« 「第五百二十五話」 | トップページ | 「第五百二十七話」 »

2016年7月13日 (水)

「第五百二十六話」

 俺は、仕事で昨日の夜から何も口にしていなかった。
「モーニングをたのむ。」
だから、真っ直ぐに家に帰らず、カフェでこのどうしようもない空腹をどうにかする事にした。
「お待たせしました。」
テーブルには、コーヒーとトーストとスクランブルエッグとベーコン、ありきたりなモーニングが運ばれて来た。美味いか不味いかは、問題じゃない。空腹をどうにか出来ればそれでいい。
「全く、この世界はどうなっちまったのかね!」
カウンター席の老人が新聞を読みながらこの世界を嘆いていた。スクランブルエッグにケチャップと塩をかけ、フォークでかき混ぜながら俺は、ふと老人が何に嘆いているのか記事に目をやった。
「ん?アンタもそう思うだろ?」
後ろからの俺の視線に気付いたのか、老人は椅子を回転させ、俺にこの世界について尋ねた。
「世界はいつだって、どうかなっちまってるよ。」
スクランブルエッグをかき混ぜながら、俺は答えた。老人は、何が気に障ったのか、黙って俺をしばらく見ると、再び椅子を回転させて、また人間がゾンビに襲われた記事を読み始めた。俺は、トーストを手に持ち、フォークでスクランブルエッグをすくった。
「きゃああああああ!!」
その時だった。女性店員の悲鳴が店内に響いた。俺は、その悲鳴のする方へと視線を向けた。
「きゃああああああ!!」
すると、客の男性がゾンビになっていた。ああ、ツイてない。俺は、そう思うと同時に、席を立ち、ショットガンを手に、女性店員の元へ向かい、ゾンビを始末した。席に戻り、トーストを手に持ち、フォークでスクランブルエッグをすくって口に運んだ俺を、老人は無言で見ていた。
「先程は、ありがとうございました。」
女性店員は、感謝の言葉を口にすると、代金をタダにしてくれると言うので、俺はありがたくその厚意を受ける事にした。カフェを出た俺は、ある事に気付いた。
「今日は、結婚記念日か。」
俺は、目に入ったケーキ屋で、妻にケーキでも買って帰ろうと、店に入った。
「いらっしゃいませ。」
シンプルな物から変化球まで、種類豊富なケーキ屋だったが、俺が選んだのは、シンプルなケーキだった。
「これを二つもらえるか?」
「かしこまりました。」
俺が変化球を嫌いなのではなく、妻が嫌う。ここで、妻の機嫌を損ねてまで、自分の好みを選ぶほど、俺もバカじゃない。
「きゃああああああ!!」
すると、俺が注文したケーキを箱に入れてる女性店員が悲鳴を上げた。その視線の先に目をやると、パティシエがゾンビになっていた。
「きゃああああああ!!」
俺は、ショットガンを構え、女性店員に襲い掛かろうとするパティシエのゾンビの頭を吹っ飛ばした。
「あ、ありがとうございました。」
結局俺は、このケーキ屋でも代金を支払わずに済んだ。電車の中で三体、近所で二体のゾンビを始末して、ようやく家に辿り着き、チャイムを鳴らすと、家の中からゾンビになった妻が出て来た。
「ダーン!!」
俺は、ゾンビになった妻の頭をショットガンで吹っ飛ばした。
「全く、この世界はいつだってどうかなっちまってるよ。」
次の日の朝、深い眠りから覚めた俺は、眠気覚ましのシャワーを浴びようとバスルームに向かい、自分がゾンビになりかけてるのを知った。
「ダーン!!」

第五百二十六話
「とあるゾンビハンターの一日」

|

« 「第五百二十五話」 | トップページ | 「第五百二十七話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/66491842

この記事へのトラックバック一覧です: 「第五百二十六話」:

« 「第五百二十五話」 | トップページ | 「第五百二十七話」 »