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2017年3月

2017年3月 1日 (水)

「第五百五十九話」

「先生。」
アタシは、病院のベッドの上にいる。もう、きっとここが住まいって言ってしまってもいい。そう、終の住処と言ってしまっても。
「先生、アタシもうそろそろ死ぬよね。」
先生は、いつものように顔色一つ変えない。アタシの脈をとったり心臓の音を聞いたり、無言だ。自分の死期とかって、なんだかんだで分からないもんなんだろうって思ってた。でも、そんなこんなで、分かってしまうもんなんだなって分かった。
「先生、明日もアタシ、目を覚ますかな?もしかしたら、このまま今日眠ってしまったら、死んじゃうんじゃないかな?」
窓の外の満月を見ながら先生にそう語り掛けた時だった。
「痛い!?」
アタシの左腕に激痛が走った。痛みの方に目を向けると、先生が注射していた。
「注射?」
先生は、笑って頷いた。いつもの笑顔だ。いつもの安心する笑顔だ。
「どうして注射なんかするの?」
先生は、笑って頷いた。
「先生?」
アタシの意識が薄れていく。眠気じゃない。これは眠気とは絶対に違う。ああ、きっと先生は、アタシが苦しまないようにって、きっと死なないように殺してくれるんだなって、次に目覚めた時には、天国でありますようにって、アタシは祈った。

第五百五十九話
「今日と明日の誤差なし、故に今日死んでもよし」

「ここは?」
「天国、ではありません。病院ですよ。」
「ここが病院!?」
「驚くのも無理はありません。アナタは、約一億年眠っていましたからね。」
「一億年!?」
お医者さんの話では、一億年前のあの笑顔の先生は、アタシを冷凍保存し、治療法が確立された未来へと希望を込めて託したらしい。その結果アタシの病気は、見事に完治していた。
「なんか、全然ピンと来ません。」
「それはそうです。アナタは目覚めたばかりなんですからね。」
そして、一億年後のお医者さんの話を最後まで聞くと、どうやら地球は明日、確実に滅亡するらしい。

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2017年3月 8日 (水)

「第五百六十話」

「王様!」
「ん?少し痩せたか」
「ええまあ、それよりも王様!城に侵入者が!」
「ヤバくないか?それって、かなりヤバくないか?」
「はい、ヤバいです!」
「私の命とか狙ってるんじゃないか?」
「おそらくは、狙っているかと!」
「ヤバくないか?それって、かなりヤバくないか?」
「はい、ヤバいです。」
「凄くヤバいよな?」
「はい、ヤバいです。」
「めちゃくちゃヤバいよな?」
「はい、ヤバいです。」
「え?何してんの?」
「何してると仰いますと?」
「いやだから、王様の命を狙ってる可能性大の侵入者が城にいるってのに、こんなにヤバい状況だってのに、大臣はここで一体何してんのって話だよ。」
「ああ!」
「ああ!って!ああ!って呑気に気が付いてる場合じゃなくない?」
「一刻も早く王様に現状をご報告しないと、と思いまして!」
「じゃあ、分かった。うん、分かった。現状は分かったから、一刻も早くその侵入者をどうにかしようよ。」
「どうにかします!」
「うん。」
「はい!」
「うん。」
「どうにかします!」

「うん。」
「はい!」
「はい!じゃなくて!元気いっぱいの、はい!じゃなくて!だから何してんの?何で王様の部屋に入り浸ってんの?」
「入り浸っている訳ではありません!王様の身に何かあったらいけないと思って、傍で護衛をと!」
「うん、それは分かるけど、その気持ちは分かるけど、一刻も早く侵入者を見つけ出して、とっちめる方が、王様の護衛より優先順位が上じゃない?」
「なるほど!」
「納得してないでさ。あからさまにグーをパーに叩き付けて納得してないでさ。行きなよ。迷路みたいな構造の城だけど、迷って侵入者が餓死するかもしれないけど、運よく偶然この部屋へ辿り着くって可能性だってあるんだしさ!」
「侵入者が餓死する方に、私の全財産!」
「そう言う事じゃなくて!金持ちの道楽じゃなくて!だから、何なの!何で行かないの!」
「行きますよ!」
「めちゃくちゃ!めちゃくちゃキレてんじゃん!何でめちゃくちゃキレてんだよ!」
「王様がワガママばっか言うからでしょうが!」
「いつ私がワガママを口にした!一体どのタイミングでワガママを口にした!」
「ん?って、最初に言いましたよね?」
「ん?って言うのが、ワガママだったら、たいていの事は、ワガママになっちゃうだろ!」
「でも!あのタイミングで、ん?は、ないです!」
「じゃあ、分かった。うん、分かったよ。初めからやり直そう。それで、私がワガママを口にしなかったら、侵入者をとっちめに行ってくれるな?」
「はい!」
「じゃあ、最初からやり直そうじゃないか。」
「王様!」
「何だ?」
「やはりワガママです!」
「さじ加減じゃん!もうそれって、大臣のさじ加減じゃん!行ってくれよ!さっさと侵入者をとっちめてくれよ!」
「槍で、とっちめればいいですか?」
「槍でも何でもいいから、早く行ってくれよ。頼むよ。」
「かしこまりました!」
「うん。」
「はい!」
「だから!元気いっぱいの、はい!って言っといて、何で行かないんだよ!」
「槍がありません!」
「槍でも何でもって言ってるだろ!」
「王様!」
「何だよ!」
「王様!」
「何だよ!」
「呼んだだけです!」
「恋人同士かよ!もういい!私が行く!」
「じゃあ、お供します!」
「何なんだよ!お前は!」
「大臣です!」
「胸張って誇らしげに、大臣です!じゃないだろ!」

