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2018年1月31日 (水)

「第六百七話」

 雲一つない満月の夜。下町にある小さな町工場。その工場を感慨深い表情で見ながら一人佇む男。
「はあああああああああ!」
「凄い溜め息ですね。社長。」
「専務か。そりゃあ、溜め息も出るだろ。三日後までに金が用意出来なければウチは倒産だ。」
「それで?お金は用意出来そうなんですか?」
「だったら、あんな溜め息出てねぇよ。」
「そうですね。で、社長?どうするつもりですか?」
「どうするもこうするも明日になったらまた悪足掻きするよ。足掻いて足掻いて、それでも駄目なら、また足掻く!」
「社長!いい加減に目を覚まして下さい!」
「いや逆に寝てたと思ってたの!?」
「そう言う意味じゃありませんよ!いいですか?あんな大金をウチが用意出来る訳ないじゃないですか!」
「それはつまり、俺の代で会社を潰せって事か?そう言いたいのか?」
「はっきり言ってしまえば、そうです!」
「馬鹿野郎!ウチはな!700年続く会社なんだぞ!そんな簡単に言うな!」
「簡単になんか言ってませんよ!社長!年数が何ですか!700年続く会社だとしても!もはや会社として機能してないじゃないですか!私は、入社してから一度もグレフルが売れたとこを見た事がありません!もしかしたら、もっと前から売れてないんじゃないんですか?いいえ!それ以前にです!グレフルって一体何なんですか!」
「グレーツフループだよ。」
「それは知ってますよ!ですから!このグレーツフループって商品は、一体何なんですかって話ですよ!」
「ウチの商品だ!創業当時からウチが作り続けて来た商品だ!ウチはな!これ一本で700年勝負して来たんだよ!」
「社長!社長は、このグレーツフループを使った事がありますか?」
「使った事はないが!トイレには置いてある!」
「トイレ?グレーツフループは、トイレで使用するモノだったんですか?」
「いや、トイレで使用するモノかすらも分からないが!とにかくトイレに置いてある!」
「社長!目を覚まして下さい!いいですか?つまりは、グレーツフループなんてモノは、もはやこの世で誰一人として使用する者がいない商品って事じゃないですか!むしろ逆によく700年も続いたなって商品じゃないですか!社長?もう、潮時なんじゃないですか?」
「専務!俺は諦めないぞ!」
「何で諦めないでいられるんですか!どう言うメンタル構造してるんですか!」
「俺には分かる!」
「何が分かるんですか?」
「このグレーツフループに秘められた力をだ!」
「力?」
「俺はな!ドラマや映画で、こう言うピンチな状況になった小さな町工場が、奇跡を起こすとこを何度も観て来た!」
「ドラマや映画だからだ!それはもうそうなる仕組みだからだ!」
「専務?何か大事な事を忘れてはないか?」
「社員の残業代ですか?」
「違う!」
「返品の整理ですか?」
「違う!」
「何ですか?」
「特許だよ。」
「特許?」
「グレーツフループの特許だ!この特許に食い付いてくる大企業が必ず現れるはずだ!」
「どこまでドラマや映画に影響されてんですか!グレフルの特許なんて誰が欲しがるんですか!」
「知るか!」
「ええーっ!?」
「こう言う特許はな!俺達が予想もしないような事に使われるんだよ!想像の遥か彼方を行くんだよ!それを大企業が提案して来るんだよ!」
「社長は、一体いつからそんな事を考えていたんですか?」
「親父の代からだ。」
「どんだけ昔からその奇跡一本に頼ってるんですか!その奇跡一本にしか頼るしかなかったって現状じゃないですか!社長!」
「よし!なら明日、銀行に行くぞ!」
「銀行が融資してくれる訳ないじゃないですか!我々の顔を見るなりまた門前払いが関の山ですよ。」
「誰が正攻法で行くと言った?」
「何か秘策があるんですか?」
「ある!」
「どう行くって言うんです?」
「強盗だよ!」
「そんな事して言い訳ないじゃないですか!」
「そんな事でもしなけりゃ!金が手に入らないだろ!グレーツフループが作れなくなるだろ!」
「作れなくなってもいい!作れなくなってもいいんですよ!こんな訳の分からない商品を作り続ける為に何で犯罪者にならなきゃいけないんですか!」
「訳の分からない商品かもしれない!だがな!グレーツフループには、社員の心が籠もってんだよ!ウチでしか出来ない技術が詰まってんだよ!700年が込められてるんだよ!」
「らしい事を言ってますけど!ぽい事を言ってますけど!需要ゼロの商品に将来性はありませんよ!」
「・・・仕方ない。」
「やっと分かってもらえましたか。」
「何か、有名なピアニストが弾くピアノの部品にグレーツフループが使われる事を願って今日は眠ろう!」
「社長!」

第六百七話
「グレーツフループ」

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