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2018年5月 2日 (水)

「第六百二十話」

 午前0時、無我夢中で走っていた私は、気付くと交番へ駆け込んでいた。
「ど、どうなさいました!?」
「お巡りさん!!」
「お、落ち着いて下さい!?」
「出たんですよ!!」
「出た?と、とにかく座って落ち着きましょう。」
そう言うと警察官は、私を椅子に座らせ、コップ一杯の水を持って来てくれた。私は、そのコップの水を一気に飲み干し、一度深呼吸をした。
「少しは落ち着きましたか?」
「ありがとうございます。」
「それで?一体どうしたんです?何が出たんです?」
「紫の化け物です!」
「紫の化け物!?」
「大きな紫の化け物が出たんです!もう少しで家に着くって時に!あの角を曲がればあと少しで愛する妻の待つ家に着くって時に!現れたんですよ!紫の化け物に!曲がり角を曲がったら目の前に大きな紫の化け物がいたんですよ!それからはもう!無我夢中で走って走って走って走って!気付くと交番でした!50を過ぎてまさか単なる会社員の自分が全力疾走するとは思いませんでしたよ!」
「酔ってます?」
「酔ってます!」
「酔ってんの!?どれぐらい酔ってます?」
「だいぶ酔ってます!」
「だいぶ酔ってんの!?」
「今もちょっとお巡りさんが複数に見えます!」
「紫の化け物に会って、走ってもまだ酔ってるって、だいぶもだいぶでしたね。」
「ええ、店を出て気付くと曲がり角ぐらいの感覚でしたからね!それはもう、だいぶもだいぶ酔ってましたね!」
「なら、安心して下さい。きっと大きな紫の化け物は、何かを見間違えたんですよ。」
「何と見間違えたって言うんですか!私は?」
「紫のキャラクターの看板とか?ですかね。」
「お巡りさん!物凄く酔ってても!看板と大きな紫の化け物を見間違える訳がありません!」
「焦点が複数に見えてる私の方を見ながら言われても説得力ありませんよ。」
「それに!見間違えじゃないって言えるのは!その大きな紫の化け物は、私を追い掛けて来たんですよ!看板のキャラクターが追い掛けますか?看板に描かれたキャラクターの類いなんかじゃない!あれは正真正銘の化け物だ!」
「分かりました。貴方が大きな紫の化け物に出会ったとしましょう。追い掛けられて走って逃げていたとしましょう。その結果、ここへ来たとしましょう。でもほら、どうです!もう、大きな紫の化け物はいません。安心して下さい。」
「安心なんか出来ませんよ!出来る訳がない!だって、化け物はここにいないだけで、この町のどこかにまだいるんですよ!お巡りさん!お願いします!」
「私にどうしろと言うんですか?」
「警察官なら!市民の安全安心!この町をあの化け物から守って下さいよ!」
「分かりました。では、家までお送りしましょう。」
「紫の化け物が現れたら!銃で応戦して下さいね!」
「もしも現れたら、そうします。」
「よし!なら、行きましょう!」
と、私が椅子から立ち上がろうとした瞬間、アイツはやって来た。
「アナタ?どうして逃げるの?」
「出たーっ!!化け物!!」
「貴女は、この人の奥さんですか?」
「ええ、そうです。帰りが遅いから、ちょっと家の前まで出てみたら、この人急に逃げ出すもので、追い掛けて来たんです。」
「旦那さん。いい奥さんで良かったじゃないですか。」
「お巡りさん!違う!コイツは、紫の化け物だ!」
「また酔っ払ってるのね。」
「だいぶ酔ってるみたいです。」
「ご迷惑お掛けして申し訳ありません。」
「いえいえ、じゃあ、旦那さん。お送りしますから、三人で帰りましょうか。」
「違う!コイツは、妻に姿形を変えた紫の化け物だ!」
「ちょっと旦那さん!?何をしてるんですか!?」
「銃を貸せ!!」
「アナタ、やめて!」
「手を放しなさい!」
「お巡りさん!アンタも喰われたいのか!貸せ!」
「旦那さん!」
「アナタ!」
「私に近付くな!近付いたら撃つ!」
「落ち着きましょう。旦那さん。」
「落ち着いて、アナタ。」
「うるさい!紫の化け物と紺の化け物め!」

第六百二十話
「この世は化け物だらけ」

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