原作通りなら!コーヒー嫌いだろ!何してんだ!」
「あのう?相変わらず言ってる意味が物凄く分からないんです。」
「原作の話をしてるんだろ!」
「いやですから、そのさっきからおっしゃってる原作通りならってとこが、物凄く意味が分からないんです。」
「お前!原作通りなら!もっと頭のキレる奴だろ!」
「まず、僕に原作はありませんよ。あるんだとしたら、今の僕そのものが原作です。」
「何を訳の分からない事を言ってるんだ!」
「それは僕の台詞です!」
「原作通りなら!お前は、ビルの一室からスナイパーに狙われて既に死んでいるんだ!」
「いや、その原作の僕は何者なんですか!?スナイパーに命狙われるって!」
「お前!仕事は何をしてんだ?」
「メガネを売り歩いてます。」
「原作通りだな。」
「原作通りなんだ!?でも、そらだと僕は既にスナイパーに殺されてなきゃならない?いやいやいや、物凄く意味が分からないんです。」
「待てよ?お前が生きてるって事はだ!家でかくまってる少女はどうした!無事なのか!」
「いやいやいや、そんな変質者みたいな事、する訳ないじゃないですか!」
「お前!少女をかくまってないのか!」
「当たり前じゃないですか!そんな事したら警察に捕まるでしょ!」
「捕まらないだろ!」
「捕まるでしょ!誘拐でしょ!」
「原作通りなら!警察から少女をかくまうように頼まれてるんだぞ!」
「いや何でそんな波瀾万丈なんですか!僕の原作は!」
「お前!兄弟は!」
「姉が一人と兄が一人です。」
「原作通りなら!妹が一人だろ!」
「いやもう、家族構成が原作と違うとか有り得ないでしょ!」
「有り得ないんだよ!何してんだ!」
「そこは僕の責任じゃないですよね!」
「とにかく!原作通りに軌道修正するには、爆弾男に追い回されるとこまで戻るぞ!どうせ追い回されてないんだろ?」
「追い回される訳がない!だから!何でそんな殺されそうな状況なんですか!原作の僕は!」
「マッチョのオカマに言われただろ!」
「マッチョのオカマの知り合いなんていません!」
「おい!何してんだ!何でお前は原作通りに事を運ばない!」
「だから!原作があるんだとしたら!今の僕が原作だからですよ!」
「お前にここまで原作を無茶苦茶にする権利があるのか!」
「だから!そもそもが無茶苦茶にする原作なんて僕にはないんですよ!」
「昨夜はハイウェイ逆走してヘリからのミサイル攻撃を危機一髪で回避しながら帰宅したんだろ!」
「大事件じゃないですか!映画でしか観た事のないシチュエーションだ!」
「いや、あの組織ならメディアに圧力をかけて事件にすらしない。」
「そんな組織が実際に存在してるなら、僕はひとたまりもないですよ!」
「だから!何で生きてるのかって驚いてるんだろ!そしたら、お前が原作通りじゃないって聞いて、また驚いてるんだろ!」
「夢ですか?僕は、現実の僕は本当はベンチで居眠りしちゃってるんですか?」
「いいか?これが夢だとしても原作通りなら既に死んでるお前の夢なら!夢だろうが現実だろうが関係ない!」
「あのう?」
「何だ!」
「そろそろ会社に戻ってもいいですか?」
「言い訳がないだろ!お前は!このまま原作を無視し続けるつもりか!戻るなら爆弾男に追い回されるとこに戻る!」
「いや例えば貴方の話が真実だったとして!既に死んでなきゃならない原作に戻りたくないですよ!」
「おいおいおいおい!何だ?何なんだ?そんな理不尽が許されると思ってんのか?だったら原作って何だ!何なんだよ原作って!好き勝手に原作ねじ曲げるんだったらな!そもそもテメェで白紙から作り上げればいいだろうが!」
「無茶苦茶に怒ってるとこ大変申し訳ないんですけど、そろそろ本当に会社へ戻らないと上司に物凄く怒られちゃうんですよ。」
「そうかそうかそうか!あくまで原作通りを無視して突き進むって言うんだな!」
「いやだから、何度も言うように、これが僕の原作であり、現実なんですよ。」
「よーし!分かった!だったら勝手にしろ!ただな!最後にこれだけは言わしてもらうぞ!」
「何です?」
「俺が一番許せないのはな!お前は!原作通りなら女だろ!」
「じゃあもう!それは人違いだ!そもそもが人違いだ!家族構成の段階でもっと真面目に議論しとけばよかった!貴方は!人違いをしてる!」
「人違いなどする訳がないだろ?俺は、原作通りなんだから。」
「はい?」
「さらばだ!」
「え?あ、ちょっと!」
はてなだなぁ?物凄くはてなだぞ?つまり、一周して元に戻ったって感じなのか?いや、そもそもが一周なんかしてないのか?でもまあ、これはこれで不思議な体験だったと言う事で、とにかく会社に戻ろう。

第五百十二話
「物凄く原作通り上司に怒られた」

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