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2018年1月

2018年1月 3日 (水)

「第六百三話」

 或るスープ屋さん。お爺さんが座るテーブルに若い女性店員がスープを運んで来た。
「お待たせしました。コーンポタージュスープで御座います。」
「おい!」
「はい?」
「私は、コーンポタージュスープを注文したんだぞ!」
「はい、ですからコーンポタージュスープで御座います。」
「違う!」
「違う?」
「コーンポタージュスープを注文した客に、コーンポタージュスープを持って来てどうする!」
「コーンポタージュスープを注文なさったお客様に、コーンポタージュスープを持って来る事は、当たり前ではないでしょうか?」
「つまりアレだな?お嬢さんは、注文と言う質問に対して、コーンポタージュスープと言う正解を持って来た訳だな。」
「はい。」
「違う!」
「違う?」
「違う!」
「違う?」
「不思議そうな顔で私を見るんじゃない!」
「でも、お客様のおっしゃってる意味が分からないです。」
「あのな?コーンポタージュスープを注文した客に、コーンポタージュスープを持って来てもだ!そこに何の物語も生まれないだろっつってんの!私は!」
「物語?」
「物語!」
「物語?」
「物語!」
「ならアタシは、コーンポタージュスープではなく、一体何を持って来たら良かったのでしょう?」
「それは、分からないよ!だがな!コーンポタージュスープを注文して、コーンポタージュスープを持って来るのだけは、正解じゃない!この場合はな!」
「この場合は。」
「そう!この場合はな!でも、かと言ってだ!私が、お嬢さんが持って来るだろうなぁ?コーンポタージュスープじゃなくてゾウのションベン持って来るなって想像出来ちゃうヤツを持って来ても正解じゃない!」
「ゾウのションベン!?」
「例えばな。」
「例えなんですか!?」
「いいか?これはもう、私が想像出来ちゃってるから物語にはならないが、私が想像出来ちゃってない体でお嬢さんがコーンポタージュスープじゃなくて、ゾウのションベンを持って来たとしよう。するとどうだ?どうなる?」
「怒られます。」
「ちょっとやってみよう。」
「やってみる?」
「いいから、やれば分かるから!」
「は、はい。」
「じゃあ、持って来るとこから!」
「お、お待たせしました。ゾウのションベンで御座います。」
「ゾウのションベン!?私が注文してのは、コーンポタージュスープだぞ!それが何でゾウのションベン!?」
「申し訳御座いません!」
「いや、いい。いいよ。本気の深いお辞儀とかしないでさ。でも、分かるだろ?こう、何かそこに物語が生まれる感じがさ。ああ、これから物語が始まるんだなって感じがさ。」
「分かりません。」
「分からない!?」
「分かりません。」
「だって、コーンポタージュスープを注文したのに、ゾウのションベンだぞ?」
「どうして、コーンポタージュスープを注文したお客様に、わざわざ怒られてまでゾウのションベンを持って行かないといけないのかが分かりません。」
「委員長か!」
「違います。」
「分かってるよ!真面目かって話だよ!そりゃあ、確かに真面目に働くのは、とてもいい事だ!物凄くいい事だ!でもな?でも、私にとったら、コーンポタージュスープを注文して、ゾウのションベンを持って来られる方がいい事なんだよ。物凄くいい事なんだよ。なぜなら、そこに物語が生まれるからな!」
「その物語が生まれると言う意味が分かりません。」
「物語が生まれるって言うのはな?」
