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2016年12月14日 (水)

「第五百四十八話」

 ここは、或る病院。或る診察室。或る患者と或る医者。
「先生!」
「どうされました?」
「足が臭いんです!」
「ほう。」
「毎年毎年!足が臭くなる一方なんです!」
「では、足を切断しましょう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「先生!他の方法にして下さい!」
「他の方法?」
「お願いします!」
「では、足を切断しましょう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「先生!」
「どうされました?」
「足を切断する以外の別の方法で、何とかお願いします!」
「ほう。」
「お願いします!」
「では、足を切断しましょう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「足を切断する!?」
「ほう。」
「あの先生?僕は、足が臭いんです。足が臭いってだけなんです。痛いとか腐ってるとかじゃないんです。」
「だが、困っている。」
「はい。尋常ではない足の臭さなんです。タクシーの運転手をしてるんですが、乗ったお客さんが五分もしないで、全員ゲロを吐きます。」
「やはり、足を切断しましょう。」
「いやいやいや、そんな事したら、仕事が出来ません!」
「私には、今でも仕事が出来ているとは思えませんが?」
「辛うじて生活出来てます。でも、足を切断なんかしたら、タクシーの運転手は、辞めなきゃならないじゃないですか。」
「ゾンビ?」
「急に何を言い出すんですか!ゾンビが病院に来る訳ないじゃないですか!僕の足は、尋常ではない臭さですけど、腐ってる訳じゃない!」
「今日しますか?」
「何をですか?」
「心の準備が出来てから後日しますか?」
「いやだから、切断しませんよ!切断以外に何かあるはずでしょ!」
「ほう。」
「お願いします!先生!」
「例えば?」
「例えば?例えば足の裏から臭さを発生させる根源を取り除くとか、薬で何とかするとか、あるでしょ!」
「バラを毎日たくさん食べるとか、ハーブを毎日たくさん食べるとか、そんなのはどうですか?」
「先生!僕はこの三年間、バラしか食べてません!それでも、それでも足は尋常ではない臭さを放ってるんです!」
「あと十年続けてみてはどうです?」
「栄養失調で死んじゃいますよ!」
「でも、そんな言う程、臭くありませんよ。大丈夫、大丈夫。気にし過ぎです。」
「いや、このタイミングで気休めって、しかもずっと鼻を摘まんでる人に棒読みで言われてもですよ。」
「武器商人?」
「兵器扱いですか!僕の足は、化学兵器ですか!」
「さて、切断しますか。」
「いや別に雑談してた訳じゃないんですよ!先生!切断の考えは捨てて下さい!」
「でも、それが一番早い解決策なんですけどね。」
「そうかもしれないですけど、切断される方は、たまったもんじゃないですよ!」
「する方だって、たまったもんじゃないですよ。ゲロ吐きながらの手術なんですよ?今までやったどの手術よりも困難です。」
「それに関しては何とも言えませんよ!例えばですよ?例えば、僕が切断の方向を選んだ場合ですよ?」
「ほう。」
「切断切断って、先生は言ってますけど、一体どの程度の切断なんですか?足の裏の皮を切断って軽い感じの切断ですか?それとも足首から?それとも膝から下?まさか、足の付け根からって訳じゃないですよね?」
「首から下。」
「死んじゃうじゃん!それ、処刑じゃん!いや何か、心の奥底では、もしかしたら最悪足を切断したとしても根性でタクシーの運転手を続けて行けるかもって思ってた自分がバカみたいじゃん!」
「諦めないで下さい。」
「その選択肢で諦めないって選択肢があるんですか?」
「頭だけになっても生きてる人は、たくさんいます。」
「ギロチンの概念!?どんな気休めですか!嘘付くにも程ってもんがあるでしょ!」
「では、薬を処方しましょう。」
「あんじゃん!薬!今までの会話は何だったんですか!」
「食後にこれを一気に飲み干して下さい。」
「先生?」
「ほう?」
「こんなドクロマークのビンの中に入った液体なんか飲んで大丈夫なんですか?」
「逆に大丈夫です。」
「逆に大丈夫の逆って何なんですか!明らかに毒が入ってるでしょ!これ!」
「どどどどどどど毒なんか入ってる訳ないじゃないですか!」
「そんな古風な動揺のし方されたら、ますますですよ!え?殺そうとしてます?あからさまに殺そうとしてますよね?僕を!」
「では、注射するので腕を出して下さい。」
「いや、そのドクロマークのビンの中の液体を注射させるかよ!」
「苦しみませんから、ね?」
「先生!先生!!僕は、死にたい訳じゃないんですよ!僕はただ、尋常ではないこの足の臭さを治療して欲しいだけなんですよ。」
「この病院の裏に有名な神社がありますよ。」
「いやもう、神頼みし出したら人間終わりでしょ!」
「地球外生命体なんだから、いいじゃないですか。」
「こう言う星人じゃないですよ!僕は!この尋常ではない足の臭さで地球を征服しに来た星人じゃないですよ!」
「正体を見せろ!!」
「いやその誰のか分からないレントゲン写真をかざされてもですよ!」
「糞詰まりですね。」
「それを説明されてもですよ!」
「糞詰まりですか?」
「聞かれてもですよ!」
「さあ、切断しましょう。」
「その、そろそろ的な感じ出すのやめてもらえません?しないですから!切断!絶対に!」
「では!貴方は!世の中全ての人間の鼻を切断しろと言うんですか!」
「いやちょっと落ち着いて下さいよ。話のスケール感がおかしいでしょ。」
「おい!誰か日本刀を持って来てくれ!!」
「曲者扱いじゃないですか!それ絶対に首を切断しようとしてるじゃないですか!」
「いえ、日本刀の手入れの時間なので。」
「紛らわしい!このタイミングで、その趣味、紛らわしい!いや、そもそも診察中に日本刀の手入れって、おかしいでしょ!先生!僕は真面目に悩んでるんですよ!だから、真面目に診察して下さいよ!」
「ほう。それでは、私も真面目に診察しましょう。」
「お願いしますよ!」
「診察!死刑!」
「なにそれーっ!!」
「・・・・・・。」
「先生?」
「・・・・・・。」
「ちょっと?大丈夫ですか?先生?」
「・・・・・・。」
「気絶、嘘ですよね?先生?」
「・・・・・・。」
「そんなポージングで先生?先生!先生ーっ!!」

第五百四十八話
「或るタクシーは今日も走る」

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