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2018年4月

2018年4月 4日 (水)

「第六百十六話」

「ドンドンドン!」
ある朝、突然にドアが激しく叩かれた。
「ドンドンドン!」
「警察です!」
その主は、警察だった。俺は、当然のようにドアを開け、その場でしばらく会話を交わしたあと、定年間際の風貌な刑事を家の中へ招き入れた。
「妻が昨日から旅行で、こんな物しかありませんが、どうぞ。」
「ありがとうございます。どうぞお構いなく。」
俺は、テーブルの上にインスタントコーヒーが入ったカップを置き、刑事の前に座った。
「何か、取り調べみたいですね。」
「え?」
「ほら、ドラマや映画なんかでよくこうして刑事さんと向かい合わせのシーンを観るじゃないですか。」
「現実は、あんな感じではありませんよ。」
「そうなんですね。それも興味深い話ですけど、それで?その写真の二人組は、本当に殺し屋なんですか?」
「ええ。」
なぜ?刑事をわざわざ家の中まで招き入れたのか?俺は、ふいに玄関先の立ち話の最中に見せられたこの写真の二人組に興味が沸いたからだ。中年男性と幼い少女。こんな面白そうな案件を放っとく訳がない。誰だって興味をそそられる。そうだろ?
「で、このマンションの屋上が犯行現場って言うのも本当なんですか?」
「そうです。」
「そんなドラマや映画なんかでよく観るシチュエーションってあるんですね。」
「事実は小説より奇なり、です。」
「でも、不思議な組み合わせですよね?こっちの男の方が殺し屋ってのは、理解出来ます。見るからに殺し屋って感じですもんね。」
「私が知る限り最高のスナイパーです。」
「でも、こっちの少女も殺し屋っては、どうも信じられませんね。親子?もしくは、何らかの事情で生活を共にしている?少女が殺しに関わってるとは思えません。」
俺の興味を刑事にぶつけると、刑事は少し微笑んだ。
「ライフルによる遠隔射撃でもっとも重要な事は何だと思います?」
「もちろん、ライフルを扱う狙撃手の腕ですよね?」
「違います。」
「違うんですか!?なら、何がもっとも重要なんですか?」
「風です。」
「風、ですか?」
「遠隔射撃でもっと重要な事は、風を読む事です。詳しく理論を教えても簡単に理解出来ないと思いますが、弾丸ってのは風の影響を大きく受けてしまう。」
「そう言うもんなんですね。それで?その風とこの少女が大きく関係してるんですか?」
「絶対風感。」
「絶対風感?」
「我々は、そう呼んでいます。んまあ、簡単に言えば絶対音感の風版です。」
「なるほど。それで?」
「この少女には、分かるんですよ。風の流れが全て。なのでターゲットの急所を一発で仕留めるには、どの角度でどのタイミングでどの力で撃てばいいのかが分かってしまうんです。」
「なるほど!何か凄い話を聞かせてもらっちゃいました!」
すると刑事は、再び少し微笑んだ。
「それが目的だったのでしょ?」
「え?」
「そうじゃなきゃ、わざわざ警察を家の中まで招き入れたりなんかしない。朝から訪ねてくる警察なんてのは、適当にあしらうのが一番だ。」
「さすが刑事さんだ!でもね?招き入れたのは、それだけが理由じゃないんですよ?」
「と言うと?」
「監視カメラに二人組の姿は映ってなかった?屋上にも証拠はない。でも、状況的にみてこのマンションの屋上が間違いなく犯行現場。それで、こうして目撃者を探してるんじゃないんですか?」
「旦那さん。貴方、警察になった方がいい。」
「いやいや、こんなの隣の奥さんでも分かりますよ。」
「それでどうなんです?」
「見ましたよ。」
「見たんですか!?」
「ええ、確かにこの二人組でした。非常階段には、監視カメラの死角がありますからね。何度も管理会社には言ってるみたいなんですが、いまだに改善されてないみたいです。」
「その話を詳しく聞かせて下さい!」
少し前のめりになる刑事を見て、少し微笑みながら俺は、昨日の深夜の話を聞かせた。
「この二人組に間違いありません。」
「捜査にご協力ありがとうございました。」
二人組の存在に確証を得た刑事は、笑顔で握手を求めて来た。もちろん俺も笑顔でそれに応えた。風呂場に妻がバラバラになってるのも知らずに、笑顔で握手を求めて来た仕事熱心な刑事に、笑顔で応えた。