「はい。」
「何気ない日常を過ごしてるとだ。何気ない一日を送り、何気ない一年が過ぎる。そして気付くと何気ない一生を終える。それはある種の恐怖なんだよ。だが、その恐怖に打ち勝つ方法が一つだけある!それが物語だ!何気ない日常を一変する物語だ!いいか?この場合の日常と言うのは、己が想像出来る全ての日常だ。宝くじに当たったり、背中から翼が生えて空を飛んだり、コーンポタージュスープを注文したのにゾウのションベンを持って来られたりエトセトラエトセトラ、それら全てが何気ない日常を指すんだ!つまり、何気ない日常からは、自らの力では逃れられないって訳だ!それが私の辿り着いた答えだ!導き出した答えなんだよ!だから、自分以外から物語を与えてもらわないとダメなんだよ!」
「だとしたら、アタシには、お爺さんに物語を与える事は、出来ません。」
「いや、出来る!」
「何で!?」
「諦めるな!」
「諦めるも何もそれ以前の話です!コーンポタージュスープを注文して、ゾウのションベンを持って来られても想像の範疇だっておっしゃるお爺さんに対して、普通の考えしか持ち合わせてないアタシが物語を与えるなんて、絶対に無理です!」
「ちょっとやってみよう。」
「いや、無理ですよ!」
「無理無理言ってても物語は始まらない!いいから試しにやってみなさい。お爺さんを信じなさい。」
「えっ!?じゃ、じゃあ、えーと?お待たせしました。父がアタシをここまで育ててくれる為に流した汗です。」
「ハートフル!?ハートフルが来ちゃった!?ハートフルが来ちゃいましたよ!?ここで、ハートフルを持って来るとは、なかなかお嬢さんもやりますなぁ。あ、実は何だかんだでもしかして前にもこう言う事、やってたりした?」
「やらないですよ!こんな事!」
「だって、普通はさ。ゾウのションベンの例えがあったらだよ?初めてだって人は、他の動物のションベンを持って来るもんだよ。なのに、父が今まで流した汗って!」
「これで気が済みましたか?」
「でもね?お嬢さん?残念ながら、今のも私の想像出来ちゃうヤツだ。」
「本当ですか?」
「ん?私を疑ってるのか?」
「疑ってる訳じゃありませんけど、だったら、アタシが何を言ってもダメなんじゃないでしょうか?お客様は、こう言う事に関して、プロフェッショナルって言うんですか?そんな人にド素人のアタシが物語を与える事は、やっぱり無理ですよ!」
「果たして本当にそうだろうか?」
「そうですよ!」
「個人の想像力には、限界がある!私は常日頃から、そう考えている。」
「そうかもしれないですけど、やった事のない人間がいきなりやれって言われても無理ですよ!」
「次!」
「え?」
「え、じゃなくて!ほら、次をやってみなさい。今ので終わりじゃないだろ?私には、お嬢さんが何かとんでもない想像力を隠し持ってるのが感じ取れる。」
「それは、お爺さんの勘違いです。」
「分かった。次で最後にする。物語が生まれようが、生まれまいが、次で最後にしよう。」
「本当ですか?」
「私を誰だと思ってるんだ?」
「誰なんですか?」
「爺さんだ!」
「はあ。じゃあ、本当に次で最後ですよ?」
「ああ、泣いても笑っても怒ってものたうち回っても次で最後だ。」
「わ、分かりました。」
「ああ、お嬢さん。」
「何ですか?」
「先にこれだけは言っておこう。ありがとな。」
「え?」
「こんな爺さんのこんな事に付き合ってくれて、本当に感謝する。ありがとう。」
「あ、いえ!あの、頭を上げて下さい!」
「さあ!お嬢さん!最後にバシッと決めてくれ!」
「わ、分かりました。お待たせしました。」

