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2017年6月14日 (水)

「第五百七十四話」

「殺す気でしょ?」
まさか、生きてる間にこんな言葉を口にするとは、思ってもみなかった。しかも、親友に対して・・・。そう、今日は朝から曇天で、時間の流れなんか分かったもんじゃない中、俺は新作のデザインを暗中模索してた。数年前、親友と立ち上げたデザイン事務所だったが、学生のノリと言うか飲みの席でもノリと言うか、んまあ現実なんてもんは酷いもんで、でもそんな袋小路の現実社会でも何とか自分達の道を切り開いて行こうと俺達は必死だった。今日だってそうだ。気付けば夜中になってるぐらい俺は、デザインを書いては捨て書いては捨て書いては捨て書いては捨てしてたら、背後に頭から爪先まで黒黒黒のファッションで、その親友が立っていた。だから俺は言ったんだ。
「殺す気でしょ?」
と。
「はあ?お前、何言ってんだよ。」
「いや、言うだろ。そんなあからさまな格好で後ろに立ってたら、言うだろ。殺す気でしょ?ってさ。今使わないで一体いつ使えばいい言葉なんだよってくらいにさ。」
「休みの日なのに事務所に明かりが点いてるからもしかしたらと思って来てみたら、お前がいたんだよ。」
「うんじゃあ、そのポケットからはみ出てるロープは?」
「だから、もしかしたらと思ってって言っただろ?」
「いやいやいや、お前のもしかしたらを俺が瞬時に理解出来る訳がないでしょ?人それぞれに人それぞれのもしかしたらがあるんだからさ。」
「もしかしたら、強盗じゃないかと思ったんだよ。」
「・・・いや、待て待て待て!待ってくれ!待ってくれ待ってくれ!」
「待ってるよ。」
「はあ!?」
「はあ!?って何だよ。」
「おかしいだろ!それ絶対おかしいだろ!強盗かと思ってポケットにロープで背後って、無理ない?無理無理無理!それは、無理!」
「何が無理なんだよ。」
「強盗だったら警察呼べばいいだろ?こんな距離まで俺だって分からない訳がないし!」
「デスクの上のライトだけじゃ分からないだろ?ゴソゴソしてたしさ。」
「いや確かにゴソゴソはしてたけど、え?お前何?警察呼ばないで強盗だったら殺してしまおうって考えたの?」
「その方が早いだろ?」
「何が?この場合、何が早いの?何と競争してんの?恐い恐い恐い!俺を殺す気じゃないんだったとしても誰か殺す気だったんじゃん!」
「強盗するような奴だぞ?殺されたって仕方ないし、殺されたって悲しむのは、その家族ぐらいだろ?そんなの世界の人口に比べたらゼロに等しい数だろ?」
「何だよその犯罪イコール死刑な発想は!何だよその不条理なルールブックは!」
「いや別にそうじゃないよ。」
「そうだろ!」
「俺達の事務所に強盗が入ったらの話で、他のとこに入った強盗は殺さないよ。ああ、強盗に入られて可哀想だなって思うぐらいだよ。」
「ああ、強盗に入られて可哀想だなって思うぐらいだよじゃない!そのまず、降りかかる火の粉を殺害で丸く収めようって発想がいかがなもんだろ!どうすんだよ!その死体!」
「その時は、お前に連絡して手伝ってもらおうと思った。」
「思うな!俺に訳の分からない犯罪の片棒を担がせるな!」
「山に埋めるか溶かすかブタの餌にすれば大丈夫だろ。」
「マフィアか!俺達は!」
「でも許せないだろ!強盗だぞ!大事なモンを盗んだんだぞ!俺達の大事なデザインを盗んだんだぞ!」
「ああ、やっぱり殺す気でしょ?お前、俺の事を殺す気でしょ?」
「何で?どうしてパートナーのお前を殺す必要があるんだよ。」
「だって、お前!そもそも咄嗟にそんな格好が出来るか?都合良くロープ用意出来るか?」
「咄嗟にこんな格好が出来る事だって、都合良くロープが用意出来る事だってあるだろ?」
「お前、気付いたんだろ?」
「気付いた?何に?」
「俺と奥さんとの関係についてさ。大事なモンを盗んだ俺に、気付いたんだろ?」
「・・・・・・・・・。」
「ごめん!本当にごめん!もう二度と奥さんとは会わないし連絡も取らない!誓うよ!だから、殺さないでくれ!」
「確かに、俺はお前と妻の関係に気付いた。確かに、俺は大事なモンを盗まれた。」
「頼む!殺さないでくれ!」
「もう遅い。」
「えっ?やめろ!頼む!やめてくれ!」
「だから、妻を殺した。」
「え?」
「俺から大事なモンを盗んだ妻をな。」
「・・・お前。」
それから俺達二人は、朝までデザインを創作し続けた。

第五百七十四話
「私を殺す気でしょ?」

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