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2018年11月 7日 (水)

「第六百四十七話」

 私は、妻を殺す為にナイフを購入しようと、今まさに店内でナイフを手に取り吟味していた。
「おい、何するつもりだ?」
すると手に取ったナイフが私に話し掛けてきた。
「え?」
「だから、俺を購入して一体何をするつもりなのかって聞いてんだ。」
「そんな事をなぜ、ナイフに答えなきゃならないんだ。」
「おい、おいおいおい、俺はナイフだぞ?」
「そんな事は、分かってる。」
「人殺しの道具として作られた訳じゃない。」
「え!?」
「おい、おいおいおい、ちょっと待ってくれ。その反応を見ると、お前は俺を人殺しの道具として購入しようとしてたってのか?」
「そんな訳ないだろ。」
「本当か?」
「当たり前だ。私は、今度行くキャンプの為にナイフを購入しようとしてるだけだ。」
「キャンプに行きそうな感じには見えないけどな。」
「それはそうだ。今度のキャンプが初めてのキャンプなんだからな。」
「怪しいもんだな。」
ナイフだから鋭いのか?しかし、このナイフは完全に私と言う人間を見くびっている。事実、私は本当に今度、初めてのキャンプに行く。そして、本当にそのキャンプの為にナイフを購入しようとしている。嘘はない。私の発言に何一つ嘘はない。ただ、事実の真実を隠しているだけだ。
「やめといた方がいいと思うぞ?」
「なぜだ?前々から家族全員で楽しみにしていたキャンプだ。やめる要素はない。」
「そこで誰を殺すつもりだ?妻か?」
「何!?」
「図星ってヤツか。やめとけやめとけ。」
「違う!私はそんな事の為にナイフを購入しようとしているんじゃない!」
「声、デカいぞ。」
「・・・・・・。」
「お前が、どうやって妻を殺そうとしてるのか分からないし分かりたくもない。なぜ、妻を殺そうとしてるのか知らないし知りたくもない。」
「だったら、放っといてくれ。」
「だから言ってるだろ?俺は、人殺しの道具として作られた訳じゃない。」
「・・・・・・。」
「考え直せ。家族全員でって、お前は言っただろ?お前が妻を殺したら、残された子供はどうなる?」
「・・・・・・。」
「お前は、自分の事しか考えてない。子供の事を考えろ。残された子供の未来を考えろ。」
「・・・・・・。」
「黙ってないで何とか言ってみろ。」
「ウンコ漏れた。」
「ウンコ漏れた!?」
「ああ、そうだ。ウンコ漏れた。」
「本当か?」
「大の大人がウンコ漏れたなんて嘘吐く訳がないだろ。」
「だとしたら、なぜ直立不動なんだ。」
「別にいいだろ?」
「よくないだろ!ウンコ漏れたんなら、さっさとトイレに行ったらどうなんだ!」
「トイレに行くか行かないかは、私の自由だろ?」
「大の大人なら行くだろ!」
「それはどうだろうか?」
「お前の言ってる意味が分からない!」
「今更トイレに行ったとこで、どうなる?完全にウンコ漏れた状態でトイレに行ったとこで、そこで何一つ問題は解決しない。」
「問題は解決しないとしてもだ!それがマナーだろ!」
「それがマナーだと言うならば、私がやるべき事は、一秒でも早くナイフを購入して、この店を立ち去る事だ。」
「おい、おいおいおい、本当にウンコ漏れたのか?事態を収束させる為に下らない嘘を吐いてるんじゃないのか?」
「嘘は吐いてない。店内のざわつき具合を感じれば分かる事だ。」
「お前、恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしくない?仕様がないだろ?ナイフと違って、人間は排便をする。しかもその排便は、予測不可能だ。散歩中に突然、エレベーターのボタンを押した瞬間、玄関のドアを開ける今まさにその時、それは訪れる。それがたまたま今で、私はやってしまっただけの話だ。」
「お前!」
私は、嘘など吐いていない。事実、本当にウンコを漏らした。本当にウンコを漏らしきった。本当にウンコを漏らし尽くした。ただ、事実の真実を隠しているだけだ。
「キャンプが楽しみだ。」
「待て!」
私は、話し掛けてきたナイフを元の場所に戻し、その横の話し掛けてこないナイフを手に取り、その場を立ち去った。この店に二度と来られなくなってしまったし、スーツをダメにしてしまった事は残念だが、何も問題はない。
「カードで。」

第六百四十七話
「排便力」

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