六百三話
「冷めたコーンポタージュスープ」

「で御座います。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
しばらくの沈黙の後、お爺さんは、激怒した。若い女性店員は、何度も何度も頭を下げて謝った。新しいコーンポタージュスープを作り直す提案を断り、お爺さんは冷めたコーンポタージュスープを一口飲むと、去り際の若い女性店員に、親指を立てた右手を突き出した。それに笑顔と同じポーズで答えた若い女性店員は、厨房へと姿を消した。

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2018年1月10日 (水)

「第六百四話」

「おい、カメ。」
「何だ?カエル。」
「誰が、カエルだよ。」
「誰がって、お前がだよ。」
「俺は、カエルじゃない。」
「カエルじゃない!?どっからどう見てもカエルのお前がカエルじゃないとしたら、一体何なんだよ。」
「神だ!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・神だ!」
「カエルだろ!ずっとカエルだったろ!それが何で急に神様なんだよ!」
「でもアレだぞ?こう言うのって、以外と急だぞ?そんな何か段階を踏んでって訳には現実は行かないぞ?」
「何を言ってんの?」
「だから、俺はカエルじゃなくて、実は神だって言ってんの!」
「じゃあ、その姿じゃなくて、本来の姿で言ってくれよ。」
「本来の姿もまんまパターンのヤツだよ!」
「はあ!?」
「いやだから!姿が変化するパターンもあるけど、そうじゃなくてまんまのパターンもあるだろ?そのまんまのパターンのヤツだよ!」
「何でキレてんだよ!」
「そりゃあ、キレるだろ!神だって言ってんのにカメが信じないんだから!そりゃあ、神だってキレるよ!お前アレだぞ?そんなんだったら、カエルにしちゃうぞ?」
「カエルがカエルにしゃうぞって、自分で自分の価値下げてる発言だろ!」
「いや、カメよりカエルの方が上だよ。それを踏まえてのカエルにしちゃうぞ発言だろ!」
「優しっ!?上にしてくれちゃうんだ!優しっ!?」
「神だからな!」
「んまあ、上だか下だかそんなのは関係なしで、お前が俺を本当にカエルに変えられたら、それはそれでお前が神様だって信じるよ。」
「よし!あ、でもお前アレだぞ?一回カエルになったら、カメに戻れないからな?」
「何でだよ!」
「何でもだよ!」
「カメをカエルに出来んだから、カエルをカメに出来んだろ!」
「カエルをカメに出来るけど、一回カメからカエルになったカエルをカメにする事は出来ないんだよ!それはもう、そう言う事なんだよ!」
「そんな断言されちゃったら何も言えないよ!ああ、そうなんだって感じだし、やっぱりかって感じだよ!」
「やっぱりかって?」
「だから、やっぱりウソかって事だよ。」
「ウソじゃない!ホントに一回カエルにしたカメを元に戻せないんだよ!」
「いやいやいや、そこじゃなくて!」
「どこ!」
「お前が神様だってとこだよ。」
「いや、どこ疑ってんだよ!的外れも甚だしいな!」
「的中中の的中だろ!」
「はい?神が神って言ってんだぞ?そしたらそれはもう、神だろ!」
「んじゃあ、もう面倒臭いから神様でいいや。」
「何だよそれ!」
「何だよそれって、ならどうすればいいんだよ!」
「もっと崇め奉れよ!」
「何でだよ!」
「神だからだ!」
「どうやって!」
「ありがたやありがたやって!」
