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2016年12月28日 (水)

「第五百五十話」

 白い部屋に椅子だけが二脚、一脚には男が座っていた。男は、天井を仰ぎ、視線を白いドアに向けた。向かい合わせのもう一脚に座るであろう人物の登場を待っていた。
「失礼します。」
瞬間、若い女がドアを開けて入って来た。男は、少し驚いたがそれを女に悟られまいと表情を崩さず、目線だけで女を追った。
「それでは、7回目の調査を開始します。」
そう言うと女は、スーツの内側からメモ帳を取り出した。
「役所に、アンタみたいな可愛いお嬢さんが働いてるとは、俺もまだまだ悪足掻きが過ぎるな。」
「はい?」
「いや、続けてくれ。」
「それでは」
「いや、やっぱり続けないでくれ。」
「はい?」
「今までと同じ話が繰り返されるだけだろ?アンタら役所の人間が何度面会に来たって同じだ。」
「面会ではなく調査です。これは、仕事です。隊長。お付き合い下さい。」
「だから、役所は市民から目の敵にされてんだよ。」
「貴重なご意見ありがとうございます。まず、事件の経緯をお話しします。間違っていたら、その場で訂正をお願いします。」
「間違ってないから、そのまま一気に頼むよ。」
「市役所に爆弾が仕掛けられたと通報があり、隊長率いる処理班が出動し、爆弾の解除に当たった。爆弾は、屋上に仕掛けられていた。宜しいですか?」
「アンタ、そうやっていちいち聞いてくるタイプか?面倒臭いな。」

「お願いします。」
「ああ、爆弾は屋上にあった。ここの警備も大した事ないんだなって思ったよ。と、同時に犯人は随分と奇抜で思い切った策を実行したなって思ったよ。」
「ヘリコプターによる時限式爆弾の投下。」
「上空の警備も怠らない事だな。」
「貴重なご意見ありがとうございます。」
「何も時限式の爆弾を投下するなら、爆弾そのものを投下しちまえば、一発だったのにな。」
「それは、不可能です。」
「ああ、そうだったそうだった。最初の面会、調査に来た役所の人間が言ってたな。」
「ええ、上空からの落下物は事前にセンサーが検知し、破壊します。」
「ただ、例外があるんだよな?」
「ええ、危険ではないと判断した落下物に対しては、センサーは反応しません。例えば、紙のようなもの、雨や雪のようなもの、そして」
「鳥、のような生物。」
「ええ、盲点でした。まさか、鳥を時限式爆弾化するとは、想定外でした。」
「想定外とは常に隣り合わせだって教訓だな。」
「貴重なご意見ありがとうございます。そして、隊長。アナタは、その爆弾の解除に取り掛かった。」
「まさか、爆弾処理に向かって鳥の解体をする羽目になるとはな。」
「丁度半分の150羽目に取り掛かった時、アナタはこう叫んだ。」
「なぜ爆弾は爆発した!」
「奇妙な事を仰りますね。」
「奇妙な事?いいか?お嬢さん?何度も何度も言うが、爆弾は爆発した。解除したはずの1羽目が爆発し、連鎖して他の爆弾も爆発した。そして、俺は無念の中、死んだ。」
「死んだ?では、私の目の前に存在するアナタは一体誰なのですか?」
「それはな、お嬢さん?こっちの台詞だ。アンタは、一体何者で、ここはどこなんだ?天国か?それとも地獄か?ああ、きっと爆発解除に失敗して大勢の犠牲者を出したんだから、こう言う地獄なんだろうな。俺はきっと、無限の時間の中で自分の罪を償い続けなきゃならないんだな。」
「ここは、役所の地下にある1室です。」
「それが俺の知識の限界なんだろ。」
「知識の限界とは?」
「映画じゃあるまいし、役所にこんな施設が存在して、アンタみたいなお嬢さんが登場したりするか?」
「私は、アナタの頭が作り出した存在だと?」
「このシチュエーション、それしか考えられないだろ。」
「隊長、爆弾は爆発していないのですよ?犠牲者は出ていません。」
「俺の良心が、アンタにそう言わせてるのか?ジョークを言うタイプには見えないがな。」
「ええ、ジョークを言うタイプではありません。」
「俺の目の前で爆弾は爆発したんだよ!」
「いいえ、爆弾は爆発しませんでした。」
「何!?そんな事を言う奴は、初めてだな。次のステップに移行したのか?」
「次のステップ?」
「そうやって、自分で自分の犯した罪を優しく解除していくってオチか?茶番だな。」
「アナタの理論では、ここは死の世界で、アナタの頭が見せる罪の世界、と言う事ですよね?」
「どう考えてもそうだろ?」
「プログラムが最終ステップに移行した事は事実ですが、ここは死の世界でも罪の意識が創り出した幻想の世界でもありません。」
「だったらここは、どんな世界なんだ?」
「現実の世界です。」
「ふざけるな!!」
「隊長?」
「もういい加減にしてくれ!!俺は、多くの市民の命を助けられなかった!多くの市民の未来を奪った!だけどな!解除は成功してたんだ!してたんだよ!なぜ、爆弾が爆発したかは分かんないんだよ!もう、勘弁してくれ!頼むよ!な?」
「茶番、終わりました?」
「茶番だと!?」
「ええ、茶番です。隊長、アナタは丁度半分の150羽目に取り掛かった時、こう叫んだのですよ?なぜ、爆弾は爆発しないのか!と。」
「何だと!?」
「我々は途中で気が付いたのです。アナタが、爆弾を解除しているのではなく、爆弾を仕掛けていると、そう犯人が誰なのかを。爆弾は、確かにありました。しかしそれは、最初の1羽目のみ。そう、だから我々は屋上に特殊な電磁波を流し、爆弾を無力化したのです。役所としましてもこれは、大きな賭けでしたが成功しました。隊長?全てが逆なのですよ。アナタは、良心の呵責により罪の意識で世界を創り出しているのではなく、この大罪から逃れる為に茶番を創り出しているのです。アナタは、大勢の市民の命を奪った悪魔でもなければ、大勢の市民の命を救った英雄でもない。単なる失敗人なのです。」
「何だと!?何言って」
「これでもまだ!この世界が死の世界だと言えますか!」
そう言うと女はスーツの内側からナイフを取り出し、男の右足の太腿に突き刺した。
「お、おい!?これは、何の真似だ!?」
「痛み、感じますよね?では、1度だけお聞きします。このテロは、アナタの単独ですか?それとも他にお仲間がいるのですか?」
「ふざけるな!!俺はな!!爆弾処理班の隊長だぞ!!」
「バン!」
瞬間、白い部屋に銃声が鳴り響いた。同時に男は床の上に倒れ込み、返り血を浴びた女は椅子から立ち上がりドアから出て行った。
「裁くのは、アナタではなく、我々の方です。」
最果ての街、欲望の街、裁きの街、人それぞれに呼び名の異なるこの街のニンジン色の巨大な建物の地下の1室で、その裁きは静かに下った。

第五百五十話
「スリーティーズ・シティ・ジャッジメント」

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