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2017年5月10日 (水)

「第五百六十九話」

「先生、どうしたんですか?まさかのいっつも締め切り限界ギリギリアウトの先生からの呼び出しだなんて、もしかしていよいよアタシにプロポーズ?」
出版社の女。
「だから何で美人だけが取り柄のお前にプロポーズしなきゃなんないんだよ!」
物書きの男。
「美人だけがって言いますけど!美人ってかなり上級ツールですけど!ハイスペックツールですけど!伝説の武器レベルですけど!」
「美人はな。寿命が短い。」
「怒られますよ。」
「何に。」
「いや何かに絶対確実怒られますよ。で、それでアタシを呼び出した意図は何ですか?新作が書き上がってるって様子もないですけど?」
「いつもいつも、お前が小説のアイデアを持って来るだろ?やれ、恋愛小説を書けだのとかさ。」
「何でちょっと、いやかなり迷惑そうに言うんですか?出版社の立場から言えば当たり前の仕事してるだけですけど?」
「美人だったら何したっていいのか!!」
「どう言う怒られ方してるんですか?アタシは?」
「と、以前の俺ならツバキを撒き散らしながら怒鳴っていただろう。」
「いや今もそこそこでしたけど?だから先生、本題は何なんですか?」
「私は、泣ける作品を書こうと思う!」
「はあ。」
「泣ける作品を書こうと思う!」
「どぞ。」
「ケッ!」
「ケッ!って、実際に不愉快になる人、初めて見ましたよ。てか、きっと先生は、あまりにも無反応なアタシに不愉快なんですよね?」
「ケッ!」
「せっかく自ら売れる作品のアイディアを出したのに、あまりにも無反応なアタシに不愉快なんですよね?」
「ケッ!」
「当たり前じゃん!」
「ケッ!?」
「そんなの誰もがそう思ってそうしようとしてる普通の領域じゃん!むしろ今までよくぞそこに辿り着きませんでしたね!って話ですよ!」
「ド定番か。」
「ド定番中のド定番ですよ。」
「よし!そのド定番中のド定番と真っ向勝負しよう!」
「先生!いよいよやる気になってくれたんですね!」
「俺はいつでもやる気だったけど?」
「売れる作品に対してって意味ですよ。」
「語弊が凄いな、お前。」
「でもでも、先生?肝心なのは、作品の方向性じゃなくて、中身ですよ!特に先生の場合は!」
「顔が近い。」
「美人が顔近付けたら、喜びましょうよ。」
「くしゃみしていい?」
「有り得ないでしょ。この零距離でくしゃみは。」
「鼻糞飛ばしていい?」
「もっと有り得ないでしょ。」
「オナラしていい?」
「零距離ならむしろオナラが一番マシです。って、零距離で何がどうとかどうでもいいんですよ。」
「お前が早く離れないからだろ。そう、肝心なのは内容なんだよ。単純に、泣ける作品では面白くない。俺が書くんだから、オリジナリティが必要だ。」
「いやその先生のオリジナリティ、一回無しにしません?あれがかなりのネックなんですよね。」
「あのな?俺もバカじゃない。」
「そうなんですか!?」
「そうなの!?」
「先生まで驚愕しちゃったら、誰がこの現場を収集するんですか。」
「泣ける作品は、チョロい。」
「怒られますよ?」
「何に。」
「何かに絶対確実怒られますよ。チョロい訳ないじゃないですか!」
「だって、とりあえず誰かが死ねばいんだろ?」
「とりあえず誰かが死ねばいいってもんじゃないでしょ!」
「人は不思議だよ。」
「何ですか?急にシリアスモードになって。」
「死ぬ事からは回避不能なのに、生きてる事への奇跡を日々歓喜しない。」
「口説いてるんですか?」
「口説くかよ!どんな口説き文句だよ!ただ単純に、いい言葉を発しただけだよ!」
「いい言葉でした?」
「いい言葉でしたよ。」
「泣ける作品の内容とは?」
「余命の主人公とか、家族を殺された復讐劇とか、タマネギ切りまくってるとか、眼球殴るとか、そんなんじゃないんだよ!俺が書きたい泣ける作品ってのはさ!」
「良かったぁ。後半マジでヤバかったですもん。」
「読み手が全員泣ける作品を俺は書く!」
「いやいやいや、ちょっと先生?先生ちょっと?それはそれで不可能ですよ。人それぞれに泣けるツボがあるんですから、読んだ人全員ツボる泣ける作品は無謀です。無茶です。」
「お前、バカだろ?」
「アタシ、バカなの!?」
「えそうなの!?」
「いやだから、収集出来なくなるんでやめて下さい。だって、そんな読んだ人が全員泣くなんて、どう考えたって無理じゃないですか!」
「その無理じゃないですか!って言う事を思い付いたから、呼び出したんだろ?」
「マジですか?」
「マジですよ。」
「死んだ両親に誓えますか?」
「死んでないけどな。誓えるよ。」
「では、どぞ。」
「あのな?内容に拘るから全ての人を泣かす事が出来ないんだよ。」
「はい?」
「いいか?問題なのは、内容なんかよりも読ませ方なんだよ。」
「はい?読ませ方?」
「だから、この作品を読む為の読み方を冒頭に書くんだよ。」
「すいません。嫌な予感しかしないんですけど?因みに、一体先生は冒頭に何を書くつもりなんですか?」
「ふっふっふっ!これで泣ける作品の時代は大きく前進するだろよ!驚くなよ?こう書くんだ!!」

第五百六十九話
「常に足の小指を何かの角にぶつけながら読んで下さい」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・帰ります。」
「じゃあ!常に眼球を殴りながら読んで下さい、は?」
「また、来ます。」
「なら!アナタが一番泣ける作品を思い浮かべながら読んで下さい、は?」
「お邪魔しました。」
「これならどうだ!鼻毛を」
「バタン!!」

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