「ありがたやありがたや!」
「お前さぁ?」
「何だよ!」
「そんな怒り任せに、ありがたやありがたやするヤツがいるか?」
「ありがたやありがたや、これでいいか?」
「お前さぁ?」
「何だよ!」
「そんな鬱陶しさ大爆発で、ありがたやありがたやするヤツがいるか?甲羅を純金にしちゃうぞ?」
「やめろ!速攻で捕獲されるだろ!」
「じゃあ、ちゃんと崇め奉れよな!」
「何で、崇め奉りを神様が自ら強要して来んだよ!」
「信仰心だ!」
「はあ!?初対面の神様に信仰心もクソもないだろ!」
「だって、お前がカメでいられるのは、俺のお陰なのに?俺のお蔭様なのに?」
「そうなの!?」
「そうだよ!そうだろ?」
「俺に聞くなよ!知らないよ!」
「お前アレだな?まったく、これっぽっちも俺を崇め奉る気がないだろ!」
「ないよ!」
「甲羅をダイヤモンドにしちゃうぞ?」
「やめろ!速攻で捕獲されるだろ!」
「なら、日頃の感謝をたらふく込めて、ありがたやありがたや、しないとだろ?」
「・・・ありがたやありがたや。」
「まあ、まあいいや。」
「で?」
「で?って?」
「いや、何なのかなって?」
「何なのかなって?って?」
「いやだから、この無駄な時間は、何なのかなって話だよ。」
「無駄?お前、神との対話の時間を無駄だって言うのか?世の中には、神と対話したくても出来ないヤツらがたくさんいるって言うのに、それを無駄な時間だと!?」
「神様じゃないじゃん!」
「はあ?神だろ!どっからどう見ても神だろ!」
「カエルじゃん!」
「だから!カエルの姿の神だろ!」
「カエルの姿の神様は、それはもはやカエルじゃん!自分は神様だって言い張るカエルじゃん!」
「俺は頭がおかしいのか!」
「違うのか?」
「違うだろ!」
「だとしたら、恐ろしく暇か?」
「確かに、恐ろしく暇だ。それは否定しようもない。こんな平和な場所で、平和過ぎる場所で、恐ろしく暇じゃない訳がない。ただ、だからって暇潰しでこんな話をしてる訳でもない!」
「じゃあ、俺じゃなくて木にでも話し掛けてればいいだろ?」
「俺は頭がおかしいのか!」
「違うのか?」
「違うだろ!」
「ありがたやありがたや。」
「どのタイミングで崇め奉ってんだよ!」
「いいだろ?崇め奉るのは俺のタイミングだろ?俺が崇め奉りたい時に自由に崇め奉る!それが崇め奉りだろ?ありがたやありがたや。」
「いや何かバカにされてる気分なんですけど?」
「ありがたやありがたや。」
「やめろ!無闇矢鱈に崇め奉るな!」
「ありがたやありがたや。ありがたやありがたや。」
「ありがたやありがたやありがたやありがたや!ありがたやありがたやありがたやのありがたや!ありがたやありがたやありがたやでありがたや!」
「何で崇め奉り返しして来んだよ!」
「崇め奉りには崇め奉り返し!それが伝統だろ!」
「どこの!」
「この池のだ!」
「ありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたや!」
「やめろ!崇め奉り返し返しは!崇め奉られる身にもなれ!ありがたやありがたやありがたやからのありがたや!」
「もういいよ!どんな無駄な時間の使い方だよ!最強クラスの無駄な時間だよ!」
「ありがたや×百億!」
「オタマジャクシかよ!」
「俺、今年神ブームが来ると思うんだよ。」
「ないんだよ!神様にブームなんてそう言うのは!ずーっとブームなの!」
「じゃあ、神やめた!」
「習い事感覚か!」
「じゃあ、また明日!」
「自由だな!また明日。」

