« 2017年3月 | トップページ

2017年4月

2017年4月 5日 (水)

「第五百六十四話」

 朝の食卓。父と息子が向かい合い、いつもの朝の時間が流れる。大学受験の話、近所の住民の話、今日の予定の話、時折日常会話を挟みながら、無言の朝の時間が流れる。
「・・・・・・。」
父は、息子を見ながら口の中の咀嚼物を飲み込む。
「何?父さん。」
息子は、視線を感じながら、しかし父を見ずに問い掛ける。
「この世界の他に、同じような世界が同時に存在してるとしたら、お前は一体何者だ?」
「はあ?何それ?」
「いや、気にしないでくれ。」
「いや気になるでしょ。朝からそんな訳の分からない事を言われたらさ。どう言う事?同じ世界って?」
「この宇宙の時間の流れには、同時に世界が複数存在してるって説がある。」
「また夜中に変なテレビでも観たの?」
「並行世界。」
「パラレルワールドの事?」
「まあ、お洒落に言うならそうだな。」
「別にお洒落に言ってないよ。それで?その並行世界で僕が一体何者だって、どう言う事?」
「うん、並行世界では違う人生を歩んでいる並行世界が存在してると思うんだ。」
「本当にそんな世界があったら、中には父さんの息子じゃない僕の人生もあるかもね。でも、現実世界の僕に、並行世界で一体何者だって聞かれても分からないよ。」
「父さんはな。複数存在する並行世界の一つの並行世界に焦点を当てる事にしたんだよ。」
「何で、さも複数の並行世界が存在してる体で話が進んでんの?」
「究極の並行世界が存在するとしたらどうだ?」
「いやもう、空想の世界観で妄想されちゃったら話に着いて行けないに決まってんじゃん。何?究極の並行世界って?」
「つまり、シチュエーションが違うだけの並行世界だ。お前が今、学校に向かって歩き出すと、究極の並行世界のお前もどこかに向かって歩き出す。お前が今、食べ物を口にすれば、究極の並行世界のお前も食べ物を口にする。」
「シチュエーションは全く違ってても行動が繋がってる世界って事?」
「簡単に言えば、そうだ。」
「じゃあ、今究極の並行世界では、親子じゃない僕と父さんが、こうして向かい合って何かを話してるって事?」
「そうだ。」
「それで僕が一体何者だって?だったら、父さんだって一体何者なんだよ。」
「そうだな。例えばこうして向かい合って話をしてるとこから想像するとだな?」
「うん。」
「刑事と犯人?」
「何で僕が犯人なんだよ!」
「まあ、例えばだよ。」
「例えだって嫌だよ!」
「殺人犯。」
「何で僕が殺人犯なんだよ!」
「まあ、落ち着けって、これはあくまで究極の並行世界の別のお前の話なんだから。」
「いくら別の世界の話でも息子を殺人犯に例える父親がいる!?」
「お前がやったんだな。」
「何で取り調べ的な事を始める?空想の妄想の想像の世界に寄せてどうすんの!?」
「アリバイも崩れた!証拠も揃った!チェックメイトだ!」
「そうだよ。こうして向かい合って、二人でチェスをしてるかもしれないじゃないか。」
「そんな平和な時間の流れの中の世界に身を置いていたら、どれだけ幸せなんだろうな。」
「この時間の流れの中の世界だって十分幸せじゃん!僕と父さんと母さんと三人で幸せじゃん!」
「まだ、並行世界の空想の妄想の想像の世界にいるのか?」
「えっ!?」

第五百六十四話
「母はいない」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年4月12日 (水)

