« 「第六百二十一話」 | トップページ | 「第六百二十三話」 »

2018年5月16日 (水)

「第六百二十二話」

 或るタクシーの話。
「お客さん、どちらに行かれますか?」
「天国。」
「天国?」
「だって運転手さん?そうでしょ?」
「何がですか?」
「死んだら天国か地獄、わざわざ好き好んで地獄に行きたい人間なんかいないでしょ。」
「私は、死んだら天国に行きたいか地獄に行きたいかを尋ねたんじゃなくて、このタクシーを止めて乗り込んで一体どこへ行きたいのかを尋ねた、どちらまで行かれますか?です。」
「ああ、なるほどね。随分とトリッキーな運転手さんだと思っちゃいましたよ。」
「じゃあ、全タクシードライバーがトリッキーになっちゃいますよ。それで、どちらまで?」
「一番近くの海までお願いします。」
「お客さんの方がだいぶトリッキーだと思いますけど?分かりました。」
「本当に?」
「ええ。」
「本当に分かったのかな?」
「本当に分かってますよ。ここから一番近い海までですよね?」
「うーん?本当に分かってるかどうか怪しいとこだな?」
「今の返事で信じてもらえないなら、一体どう答えればいいんです?」
「アイアイサー!!」
「そっちの方がよっぽど不安だよ!じゃあ、出発しますよ?」
「アイアイサー!!」
「面倒臭いの乗せちゃったか?」
「運転手さん!」
「あ、すいません!聞こえちゃいました?」
「今、僕の事をマラソン大会の途中でズルしてる選手だと思ったでしょ!」
「どうして思ってると思ったんですか!?」
「当たらずも遠からずです。」
「なら、大会に戻って下さい。そう言うスーツで走るマラソン大会があるのならですが。」
「僕、マラソンシューズを開発する会社の人間なんですよ。」
「本当に私がさっきお客さんが言ったことを思っていたんだとしたら、私はエスパーですね。なら、お客さんは、マラソンで如何に足に負担が掛からないとか、よりタイムが縮むようなシューズを開発してるんですね。」
「まあ、会社全体としてのコンセプトは、そんな感じですが、僕個人は別のコンセプトで動いてます。」
「どんなコンセプトなんです?」
「マラソン選手がマラソン大会の途中でタクシーを使ってズルしないようなシューズです!」
「どんなシューズですか!」
「マラソン選手がマラソン大会中にタクシー使ってズルしようかな?って思考すると雷レベルの電流が流れるシューズです!」
「死んじゃう!」
「そんなズルを考えるようなマラソン選手なんか死んだって誰も悲しんだりしませんよ。」

「悲しむでしょ!」
「僕は、死刑に値すると思いますけどね。」
「マラソン選手がマラソン大会中にタクシーを使ってズルする事がですか?」
「ええ、そうです。だって、マラソン選手なんですよ?」
「マラソン選手ですけど、死なない程度の電流でいいんじゃないんですか?」
「死なない程度の電流って事は、死なないんですよ?」
「はい。」
「死なないって事は、死なないんですよ?」
「そうですね。」
「死なないって分かったら、どんどんタクシー使ってズルしちゃうじゃないですか!」
「そんなにします?ズル?私、そんな光景見た事ないですけど?」
「小っちゃい大会だとみんなやってますよ!むしろスタートラインはタクシーで埋め尽くされちゃってますよ!」
「じゃあ、その時点で注意するか中止にしましょうよ。」
「小っちゃい大会と言っても開催されるまでに、どれだけの人の労力とお金が動いてると思ってるんですか!中止なんか出来ませんよ!だから、マラソン選手がマラソン大会中にタクシーを使ってズルしないシューズが必要なんです!」
「もうそこまで断言されちゃったら返す言葉もありませんよ。でも、そもそもが死ぬシューズを履かないんじゃないですか?」
「そこはあれですよ。そのシューズを履かないと大会に出場出来ない決まりにすればいいんです!」
「誰も出場しないんじゃないですか?」
「正義の心を持った選手は、思ってる以上に多いです!」
「でもですよ?実際には大会途中にタクシー使ってズルしないとしても大会途中にタクシー使ってズルしようかなって考えただけで死ぬレベルの電流が流れちゃうんですよね?」
「考える事自体が罪なんです!」
「いやだったらそれ、もっと別の方へ生かせるんじゃないですか?」
「殺人衝動とかイジメとか虐待とかって話ですか?」
「ええ、もちろん電流を弱めてですけど、色々な抑止力として活用出来ると思うんですけど?」
「運転手さん!!」
「は、はい。」
「僕は!マラソンシューズを作りたいんです!」
「わ、分かりました。分かりましたから落ち着いて下さい。ほら、目的地が見てえきました。あれ?」
「どうしたんです?」
「海岸のとこに人集りが見えますね。何かやってるんですかね?」
「そりゃあ、今日は、この辺りで小っちゃいマラソン大会が開催されてて、あそこがゴールなんだから人集りがあって当然です!」
「え!?もしかして!?」
「だから、当たらずも遠からずって言いましたよね?」
「えっ!?シューズ!?まさかそのシューズ!?」
「ああ!今回も失敗作だった!」
「失敗を喜びましょうよ!」

第六百二十二話
「雷王」

|

« 「第六百二十一話」 | トップページ | 「第六百二十三話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/73495858

この記事へのトラックバック一覧です: 「第六百二十二話」:

« 「第六百二十一話」 | トップページ | 「第六百二十三話」 »