第六百四話
「明日は悪魔になるカエル」

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2018年1月17日 (水)

「第六百五話」

「くそっ!」
自分の体が、意志に反して行動するって事はある。痙攣だったり、睡魔だったり、どうしようもなく体が反発して来る事がある。でも、今の俺のこれは、何なんだ?目を覚ますと右手の人差し指が、左鼻の穴に入った状態だった。最初は、笑った。だって、笑うだろ?こんな状況で目覚めて笑わない奴の顔が見てみたい。そう、夢の延長線上に起こる奇跡的な体験だと、最初は大爆笑だった。その大爆笑が止まったのは、右手の人差し指を左鼻の穴から抜こうとした時だった。そう、抜けなかった。俺の顔面はきっとその時、真っ青になっていただろう。
「くそっ!」
あれから、そう。もう五時間になる。相変わらず右手の人差し指は、左鼻の穴に入りっぱなしだ。考え付くあらゆる方法を試した。滑りを良くするモノで試してみたり、時には右手の人差し指に語り掛けてみたり、更にはまだ夢の中にいるんじゃないかと疑ってみたり、飲まず食わずで目覚めてから五時間。
「どうなってんだよ!」
こんな間抜けな体勢でも人は、激怒出来るもんなんだな。きっと、同時に左手の人差し指が右鼻の穴に入っていたとしても激怒出来るんだろうな。まったく、人って人間は、底知れぬ可能性を秘めてるな。
「って、妙な納得をしてる場合か!死ぬぞ!俺!どうにかしないとマジで死ぬぞ!これ!」
そう、死ぬ!このままだと、確実に俺は死ぬ!なぜかって?教えただろ?目覚めてから俺は、飲まず食わずだってさ。いやいや、右手の人差し指が左鼻の穴に入ってても飲めるし食えるだろって言いたいかもしんないけど!現実は、そうじゃない!そうじゃないんだ!左手で口に飲食物を運ぼうとすると、右手の人差し指が勝手に動いて口を覆うんだ!つまり、このままだと俺は、確実に餓死する寸法だ!そう、これは右手の人差し指の復讐だ!何がどうなってこうなったのかまったく身に覚えがないが、これは右手の人差し指の復讐だ!俺の右手の人差し指が、俺を殺そうとしてる!よくよく考えてみると、実によく考え尽くされた陣形だ!こんな間抜けな姿じゃ、プライドが邪魔して誰かに助けを求められない。そして、確実に俺を餓死に追い込める。
「・・・・・・。」
だが、俺にはまだ、左手がある!そう、左手は俺の意志通りに動く!左手で左鼻の穴から右手の人差し指を抜く事は出来ない!
「なめるなよ・・・。」
だがしかし!左手でハサミを持ち、右手の人差し指を切断する事は可能だ!
「ざ、ざまあみろ!これで、お前の復讐劇も終演だ!」
いや、待て!待て、俺!待て待て待て!何か、何か途轍もなく大事な事を忘れてはないか?そう、仮に今、右手の人差し指を切断したとして、それは右手の人差し指を切断しただけであり、左鼻の穴にはまだ、切断した右手の人差し指が入りっぱなしじゃないか!それで餓死を回避出来たとしても、俺は間抜けから脱出してない!?いやいやいや、間抜けを通り越して、イカれた画家的な目で世間から見られる!結局、世の中と断絶して生きて行かなきゃならなくなる!いやいや、そもそも家の食料が尽きたら、俺はどうする?デリバリーで食いつないだとしても、金が底を尽きたらどうする?
「餓死だ!」
なんてこった!右手の人差し指を切断しただけじゃ根本的には何も、何一つも解決しないって事じゃないか!
「・・・・・・。」
いや、まだある!万策は尽きてない!右手の人差し指を切断するんじゃなく!左鼻の穴の方を切り裂けばいいじゃないか!左鼻の穴を切り裂いて右手の人差し指を取り出した後、右手の人差し指を切断する!人体的に損傷はあるが、餓死するよりかは、遙かにマシだ!マスクで鼻を隠せば世の中とも断絶しないで済む!
「これだ!」
これだこれだこれだ!もうこれしかないってくらいこれだ!
「右手の人差し指よ!俺の覚悟を見くびったな!」
やってやる!やってやるぞっ!