「第五百六十五話」

 私は、長いエスカレーターに乗っていた。それはとても長い、長いエスカレーターだった。
「オ
ジサン?今、前の女子高生のパンツ見てたでしょ!」
すると私の耳元で女子高生が囁いた。
「何を馬鹿な事を言っている。」
「え?見てたよね?」
「見てない。」
「絶対見てた。」
「私が見ていないと言っているんだぞ?見てない。」
「そんなの全員そう言うに決まってるじゃん。自らの非を堂々と認める人間なんていない。」
「あのな?本当に私は見ていないから見ていないと言っているんだ。」
「これじゃあ、まるで悪魔の証明ね。」
「こう言う時に使う言葉ではないだろ。」
「オジサンは、アタシに女子高生のパンツを見てなかった事を証明出来ない。アタシは、オジサンが女子高生のパンツを見てた事を証明出来ない。」
「だったら、変な疑いを掛けないでもらえるか?」
「いやでもだってさ。オジサン、前の女子高生のパンツ、モロ見えだよ?アタシには、モロ見えなんだよ?アタシがモロ見えって事は、オジサンもモロ見えって事じゃん?だとしたら、オジサンは見てるでしょ絶対!」
「何で絶対なんだ!」
「凝視でしょ!」
「何で凝視なんだ!」
「オジサン、男だよね?」
「当たり前だ。」
「だとしたら、こんな絶好のチャンスを逃すはずないよね?行列の出来るラーメン屋さんに何気なく通り掛かったら、たまたま空いてたのに入らないの?」
「あのな?ラーメンとパンツを一緒にするな。」
「原料は一緒でしょ!」
「全然違うだろ!」
「水でしょ!」
「突き詰めたらな!でも、突き詰めたら何だって水になってしまうではないか!」
「オジサン?別にいいんだよ?」
「何がだ?」
「こーんなに長いエスカレーターなんだから、パンツも見える事もあるよ。それを見てたって誰も責めないって!」
「だから、見てないと言っているだろ!何度言えば分かるんだ!」
「もうあれだね?オジサンが否定すればするほどだね。ムキになればなるほどってヤツだね。」
「ムキになるだろ!見てもいないパンツを見ていると言われているんだぞ!根も葉もない事で侮辱されているんだぞ!私は!」
「いやでもね?これで見てないって言う方がどうかしてると思うよ?モロだよ!モロなんだよ!普通にしてたって視界に入って来ちゃうでしょ!」
「だとしたらそれは不可抗力だ。」
「こう言う時に使う言葉じゃないでしょ。」
「こう言う時に使うべき言葉だろ!」
「エスカレーターで前の女子高生のパンツを見るのが当たり前の世界だったら、そうじゃないと処刑されちゃう世界だったら、見るでしょ?」
「当たり前だ。」
「ほら!」
「パンツを見ざるを得ない状況の世界に引き込んでおいて、ほらはないだろ!ほらは!」
「でもさ?今の状況って、同じじゃない?」
「全然違うだろ!」
「だって、オジサンが女子高生のパンツを見てたって、誰が咎めるの?何の罪になるの?自由じゃん!」
「あのな?自由かもしれないが、私が許さないんだよ!そんな女子高生のパンツを見ながらこの長いエスカレーターに乗っている私自身を私が許せないんだ!」
「つまりそれって、自らと戦ってるって事?」
「そうだ!」
「まだ、アタシを殺した事を責めてるの?」
「・・・・・・。」
「あれは、不可抗力だよ。うん、不可抗力。」
「そんな簡単な言葉で納得出来るはずがないだろ。」
「もういいじゃん!オジサン、十分に償ったって!だからこのエスカレーターにも乗れた訳だし!」
「・・・・・・。」
「泣かないで、オジサン。」

第五百六十五話
「天国へのエスカレーター」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年4月19日 (水)

