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2017年4月12日 (水)

「第五百六十五話」

 私は、長いエスカレーターに乗っていた。それはとても長い、長いエスカレーターだった。
「オ
ジサン?今、前の女子高生のパンツ見てたでしょ!」
すると私の耳元で女子高生が囁いた。
「何を馬鹿な事を言っている。」
「え?見てたよね?」
「見てない。」
「絶対見てた。」
「私が見ていないと言っているんだぞ?見てない。」
「そんなの全員そう言うに決まってるじゃん。自らの非を堂々と認める人間なんていない。」
「あのな?本当に私は見ていないから見ていないと言っているんだ。」
「これじゃあ、まるで悪魔の証明ね。」
「こう言う時に使う言葉ではないだろ。」
「オジサンは、アタシに女子高生のパンツを見てなかった事を証明出来ない。アタシは、オジサンが女子高生のパンツを見てた事を証明出来ない。」
「だったら、変な疑いを掛けないでもらえるか?」
「いやでもだってさ。オジサン、前の女子高生のパンツ、モロ見えだよ?アタシには、モロ見えなんだよ?アタシがモロ見えって事は、オジサンもモロ見えって事じゃん?だとしたら、オジサンは見てるでしょ絶対!」
「何で絶対なんだ!」
「凝視でしょ!」
「何で凝視なんだ!」
「オジサン、男だよね?」
「当たり前だ。」
「だとしたら、こんな絶好のチャンスを逃すはずないよね?行列の出来るラーメン屋さんに何気なく通り掛かったら、たまたま空いてたのに入らないの?」
「あのな?ラーメンとパンツを一緒にするな。」
「原料は一緒でしょ!」
「全然違うだろ!」
「水でしょ!」
「突き詰めたらな!でも、突き詰めたら何だって水になってしまうではないか!」
「オジサン?別にいいんだよ?」
「何がだ?」
「こーんなに長いエスカレーターなんだから、パンツも見える事もあるよ。それを見てたって誰も責めないって!」
「だから、見てないと言っているだろ!何度言えば分かるんだ!」
「もうあれだね?オジサンが否定すればするほどだね。ムキになればなるほどってヤツだね。」
「ムキになるだろ!見てもいないパンツを見ていると言われているんだぞ!根も葉もない事で侮辱されているんだぞ!私は!」
「いやでもね?これで見てないって言う方がどうかしてると思うよ?モロだよ!モロなんだよ!普通にしてたって視界に入って来ちゃうでしょ!」
「だとしたらそれは不可抗力だ。」
「こう言う時に使う言葉じゃないでしょ。」
「こう言う時に使うべき言葉だろ!」
「エスカレーターで前の女子高生のパンツを見るのが当たり前の世界だったら、そうじゃないと処刑されちゃう世界だったら、見るでしょ?」
「当たり前だ。」
「ほら!」
「パンツを見ざるを得ない状況の世界に引き込んでおいて、ほらはないだろ!ほらは!」
「でもさ?今の状況って、同じじゃない?」
「全然違うだろ!」
「だって、オジサンが女子高生のパンツを見てたって、誰が咎めるの?何の罪になるの?自由じゃん!」
「あのな?自由かもしれないが、私が許さないんだよ!そんな女子高生のパンツを見ながらこの長いエスカレーターに乗っている私自身を私が許せないんだ!」
「つまりそれって、自らと戦ってるって事?」
「そうだ!」
「まだ、アタシを殺した事を責めてるの?」
「・・・・・・。」
「あれは、不可抗力だよ。うん、不可抗力。」
「そんな簡単な言葉で納得出来るはずがないだろ。」
「もういいじゃん!オジサン、十分に償ったって!だからこのエスカレーターにも乗れた訳だし!」
「・・・・・・。」
「泣かないで、オジサン。」

第五百六十五話
「天国へのエスカレーター」

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