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2016年9月21日 (水)

「第五百三十六話」

「はあ。」
緑道のベンチに座り、青年は右の頬を擦りながら、下を向き溜め息を吐いていた。
「隣、宜しいですか?」
「えっ?」
声の方へ青年が顔を上げると、そこにはスーツ姿の真面目そうな女性がメガネの縁に手を当てて青年に話し掛けていた。
「いや、今はちょっと。」
「失礼します。」
「ちょっと!?」
女性は、肩に掛けていた鞄をベンチ置くと青年の隣に座った。
「アナタ、何なんですか?空いてるベンチは、いっぱいあるじゃないですか!」
少し声を荒げて、青年は誰も座っていない緑道の他のベンチを指を上下に小刻みに振らしながら指した。
「私は、貴方とお話しがしたいのです。」
「僕は今、誰かと話したい気分じゃないんですよ。」
「それは、彼女に頬を平手打ちされて、オーソドックスにフラれたからですか?」
「見てたんですか!?」
「見ていたと言うよりもこちらからすれば、見せられていた?と言うべきでしょうか?」
「どっちでもいいよ!そんなの!状況が判ってるなら、尚更だよ!僕に構わないでくれ!」
「そうはいきません。」
「もしかしてアンタ、何かの勧誘?こう言う人が落ち込んでる時の心の隙を突いての何かの勧誘?」
「ふふ。」
「何笑ってんだよ!」
「勧誘ではありません。私は、こう言う者です。」
女は、鞄から身分を証明する物を取り出し、青年に開いて見せた。
「こ、こう言う者って、どう言う者だよ!真っ白じゃないか!」
「そうです。」
「そうですって、何なんだよ!ますます怪しいだけだろ!」
「つまり、身分証を真っ白にしなければいけない程の身分と言う事です。」
そう言うと女はメガネの縁に手を当てて青年を見つめた。
「いや、全く意味不明だから!」
「貴方にはこれから適性検査を受けてもらいます。」
「適性検査!?」
そう言うと女は、鞄から黒いノートを取り出した。
「はい。大統領適性検査です。」
「大統領適性検査!?」
「声が大きいですよ。暗殺されても知りませんよ?」
「されないだろ!暗殺!いやいやいや、大統領適性検査って?」
「大統領適性検査とは、貴方が大統領に相応しいかどうかを判断する為の検査です。」
「ただただ、ただただ何で?」
「それでは開始致します。」
「いやだから、淡々と事務的に当たり前のように始めようとしないでくれる?」
「緊張してトイレに行きたいのですか?」
「そうじゃなくて!大統領適性検査って!それに合格したら、僕は大統領になるって事!」
「そうですよ。」
「何を当たり前の事を聞いて来るんだこの人はって顔やめろ!そんな訳ないだろ!大統領ってのは、選挙で決めるもんだろ!」
「いえ、大統領は大統領適性検査で決定します。選挙は、こうやって大統領を決めているのだと言うフェイクです。」
「そんな話が信じられるかよ!」
「貴方が信じようが信じまいが、大統領は昔からずっとこの方法で決められているのです。」
「だとしてだ!それが真実だとしてだ!何で僕なんだよ!政治なんか興味無いし彼女に平手打ちされてフラれるような男の僕が何で大統領なんだよ!」
「大統領候補です。大統領になりたいお気持ちは判りますが、あくまでそれは大統領適性検査に合格してからのお話です。」
「なりたくないですけど!別に大統領になりたくなんかないですけど!」
「大統領になりたいなりたくないと言うそのような適性検査を受ける側の意志は関係ありません。」
「大統領を強制的に決めるって言うのか!」
「強制的ではありません。大統領適性検査で決めるのです。これはこの国に生まれた国民の義務です。」
「そんな義務、聞いた事ないよ!」
「それは当然です。身分を証明する物を真っ白にしなければならない程の極秘事項ですからね。そもそも国民で言うならば、何億人もいる中の99人しか知らない事実です。」
「それって?」