「第五百六十六話」

 俺の目の前には、アイスコーヒーがあり、灰皿があり、水があり、伝票がある。そう、ここは喫茶店。なぜ、俺が喫茶店にいるのか?これから大事な商談があるからか?これから超大作を創作するからか?これからプロポーズするからか?いいや、どれも違う。俺が喫茶店にいる理由は、暇だからだ。暇で暇でしょうがないからだ。ただただ暇だからだ。とりあえず喫茶店に入ってアイスコーヒーでも飲んで時間を潰そうか感覚だ。だが、ただこうしてアイスコーヒーを飲んでるだけじゃ、暇は潰れない。暇は、そう簡単には潰せない。なら、どうするか?大事な商談をしようにも相手がいないし、そもそも商談そのものがない。なら、どうするか?超大作を創作しようにもそんな特筆した想像力を持ち合わせてない。なら、どうするか?プロポーズしようにも今日は指輪を持ってない。なら、どうするか?こう言った暇を潰すなら、妄想が一番だ。お金も掛からなければ、他人に迷惑を掛ける事もない。人間が出来る最大級の暇潰しだ。
「・・・・・・。」
さてと、妄想するって事にしたが、一体どう妄想しようか?例えば、この喫茶店に巨大なドラゴンが飛来したらどうだ?ドラゴンが天井を突き破り雄叫びを上げると、客達を次々に喰らい始める。逃げ惑う客達を長く太い尻尾で薙ぎ払い、天空に向かって火を吹いたかと思うと次の瞬間、俺はドラゴンと目が合う。このままでは、俺は喰い殺されるか焼き殺されるか尻尾で吹き飛ばされて殺されてしまう。他の客達には申し訳ないが、俺は死にたくない。なら、どうするか?この状況を打破するには、どうするか?
「・・・・・・。」
もちろん、答えは単純明快だ。お客様の中に、伝説の勇者がいれば大丈夫。それで安心。だがどうだ?店内を見渡しても店内はまさに地獄絵図状態で、とてもじゃないが伝説の勇者なんかいない。すると俺は、左側に気配を感じる。見るとそこには、メガネを掛けたジジイがレモンティーを飲んでる。見るからに伝説の勇者じゃないが、見る角度によっては、伝説の大魔法使いにも見えなくもない。これで俺は助かった。きっと、このジジイは、とんでもない大魔法でこのドラゴンを一撃で撃退してくれる。とんでもない大魔法でドラゴンを一撃出来るなら、なぜ店内がこんな地獄絵図になる前にやらないんだって怒りが湧いたが、今は伝説の大魔法使いに説教してる場合じゃない。さあ、何をしてる?とっととこのドラゴンを一撃で撃退してくれ!じゃないと俺がドラゴンに殺される。何を呑気にレモンティーを飲んでるんだ!って、俺がドラゴンから再び伝説の大魔法使いに顔を向けると同時にドラゴンも顔を向け、伝説の大魔法使いの頭にかぶり付いた。俺が次に見たのは、胸から下しか無い伝説の大魔法使いの姿だった。
「あのう?」
「はい。」
「伝説の大魔法使いですか?」
「違います。」
一旦、妄想の世界から現実の世界に戻り、隣のジジイに確認してみたが、隣のジジイは単なるジジイだった。俺は、隣のジジイ中のジジイを睨み付け、妄想の世界へ戻る事にした。
「・・・・・・。」
絶体絶命ってのは、きっとこう言う事なんだろう。俺が画家なら、絶体絶命ってタイトルで、きっとこの絵を描いてる。ドラゴンが天空に雄叫びを上げる。ああ、これで俺の人生も終わった。もっといろいろやりたかったが、これで俺の人生も終わりだ。大事な商談や超大作の創作やプロポーズとかやりたかったが、運命ってヤツは非情だ。
「・・・・・・・。」
死を覚悟して目を閉じた俺の耳に入って来た言葉は、意外なもんだった。

第五百六十六話
「ウチのドラゴンが大変申し訳ございません」

 目を開けると顔面蒼白のオバサンが、俺の目の前に立っていた。そして、深々とエプロン姿で頭を下げると、ドラゴンをペチペチ叩きながら、フライ返しでペチペチ叩きながら、ドラゴンに小言を言いながら、何度も何度も深々と頭を下げながら、ドラゴンの背に乗って喫茶店を出て行った。俺は、飲みかけのアイスコーヒーを一気に飲み干し、伝票を手に取り、隣のジジイの頭をひっぱたくフリをして、隣のジジイを睨み付けながら、レジへと向かった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年4月26日 (水)

