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2016年6月15日 (水)

「第五百二十二話」

「マスター?」
「ん?」
「今日、食い逃げしていい?」
「いいよって言う飲食店があるなら、その真意を伺いたいもんだね。」
「と言う事は?いいって事?」
「ダメに決まってるだろ!今日も明日も明後日も未来永劫ダメだろ!」
「ここが食い逃げ飲食店の第一号になればいんだよ!」
「すぐに潰れちまうだろ!」
「じゃあ、今日だけ特別にオムライスを注文した客に対しては食い逃げしてもいいよってのは?」
「店に何のメリットがあるんだよ!そのシステム!んな事をわざわざすんならオムライス、無料で振る舞うよ!」
「いやいやいや、マスター。分かってない。」
「分かりたくないね。」
「無料で振る舞われたら、食い逃げのハラハラドキドキ感が味わえないじゃないか。」
「そんなハラハラドキドキ感を俺の店で客に味わって欲しくないね!」
「よし!決めた!今日は、マスターの店で食い逃げをする!」
「頭おかしいのか?やるなら他の店でやってくれ!と言うか、食い逃げなんかすんな!しようと考えるな!」
「マスター、人ってさ。」
「人の話出て来たら、大概終わりだぞ?」
「よく、大空を自由に飛べる鳥に憧れるじゃん。」
「何の話が展開されてんだ?」
「でもさ。僕はあれ、大間違いだと思うんだよね。」
「いいじゃねぇか。人は空を飛べない。だから、空を飛べる鳥に憧れる。いいじゃねぇか。間違っちゃいないだろ。」
「いや、マスター!大間違いなんだってば!」
「俺、そんなに抱腹絶倒な事を言ったか?」
「飛べないんだから!そもそも飛べるような構造になってないんだからさ!人って!」
「どこに着地する話なんだ?」
「持っちゃいけないんだよ!抱いちゃいけないんだよ!そんな憧れなんかをさ!そもそも考えてもみてよ!飛べない人間がいきなり明日から飛べるようになった時の事をさ!大パニックだよ!死者多数だよ!今世紀最大の大惨事だよ!」
「まあ、実際にそんな事が起きたら、そうかもな。」
「だから僕は、出来る範囲の実現可能な人間臭い憧れの食い逃げを今日!この店でする!」
「どんな理屈だよ!おい!いいか?耳の穴かっぽじってよく聞けよ!」
「本当に言う人に初めて会った!?」
「食い逃げってのはな?犯罪なんだぞ?こんな事を俺がわざわざ言わなくたって分かってんだろ?」
「ああ、マスター。もちろん分かってるよ。分かり尽くしてるよ。」
「いちいちな言い回しだな。」
「だから、やってみたいんじゃないか!」
「やっちゃいけない事だからか?」
「そうだよ!やっちゃいけない事マジックだよ!」
「おいおいおい、そうやって人はダメになっちまうんだぞ?」
「マスター?ダメになるかならないかは、やってみなきゃ分からないじゃないか!」
「食い逃げしようとしてんだから、やらなくたって分かるだろ!」
「人を殺したり、不思議な薬に手を出したりする訳じゃないんだよ?ヘイ、マスター!」
「陽気に、ヘイマスター!じゃねぇよ!犯罪は犯罪だろ?店にしてみりゃあ!食い逃げされたら被害は殺人級なんだよ!」
「そうなの!?」
「当たり前だろ!分かったら、食い逃げなんてバカな事考えんなよ!」
「マスター?」
「分かってるよ。わざわざ言葉にして謝らなくったっていいよ。」
「僕、足には自信あるんだ!」
「分かってるを分かってなかった!?」
「超能力者以外は、追い付けないと思うんだよね!」
「超能力者以外、追い付けない奴が、何でその能力をもっと有意義に使わないんだよ!」
「大会に出場して記録塗り替える的な話?」

「大会に出場して記録塗り替える的な話だよ!」
「マスター?超能力者以外、自分の能力に勝てる者のいない人間の苦悩知ってる?」
「知るかよ!そんな訳の分かんねぇ苦悩!」
「虚しいよ?ネイティブな能力で頂点極めちゃうってのはさ。だって、超能力者以外、自分を負かす者が毎日毎日いないんだよ?バカらしくなっちゃうよね?マスター?勝ち続けるって、大変だって世間では言うじゃん!でも、勝ち続けるって、全然大変じゃないんだよ。むしろその逆!息したり瞬きすんのと一緒!」
「悪い。何の話をしてんだ?」
「僕はね、マスター?負けたいんだよ。」
「だから、何の話?」
「隠しても無駄よ?マスター。僕は、知ってるんだ。マスターは、超能力者だ!」
「もうあれだな?呆れて何も言えないよ。呆れて何も言えないって、実際にあるんだな。生きてると色々あるんだな。」
「いい?」
「ダメだろ!俺は、超能力者じゃないんだから!仮に超能力者だったとしたら、普通に勝負を挑めばいいだろ?」
「超能力者が真の力を発揮する時は、食い逃げされた時と言われている。」
「ご都合主義にも程がある!」
「マスター?人ってさ。」
「またかよ。」
「大空を自由に飛べる鳥に憧れるじゃん。」
「いやその無意味な例え話ついさっき聞いたよ!」
「大海を自由に泳ぎ回るイルカに憧れるじゃん。」
「あんまそれは聞かねぇけど着地点は一緒だろ?」
「もう!一体どうしたら食い逃げさせてくれるってんだよ!」
「飲食店のマスターを目の前に、どんな怒りを爆発させてんだよ!なあ?いいか?俺の店で食い逃げするって事はだぞ?ここの関係は、もう絶たれるって事だぞ?」
「マスターは、そんな人間じゃない!食い逃げされたからって、人間関係を絶つような男じゃない!」
「ボランティアでマスターやってんじゃねぇんだよ!俺は、これで生活してんだよ!」
「するよ?」
「ダメだっつってんだろ!」
「つわれても!つわれてもだよ!マスター!」
「あのな?食い逃げしたいんだったら、まずは何か注文したらどうだ?水だけで、どんだけいるつもりだよ!」
「だって、マスター!美味いんだもん、水!」

第五百二十二話
殺人級に水が美味しい店」

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