「はい、この国の歴代の大統領の人数です。」
「その歴代99人が適性検査を受けてるって事は、百発百中って事じゃないか!」
「それが大統領適性検査です。さて、そろそろ始めても宜しいですか?質問、貴方は大統領になりたいですか?」
「いきなり!?」
「質問、貴方は大統領になりたいですか?」
「なりたくないですよ!」
「質問、貴方はよく、演説をしますか?」
「どんな質問だよ!よく演説する一般人がいるかよ!」
「質問、貴方は暗殺されても死なない自信がありますか?」
「どう言う質問だよ!質問が大統領寄り過ぎるだろ!大統領寄り過ぎて質問が質問として成り立ってないだろ!」
「質問、貴方は丸ごと焼いた魚を頭から食べますか?」
「急に庶民的!?」
「質問、貴方は丸ごと焼いた魚を頭から食べますか?」
「食べるけど、食べるから何だって話だよ!それと大統領と何が関係あんの?」
「質問、流れ星を見るとついつい大統領になりたいと願ってしまう。」
「そんなヤツいる訳がない!」
「質問、スクランブルエッグには、ソース派だ、いや醤油派だ、いやいやケチャップ派だ、いやいやいや塩派だ、いやいやいやいや私は何もつけない派だ。」
「何を言ってんの?自分の事を言ってんの?」
「とても重要な事なので、お答え下さい。」
「とても重要なの!?まあ、強いて言うなら、塩派かな。」
「なるほど。」
「で、どこがどうとても重要だったの?」
「質問、暗殺された事がある。」
「あったらここにいないだろ!」
「質問、暗殺され掛けた事がある。」
「ないよ!一般人が一般的に暮らしてて暗殺されるかよ!」
「質問、暗殺した事がある。」
「ないよ!何なんだよその質問は!」
「質問、暗殺し掛けた事がある。」
「暗殺なんて特殊な作業をやった事もやり掛けた事もやろうと思った事もないよ!」
「質問、レストランでクチャクチャ音を立てて食べる人と香水の匂いがキツい人では、どちらもぶん殴りたくなる。」
「なるけど!そのちょくちょく放り込んで来る庶民的な質問は何なんだろうか!」
「質問、レストランでクチャクチャ音を立てて食べる人と香水の匂いがキツい人では、どちらも暗殺したくなる。」
「そんな日常的に暗殺は飛び交ってないよ?アンタ、ちょっと仕事に毒され過ぎて、一般人の暮らしってもんが理解出来てないんじゃない?」
「質問、毒は盛るより盛られる方だ。」
「だから!盛られてたらここにいないし!盛らないから!何だその質問は、これ大統領適性検査だろ?暗殺者適性検査なの?」
「大統領適性検査です!」
「内容的には暗殺者適性検査っぽいとこも多々あるけどな!って、そもそも今までの質問で大統領の適性が判定出来るとは到底思えないけどな!」
「質問、明日、地球が滅ぶとしたら、今日滅ぼす。」
「どんな大統領だよ!」
「質問、明日はきっと良い日になる。」
「質問の順番!あと質問の内容!もはや質問でも何でもないだろ!」
「質問、何だかノドの調子がおかしい。」
「だとしたら、この質問のせいだよ!無駄に大きな声を出させるこの質問のせいだよ!」
「質問、そろそろ終わりにして欲しい。」
「結構前から思ってたよ!もう、頭に質問って付けないと日常会話も出来なくなっちゃった?」
「質問、毒は盛るより盛られる方だ。」
「いや、それさっきしただろ!」
「すいません。気に入っている質問なので。」
「気に入ってる質問なのかよ!気に入るなよ質問を!」
「質問、そろそろ大統領になってもいいかもと思い始めて来た。」
「来る訳がないだろ!」
「それでは、まだまだ質問を続けます。」
「僕がなるって言うまで続ける気なのかよ!だとしたら、方法を間違ってるぞ!絶対に!」
「質問、毒は盛るより盛られる方だ。」
「お、おい、これは、何かの罰なのか?」
「質問!」

第五百三十六話
「メガネの縁に手を当てて、キメっ!」

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