第五百六十話
「餓死城」

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2017年3月15日 (水)

「第五百六十一話」

 短編小説を二作品書き終えた俺は、いつもの喫茶店からそろそろ自宅へ帰ろうと、席を立とうと腰を上げたまさにその時だった。
「立たないで、そのままゆっくり、ゆっくりと座って。」
「えっ!?」
「これ、分かるわよね?」
女は、俺の額に銃を突き付けると俺のスピードに合わせて向かいの席に腰を下ろし、銃口はそのままで銃をテーブルの下へ。
「どう言う事だ?」
「単刀直入に言うわ。もう一つ作品を書いて。」
「何だって!?」
「アナタ、短編小説家なんでしょ?」
「なぜ分かった!?」
「この喫茶店の常連で人間観察が趣味のアタシなら、そんな事は簡単に分かるの。」
「俺のファンか?」
「ファンじゃないわ。」
「ファンじゃないのかよ!」
「ええ、ファンじゃないわ。」
「ファンじゃないのに何でもう一つ作品を書けなんて無茶な要求してくるんだよ!」
「無茶な要求ではないと思うけど?短編小説家なんでしょ?だったら、もう一つ作品を書くなんて、簡単でしょ?」
「人間観察が趣味なら分かるよな?俺は既に今日、この喫茶店で作品を二つ書いてるんだよ!もう一つ短編小説を書けって言われてもすぐには無理だ!」
「待つわ。」
「待たれたって困る!」
「なぜ?」
「今日はもう、書けないからだ!」
「なぜ?」
「だから!既に二つ作品を書いてるって言ってるだろ!今日はもう、書きたくないんだよ!これから家でゴロゴロしたいんだよ!」
「分からない?」
そう言うと女は再び俺の額に銃を突き付けた。
「バカなのか?お前は!」
「アタシは、バカなのかもしれない。だけど、異常者じゃない。」
「人の頭に銃を突き付けといて異常者じゃないはないだろ。」
「もっと言うなら、アタシ以上にバカは、アナタよ。」
「はあ!?何で俺がバカなんだよ。」
「銃を突き付けられてるのよ?分からないの?死ぬのよ?もう一つ短編小説を書かなきゃ死んじゃうのよ?これは、理不尽で不条理なゲームのようなもの。タイムリミットは、そうね?このお店の閉店時間まで。短編小説家なら、十分な時間でしょ?」
「なめてんのか?今から閉店時間までは、10時間ある。だから短編小説なら、それで書けると?」
「ええ、そうよ。」
「ふざけるな!このお店に作品を書くだけの意気込みで来てるなら十分な時間だ!だが、今の俺は、それをさっきの二作品で消化してんだよ!一から構造を練る段階じゃあ、短編小説だってな!十時間あっても足りやしないんだよ!」
「そうなの?」
「お前だって、小説を読むならそこんとこ何となく分かるだろ!」
「漫画は読むけど、小説は読まないから、そこんとこ何となくでも分からないわ。」
「読まないのかよ!」
「ええ、読まないわ。」
「俺のファンじゃないにしても小説は読むからこんな事してんじゃないのかよ!」
「ごめんなさい。」
「おい!謝るなら、こんな理不尽で不条理なゲームのような事すんなよ!」
「頑張れ!」
「あのな?頑張ってどうにかなるもんじゃないんだよ!短編小説を書くにはな!閃きが必要なんだよ!」
「閃け!」
「そんな事で閃けるんだったら、もっと短編小説を量産してらぁ!」
「さあて、こんな会話をしてる最中にも時間は過ぎて行ってるのよ?」
「書けば終わるのか?」
「書けば終わるわ。」
「面白いとか面白くないとか、内容は関係ないんだな?」
「面白いとか面白くないとか、内容は関係ないわ。ただ!」
「ただ?」
「アナタのプライドがそれを許すならの話だけどね。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「なるほど、お前思ったより厄介だな。」
「そう、アタシは厄介なの。」
「設定を厄介にし過ぎたな。」
「後悔してももう遅くない?」
「とりあえず、寝る!」
「それもありかもね。」

