« 「第五百六十二話」 | トップページ | 「第五百六十四話」 »

2017年3月29日 (水)

「第五百六十三話」

 事件現場ってのは、何回経験しても慣れるもんじゃない。刑事の俺が言うんだから間違いない。特に殺人事件ともなれば、なおさらだ。同僚の中には、慣れたって言うヤツもいるが、俺に言わせれば、こんな悪魔の仕業みたいな現場に慣れるなんて、殺人鬼と同じ脳味噌だ。女性の顔に無数のナイフを突き刺して立ち去る殺人鬼とな。
「ん?」
俺は、無惨に横たわる女性の左肩の地面に何かを発見した。小さな血痕だ。不思議とどうやら発見したのは俺だけで、他の人間は誰も発見していない。
「ん?」
視野を広げてみると、その血痕はどこかへ続いていた。俺は考えた。きっと犯人は、女性を襲っている最中に怪我をしたのでは?と。不思議と俺は、その血痕から目が離せなくなっていた。不思議と足が動き、俺は血痕を追った。

第五百六十三話
「血痕を追って」

 俺は、どこかの森にいた。
「なんて事だ。」
そこには、顔に無数のナイフを突き刺された熊の親子が無惨に横たわっていた。きっと、アイツだ。人間の女性だけでは飽き足らず、熊の親子まで殺すとは、凶暴なヤツだ。こんな凶暴なヤツを野放しにしといたら、次は一体誰が犠牲になるか分かったもんじゃない。それが俺の最愛の人間かもしれないって思ったら、憤りがおさえきれなくなった。
「ここは?」
気付くと俺は、見知らぬ町に辿り着いていた。ここでもし、アイツがまた犯行を行ったら?嫌な予感しかしなかった。そして俺が発見したのは、壊れたタクシーだった。幸いにもドライバーはいなかったが、これもきっとアイツだ。アイツの仕業に間違いない。何よりもの証拠に、この血痕だ。対象がエスカレートしている。もはやアイツは、生き物では快楽を得られなくなっているのかもしれない。
「何だと!?」
俺が血痕を追って辿り着いた裏路地の光景は、この世に終焉があるのだとしたらきっと、それがこの光景だ。
「何がどうなってる!?」
俺は、恐る恐るその終焉の裏路地を一歩一歩踏み進んだ。破壊による破壊。まるで爆撃機が爆撃した後のような吐き気のする裏路地。幸いにも死体を目にせずに裏路地を抜ける事が出来たのが救いだ。いや、もしかしたら、無数の無惨な死体を目にしていたのかもしれないが、俺の無意識がそれらの認識を拒絶したのかもしれない。とにかく、このままアイツを野放しにしていたら、とんでもない事になってしまう。だが、俺はここで思った。こんな裏路地の光景を作り出せる相手と対峙した時、俺はそんな殺人鬼を逮捕出来るんだろうか?こんなモンスターを俺一人でどうにか出来るんだろうか?いや、違う。それは、違うぞ。刑事には、返り討ちにされると分かっていてもやらなきゃいけない時がある。
「こんなモノ!!」
俺は、巨大なビルが粉々にぶっ壊されてる中心で、愛用の銃を投げ捨てた。あれが一体何の役に立つと言うんだ?冷たい視線を銃に送りながら、俺は恐怖に震えていた。そう、なぜなら血痕はここで終わっているからだ。いる。アイツは、ここにいる。どこかで銃を投げ捨てた俺を見て嘲笑ってるに違いない。来い。来い来い来い来い来い。
「姿を見せろー!!!」
俺の声がこだましてから、半日が経つだろうか?俺はまだ、生きている。アイツは、姿を見せない。それから暫くして、同僚からの連絡で、あの女性の死体の数キロ先で、顔に無数のナイフを突き刺されたリスの死体が発見された。俺は、考えた。粉々の巨大なビルの瓦礫の上に座って考えた。これまでの追跡劇を一つ一つ思い浮かべながら、考えた。そして一つの仮説が浮かんだ。
「え!?逆なの!?」
夜のビル群に俺の声がこだました。

|

« 「第五百六十二話」 | トップページ | 「第五百六十四話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/70087795

この記事へのトラックバック一覧です: 「第五百六十三話」:

« 「第五百六十二話」 | トップページ | 「第五百六十四話」 »