第六百十六話
「刑事の視線の直線上に風呂場あり」

 俺にしてみたら、俺の知らない真実なんてのは、どうだっていい。
「では、旦那さん。風呂場を見せてもらってもいいですか?」
「え!?なぜ、そんな事を言い出すんです?」
「朝から鬱陶しいだけの存在の刑事をわざわざ部屋に招き入れる者に出会ったのなら、風呂場を確認せよ。刑事の鉄則です。」
「そ、そんな鉄則があるんですか!?」
まさか!?スリリングを求め過ぎて裏目に出たのか?犯人の自己顕示欲を考慮したそんな鉄則が存在するとは!
「ありませんよ。そんな訳の分からない鉄則など。」
「じゃあ、何で風呂場なんか見たがるんですか?」
「いや、何て言うかそのほら、風呂場までのドアが全て開けっ放しで、ずっと奥さんと目が合っていたんですよ。」
「何だって!?」
「さあ、ここからは少し取り調べを始めましょうか。」
「おっちょこちょい出ちゃったーっ!!」

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2018年4月11日 (水)

「第六百十七話」

「おい。」
「・・・・・・。」
少女はなぜ、降って来たのか?自殺か?いいや、そんな事は有り得ない。なぜなら、ここはマンションの屋上だからだ。このマンションの横に高層ビルでも存在していれば話は別だが、あいにくそんな建物は存在しない。
「一体どこから来た。」
「・・・・・・。」
確かに少女は、俺が見上げる空から降って来た。最初は隕石か飛行機の落下物か何かかと思ったが違った。
「まさか、人生の最期に、こんな出来事が待ち受けているとはな。」
「・・・・・・。」
全くこれだから人生は面白い。これは何かの啓示なのか?それとも何かの戒めなのか?だがしかし、俺に残された時間はもう絶望しか存在しない。
「・・・じゃあな。」
「・・・・・・。」
屋上の柵を乗り越え、数秒先の未来の自分の姿に重ね合わせるように少女の潰れた顔面に話し掛けると俺は、そのまま飛び降りた。

第六百十七話
「無理矢理に毒を飲まされて解毒剤を前に命懸けで捻り出した渾身のオチをご堪能あれ!」

「あのう?」
「はい?」
「これは一体?我が社が依頼したのは、新商品のヨーグルトのCMのはずですが?」
「もちろん新商品のヨーグルトのCMです。」
「出て来ました?新商品のヨーグルト?」
「マンションの屋上からはずっと新商品のヨーグルトの看板が見えてたはずですが?もしかして見逃しちゃいました?」
「軽く頭の中がパニックで全く入って来ませんでしたよ。」
「爆発的大ヒット間違いなしですね!」
「何で?いやもう、これは何のCMなんだか全く分からなくてダメですよ!」
「じゃあ、最後に男が屋上から飛び降りる瞬間に新商品のヨーグルトを一口食べさせましょう!で、美味い!と一言言ってから飛び降りる!これはもう爆発的大ヒット間違いなしですね!」
「何で?このシチュエーション自体がダメだって言ってるんですよ!分からないんですか?普通に男と少女がテーブルの上に置かれた新商品のヨーグルトを食べてる。それだけでいいんですよ!そう言うのでいいんですよ!」
「それは、つまらないでしょ!」
「つまらないくていいんです!シンプルでいいんですよ!」
「あっ!分かった!なら、こうしましょう!」
「いや、それ絶対分かってない!」
「死んでる少女から流れ出てる血をヨーグルトにしましょう!」
「分かってないじゃん!」
「爆発的大ヒット間違いなしですね!」
「いろんな方面から怒られて終わりだよ!」
「で、落下後の男からも血じゃなくてヨーグルトが流れ出てる!これはもう爆発的大ヒット間」
「帰れーっ!!」

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2018年4月18日 (水)