第五百六十一話
「ストイック???」

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2017年3月22日 (水)

「第五百六十二話」

「ピンポーン!」
「ガチャッ!」
「おう!」
「おう!入れ入れ!悪かったな。こんな雪の日にわざわざ呼び出したりしちゃってさ。入れ入れ!」
「いや、別にいいけど、しかし寒いな。」
「だと思って、用意しといたよ。」
「何これ?」
「マグマ汁!これ飲んで温まってくれ!」
「トマトジュースだろ?」
「マグマ汁だよ!」
「マグマ汁って何だよ。だとしたら、何でコップが平気なんだよ!」
「四の五の言わずに飲め飲め。」
「トマトジュースじゃん!」
「よし!体が温まったところで本題に入ろうか。」
「キンキンのトマトジュース飲んで温まるかよ!本題ってのは?」
「来週、アイツの結婚式だろ?」
「そうだな。」
「そこで、僕達は友人代表のスピーチするだろ?スピーチ!」
「その打ち合わせか?でも、スピーチなら打ち合わせは前日でもいんじゃないか?もしくは、当日でもいんじゃないか?最悪、打ち合わせなんかいらないんじゃないか?って、言ってなかったか?」
「スピーチ、やめようと思う。」
「はあ!?今さら何言ってんだよ!」
「スピーチやめて、マジックしようと思う!」
「マジック!?んまあ、確かにアイツからは、自由に何やってもいいって言われてるけどさ。」
「思ったんだよ!スピーチじゃ、つまらないってさ!」
「スピーチの言い出しっぺ、お前だからな。何かした方がいんじゃないかって言った俺に対して、めちゃくちゃキレて面倒臭いって言い放ったのお前だからな。」
「昨日、偶然テレビでマジックと言うモノを観て、思ったんだよ。これをやれば結婚式がさらに盛り上がるってさ!」
「まあ、確かにスピーチよりもマジックの方が盛り上がるは盛り上がるだろうけどさ。」
「だろ!まあ、マグマ汁飲みながら、続きを聞いてくれ。」
「マグマ汁いらないよ。」
「ハワイ産の最高級マグマなのにか!?」
「がっつりトマト味でしたけど?で、マジックやるって言っても何のマジックすんだよ。」
「もちろん!胴体切断マジックに決まってるだろ!」
「胴体切断マジック!?随分と難易度が高くないか?」
「つまり、それだけ結婚式が盛り上がるって事だろ?」
「んまあ、そりゃあそうだけどさ。え?そもそもだけど出来んの?」
「出来るって?」
「マジックだよ。マジック!」
「これを見よ!」
「チェーンソー!?」
「胴体切断のマジックを思い付いて、すぐに購入した!」
「チェーンソーを!?」
「やるなら派手な方がいいと思ったからさ!」
「そうかもしれないけど、マジックだろ?胴体切断マジックでチェーンソー使ってるとこ見た事ないけど?昨日のテレビではチェーンソーだったのか?」
「いや、こんな鉄の刃だった。」
「横になって箱に入ってってヤツだろ?」
「そうそう。よく知ってるな!」
「一番オーソドックスな胴体切断マジックだからな。」
「でも、こっちの方が派手だろ?」
「派手だけをピックアップするならな。」
「お前がスピーチしてる時に、僕がチェーンソーで胴体切断するから!こりゃあ、みんな驚くぞ!」
「待て待て待て!そりゃあ、みんな驚くよ!戦慄だよ!スピーチしてる人をいきなりチェーンソーで真っ二つにしちゃうんだからさ!しかも縦にな!縦に!」
「楽しみだな!」
「公開処刑じゃん!」
「マジックだよ!」
「胴体切断マジックってのは、胴体切断して、くっついてこそだぞ!縦にチェーンソーで真っ二つにされて、どうやって元に戻るんだよ!タネと仕掛けは!」
「タネと仕掛け?いやだって、マジシャンがタネも仕掛けもありませんって宣言してたけど?」
「鵜呑みもいいとこだろ!何で友人の結婚式に出席して、俺はチェーンソーで真っ二つにされて死ななきゃならないんだよ!」
「やってみなきゃ分からないだろ!」
「何をやってみなきゃ分からないんだよ!」
