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2018年6月

2018年6月 6日 (水)

「第六百二十五話」

「えっ!?」
家族旅行の帰りのハイウェイで事故渋滞にハマりながらも後部座席で、幼い子供二人と妻が楽しそうにしている姿をミラー越しに見ていると急に世界がネガ色になり、俺以外の時間が停止した。
「どうなってる!?」
俺は、訳も分からずパニックで発狂しそうな自我をギリギリのところで抑え込み、運転席から見渡せるだけの世界を見た。
「ん?」
すると前方から、真っ白な帽子を被った真っ白なスーツ姿の男が歩いて来る。俺は、その男を目だけで追った。すると男は、俺達家族の車の横で止まった。と同時にロックが解除され、男は助手席に乗り込んで来た。
「お邪魔します。」
「お邪魔しますって、アンタ何者だ!だいたいこの状況は何なんだ!」
「僕も驚いているところでね。」
「そうは見えないが?全部知ってるって感じだぞ?」
「いえいえ、こう見えてパニックで発狂しそうなぐらいなんですよ。」
まるで映画スターのような容姿の男は、笑顔でそう語り掛けて来た。
「なら、アンタも気付いたら世界がネガ色で、時間が停止してたってのか?」
「違います。」
「何!?」
「僕がパニックで発狂しそうなのは、僕以外でこの空間で動いてる家族愛に満ち溢れたパパを発見したからですよ。娘さん達、可愛いですね。奥さんもお綺麗だ。」
「何を言ってるんだ?つまりは、この今の訳の分からない空間は、アンタが作り出したって言うのか?アンタ、本当に何者だ!」
「死神。確か、この世界では、そう呼ばれています。」
「し、死神!?」
「はじめまして。自己紹介が遅れて申し訳ありませんでした。」
「だいぶイメージと違うけど、本当に死神なのか?」
「そうでしたか。なら、大きな鎌でも持っていればよかったですか?或いは、ガイコツだったらよかったですか?まあ、現実とはこんなモノです。」
「そ、そうなのか。それでつまり、アンタが死神で、助手席に乗り込んで来たって事は、俺をあの世に連れて行くって事か。」
「なぜ?」
「なぜって、この状況だったら、誰だってそう思うだろ!」
「言いましたよね?僕は、パニックで発狂しそうなぐらい驚いている、と。」
「じゃあ、何でアンタは、ここにいる!」
「仕事を済ませて帰ろうとしたら、貴方を見つけたからです。」
「仕事を済ませた?」
「これ、事故渋滞ですよね?大型トラックに突っ込んだ乗用車の運転手を連れて行くのが今回の僕の仕事です。」
「そ、そうだったのか。」
「はい、そうです。間もなく、この空間も元通りになります。」
「よかった。」
「よかった?いえいえ、その逆ですよ。家族愛に溢れたパパ?いや、孤独な男、と呼んだ方がいいですか?」
「何だと!?」
「人は、完全な孤独を感じた瞬間、死の入り口の扉が開き始めます。そして貴方は今、その中に足を踏み入れている。いや、その中でこうして死神と会話している。分かりますか?この意味が?今から僕が言う事は、特例中の特例です。死神が人間に本来こんな事を言うのは、有り得ませんから。いいですか?孤独を回避して下さい。そうしないと、次は貴方の元へ僕が現れる事になります。」
「・・・孤独を・・・回避。」
「負けないで下さい!」
そう言って笑顔を向けた死神は、次の瞬きの後には消えていて、世界はいつも通りのカラフルに戻っていて、後部座席では幼い子供二人と妻が楽しそうにして、だけど俺は、本当にこれからこの溢れる孤独感に負けないで生きて行けるんだろうか?

第六百二十五話
「人生は果てしなく孤独だ」

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2018年6月13日 (水)

「第六百二十六話」

「強盗だ!」
「俺も強盗だ!」
「え?お前も強盗?」
「そうだ!」
「え?でも、普段着だし、どう見ても家の住人だろ?」
「ああ、そうだ!」
「なのに強盗?」
「ああ、そうだ!」
「ん?んんん?つまり俺は、強盗の家に強盗に入っちゃったのか?そう言う事か?」
「そう言う事だ!」
「ややこしいな!」
「ややこしいぞ!」
「だが、今は俺が強盗で、お前は強盗だとしても住人なんだから、とりあえず金を出せ!」
「金を出してもいい!」
「強盗のくせに随分と素直だな。」
「金は出す!出すけど、今度は俺がお前の家に強盗に入って取り返しに行くからな!」
「何!?」
「倍の額を強盗してやるからな!それでも構わないって言うなら、この金を持って行け!」
「何!?こんな大金をだと!?」
「ああ、強盗されてやる!さっさと大金を持ってって、パーッと豪遊でも何でもすればいい!」
「ちょっと待て!俺は、この大金を強盗したら、倍の額を強盗されるんだろ?」
「ああ、そうだ!絶対にしてやるからな!逃げられると思うなよ!」
「なら、この大金を強盗したとしても豪遊なんか出来る訳がない!そんな事よりも倍の大金なんか無いぞ!俺には!」
「無いなら強盗すればいいだろ?」
「そゆこと!?」

