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2016年4月13日 (水)

「第五百十三話」

 人がまだ一度も空を飛んだ事のない或る時代。或る国の或る丘の上に学者と新聞記者、二人の男が丘の下を見ていた。
「先生、無謀です!やめて下さい!」
「新聞記者のくせに、キミは何を言っているんだ?世紀の瞬間に立ち会えるんだぞ?これほど名誉で栄誉な事は、ないだろ!」
「この高さですよ?失敗したら、先生は助かりません!」
「失敗?」
「そうです!」
「いいか?人が空を飛びたいと憧れを抱いてる以上、いずれ人が空を飛ぶ日がやって来る!」
「そうでしょうか?」
「ああ!絶対に来る!」
「でも果たしてそれは、本当に必要な事なんでしょうか?」
「うむ。なかなか興味深い事を言うな。」
「失礼ですが、僕は一度も空を飛びたいと思った事がありません。」
「それは、なぜだ?」
「そうですね。特に問題ないからです。空を飛ばなくても今の僕の生活に支障はありません。」
「なるほど。確かにそうかもしれない。」
「それに、そんな事は、絶対に不可能だと思ってます。人がコンドルのように空を飛ぶだなんて、有り得ませんよ。何か大きな力に反発するみたいで、むしろ僕は怖いです。」
「神に逆らう感覚かな?」
「神が人を作り、この世界を作ったのなら、そうですね。そう言う感覚かもしれません。人は、空を飛べない生き物です。逆に言うなら、空を飛ばなくても生きて行ける生き物です。」
「キミが言ってる事は、だいたい正しい。正論に等しい。」
「だったら先生!こんな場所から空を飛ぶ実験なんかやめましょうよ!運良く生きていたとしても一生を棒に振りますよ!」
「だがどうだ?キミは空を飛ぶ必要がないと言う反面、私は空を飛びたいと大空に憧れを抱いている。神が人を完全に作り上げたのなら、こんな感情は取り除いていたはずだ。空への一切の興味をな。」
「しかし、先生!」
「ああ、分かっているさ。神とかじゃないんだろ?そんな存在の話ではなく、ただただキミは私の安否を心配してくれている。」
「そうです!だから、先生。今日は、町に帰って酒場で一杯やりましょう。僕が、おごります。」
「ありがとう。だがそれは、この偉大な実験が終わってからにしようではないか。」
「先生!」
「この実験は、いつでも可能って訳ではないんだよ。今日のこの気候でなければ計算上、実験は成功しない。今日を逃せば、次にいつこの実験が行えるかは分からないんだ。明日かもしれないし、数年後かもしれない。もしかしたら私が生きてる間は、二度と実験は行えないかもしれない。今日と言う日は、それほど貴重な日だと言う事だ。だが、いずれはどんな気候だろうが飛べるようになるだろう。世紀の瞬間への第一歩なんてのは、いつの時代だって制限だらけさ。」
「・・・先生。」
「おいおいおい!何をそんな悲しい顔をしてるんだ!それじゃあ、まるで実験が失敗するみたいじゃないか!」
「失敗しますよ。」
「ハハハッ!前人未到には、いつの時代にもその言葉は付きまとうもんだ。大丈夫だ。私は、必ず成功する。キミは、それを記事にすればいい。歴史に残る記事を綴ればいい。」
「先生!」
「丘の下で待っている。」
「先生!頭にコンドルの羽を一本付けただけで空を飛べる訳がないじゃないですか!」
「後で、酒場で一杯おごってくれ。」
「先生!」
「これは、人類の大きな一歩となる!」
「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

第五百十三話
「歴史に残る記事」

 或る国の或る町の或る酒場で新聞記者は、酒を飲んでいた。その向かいには、酔っ払った葬儀屋が座っていた。
「で?アンタはどうして、その学者を止めなかったんだ?」
「止めたさ!僕は何度も先生を止めた!何度も何度も!」
「そうか。まあでも仕方ねぇな。学者なんてのは、何を考えてんのか分かったもんじゃねぇ!世間の度肝を抜いて喜んでる人種だ。アンタに責任はねぇよ。」
「僕がもっと強引にでも止めてたらと思うと・・・。」
「だから、アンタにゃ責任ねぇってば!でもよぅ?あの丘からだろ?死体はバラバラなんじゃねぇか?それこそ鳥のエサになってるなんて笑えねぇジョークになっちまってんじゃねぇのか?」
「・・・・・・・・・。」
「だがまあ!その一部でも棺に入れて埋めてやらねぇとだな!」
「ん?埋める?何の話です?」
「だから!その先生の葬儀の話だろうが!しっかりしろよな!」
「いや、先生は生きてるよ。ほら、あそこでコンドルの羽を頭に一本付けて踊ってる。僕がもっと強引にでも止めてたら、この実験は成功しなかった。」
「んなバカな!?」

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