「僕にマジックの才能があるかもしれないじゃないか!」
「ああ言う事が才能で出来るからマジシャンしてんじゃねぇから!テクニックだよ!テクニック!そしてむしろ、お前の理論でいくとマジックの才能があるかもなのは真っ二つにされて自力で元に戻らなきゃな俺だろ!」
「自分を信じて!」
「信じられるか!」
「人には必ず眠ってる才能があるんだ!」
「だとしたら大博打だな!」
「もしかしたら、お前にはヘソで茶を沸かす才能が眠ってるかもしれないじゃないか!」
「だったらだったで!ヘソで茶を沸かすよ!何でチェーンソーで真っ二つにされてんだ俺は!縦に!」
「ぶっつけ本番で不安なら、ちょっと今から練習するか!」
「一緒!ぶっつけ本番だろうが練習だろうが、結果は一緒!式場が血の海になるか、お前の部屋が血の海になるかの違い!」
「大違いだな!」
「俺が死ぬのは一緒!」
「首が一回転とかしないのか?」
「痛い痛い痛い!するかよ!」
「お前、何も出来ないのかよ!」
「チェーンソーで真っ二つと首一回転で言われたくない言葉だよ!お前だって出来ないだろ!」
「その二つは無理だけど、小指で鼻をほじったり、小指で耳をほじったりは、出来る!」
「それなら俺も出来るよ!ほら!ほら!」
「あ、じゃあ、それをやるか!」
「何してんだよ俺達は!友人代表でみんなの前で俺達二人は何してんだよ!」
「僕がお前の鼻をほじるから、お前が僕の耳をほじってくれよ!」
「それを見せられて、みんなはどんなリアクションすればいいんだよ!」
「スタンディングオベーション!」
「何で拍手喝采?」
「そりゃあ、お互いの穴の中から鳩が出て来るからじゃないか!」
「物理的に不可能だろ!こんな小さな穴から鳩が出て来るの!いやもう、マジックなんて無理なんだから、普通に今まで通りのスピーチでいいじゃん!」
「盛り上がらないだろ?」
「別に盛り上げなくていいんだよ。俺達が主役じゃないんだから!」
「じゃあ、主役の二人をチェーンソーで真っ二つにしよう!」
「蜘蛛の子を散らすように、みんな式場から出て行くだけだよ!あっという間に式場は特殊部隊に包囲されてるだけだよ!」
「消失マジックってのも昨日観たんだよ!」
「消失マジックだ?」
「お前がスピーチしてる時に、僕が頭からこの何でも溶ける液体をかける!」
「だから元に戻れないっつってんだろ!何で俺をこの世から消そうとすんだよ!もっと小物類でいいだろ?」
「じゃあ、前の席の紳士から腕時計を借りて、この何でも溶ける液体をかける。」
「怒られちゃう!ただただ怒られちゃう!で、さっきからのそれは単なるトマトジュース!なっ?場の空気が最悪になるだけだから、無難にスピーチにしとこうぜ!」
「瞬間移動のマジックも観たんだよ!」
「だんだんその昨日のマジシャンに俺は腹立って来たね!」
「これはイケる!これは、胴体切断マジックや消失マジックよりも遙かに簡単!」
「そうでもないだろ?」
「お前の双子の弟を使えば簡単!」
「俺が双子じゃないんだから無理だろ!」
「双子になれよ。」
「どんな無理難題だよ!お父さんとお母さんに土下座して頼み込んでも無理だよ!」
「よし!やっぱり今からこのチェーンソーで!」
「バカなの!」
「いやでも、せっかく買ったんだから使わないとさ。」
「その時が来たらでいいだろ!無理から使う代物じゃないから!チェーンソーって!」
「あっ!じゃあ、ケーキ入刀の時!」
「ケーキまみれだよ!もうスピーチでいいし!当日、絶対にチェーンソーを持って行くなよ!」
「はいはい、フリね!フリ!」
「フリじゃねぇよ!」
「じゃあ、あれか!俺だけチェーンソー持ってるのが羨ましいんだ!」
「何でそうなるんだよ!」
「結局、そうなんだろ?そう言う事なんだろ?」
「どんな結論付けなんだよ!羨ましくねぇよ!」
「結局お前は、そう言うとこがあるんだよなぁ。結局なんだよ。結局。」
「結局結局うっせ!」
「よし!今からお前のチェーンソーを買いに行こう!」
「だから何でそうなる?」