第六百二十六話
「普段はここから5~10倍に文字数を増やす作業をしています」

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2018年6月20日 (水)

「第六百二十七話」

「先生ーっ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「大丈夫ですか!死にますか!」
「お前、いろんな意味で大人としてダメだぞ。」
「はあ!?わざわざ、こうしてお見舞いに来たのに、そんな言い方あります?」
「あのな?まず、ここは病院なんだから、大きな声を出すな。いつもの俺の家じゃないんだからさ。」
「あ、それはすいませんでした。ついつい個室だったから、いつもな感じになっちゃいました。で?何で個室なんですか?先生、何か不祥事でも起こしたんですか?」
「起こすか!個室に入院してる人達みんながマスメディアから逃げてると思うなよ!」
「シーッ!」
「すまん。って、何で俺が謝らなきゃなんないんだよ!見れば分かるだろ?骨折だよ!骨折!足を骨折しちゃったんだよ!で、個室なのはな?」
「分かった!個室なのは、ここで短編小説を書く為にですね!ああ、確かに大部屋だと集中出来ませんよね。」
「鬼か!」
「ゾンビですよ。」
「そう!そうそうそう!だいたい何でゾンビなんだよ!」
「ああ、これはこれからハロウィーンの仮装パーティーがあるからですよ。どうですか?」
「どうですかじゃねぇよ!」
「可愛いですか?」
「可愛いですかじゃねぇよ!可愛さ求めてゾンビの仮装してんじゃねぇよ!って、そもそも病院にゾンビで来んなよ!」
「しょうがないじゃないですか。この後、仮装パーティーがあるんですから!」
「ゾンビの顔を近付けるな!後な!死にますか!って何だ!死にますか!って!それが見舞いに来た人間が言う事か!病院でゾンビの格好の時点でだいぶアウトなのに、プラスその発言で果てしなくアウトだ!」
「で?先生?作品は完成してるんですか?」
「悪魔か!」
「だから、ゾンビですよ。」
「分かってるわい!そうじゃなくてだな!こんな状態で締め切りに間に合う訳がないだろ!」
「え?でも、足を骨折しただけですよね?」
「だけ?」
「別に手を骨折した訳じゃないですよね?まあ、手を骨折してたとしても口で書けますよね?もしくは、言ってもらえればアタシが代筆しますよ?」
「鬼と悪魔のハーフか!」
「いえ、ゾンビです。」
「すげー痛かったの!すげー痛いのに短編小説が書ける訳がないだろ!」
「風邪の時は書いたじゃないですか。」
「風邪でギリだ!熱でフラフラがギリ!すげー痛いは無理!無理だったんだよ!」
「一応、試みてくれたんですね。」
「当たり前だ!」
「そんな先生に朗報です!締め切りは、延期します。」
「当たり前だ!それを言いに来たのか?だったら、さっさと帰ってくれ!」
「そうはいきません!」
「何で!?お前がいると骨に響くんだよ。」
「締め切りの延期には、一つ条件があります。」
「条件?」
「作品は、持ち帰りませんが、アイデアを持ち帰ります。」
「その風貌で言われても全く持ち帰る気が感じられないけどな!」
「さあ!どんな作品を書くんですか?先生!」
「いきなりだな!」
「こう見えてもアタシ、忙しいんですよ!」
「仮装パーティーって言う完全なる私用でな!」
「さあさあ!次回作の構想を聞かせて下さい。」
「まあ、せっかく病院に入院してるんだか、そんな風なのにしようかな。」
「そんな風なのとは?」
「だから、病院をテーマにした短編小説だよ。」
「いや、いやいやいや、病院をテーマに短編小説は、無理でしょ。」
「何でだ!」
「病院ってテーマは、短編小説には収まりませんよ。」
「変な患者と医者のやり取りでいいだろ?」
「適当!?ちょっといつも以上に適当じゃないですか?」
「いつも適当みたいに言うな!じゃあ、患者と変な医者のやり取りでいいだろ?」
「変なが移動しただけじゃないですか!」
「なら、変な患者と変な医者のやり取りでいいだろ?」
「変なが増えただけじゃないですか!」
「患者と医者のやり取りでいいのか?」
「変なが消滅した!」
「何なんだよ!どうしろって言うんだよ!」
「人類がゾンビと戦う短編小説は、どうです?」
「それこそ短編小説には不向きだろ!」
「そこを短編小説に仕上げるのが先生の腕の見せどころじゃないですか!」
「お前こそ、いつも以上にムチャクチャ言うな!」
「先生のムチャクチャな短編小説読んでたら、思考がムチャクチャになりますよ!こんな格好でお見舞いに来ちゃいますよ!」
「何でもかんでも俺の所為にすんなよ!」
「あ!」
「何だよ!」
「ちょっともう時間なんで行きますね!」
「はあ!?」
「あのちゃんと構想を練ってて下さいね!なんなら、ゾンビの患者とゾンビの医者のやり取りでいいんじゃないですか?」
「その世界観で何で病院が必要とされてんだよ!」
「あ!もう本当にヤバいんで行きますね!」
「お前、自由だな。」
「ではでは、お大事に!」
「もう来んな!」
「何言ってるんですか?明日も明後日も来ますよ!」
「ああーっ!!」

