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2016年10月12日 (水)

「第五百三十九話」

「この村は呪われている。」
この村は呪われている、と言う老人に、旅先の村の神社の境内で出会った。まさか、旅先の村の神社の境内で老人に、この村は呪われている、とか言われるとは思ってなかったから、僕は思わず
「その呪い、僕が解明しましょう。」
って、言ってしまった。僕は、この村は呪われている、と言った老人を境内にあるベンチに誘導し、その呪いについて聞き出す事にした。
「それで、お爺さん。そのこの村の呪いと言うのは?」
「お前さんは、タイムリープって代物を知っているか?」
「タイムリープ?ああ、確か、一日を何度も何度も繰り返す奇妙な現象の事ですよね。」
「そうだ。」
「まさか、お爺さんが言うそのこの村の呪いって、タイムリープの事ですか?でも、そんな現象はSF小説の中だけの話ですよね?だって、現実にそんな奇妙な現象が起きたら、世界の歴史が奇天烈にぶっ壊れちゃいますよ。」
「お前さんは、考えた事がないのか?なぜ、人間がタイムリープと言う奇妙な現象を奇天烈に想像出来たのか、と。」
「それは、小説家や科学者の果てしなき想像力の産物でしょ。」
「いいや、それは間違いだ。世の中の全ては現象が先にある。」
「バカな!?だったら、タイムマシーンも存在するって言うんですか?」
「タイムマシーンか。それは、物体であって、現象ではない。タイムリープは、現象だ。」
「そうかもしれませんが、いやそうなのかなぁ?僕の中では、タイムリープもタイムマシーンも同等ですよ。この宇宙で絶対に逆らえないモノがあるとするなら、それは時間です!時間って概念が正確にその時を刻むからこそ、世の中は成立してるんです。」
「お前さんが、この村の呪いを信じようが信じまいが、この村の呪いはこの村の呪いだ。解明する気がないなら、今すぐ村を出て行くんだ。」
「そのこの村の呪いなんですけどね。タイムリープと村がどう関係してるんですか?」
「村の古くからの言い伝えでな。この神社の裏に、井戸がある。その井戸は、いつから使われてないのかは誰も知らない。その井戸にはな。封印がされている。」
「封印?」
「井戸には、大きな石が乗っている。」
「なるほど。で?そこには、何が封印されてるって言うんですか?」
「時間だ。」
「時間!?」
「そう、時間だ。」
「そんなバカげた言い伝えを信じてるんですか?時代を考えて下さいよ。」
「そうだな。」
「で?その封印を解いた者は、タイムリープするって訳ですか?」
「ああ、そうだ。しかも一日を繰り返すのではなく、人生を繰り返すと言うタイムリープだ。」
「有り得ない!?タイムリープ史上もっとも有り得ない!?そんな事が現実に巻き起こってるんだったら、歴史が前に進まないじゃないですか!」
「歴史が前に進むか進まないかは知らんよ。封印を解いた者に呪いが掛かった時点で既に、その者は別次元に存在してるのかもしれない。」
「ご都合主義にも程があるでしょ!まさにSF小説の世界だ。封印を解いた者が主人公として、その他の全人類の人生は無茶苦茶じゃないですか。」
「だが、タイムリープに気付く者は、その呪いを掛けられた者だけだ。何度繰り返そうが同じような人生を歩むその他大勢もいる。呪い気付かないのなら、それは無茶苦茶ではないだろ?」
「いや、そうかもしれないですけどね。いやそうなのかなぁ?」
「それに、その呪いに掛かった者が、同じような人生を繰り返せば、世の中はそうそう変わるもんじゃない。」
「仮に、現時点でそのこの村の呪いに掛かってる人が存在するとして、人の人生が80年だとしたらですよ?この宇宙は永遠に80年間を繰り返してるって事ですか?」
「ああ、そうだ。」
「はっはーん!分かりましたよ。呪いの正体が!」
「呪いの正体?呪いの正体は、最初から分かっている。時間だ。」
「違いますよ。その時間と言う呪いの本当の意味が分かったって言う事ですよ。」
「本当の意味?」
「この宇宙で絶対に逆らえない時間って概念。人に例えるなら、それは死です。どんな人間も生まれた瞬間から死に向かってその時間は進んでいる。それは、想像を絶する恐怖です。しかも死って言うのは厄介で、年齢を重ねれば重ねる程に、地位や名誉や富を得れば得る程に、その恐怖は増す。」
「何が言いたい?」
「つまり、そのタイムリープの呪いは、そんな死の恐怖を和らげる為の存在だって事ですよ。死は、終わりじゃない。死は、人生の繰り返しだって言う。そうやってこの村では昔、老人達を見送っていたんでしょう。それは、死の恐怖への処方箋、とでも言うべきでしょうか。」
「子供をしつける時の化け物の話のようなもんって事か?」
「その逆バージョンですね。伝説や呪いなんてモノは、紐解けば紐解く程そんな陳腐な代物ですよ。どうです?見事にそのこの村の呪いを解いてみせましたよ?」
「だったら、お前さん。井戸の水を飲んでみるか?」
「えっ?」
「お前さんが考えてるような事は、とっくの昔に村の誰もが考えてる事だ。」
「なら!何でまだ呪いだなんて言うんですか!」
「本当に死の恐怖から逃げたいなら、本当に井戸の水を飲めばいい話だろ?そうすれば、何度でも人生を繰り返す事が出来る。何度でも死の恐怖を回避出来る。それは、永遠に生き続けると言う事だ。」
「んまあ、確かにそうかもしれませんが。」
「しかし、この呪いの言い伝えを知りながら、誰も井戸の水を飲もうとしない。それはなぜか?誰も永遠に生き続けたくはないと言う事だ。永遠に生き続けると言うのは、苦痛だと言う事だ。」
「でも、そんな実感は実体験でしか得られ、まさか!?お爺さんは、その井戸の水を飲んだんですか!?人生を繰り返してるんですか!?永遠に生き続けてるんですか!?ここで僕と何度も出会って、何度もこの話をしてるんですか!?」
「飲んでない。」
「即答で飲んでなかった!?」
僕は、この後もしばらく老人と会話をし、村を出た。旅先でいろいろな場所を訪れる度に、呪いや伝説の類は、どんな場所にも存在するって事を思い知らされる。それは、大きなモノから小さなモノまで、大小様々で、本当に多種多様で、大小様々で、中位を見付けるのが難しい。でももし、勇気ある者がいるなら、あの呪いの井戸の水を飲んでみたらどうだろうか?僕は、飲む事が出来なかったけどね。

第五百三十九話
「人生一度きり?」

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