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2017年5月 3日 (水)

「第五百六十八話」

「お兄さん?何してるんですか?」
「警察のコスプレの人こそ、こんな所で何をしてるんですか?」
長閑な真っ直ぐで、果てしなく真っ直ぐな、左右には広大なトウモロシ畑がある道の真ん中で、男は落ちている傘を見下ろしていた。
「警察のコスプレの人じゃなくて、警察です。」
「じゃあ、警察のコスプレの人じゃない警察の人こそ、こんな所で何をしてるんですか?」
「危ないから、お兄さんを注意しようと思いましてね。」
「僕、危ないんですか?間もなく爆撃機が爆弾を投下でもするんですか?」
「それを警察が一人一人に懇切丁寧に注意を促してたら、終わっちゃいますよ。ではなくて、こんな道の真ん中に立ってたら、危ないですよ。と、注意しようと思いましてね。いくらここが長閑だと言ってもむしろその長閑につけ込んで、ドライバーはスピードを出すもんなんですよ。」
「警察のコスプレの人じゃない警察の人。」
「警察の人でいいでしょ。警察のコスプレの人じゃないいらないでしょ。」
「見て下さい。」
「傘ですね。」
「傘です。」
「誰かが落としたんでしょう。」
「誰かが落としたんだと思います。」
「ん?壊れてますね。」
「壊れてます。」
「なら、誰かが捨てたんでしょう。」
「誰かが捨てたんだと思います。」
「なるほど、それでお兄さんは、このまま傘が道の真ん中に落ちてると危険だから、拾って脇に置いとこうしたんですね?」
「違います。」
「違います!?じゃあ、本当に何をしてるんですか?」
「僕、傘が恐いじゃないですか。」
「知りませんよ。知りませんし、傘が恐いだなんて言う人に会った事ないですよ。」
「はじめまして。」
「はじめましてですけど、傘が恐いなら、むしろ近付かなければいいじゃないですか。」
「近付きたいじゃないですか。」
「ちょっともはや意味が不明なんですけど。」
「恐いもの見たさってあるじゃないですか。ジェットコースターに乗るとか、お化け屋敷に入るとか、釘を目玉にどれだけ近付けられるとか。」
「いやちょっと最後のは共感出来ません。つまりは、恐いもの見たさで傘に近付いていると。」
「そうです。」
「理由は分かりました。でもやはりここは危険です。ちょっと脇に行きましょう。」
「この状況でどうやって脇に行くんですか?」
「私が傘を移動させます。」
「よく持てますね。」
「普通ですよ。」
「よく持って移動出来ますね。」
「傘ってそう言うものですからね。」
「痛くないですか?」
「痛くないでしょ。」
「噛みません?」
「傘を何だと思ってるんですか?とりあえずここに置きますね。」
「急に開かないですよね?食べられないですよね?」
「急に開く事はあっても食べたりはしません。」
「恐いですね。」
「いえ、まったく。ところで、ずっと気になってたんですけど、なぜそこまで傘に恐怖心を抱いてるんですか?」
「傘って、武器ですよね。」
「武器ではないです。雨に濡れない為の道具です。」
「武器の中でも雨から身を守れる唯一の武器ですよね。」
「だから武器ではないです。」
「だって、傘で人を殴る事が出来るじゃないですか。傘で人を突き刺す事だって出来るじゃないですか。」
「いやそれは、武器として使おうと思えば使えるって話ですよね?そんな事を言ったら、包丁だってノートパソコンだってドライヤーだって、武器になっちゃうじゃないですか。」
「なりませんよ。」
「何で傘が武器だって言う人に鼻で笑われなきゃならないんですか。」
「傘の恐ろしさを知らないからですよ。包丁やノートパソコンやドライヤーは、使用しない人の方が多いでしょ?でも、傘はどうです?雨が降れば傘、日差しが照り付ければ傘、傘傘傘!老若男女、職業問わずにとにかくどいつもこいつも傘じゃないですか。傘傘傘じゃないですか!」
「いいじゃないですか。そう言う時の為の傘なんですから。」
「警察のコスプレの人じゃない警察の人はさ。」
「そんな風に呼ばれてた事、忘れてましたよ。」
「銃や刃物を持ち歩いてたら、取り締まりますよね?」
「取り締まりますよ。」
「傘はなんですか?警察公認の武器なんですか?」
「傘は傘だと警察も認識してますよ。」
「年間、どれだけの傘の事故や事件が起こってると思ってるんですか?」
「起こってるんですか?」
「もう集計するのもバカらしくなっちゃうくらい起こってますよ。」
「じゃあ、お兄さんは雨が降ったらどうしてるんですか?」
「こうしますよ。」
「傘差してんじゃないですか!」
「差してないじゃないですか。こうしてるだけですよ。」
「エアー?フリですか?傘を差してるフリなんですか?」
「これで十分でしょ。」
「不十分でしょ!ずぶ濡れじゃないですか!」
「なぜ、ずぶ濡れちゃいけないんでしょう?」
「風邪引いちゃいますよ?」
「お母さんみたいな事を言うんですね。実は、警察のコスプレの人じゃない警察の人じゃない僕のお母さんですか?」
「警察の人です。あのう?それじゃあ、私もう行きますね。」
「今の会話の中で密室トリックのヒントを得たから連続殺人事件を解決しに行くんですね。」
「見回りです。それと、雨が降った時には、ちゃんと傘差して下さいね。」
「やっぱりお母さん?」
「違います!」
自転車に乗り、果てしなく真っ直ぐ道を走り去る警察の背中が見えなくなるまで見た後、男は落ちてた傘を手に取り、トウモロシ畑に投げ込んだ。

第五百六十八話
「・・・・・・こらーっ!!」

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