第六百五話
「チョキン!」

 左鼻の穴を切り裂き、右手の人差し指を切断した俺は、とりあえずの応急処置を施し、でもこれはやっぱりプロの手を借りねばと思い病院に行く為に外へ出た。そして、そこで目にした光景に愕然とした。
「そんな・・バカな・・。」
っと今朝から人は、人間はそう進化していたようだったからだ。

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2018年1月24日 (水)

「第六百六話」

「母さん!」
「何ですか?」
「母さん!」
「だから、何ですか?」
「母さん!いいから!いいから玄関まで来なさい!」
「はいはいはいはいはいはいはいはい、一体何ですか?お父さん。」
「これを見なさい!」
「あらヤダ!落ちてました?」
「あらヤダ!落ちてました?じゃないだろ!母さん!これが何か分かってんのか?分かってんだよな!」
「人類破壊ボタン。」
「そう!人類破壊ボタンだ!うっかり踏んでボタンが押されでもしたら大変だ!」
「さっき買い物から帰って来た時に荷物があたって落ちちゃったのね。」
「落ちちゃったのねじゃない!そもそも玄関に人類破壊ボタンを置いとくのがどうなんだ?いかがなもんなんだ?」
「でもほら、絶対に忘れない場所でしょ?」
「絶対に忘れない場所かもしれないけどな!落っことしたのこれが初めてじゃないだろ!」
「でもほら、一度も間違って踏み押しちゃった事ないでしょ?」
「その一度がアウトな代物なんだよ!」
「それにほら、こんなに頑丈なケースに入ってるんだから、踏んでも押される事なんてないわよ。」
「確かに政府からの取扱説明書には、ゾウが踏んでも大丈夫だとか書いてあるし、玄関に置くなとは書かれてない!」
「そうでしょ。」
「だけど!万が一って事があるだろ?母さん!」
「お父さん?万が一の事を考えていたら、人間は生きて行けませんよ?」
「人類破壊ボタンを雑に玄関へ置くような奴が、諭すな!」
「はいはいはいはい、でも絶対に金庫には入れませんよ。」
「何でだ!」
「いいですか?お父さん。例えば金庫に人類破壊ボタンを入れたとしましょう。それで何が起こります?」
「安心安全に人類破壊ボタンが守られるだろ!」
「確かに、今回みたいに落っこちて踏み押しちゃう危険性は、回避出来ます。」
「いいじゃないか!」
「それが良くないんです!」
「ガンガンガンガンすんのをやめなさい!母さん!分かったから、話を聞くから、人類破壊ボタンを持ってガンガンガンガンすんのをやめなさい!金庫に入れる事の何が良くないんだ?」
「いいですか?人類破壊ボタンなんて、いつ押さなきゃならない時がやって来るかも分からない代物です!それを金庫に入れると言う事は、金庫の開け方を忘れちゃうかもしれないって事です!どうするんですか!人類破壊ボタンを押さなきゃならないって時に、金庫の開け方を忘れちゃってたら!私達夫婦は、国に消されちゃいますよ!」
「忘れないようにすればいいだろ?」
「どうやるんですか!」
「金庫の開け方を紙に書いて置いとけばいいだろ?」
「その金庫の開け方を書いた紙に書いてある金庫の開け方の事を何が書いてあるのか内容が理解出来なくなっちゃったらどうするんですか!」
「いやもう、そこまでいっちゃったら、玄関に人類破壊ボタンを置いといてもそれがどんなボタンなのかも理解出来なくなってるだろ!」
「でも!そうなった場合!玄関に置いとけば、次の人へ渡す事は出来るじゃないですか!金庫に入れといて忘れちゃったら、人類破壊ボタンを無くしたって認識されて、私達夫婦は、国に消されちゃいますよ!」
「分かった!分かったから!人類破壊ボタンを持ったまま、ガンガンガンガンすんのをやめなさい!」
「お父さん!どうして私が人類破壊ボタンを持ったままガンガンガンガンしてるか分かりますか?」
「イライラしてるからだろ?」
「違います!」
「違うのか!?じゃあ、何でガンガンガンガンしてるんだ!やめなさい!」
「それは、お父さん?私が信じてないからです!」
「信じてない?何を言ってるんだ?」
「この人類破壊ボタンを人類破壊ボタンだって信じてないって事です!だから今日!私は、この人類破壊ボタンを押しちゃおうと思ってます!」
「はあ?ななな、何を言い出すんだ!母さん!自分が何を言ってるのか分かってるのか!」
「勿の論です!お父さん!だいたい、変じゃないですか!何ですか?何なんですか?人類破壊ボタンって!」
「人類破壊ボタンは、人類破壊ボタンだろ!物凄く分厚い取扱説明書を二人で熟読したじゃないか!」
「ええ、読みました!読みましたけど、何ですか?何なんですか?人類破壊ボタンって!そもそもの存在自体が意味不明じゃないですか!しかも何で、こんな老夫婦に預けるんですか?お父さん?これが単なる悪戯だとしたら!私達夫婦は、大間抜けですよ!」
「悪戯?何の為に?何の為にこんな大掛かりな悪戯をしないとならない!」
「悪戯は!大掛かりな程、悪戯だとバレないからです!お父さん?人類破壊ボタンに振り回されてたこの五年間を後悔すんじゃなくて!これから先の人生をこの人類破壊ボタンに縛られないで生きて行く事の方が大事だと思いませんか?」
「お、おい!?押すのか?そんな事したら、俺達夫婦は、国に消されるぞ?」
「ボタンが本物だとしたら、国に消されちゃうも何もないでしょ!」
「お、押すのか!?」
「当たり前じゃないですか!」
「わ、分かった!なら、一緒に押そう!」
「お父さん!いいんですか?地球史上最悪の犯罪者になっちゃうかもしれないんですよ?」
「母さんだけに、それを背負わせる訳にはいかないだろ?」
「お父さん!?」
「さあ、一緒に押そう。」
「はい。」
「行くぞ。」
「はい。」

第六百六話
「夫婦愛再確認ボタン」

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2018年1月31日 (水)

