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2018年11月21日 (水)

「第六百四十九話」

「はあ、はあ、はあ、もっと速く!」
「はあ、はあ、はあ、無理よ!」
30代後半の男が、20代前半の女の手首を掴み、何かから逃げるようにして、トンネルの中を走っている。
「頑張れ!」
「もう無理!」
「頑張れ!!」
「いやもう、頑張れって言われて、どうこう出来るレベルじゃないんで!」
女は、止まった。
「はあ?おい!何で止まるんだよ!」
「何で?何でって、止まるでしょ!普通!一体どんだけ休憩無しで逃げ続けてると思ってんの!」
「まだ、数時間。」
「3時間!3時間よ!普通に3時間動き続けるのだって今日はよく眠れるレベルなのに、逃げ続けてんのよ?逃げ続けるって通常よりも疲労度アップなのよ?それを3時間?もう、動けない!」
「おい!そんな泣き言だったら走りながら聞く!いいから走れ!」
「自動追跡型爆弾って一体何なの!」
「いいか?もう既にここまで来てるかもしれないんだぞ?とにかく走らないにしても歩け!」
「説明してくれなきゃ歩かない!」
「分かった。歩きながら説明する。だから、歩いてくれ!」
「・・・分かった。」
男は女の手首を掴んでいた手を放し、歩き出した。女もその後を歩き出した。
「何が聞きたい?」
「その自動追跡型爆弾って何なのって事から聞きたいけど、まずはアナタ何者なの?」
「オレは、罪悪感から逃げ出した男だ。」
「はあ!?いや、いやいやいや、説明になってないってば!」
「自動追跡型爆弾、それ自体に名前は存在しない。なぜ、名前が存在しないかは、誰も名前を付けたがらなかったからだ。研究者も政府の偉いさんもだ。」
「それって、かなりヤバい物って事?」
「いや、人類にとって必要な物だ。だが、必要過ぎてヤバ過ぎる物とも言えるかもな。だから、誰も名前を付けたがらなかった。もし、名前を付けてしまえば、名付け親として後世まで残ってしまうからな。」
「必要過ぎてヤバ過ぎるって何?そんな物なんて存在すんの?」
「自動追跡型爆弾とは、文字通り自動で追跡して爆発する爆弾だ。」
「それぐらいは分かるわよ。」
「ヤバ過ぎるのは、その自動追跡能力だ。」
「能力?」
「絶対に逃げられない!」
「何それ!どう言う事?戦争でもするつもりで開発したって言うの!」
「実は、自動追跡型爆弾が、いつ完成したのかは、誰にも分からない。」
「誰にも分からないって変でしょ!作った人間がいるんでしょ!」
「それも分からない。本当に誰かが作り出した物なのか、或いは宇宙からある日突然落ちて来たのか?位置付けとしたら、ユニコーンやドラゴンなんかの伝説上の存在に並ぶ。」
「何を言ってるの?」
「つまりは、何もかもが謎なんだ。」
「ちょっと待って!アナタ、アタシの事を誘拐しようとしてんの?」
「そんな訳ないだろ!オレは、キミを助けようとしてるんだ!自動追跡型爆弾から!」
「だって、おかしいじゃん!全てが謎なら、どうして存在してるって言うのよ!頭がおかしいの?」
「そのままオレもあっち側の世界にいたら、もしかしたら頭の中が正常ではいられなかっただろう。自動追跡型爆弾が謎だらけだとは言ったが、1つだけ謎ではない部分がある。使い方だ。」
「え?」
「言っただろ?人類にとって必要な物だ、と。必要過ぎる物だ、と。」
「どうやって使うの?」
「実際には、使い方ではない。使い道だ。オレ達は、自動追跡型爆弾がランダムで選び出した人物の死を見届ける。ただ、それだけの仕事だ。」
「どんな仕事だ!」
「この仕事がいつから始まったのかは不明だ。」
「また、謎。」
「そうだ。ほぼ全てが謎だ。その部屋にはモニターがあり、そのモニターにはターゲットが映し出される。ただ、それだけだ。」
「それだけ?」
「後は病院に足を運び、ターゲットの死を確認する。そしてまた、モニターがある部屋に戻り、次のターゲットが映し出されるのを待つ。」
「どんな仕事だ!え?ちょっと待て!病院って言った?」
「ああ、病院だ。」
「爆弾って、爆死よね?そんな木っ端微塵の死体も病院に運ばれるの?そもそもそんな木っ端微塵の死体を特定出来るの?ああ、でもまあ、今はDNAとかで特定出来るのか。それでも全てのケースを病院で特定なんか出来ないんじゃないの?」
「木っ端微塵にはならない。」
「え?何でよ!」
「自動追跡型爆弾は、人間の鼻から入り込み、脳で爆発する。」
「思ってた爆弾と違う!?」
「そうだな。」
「何で笑うのよ!」
「自動追跡型爆弾は、気体だ。」
「そんなバカな!って、だから何で笑ってんのよ!」
「初めて聞かされた時のオレと同じ反応をするなと思ってな。」
「絶対みんな同じ反応をすると思いますけど?」
「いいか?肝心なのは、ここからだ。つまり、自動追跡型爆弾は、風で移動する。風に乗りターゲットに近付くって訳だ。」
「で、最後にはターゲットが鼻から吸い込んじゃう。」
「そうだ。」
「どうやって防ぐのよ!アタシに鼻から呼吸するなって言うの!」
「そうだ。」
「無理でしょ!起きてる間なら意識して出来るかもだけど、寝ちゃったら確実に鼻で呼吸しちゃうって!」
「だから、オレ達は向かってるんじゃないか!」
「どこへ!」
「キミの鼻の穴を石膏で埋める!」
「絶対に嫌だ!それで一生生きて行けって言うの!」
「死ぬよりかはいいだろ?もしかしたら、オレのやろうとしてる事は、人類のバランスを崩してしまうかもしれない。」
「どう言う事?」
「言っただろ?人類にとって必要な物だ、と。人口のバランスを保っているのさ。自動追跡型爆弾はな。」
「何で笑いながら最重要事項を語っちゃってんの?」
「いや、鼻の穴に入れた石膏を肌と同系色にすれば、と思ってな。」
「そう言う問題じゃない!」

第六百四十九話
「ターゲットが変更されました」

その部屋のモニターには文字と同時に男性の顔が映し出された。

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