第六百二十七話
「そうだ!人間の患者とゾンビの医者の作品にしよう」

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2018年6月27日 (水)

「第六百二十八話」

「ん?そうか、また更新の時期か。」
目を開けるとそこは、何だか微妙にいつもと違う世界だった。何が違うかと聞かれても明確に答える事は出来ない。廊下の長さなのか?ゴミ箱の大きさなのか?文字なのか?壁の色合いなのか?とにかく俺は、誰もいない役所のような建物の中を歩き、矢印の指示に従い更新の手続きをする為に何かが微妙にいつもと違うドアを開けて、何かがいつもと違う部屋に入った。そして、長いテーブルの手前の席に座り、長いテーブルの奥の席に座るスーツの女の容姿の死神を見た。
「更新されますか?」
「次に、ここへ来た時に聞こうと思ってたんだ。」
「何をです?」
「これは、一体どう言う事だ?」
「確か前回貴方は、10年の更新を申し出ました。そして、あれから10年が経過したので、また手続きをしていただきます。」
「その、更新って意味が分からないんだよ。」
「前回、お聞きしなかったのですか?或いは、別の死神がその辺をお話ししたと思いますが?」
「あの時は、何がなんだか分からないうちに2年が過ぎたし、生きるのに必死だったから、とにかくこんな訳の分からない場所からすぐに立ち去りたかったんだ。」
「死神が関わる生物の死の案件には、主に3つあると言われています。」
「3つ?」
「本気の殺意、完全なる孤独、知略的忘却、他にも細かなモノも存在しているようですが、多くはこの3つで構成されています。1つ1つを詳しくお話ししている時間は御座いませんが、貴方はこの中の知略的忘却に該当致します。」
「知略的忘却?」
「それぞれにそれぞれの死神のルールが存在致します。そして、担当の死神が存在します。その場で死を実行する。発動条件が揃った時に死を実行する。そして、自らで死を決定する。」
「自らで死を?それが知略的忘却のルール?」
「ええ、そうです。知略的忘却とは、多くが自らに何か人には言えない事情を抱え、知略的に自らの存在を忘却する。存在を忘却するとは、死を意味するも同然の事なのです。つまり、生きながら死んでいる状態を自らで作り出している。」
「だから、自分で死ぬ時期を選べってシステムなのか?」
「ご察しに大変感謝致します。」
「でもだったら、わざわざこんなややこしいシステムなんか必要ないだろ。生きながら死んでるなら、そのままほっとけばいいだろ?」
「それが、ややこしく必要なのです。死を統率しなければならない我々が、生きながら死んでいる人間を管理しなければ、どうなると思いますか?」
「どうなるんだ?」
「怒られます。」
「何!?」
「物凄く怒られるのです。誰もが怒られたくはないでしょ?我々死神だって、それは同じ事です。さあ、更新はされますか?それとも?更新、されませんか?されない場合は、私の後ろにある赤いドアへどうぞ。」
「単純な質問なんだか?」
「何でしょう?」
「更新しない奴なんか存在するのか?」
「はい?」
「自らの存在を誰からも忘れ去られてるかもしれないが、生きてるのと本当に死ぬのとでは、大きく違うだろ。」
「大きく違う?本気で、仰っているのですか?貴方も計12年と言う知略的忘却の日々をお送りになられて、本当は分かっているのではありませんか?生きながらに死んでいる辛さを、誰もが自分を忘れ去ってしまった残酷な世界を、実感のない日常生活の虚無感を。」
「・・・それでも!」
「更新されるなら、何年になさいますか?大変申し訳ありませんが、どうやら次の方が建物内に来られたようなので、お早めに決めていただけると、こちらとしましても大変助かります。契約書を私に御提出して、後ろのドアをお通り下さい。」
「・・・分かった。」
俺は、ペンを手に取り、契約書にサインし、席を立ち、死神に提出して、ドアを開けた。

第六百二十八話
「1年と書き、青いドアへ・・・・・・」

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