「第六百七話」

 雲一つない満月の夜。下町にある小さな町工場。その工場を感慨深い表情で見ながら一人佇む男。
「はあああああああああ!」
「凄い溜め息ですね。社長。」
「専務か。そりゃあ、溜め息も出るだろ。三日後までに金が用意出来なければウチは倒産だ。」
「それで?お金は用意出来そうなんですか?」
「だったら、あんな溜め息出てねぇよ。」
「そうですね。で、社長?どうするつもりですか?」
「どうするもこうするも明日になったらまた悪足掻きするよ。足掻いて足掻いて、それでも駄目なら、また足掻く!」
「社長!いい加減に目を覚まして下さい!」
「いや逆に寝てたと思ってたの!?」
「そう言う意味じゃありませんよ!いいですか?あんな大金をウチが用意出来る訳ないじゃないですか!」
「それはつまり、俺の代で会社を潰せって事か?そう言いたいのか?」
「はっきり言ってしまえば、そうです!」
「馬鹿野郎!ウチはな!700年続く会社なんだぞ!そんな簡単に言うな!」
「簡単になんか言ってませんよ!社長!年数が何ですか!700年続く会社だとしても!もはや会社として機能してないじゃないですか!私は、入社してから一度もグレフルが売れたとこを見た事がありません!もしかしたら、もっと前から売れてないんじゃないんですか?いいえ!それ以前にです!グレフルって一体何なんですか!」
「グレーツフループだよ。」
「それは知ってますよ!ですから!このグレーツフループって商品は、一体何なんですかって話ですよ!」
「ウチの商品だ!創業当時からウチが作り続けて来た商品だ!ウチはな!これ一本で700年勝負して来たんだよ!」
「社長!社長は、このグレーツフループを使った事がありますか?」
「使った事はないが!トイレには置いてある!」
「トイレ?グレーツフループは、トイレで使用するモノだったんですか?」
「いや、トイレで使用するモノかすらも分からないが!とにかくトイレに置いてある!」
「社長!目を覚まして下さい!いいですか?つまりは、グレーツフループなんてモノは、もはやこの世で誰一人として使用する者がいない商品って事じゃないですか!むしろ逆によく700年も続いたなって商品じゃないですか!社長?もう、潮時なんじゃないですか?」
「専務!俺は諦めないぞ!」
「何で諦めないでいられるんですか!どう言うメンタル構造してるんですか!」
「俺には分かる!」
「何が分かるんですか?」
「このグレーツフループに秘められた力をだ!」
「力?」
「俺はな!ドラマや映画で、こう言うピンチな状況になった小さな町工場が、奇跡を起こすとこを何度も観て来た!」
「ドラマや映画だからだ!それはもうそうなる仕組みだからだ!」
「専務?何か大事な事を忘れてはないか?」
「社員の残業代ですか?」
「違う!」
「返品の整理ですか?」
「違う!」
「何ですか?」
「特許だよ。」
「特許?」
「グレーツフループの特許だ!この特許に食い付いてくる大企業が必ず現れるはずだ!」
「どこまでドラマや映画に影響されてんですか!グレフルの特許なんて誰が欲しがるんですか!」
「知るか!」
「ええーっ!?」
「こう言う特許はな!俺達が予想もしないような事に使われるんだよ!想像の遥か彼方を行くんだよ!それを大企業が提案して来るんだよ!」
「社長は、一体いつからそんな事を考えていたんですか?」
「親父の代からだ。」
「どんだけ昔からその奇跡一本に頼ってるんですか!その奇跡一本にしか頼るしかなかったって現状じゃないですか!社長!」
「よし!なら明日、銀行に行くぞ!」
「銀行が融資してくれる訳ないじゃないですか!我々の顔を見るなりまた門前払いが関の山ですよ。」
「誰が正攻法で行くと言った?」
「何か秘策があるんですか?」
「ある!」
「どう行くって言うんです?」
「強盗だよ!」
「そんな事して言い訳ないじゃないですか!」
「そんな事でもしなけりゃ!金が手に入らないだろ!グレーツフループが作れなくなるだろ!」
「作れなくなってもいい!作れなくなってもいいんですよ!こんな訳の分からない商品を作り続ける為に何で犯罪者にならなきゃいけないんですか!」
「訳の分からない商品かもしれない!だがな!グレーツフループには、社員の心が籠もってんだよ!ウチでしか出来ない技術が詰まってんだよ!700年が込められてるんだよ!」
「らしい事を言ってますけど!ぽい事を言ってますけど!需要ゼロの商品に将来性はありませんよ!」
「・・・仕方ない。」
「やっと分かってもらえましたか。」
「何か、有名なピアニストが弾くピアノの部品にグレーツフループが使われる事を願って今日は眠ろう!」
「社長!」

第六百七話
「グレーツフループ」

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