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2018年1月17日 (水)

「第六百五話」

「くそっ!」
自分の体が、意志に反して行動するって事はある。痙攣だったり、睡魔だったり、どうしようもなく体が反発して来る事がある。でも、今の俺のこれは、何なんだ?目を覚ますと右手の人差し指が、左鼻の穴に入った状態だった。最初は、笑った。だって、笑うだろ?こんな状況で目覚めて笑わない奴の顔が見てみたい。そう、夢の延長線上に起こる奇跡的な体験だと、最初は大爆笑だった。その大爆笑が止まったのは、右手の人差し指を左鼻の穴から抜こうとした時だった。そう、抜けなかった。俺の顔面はきっとその時、真っ青になっていただろう。
「くそっ!」
あれから、そう。もう五時間になる。相変わらず右手の人差し指は、左鼻の穴に入りっぱなしだ。考え付くあらゆる方法を試した。滑りを良くするモノで試してみたり、時には右手の人差し指に語り掛けてみたり、更にはまだ夢の中にいるんじゃないかと疑ってみたり、飲まず食わずで目覚めてから五時間。
「どうなってんだよ!」
こんな間抜けな体勢でも人は、激怒出来るもんなんだな。きっと、同時に左手の人差し指が右鼻の穴に入っていたとしても激怒出来るんだろうな。まったく、人って人間は、底知れぬ可能性を秘めてるな。
「って、妙な納得をしてる場合か!死ぬぞ!俺!どうにかしないとマジで死ぬぞ!これ!」
そう、死ぬ!このままだと、確実に俺は死ぬ!なぜかって?教えただろ?目覚めてから俺は、飲まず食わずだってさ。いやいや、右手の人差し指が左鼻の穴に入ってても飲めるし食えるだろって言いたいかもしんないけど!現実は、そうじゃない!そうじゃないんだ!左手で口に飲食物を運ぼうとすると、右手の人差し指が勝手に動いて口を覆うんだ!つまり、このままだと俺は、確実に餓死する寸法だ!そう、これは右手の人差し指の復讐だ!何がどうなってこうなったのかまったく身に覚えがないが、これは右手の人差し指の復讐だ!俺の右手の人差し指が、俺を殺そうとしてる!よくよく考えてみると、実によく考え尽くされた陣形だ!こんな間抜けな姿じゃ、プライドが邪魔して誰かに助けを求められない。そして、確実に俺を餓死に追い込める。
「・・・・・・。」
だが、俺にはまだ、左手がある!そう、左手は俺の意志通りに動く!左手で左鼻の穴から右手の人差し指を抜く事は出来ない!
「なめるなよ・・・。」
だがしかし!左手でハサミを持ち、右手の人差し指を切断する事は可能だ!
「ざ、ざまあみろ!これで、お前の復讐劇も終演だ!」
いや、待て!待て、俺!待て待て待て!何か、何か途轍もなく大事な事を忘れてはないか?そう、仮に今、右手の人差し指を切断したとして、それは右手の人差し指を切断しただけであり、左鼻の穴にはまだ、切断した右手の人差し指が入りっぱなしじゃないか!それで餓死を回避出来たとしても、俺は間抜けから脱出してない!?いやいやいや、間抜けを通り越して、イカれた画家的な目で世間から見られる!結局、世の中と断絶して生きて行かなきゃならなくなる!いやいや、そもそも家の食料が尽きたら、俺はどうする?デリバリーで食いつないだとしても、金が底を尽きたらどうする?
「餓死だ!」
なんてこった!右手の人差し指を切断しただけじゃ根本的には何も、何一つも解決しないって事じゃないか!
「・・・・・・。」
いや、まだある!万策は尽きてない!右手の人差し指を切断するんじゃなく!左鼻の穴の方を切り裂けばいいじゃないか!左鼻の穴を切り裂いて右手の人差し指を取り出した後、右手の人差し指を切断する!人体的に損傷はあるが、餓死するよりかは、遙かにマシだ!マスクで鼻を隠せば世の中とも断絶しないで済む!
「これだ!」
これだこれだこれだ!もうこれしかないってくらいこれだ!
「右手の人差し指よ!俺の覚悟を見くびったな!」
やってやる!やってやるぞっ!

第六百五話
「チョキン!」

 左鼻の穴を切り裂き、右手の人差し指を切断した俺は、とりあえずの応急処置を施し、でもこれはやっぱりプロの手を借りねばと思い病院に行く為に外へ出た。そして、そこで目にした光景に愕然とした。
「そんな・・バカな・・。」
っと今朝から人は、人間はそう進化していたようだったからだ。

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