「第五百六十七話」

「バリバリバリバリ!!」
嵐の日の夜中、ボクは物凄い雷鳴によって目が覚めた。そして、次の瞬間、物凄い尿意に襲われた。夜中に一人でトイレに行くのは、普通の日だって恐いのに、でも朝起きてお漏らしを発見した時のママの怒りの雷の方がもっと恐いから、恐る恐るボクは、部屋を出てトイレに向かった。
「ガタン!」
すると、何やら一階の玄関の方から音がした。それはもう極限状態だったけど、人間はなぜかこう言う時に限って、その元を確かめるって行動に出ちゃうから仕方ない。恐る恐る階段を下りて行くと、それに比例して玄関に人影が浮かんで来る。
「ピカッ!!」
ボクが、誰だ!って叫ぶ直前に稲光が答えを教えてくれた。玄関に立っていたのは、ママだった。レインコート姿で右手に包丁、左手に女性らしき生首を髪の毛で持つママだった。これは夢?何してるのママ?とボクが問い質そうとしようとした時。
「何してるの?」
先にママから問い質された。
「目が覚めたらトイレに行きたくなって。」
「そう、なら早く行って来なさい。」
「うん。」
何だかこれ以上、この場で何かを聞ける雰囲気でもなくなったから、ボクは階段を上り、トイレに行った。オシッコを済ませて部屋に戻る前にもう一度、玄関を見に行ったけど、そこにはママの姿はなかった。きっと寝惚けて幻でも見てたんだろう。でなきゃ、ボクのママは殺人者って事になっちゃう。さあ、もう寝よう。こんな日は、寝てしまおう。
「ピカッ!!」
稲光で一瞬、ママが立ってた両サイドの床に赤い液体が見えたような気もしたけど、何よりも眠かったボクは、部屋に戻ってベッドに入って、寝た。そして、朝が訪れた。
「ママ?」
「何?」
ボクとママは向かい合って、いつものようにいつもの時間に朝食を食べてた。でも、どうしても夜中の出来事が気になって気になってボクは、口を開いた。
「物凄い嵐だったね。」
「そうね。」
「今日はこんなに晴れてて、まるでウソみたいだね。」
「そうね。」
「そう言えばね。ボク、夜中に物凄い雷鳴で目を覚ましちゃったんだ。」
「そうみたいね。」
ママのこの反応、やっぱり夜中の出来事は、寝惚けて幻を見てた訳じゃないんだ。
「それでね。その時、物凄くオシッコがしたくなったからトイレに行く事にしたんだ。」
「そうみたいね。」
「でね?その時、玄関の方から物音がしたからボク、見に行ったんだ。」
「そうよね。」
「ねぇ?ママ?」
「何?」
「ママは、殺人者?」
遂に聞いてしまった。もう、後戻りは出来ない。でも、きっとこのモヤモヤを胸にしまい込んで、この先の人生を生きて行くなんてボクには出来ない。何か理由があるはずだ。あの状況を納得させてくれる何か特別な理由があるはずなんだ。ママが、ボクのママが特別な理由もなく殺人者になる訳がないんだ。
「そうよ。ママは、殺人者よ。」
「何で!何でママは、殺人者なの!もしかして、あの女性はこの家に来た強盗なの?それをママが返り討ちにしてくれたの?」
「違うわ。あの女は、町の薬局で働いてる薬剤師よ。」
はっ!?確かに、言われてみればそうだ!?生首を思い出す作業なんかしたくもないけど、確かにママの言う通りだ!あの顔は、薬剤師の女性だ!
「ど、どうして!あの人、凄く優しい人じゃないか!」
「でもね。買い物をしてレジでもたつくママに対して、舌打ちをしたの。許せないでしょ?」
「・・・・・・ママ。」

第五百六十七話
「母98歳、息子77歳」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年3月 | トップページ