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2016年8月 3日 (水)

「第五百二十九話」

 家を囲む柵の前に老婆と中年の男が何やら立ち話をしていた。
「そうかねぇ?」
「お婆ちゃん?そうなんですよ?防犯のプロの僕が言うんです!」
「この柵じゃダメなのかい?」
「高さは問題ありません。防犯のプロの僕が言うんです!高さは大丈夫です!」
「だったら、一体何が問題なんだい?」
「問題なんだい?そんな防犯意識だと、お婆ちゃん?夜中に目が覚めた時には、枕元に強盗がいますよ?」
「怖いねぇ。」
「怖いです!とても怖いです!防犯のプロの僕が言うんです!それはもうこの世の何よりも怖いです!」
「それで?一体この柵のどこに問題があるんだい?」
「隙間ですよ!お婆ちゃん!」
「隙間?このほっそい隙間かい?」
「そうです!この柵のほっそい隙間です!」
「この柵のほっそい隙間のどこに一体そんな問題があるんだい?」
「問題があるんだい?そんな防犯意識だと、お婆ちゃん?夜中に目が覚めた時には、枕元に強盗がいますよ?」
「怖いねぇ。」
「怖いです!とても怖いです!防犯のプロの僕が言うんです!それはそれは怖くて怖くて、逆に怖くないです!」
「怖くないのかい?」
「怖いです!!」
「おやおや。しかしねぇ?この柵のほっそい隙間の一体何が問題なんだい?いくら考えてもババアには分からないよ。」
「この柵のほっそい隙間より、ほっそい強盗がお婆ちゃんの家を狙ってたとしたらどうします!」
「このほっそい柵の隙間より、ほっそい強盗がかい?こうして指先がやっと入るぐらいのほっそい隙間にかい?」
「こうして指先がやっと入るぐらいのほっそい隙間より、ほっそい強盗がお婆ちゃんの家を狙ってたとしたらどうします!」
「いるのかい?そんなほっそい強盗が?そんなほっそい人間が?」
「防犯のプロの僕が言うんです!います!」
「紙みたいなペラペラ人間かい?」
「紙で例えるのなら、そうかもしれません!」
「だけどね?例えそんなこのほっそい柵の隙間を通り抜けられる紙みたいなペラペラ人間のほっそい強盗がいたとしてだよ?そんな強盗が目が覚めて枕元にいたとしても、それならそれでババアの力でもどうにか撃退出来るんもんなんじゃないかい?」
「お婆ちゃん?自分の力を過信してはいけません!」
「過信している訳じゃないよ。」
「ならば、お婆ちゃん?お婆ちゃんは、100メートルを9秒台で走れますか?」
「ババアが走れる訳がないだろ?そもそもそんな風な過信はしてないだろ?」
「同じ事です!防犯のプロの僕が言うんです!」
「でも、過信する訳じゃない。過信する訳じゃないよ?それでも紙みたいなペラペラ人間になら、ババアでも撃退出来ると思うよ?」
「そこまで言うのなら、お婆ちゃんに聞きたい事があります。」
「何だい?」
「お婆ちゃんは、猛毒を持つヘビに噛まれたら死にますよね?」
「そりゃあ、猛毒だからね。死んでしまうね。」
「ほら!」
「ほらって何だい?ほらって何に対してのほらなんだい?」
「だって、さっき、お婆ちゃんは、このほっそい柵の隙間より、ほっそいペラペラ人間の強盗を撃退出来るって言ったではないですか!」
「言ったけど、それと猛毒を持つヘビと、一体どう関係があるんだい?」
「ほっそい強盗にも猛毒があるって事ですよ!クジラも一瞬にして殺してしまう猛毒があるって事ですよ!」
「それは嘘じゃないのかい?」
「防犯のプロの僕が言うんです!」
「そうかい?そうなのかい?だけど、そうなると柵のほっそい隙間をどうこうって話じゃなくなるね。」
「お婆ちゃん!話は、柵のほっそい隙間をどうこうです!」
「何でだい!?」
「何でもです!」
「そうかい?」
「そうです!」
「だったら、このババアは、このほっそい隙間の柵をどうすればいいんだい?」
「簡単ですよ。隙間のない壁にしてしまえばいいんです!防犯のプロの僕が言うんです!」
「家を囲む柵を全部壁に?だけど、そんな事したら、壁壊しに壁を壊されるだけじゃないかい?」
「お婆ちゃん?壁壊しは、もう絶滅しましたよ?」
「そうなのかい!?」
「そうです!天然痘よりも以前に壁壊し菌は根絶されてます。防犯のプロの僕の知り合いの病原菌のプロが言うんです!」
「ニュースになったかい?」
「ニュースにはなりませんでした。」
「なぜだい!?なぜ、そんな重大な事をニュースしないんだい!?」
「事が重大過ぎて、むしろ逆にニュースにするニュースでもなかったからです。だから、お婆ちゃん?壁壊しなんて昔の昔の大昔の笑い話ですよ。」
「笑い話じゃないだろ?それは不謹慎じゃないかい?当時は壁壊しで多くの人が苦しんだんだよ?」
「不謹慎過ぎて、逆に笑い話なんですよ。」
「そうなのかい?」
「そうなんです!防犯のプロの僕が言うんです!」
「でもね?この家を囲む柵を全部壁にするには、物凄い費用が掛かるだろ?だとしたら、ババアはこのままほっそい隙間の柵でいいさ。」
「お婆ちゃん!例えば、このほっそい隙間の柵より、ほっそい強盗の話がジョークだったとしてです!」
「ジョークだったのかい?」
「例えばの話ですよ!」
「何だい。例えばかい。」
「ほっそい強盗がお婆ちゃんの家に入らなかったとして、ほっそい犬が迷い込んだら、お婆ちゃんはそのほっそい犬を飼うと言うんですか!」
「話は、どんな方向に向かっているんだい?」
「もはや話は国家レベルにまで達してますよそりゃあ!防犯のプロの僕が言うんです!」
「どの辺がだい?」
「ほっそい犬って暗号が飛び交ってる辺りからです!」
「勝手に国家レベルの暗号を飛び交わさないでおくれよ!」
「早く決断しないと、お婆ちゃん!衛星からのレーザービームでこの家ごと地図上から消されちゃいますよ!」
「何を決断すればいいんだい!」
「決まってるじゃないですか!ほっそい隙間の柵を全て壁にするかです!」
「壁にするにしても一体どこに連絡すればいいんだい!」
「お婆ちゃん?お忘れですか?僕は防犯のプロです!ここにサインして、お金を振り込んでもらえば、すぐにでも請け負いますよ?」
「分かった!お願いするよ!」
「契約成立!」

第五百二十九話
「一人暮らしのお金持ちの老人の柵のほっそい隙間詐欺撲滅運動」

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