「第六百十八話」

 人間の選択肢は全て正解である。
「その選択肢は、間違いかもしれないんだぞ?」
「俺は俺の決断を信じる!」
「本当にいいんだな?」
「ああ、これでいい。」

 

第六百十八話

「実は全ての決断に不正解は存在しないという」

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2018年4月25日 (水)

「第六百十九話」

「よし、これで準備完了だ。」
「よう!」
「編集長?お疲れ様です。どうしてここへ?」
「本当の本当に、お疲れ様だな。今日で、この出版社も終わりだ。アレが始まってから仲間と未知の脅威と戦って来た場所だからな。見納めだ。」
「そうですね。」
「で?最後の日だってのに、お前は何をしてるんだ?お前も最後の別れに浸ってたのか?」
「いえ、最後の日だからこそ、最後にやり残した仕事をするだけです。」
「仕事熱心だな。で?何をやり残したんだ?」
「編集長。」
「ん?」
「ある日を境に始まった謎の心臓発作、その真実にやっと辿り着いたんです。」
「本当か!?」
「裏は取れてます。だけど、まだ当事者のインタビューがまだです。なので、これから会いに行くところです。」
「そうか!で?その真実ってのは?」
「戻って来たら、全てを話します。」
「分かった。世界が待ち望んでたスクープだ。必ず戻って来いよ!」
「はい!待っていて下さい。」
「おう!行ってこい!」
「行ってきます!あ、編集長?」
「ん?」
「俺が戻るまで、絶対に人を殺したいって思わないで下さいね。」
「ん?どう言う意味だ?」
「約束ですからね!行ってきます!」
「お、おい!?」

第六百十九話
「人類絶滅中絶望進行中」

「よくここが分かったね。ジャーナリスト君。」
「博士。」
「真実に辿り着いたって顔だね。さすが、今のこの世界を生き抜いて来たジャーナリスト君だ。」
「ある日を境に人は、人を殺さなくなった。」
「平和じゃないか。」
「だけど、真実は違う。」
「違う?殺し合いのない世界こそが、世界が、人類が、望んだ平和だろ?」
「人が人を殺さなくなったんじゃない。人は、人を殺せなくなったんだ。」
「ゼロウイルス!」
「それがウイルスの名前か。」
「この世界から争い事を無くす為に研究開発したウイルスだ。」
「ゼロウイルス。」
「そう、争い事をゼロにする。そして、人から殺意をゼロにする。この世界が待ち望んでいたウイルスだ。」
「何が争い事をゼロにするだ!何が人から殺意をゼロにするだ!」

