« 「第五百三十三話」 | トップページ | 「第五百三十五話」 »

2016年9月 7日 (水)

「第五百三十四話」

 汽車は今、どこを走っているのだろうか?そう、僕は今、心地良く汽車に揺られ、うつろうつろしながらぼやける景色を車窓の向こうに見ながら一人旅をしている。本来なら、着の身着のまま自由気ままな一人旅でストレスなんて異次元の彼方のはずなのに、この物凄いストレスは一体何なんだ?この物凄いストレスは、この車両がガラガラに空いてるって言うのに、この車両のこの狭い座席の真横におじさんってシチュエーションが成せる業なのだろうか?
「そうだな。青年。」
えっ!?今、おじさんは僕の意見に同意した?まさか、途中ぐらいから僕は知らず知らずのうちに心の声が口から出てたって言うのか?
「それは違うぞ。青年。心の声が口から出ていたんではなく、私が人の心の声を聞く事が出来るからだ。」
有り得ない!?いやだけど、この状況は、それを明らかに証明している。だとすると、おじさんは変態?
「何でそうなる。青年。」
だって、人の心の声を聞く事が出来るなんて、変態じゃありませんか。
「超能力と言って欲しいものだ。」
超能力者って、つまりは変態って事ですよね?
「だから何でそうなる。青年。その独特な感性はいかがなものだろう?超能力者と言ったら、誰もが一度は憧れる存在ではないか?」
それは、テーブルの上のコップを浮かせたり、壁をすり抜けられたり、透明人間になれたりって超能力になら憧れますけど、人の心の声を聞く事が出来る超能力に憧れた事はありません。
「随分と人の心の声を聞く事が出来る超能力に偏見を持っているみたいだな。青年は。」
偏見と言うか、だからどうした?って気持ちが強いです。
「どう言う意味だ?」
人の心の声を聞く事が出来るから、だからどうした?って事です。確かに場合によっては便利この上ないと思います。だけど、むしろ多くは不便で仕方ないと思います。本来なら知らなくてもいい人の心の声を聞く訳ですから、もしかしたら上手く行く事も行かなくなってしまう可能性がある。
「なるほどな。例えば、好きなあの子の聞かなくてもいい心の声を聞いてしまうとか?」
そうです。人の感情なんて一過性のものが多い。だから、それを口に出さずに心に留めて置く。聞く側は、それが心の声って事で、一過性の感情にも関わらず重要視してしまう。戦争の始まりです。
「青年。何とも大袈裟だな。しかし、その一過性の感情だけの思いを口に出さずに心に留めて置く人の数と同じぐらい、その一過性の感情を言葉にして相手にぶつけて来る人がいる。」
それは、人それぞれ性格ってものがあるからです。
「だとしたら、同じ事ではないか?」
その言葉を心に留めて置くか口に出すかは、全然違います!
「落ち着きなさい。青年。確かにこの超能力は、人の性格と言う大事な一部を無視した能力だ。優しさやいたわり、それら善を悪に変えてしまうかもしれない危険な能力だ。だが、裏を返せばこの能力の前に善も悪も存在しないと言えないか?」
言ってる意味が分からないです。
「完全なる裁きだ。青年。」
バカな!心の声を第三者にどうやって説明するつもりなんですか!
「まあ、その答えは置いとくとして、もう一つこの能力には特徴がある。」
特徴?人の心の声を聞く事が出来るだけでしょ?
「そうだ。青年。しかし、それは口には出せない心の声を聞き取るとも言えないか?」
言い方次第ですよ。
「例えば、駅のトイレの中で間もなく死にそうな女性が助けを呼ぶ口には出せない心の声を聞き取る事も出来る。そう、そうだ、青年。青年が、あのホームで一目惚れした女性だよ。事実、何を女性の口から言われたのかは、私には到底想像もつかない。ましてや一目惚れした相手を撲殺してしまおうと思ってしまうような言葉などな。」
・・・・・・・・・。
「青年。ここが人生の分かれ道だぞ?息のある女性を救って自首するか息のある女性をほったらかしにして自首するか。ただし、このまま逃亡は不可能とする。」
不可能?あのトイレは密室だし、目撃者もいなければ、僕に繋がる証拠は一切残してない。誰がどう見てもこれは事故死、として処理される。心の声だけじゃ僕は、絶対に犯人にはならない。
「青年。それは、自白と考えてもいいのかな?」
自白?心の声が?ああ、いいとも!心の声で自白したとして、そこに一体どんな価値があるって言うんだ?
「言っただろ?この能力の前に善も悪も存在しない、と。完全なる裁きだ、と。これはな。博士が開発した心の声も録音出来る凄い機械だ。ああ、それと自己紹介が遅れたが、私は刑事だ。青年、私の取り調べの前に、完璧なトリックは意味を成さないのだよ。」
博士とか録音出来る機械とか、ズルくない!?
「世の中とは、そう言うものだ。青年。」

第五百三十四話
「無敵刑事」

|

« 「第五百三十三話」 | トップページ | 「第五百三十五話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/67387972

この記事へのトラックバック一覧です: 「第五百三十四話」:

« 「第五百三十三話」 | トップページ | 「第五百三十五話」 »