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2017年7月12日 (水)

「第五百七十八話」

 私は、間違えて喫茶店に入ってしまった。そして、間違えてアイスコーヒーを注文してしまった。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」
「ありがとう。」
テーブルの上には、アイスコーヒー。なぜ、私は帰らなかった?間違えて喫茶店に入って、間違えてアイスコーヒーを注文してしまったのなら、その間違えを訂正して、帰ればよかったじゃないか。ごめんなさいと謝り、帰ればよかったじゃないか。何をミルクとシロップを入れてストローでかき混ぜて間違えて入った喫茶店の間違えて注文したアイスコーヒーを飲んでいるんだ私は!
「もしかして、貴方も?」
「はい?」
間違えて入った喫茶店の間違えて注文したアイスコーヒーを一口胃に流し込んだ時、隣のテーブル席の女性が不思議な話題を話し掛けて来た。
「もしかして貴方も間違えて喫茶店に入って、間違えてアイスコーヒーを注文してしまったんですか?」
「はい。」
「やっぱり!そうじゃないかなって思って一部始終をガン見してたとこなんですよ!」
「はあ。」
果てしなく、そして果てしなく意味が分からないぞ?貴方もと言う事は、彼女もまた私と同じ間違いをしていると言う事か。ん?だがどうだ?彼女のテーブルの上には、アイスコーヒーではなくオレンジジュースが置かれているぞ?これは矛盾だ!果てしなく、そして果てしなく矛盾だ!
「うふふ。」
「ははは。」
なぜ笑う?なぜそんなに愛らしく笑う?明日、世界が滅亡すると分かっていてもキミは、そんな笑顔が出来るのかい?
「分かりますよ。」
「え!?明日、世界が滅亡するのか!?」
「え!?そうなんですか!?」
「いやでも今、分かるって!」
「ああ、何でアタシのテーブルの上には、アイスコーヒーじゃなくて、オレンジジュースなんだろう?って、疑問に思ってるのが分かるって意味です。」
「ああ、そっちか。ビックリした。」
「ビックリしたのは、こっちですよ。急にアルマゲドン的な事を言い出すんだもん。」
「申し訳ない。」
なぜ、なぜ私は愛想笑いで見ず知らずの女性に謝らないといけないんだ?なぜ、こんな状況が生まれた?
「このオレンジジュースは、間違えて喫茶店に入って、間違えて注文したアイスコーヒーを飲み終えた後に、間違えてオレンジジュースを注文した結果です。」
何を言っているんだか果てしなく意味が分からないぞ?だからここは、素直に聞いてみようではないか。
「どう言う事ですか?」
「だから、間違えて喫茶店に入って、間違えてアイスコーヒーを注文して、更に間違えてオレンジジュースを注文しちゃうんですよ!」
なぜ笑う?なぜそんなに愛らしく笑う?明日、世界が滅亡すると分かっていてもキミは、そんな笑顔が出来るのかい?
「はあ。」
「分かりますよ。」
「やはり明日、世界が滅亡するのか!?」
「何でそうなるんですか。そうじゃなくて、この女、何を果てしなく訳が分からない事を言ってんだって思ってるのが分かるって事です。」
「申し訳ないが、その通りだ。」
「つまり、貴方もまた、これから間違えてオレンジジュースを注文しちゃうって事ですよ!」
「まさか!?」
「そのまさかなんです。」
なぜ笑う?なぜそんなに愛らしく笑う?明日、世界が滅亡すると分かっていてもキミは、そんな笑顔が出来るのかい?いや、これで三度目だから同じ間違いはしないが、どうなっているんだ?彼女は、私より少し前のおっちょこちょいを歩んでいると言う事か?
「はあ。」
「分かりますよ。」
「そんなに明日、世界を滅亡させたいのか!」
「ちょっと、落ち着いて下さい。いいですか?アタシは、少し前の自分を見てるみたいだったから、貴方に話し掛けたんです。」
「え?」
「おっちょこちょい、なんですよね?」
「まあ、自慢じゃないが、そうだ。」
「アタシもです。キャベツとレタスは絶対に間違えちゃうし、電車もエレベーターも絶対に乗り間違えちゃうし、階段、間違えちゃいますよ。」
「なるほど、キミも本当は上の美容室に行こうとした訳か。」
「そうなんですよ!」
そう言えば、どこか風の噂程度にうっすら何となく果てしなく透明なこんな話を耳にしたようなしないような?そう、おっちょこちょいは、おっちょこちょいを引き寄せる、と。まあ、果てしなく噂だが、とにかくなんだ。落ち着いたら、ノドが渇いた。ん?間違えて入った喫茶店の間違えて注文したアイスコーヒーもなくなってしまったな。
「すいません!オレンジジュース下さい!あっ!」
「ほら!」
「ははは。」
「うふふ。」

第五百七十八話
「血だらけの二人」

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