第五百六十二話
「結局、二人でチェーンソーを使ってスピーチをしました」

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2017年3月29日 (水)

「第五百六十三話」

 事件現場ってのは、何回経験しても慣れるもんじゃない。刑事の俺が言うんだから間違いない。特に殺人事件ともなれば、なおさらだ。同僚の中には、慣れたって言うヤツもいるが、俺に言わせれば、こんな悪魔の仕業みたいな現場に慣れるなんて、殺人鬼と同じ脳味噌だ。女性の顔に無数のナイフを突き刺して立ち去る殺人鬼とな。
「ん?」
俺は、無惨に横たわる女性の左肩の地面に何かを発見した。小さな血痕だ。不思議とどうやら発見したのは俺だけで、他の人間は誰も発見していない。
「ん?」
視野を広げてみると、その血痕はどこかへ続いていた。俺は考えた。きっと犯人は、女性を襲っている最中に怪我をしたのでは?と。不思議と俺は、その血痕から目が離せなくなっていた。不思議と足が動き、俺は血痕を追った。

第五百六十三話
「血痕を追って」

 俺は、どこかの森にいた。
「なんて事だ。」
そこには、顔に無数のナイフを突き刺された熊の親子が無惨に横たわっていた。きっと、アイツだ。人間の女性だけでは飽き足らず、熊の親子まで殺すとは、凶暴なヤツだ。こんな凶暴なヤツを野放しにしといたら、次は一体誰が犠牲になるか分かったもんじゃない。それが俺の最愛の人間かもしれないって思ったら、憤りがおさえきれなくなった。
「ここは?」
気付くと俺は、見知らぬ町に辿り着いていた。ここでもし、アイツがまた犯行を行ったら?嫌な予感しかしなかった。そして俺が発見したのは、壊れたタクシーだった。幸いにもドライバーはいなかったが、これもきっとアイツだ。アイツの仕業に間違いない。何よりもの証拠に、この血痕だ。対象がエスカレートしている。もはやアイツは、生き物では快楽を得られなくなっているのかもしれない。
「何だと!?」
俺が血痕を追って辿り着いた裏路地の光景は、この世に終焉があるのだとしたらきっと、それがこの光景だ。
「何がどうなってる!?」
俺は、恐る恐るその終焉の裏路地を一歩一歩踏み進んだ。破壊による破壊。まるで爆撃機が爆撃した後のような吐き気のする裏路地。幸いにも死体を目にせずに裏路地を抜ける事が出来たのが救いだ。いや、もしかしたら、無数の無惨な死体を目にしていたのかもしれないが、俺の無意識がそれらの認識を拒絶したのかもしれない。とにかく、このままアイツを野放しにしていたら、とんでもない事になってしまう。だが、俺はここで思った。こんな裏路地の光景を作り出せる相手と対峙した時、俺はそんな殺人鬼を逮捕出来るんだろうか?こんなモンスターを俺一人でどうにか出来るんだろうか?いや、違う。それは、違うぞ。刑事には、返り討ちにされると分かっていてもやらなきゃいけない時がある。
「こんなモノ!!」
俺は、巨大なビルが粉々にぶっ壊されてる中心で、愛用の銃を投げ捨てた。あれが一体何の役に立つと言うんだ?冷たい視線を銃に送りながら、俺は恐怖に震えていた。そう、なぜなら血痕はここで終わっているからだ。いる。アイツは、ここにいる。どこかで銃を投げ捨てた俺を見て嘲笑ってるに違いない。来い。来い来い来い来い来い。
「姿を見せろー!!!」
俺の声がこだましてから、半日が経つだろうか?俺はまだ、生きている。アイツは、姿を見せない。それから暫くして、同僚からの連絡で、あの女性の死体の数キロ先で、顔に無数のナイフを突き刺されたリスの死体が発見された。俺は、考えた。粉々の巨大なビルの瓦礫の上に座って考えた。これまでの追跡劇を一つ一つ思い浮かべながら、考えた。そして一つの仮説が浮かんだ。
「え!?逆なの!?」
夜のビル群に俺の声がこだました。

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