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2017年9月 6日 (水)

「第五百八十六話」

 飛び降り自殺したら、絶対に死ぬだろう高さのマンションの屋上に男が2人。
「スナイパーですか?」
「はい?いや、スナイパーじゃないです。」
「なら、こんな所で何をしてるんですか?」
「自殺ですよ。」
「じ、自殺!?」
「いや、普通ぼーっとこんな場所に立ってる人がいたら自殺でしょ。そう言う貴方も自殺ですか?」
「いえいえいえ、私はスナイパーです。」
「ああ、だから。」
「はい。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・スナイパー!?」
「そうです。」
「スナイパーって、初めて見ましたけど、映画やゲームの中から飛び出して来たみたいな出で立ちなんですね!?」
「映画やゲームで研究しましたから。」
「ああ、だから。」
「はい。」
「その?あれですか?やっぱり、誰かの依頼で、誰かを殺すんですか?」
「はい。誰かの依頼で、誰かを殺すんです。スナイパーですから。」
「いやあ、そう言うのって、ない事じゃないとは思ってたんですけど、こんな身近であるとは思ってもみなかったです。」
「きっと、気付かれてないだけで、結構ありますよ。」
「そうなんですか!?」
「それよりも、こんなスナイパーの私の話よりもです。なぜ、自殺を?」
「スナイパーさんの話、興味津々ですけどね。僕ですか?在り来たりな話ですよ。僕、この向かいのマンションに住んでるんです。」
「同じぐらいの高さなのに、わざわざ向かいのマンションで飛び降り自殺と言う事は、そこにも何か理由があるんですね。」
「ええ、妻にね。」
「奥さんに?」
「妻に、自分が飛び降りる瞬間を見せようと思いましてね。その光景を目に焼き付けてもらおうと思いましてね。」
「穏やかではないですね。」
「所謂、復讐ってヤツです。」
「復讐ですか。」
「僕も僕ですけど、妻も妻なんです。」
「何か深い事情がありそうですね。」
「僕、小さな会社を経営してるんです。」
「社長さんでしたか。」
「社長と言ってもホント小さな会社で、しかも全く上手くいかないんです。それで毎日毎日、妻とは大ゲンカです。」
「それは大変ですね。」
「ええ、会社は上手く行かない。家庭も上手く行かない。負のスパイラルって言うんですか?どんなに仕事の経営が上手く行かなくてもそれでも妻は、応援してくれるもんだと思ってたんです。」
「そうでしたか。」
「でも、毎日毎日、家に帰ればお互いを傷付け合う暴言の嵐です。」
「しかし、どん底の今の状態が、ずっと続くとは思えません。今は、じっとガマンする時期なのではないですか?なにもこんな死に方する必要ないじゃありませんか。」
「言われたんです。妻に。」
「なんと?」
「アナタなんか、死ねばいい、と。だから、死んでやる事にしたんです!望み通り死んでやる事に!もう、愛はないんだって確信しましたから!」
「人を殺して生業にしている私が言うのもあれなんですが、死ぬんじゃない!」
「えっ!?」
「いや、やはり驚かれますよね。しかし、やはりこんな死に方は、おかしいですよ。在り来たりな言葉で言うなら、逃げてるだけですよ。それはきっと、私が想像も付かないぐらいの辛い日々をお過ごしだったのでしょう!なにもかもをお一人で抱え込んでいたのでしょう!それでもやはりこれはおかしいですよ!」
「スナイパーさん。」
「まだ何か!まだ何か別の方法があるはずです!まだ何かやり残した方法があるはずです!見過ごしてる方法があるはずです!一時の感情で、こんな事をしたらダメです!事実どうでしょう?今まで誰にも話せなかった事を見ず知らずのスナイパーに語る事で、少しは気が晴れたのではないですか?」
「ええ、実は少しだけ気が晴れました。」
「そうでしょ!だから、自殺を考える前に、もう一度冷静な頭で、何か別の方法を考えてみて下さい。復讐して死ぬよりも離婚して生きてもいいじゃありませんか。そんなに頑固に生きてても息が詰まるだけです。負のスパイラルに巻き込まれるだけです。」
「スパイラルさん!」
「スナイパーです。」
「スナイパーさん!ありがとうございます!僕、目が覚めました!もっともっともっともっと!色々な方法を考えてみます!」
「はい!」
「そうと決まれば、こんなとこで自殺なんかしてる場合じゃない!まずは、家に帰らなきゃですね!」
「そうですね!」
スナイパーと固い握手を交わした男は、屋上から去って行き、自分のマンションへと帰って行った。スナイパーは、その一部始終をスコープから見届けると、抜群のタイミングで引き金を引いた。
「申し訳ない。自殺では、私に報酬が支払われないのです。そうですよね?奥さん。」

第五百八十六話
「スナイパーとターゲットとクライアント」

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