「事実、世界中に散布した後から現在に至るまで、人は人を殺していないだろ?」
「確かにそうだ。だが、ウイルスを世界中に散布した後から、謎の心臓発作によって多くの人が死んだ。」
「いつの時代も世界をよりよくする為には、多くの犠牲がつきものだ。心臓発作は、ゼロウイルスの副作用によるものだ。」
「副作用?」
「残念ながら、ゼロウイルスに適用出来なかったと言う事だ。そう言う事態は想定していたが、数は僕の想定を上回ってしまった。」
「上回ったじゃすまない数字だろ!人類は、絶滅寸前なんだぞ!」
「心が痛むよ。だが、絶滅寸前になって我々は真の世界平和を手に入れた。大きな犠牲ではあったが、これは大きな収穫でもある。」
「ふざけるな!そうやって茶番を続けてれば、そのうち俺が殺意を抱くと思ってるのか?言っただろ?人が人を殺さなくなったんじゃない。人は、人を殺せなくなったんだ、と。ゼロウイルスは、人から殺意をゼロにするウイルスなんかじゃない!人の殺意に反応して心臓発作を引き起こさせるウイルスだ!」
「なるほど。ジャーナリズムも侮れないものだな。だが、その真実に辿り着いてなお、僕とこうして対峙するのは、自殺行為ではないのか?」
「ジャーナリストがいちいち現場で殺意を芽生えさせてたら、仕事にならない。」
「なるほど。」
「だが、さっきの言葉、博士にも言えるんじゃないのか?」
「僕に?」
「真実を知る俺とこうして対峙する事は、博士!貴方にとっても自殺行為だ!」
「それもそうだね。真実を知るキミは、僕にしたら邪魔な存在でしかない。この世で一番殺したい人間だ。だが僕は死んでない。」
「さすがにウイルスの開発者って事か。平常心の塊なのか?それともストイック過ぎていかれたか?」
「違う違う。違うよ、ジャーナリスト君。僕は、ずーっとキミを殺したいと思ってるよ。キミの顔を見てからずっとだ。」
「笑えないジョークだな。さあ!こんな茶番劇は終わりにして、さっさとゼロウイルスのワクチンを開発するんだ!」
「ふふっ。」
「何がおかしい!」
「キミの辿り着いた真実の終着点が見えたからだよ。ジャーナリスト君。」
「何?」
「僕は、何一つジョークなど言っていない。今でもキミを殺したくて殺したくてたまらない。ウズウズしているよ。キミの存在が邪魔で邪魔で仕方ない。だけど、キミと僕とでは、決定的な違いがある。大きな違いがね。ジャーナリスト君?真実に辿り着いてからここへ来るべきだったね。」
「どう言う意味だ。」
「これが何か分かるかい?」
「まさか!?」
「ゼロウイルスのワクチン、ゼロワクチンだよ。そう、ワクチンは既に開発済みなのさ。そして、キミと僕との決定的な違いと言うのは、体内にゼロウイルスが存在している人間と存在していない人間と言う事だよ。悲しいものだね。真実とはいつも絶望と隣り合わせだ。」
「ちょっと待て!ウイルスのワクチンが存在してるのになぜ!それを全人類に使用しない!ゼロウイルスが失敗作だってのは初期段階で分かってたんだろ!だから、ワクチンが存在するんじゃないのか!」
「失敗作?失敗作!キミは、本当に僕に殺意を抱かせるのが得意なようだね。ゼロウイルスは失敗作などではない!」
「なら、どうしてワクチンが存在する!」
「僕が生き残る為に決まっているだろ?」
「何だと!?」
「ウイルス散布から現在までで人類がこれほどまでに生き残るとは、思わなかったよ。正直、僕の想定を上回った。人類も捨てたものではないのかもしれない。だけど、遅かれ速かれ人類は終わる。そうだろ?殺意を抱かずに生きていく事は、不可能だ。」
「そのワクチンがあれば終わらないだろ!」
「これは僕が生き残る為のワクチンだと言っただろ?最初にこの計画を世界から依頼された時、正直心の中で笑いが止まらなかったよ。だって、世界公認で人類を絶滅させる事が出来るんだからな!」
「狂ってる。」
「ジャーナリスト君!真実は僕が見届ける!だから、とっとと死んでしまえ!そろそろ気付いただろ?この研究室には、殺意を抱かせる細工が施されてるって事に!僕と対峙した時点で既に、キミの死は決定していたのさ!」
「ふざ・・け・・るな・・よ。」
「そう、それでいい。真の世界平和とは、人類絶滅!気付いているが誰もそれを実行しようとしないから、だから僕が実行してやったんだ!ジャーナリスト君?」
「・・・・・・・・・。」
「キミもこうして世界平和に貢献出来てよかったじゃないか。僕に殺意を抱く前に感謝して欲しかったものだね。さて、後はゆっくりと人類絶滅を傍観するとし」
「バン!」
「はあ?」
「言っただろ?ジャーナリストが現場でいちいち殺意を芽生えさせてたら、仕事にならない、と。」
「どう言う事だ!?殺意を抱かせないで、銃を撃つなんて!?」
「俺は始めから、アンタに殺意なんか無い。ただ、アンタを救いたいって気持ちで一杯だっただけだ。」
「それは・・・想定・・外だっ・・たね。」
「ワクチンは、もらって行くよ。博士。」
「・・・・・・・・・。」
「人は、人が思ってるより、世界の平和なんかを望んじゃいない。それがアンタの辿り着けなかった真実だよ。博士。」
「ガサガサガサ!」
「ん?ゴキブリ?全く、コイツらときたらアレだな。絶滅とは無縁なんだな。え!?そんなバカな!?人以外の殺意に対しては・・・まさか・・・ウイルスが進化・・・し・・・てる・・・これが・・・真実・・・編集・・・長。」

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