« 「第六百二十四話」 | トップページ | 「第六百二十六話」 »

2018年6月 6日 (水)

「第六百二十五話」

「えっ!?」
家族旅行の帰りのハイウェイで事故渋滞にハマりながらも後部座席で、幼い子供二人と妻が楽しそうにしている姿をミラー越しに見ていると急に世界がネガ色になり、俺以外の時間が停止した。
「どうなってる!?」
俺は、訳も分からずパニックで発狂しそうな自我をギリギリのところで抑え込み、運転席から見渡せるだけの世界を見た。
「ん?」
すると前方から、真っ白な帽子を被った真っ白なスーツ姿の男が歩いて来る。俺は、その男を目だけで追った。すると男は、俺達家族の車の横で止まった。と同時にロックが解除され、男は助手席に乗り込んで来た。
「お邪魔します。」
「お邪魔しますって、アンタ何者だ!だいたいこの状況は何なんだ!」
「僕も驚いているところでね。」
「そうは見えないが?全部知ってるって感じだぞ?」
「いえいえ、こう見えてパニックで発狂しそうなぐらいなんですよ。」
まるで映画スターのような容姿の男は、笑顔でそう語り掛けて来た。
「なら、アンタも気付いたら世界がネガ色で、時間が停止してたってのか?」
「違います。」
「何!?」
「僕がパニックで発狂しそうなのは、僕以外でこの空間で動いてる家族愛に満ち溢れたパパを発見したからですよ。娘さん達、可愛いですね。奥さんもお綺麗だ。」
「何を言ってるんだ?つまりは、この今の訳の分からない空間は、アンタが作り出したって言うのか?アンタ、本当に何者だ!」
「死神。確か、この世界では、そう呼ばれています。」
「し、死神!?」
「はじめまして。自己紹介が遅れて申し訳ありませんでした。」
「だいぶイメージと違うけど、本当に死神なのか?」
「そうでしたか。なら、大きな鎌でも持っていればよかったですか?或いは、ガイコツだったらよかったですか?まあ、現実とはこんなモノです。」
「そ、そうなのか。それでつまり、アンタが死神で、助手席に乗り込んで来たって事は、俺をあの世に連れて行くって事か。」
「なぜ?」
「なぜって、この状況だったら、誰だってそう思うだろ!」
「言いましたよね?僕は、パニックで発狂しそうなぐらい驚いている、と。」
「じゃあ、何でアンタは、ここにいる!」
「仕事を済ませて帰ろうとしたら、貴方を見つけたからです。」
「仕事を済ませた?」
「これ、事故渋滞ですよね?大型トラックに突っ込んだ乗用車の運転手を連れて行くのが今回の僕の仕事です。」
「そ、そうだったのか。」
「はい、そうです。間もなく、この空間も元通りになります。」
「よかった。」
「よかった?いえいえ、その逆ですよ。家族愛に溢れたパパ?いや、孤独な男、と呼んだ方がいいですか?」
「何だと!?」
「人は、完全な孤独を感じた瞬間、死の入り口の扉が開き始めます。そして貴方は今、その中に足を踏み入れている。いや、その中でこうして死神と会話している。分かりますか?この意味が?今から僕が言う事は、特例中の特例です。死神が人間に本来こんな事を言うのは、有り得ませんから。いいですか?孤独を回避して下さい。そうしないと、次は貴方の元へ僕が現れる事になります。」
「・・・孤独を・・・回避。」
「負けないで下さい!」
そう言って笑顔を向けた死神は、次の瞬きの後には消えていて、世界はいつも通りのカラフルに戻っていて、後部座席では幼い子供二人と妻が楽しそうにして、だけど俺は、本当にこれからこの溢れる孤独感に負けないで生きて行けるんだろうか?

第六百二十五話
「人生は果てしなく孤独だ」

|

« 「第六百二十四話」 | トップページ | 「第六百二十六話」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/121942/73630739

この記事へのトラックバック一覧です: 「第六百二十五話」:

« 「第六百二十四話」 | トップページ | 「第六百二十六話」 »