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2019年1月

2019年1月 2日 (水)

「第六百五十五話」

「空腹だ。」
「空腹だと自らが言うヤツは、空腹ではない。」
「はあ?」
「まあまあ有名な哲学者の言葉だ。」
「なら、そのまあまあ有名な哲学者は、空腹になった事がないんだな。」
「いや、彼女は空腹の魔女と呼ばれていた。」
「まあまあ有名な哲学者じゃねぇじゃんか!」
「空腹の魔女であり、まあまあ有名な空腹の哲学者でもあったのだ。」
「その空腹の魔女だか、空腹の哲学者だかが、何を言ったのか知らないけどな!俺は、空腹だ!」
「だから、それは空腹じゃないんだよ。」
「なら!この感覚は何なんだよ!お腹が減ってお腹が減って、何か食べたいこの欲求は!」
「魔女は、こうも言っている。」
「もう魔女じゃん!」
「真の空腹とは、満腹である。」
「何かそう言う奇々怪々な言い回しをすれば、何でもかんでも哲学になると思ったら大間違いだからな!空腹は空腹!満腹は満腹だ!そして今の俺は、空腹で何か食べたいんだ!」
「その魔女がその後どうなったか知りたい?」
「その後って、その前もその中も知らないのに、その後って!でどうなったんだ?」
「熊と間違えられて猟銃で撃たれた。」
「何か想像してた死に方と違う!狩られたんじゃないのかよ!火あぶりになったんじゃないのかよ!」
「お前なぁ?今のこの時代に火あぶりなんか存在する訳ないだろ?」
「今のこの時代の話だったのかよ!そこ猛烈にビックリだよ!」
「で、僕が働いてる病院に運ばれて来たんだよ。」
「凄い展開になって来たな!死んでなかったのかよ!おい、このまま行くと、お前とその魔女は、恋に落ちて結婚しちゃうんじゃないか?」
「はい。」
「何でこのタイミングで封筒?」
「親友のキミには是非、出席してもらいたい!だから、わざわざ今日は直接手渡ししに来たんじゃないか!」
「俺が来たんだけどな!って、結婚式の招待状!?」
「式は、彼女の希望もあって、世にも珍しい魔女式で行う事にしたから!」
「はあ?」
「お菓子の式場に、席は魔方陣、食事は何かよく分からないものが入ってる大きな鍋で煮込んだスープ、ブーケトスは頭蓋骨トス、あそうそう、彼女側の席は、カラスとカエルとヘビだけだけど、大丈夫だよな?気にならないよな?」
「たくさん気になる!つか、気にならないとこがない!頑張っても許せるのはお菓子の式場だけだぞ?あとはもう、世にもおぞましい宴だ!おい、ちょっと待てよ!もっと冷静になって考え直せよ!」
「何を?冷静になって考え直す必要なんてないじゃないか!500歳差の事を気にしてんのか?」
「気にするも何も500歳差を今知ったよ!」
「あ!もしかしてお前、物凄くお婆さんの魔女を想像してないか?だったら安心しろ!そこそこの美女だ!」
「んまあ、容姿に関しては、人それぞれの好みがあるから口は出さないよ。そして、これが物凄く昔のファンタジーな世界でお互いに甲冑を身に纏っての話なら、オールオッケー!でもな?今の時代の話なんだぞ?お前、何か騙されてんじゃないのか?って心配を俺はしてんだよ!」
「騙されてる?呪いをかけられて殺されるって事か?」
「いやあのさぁ?ちょっと原点に立ち返るけどさぁ?お前、マジで現代に魔女がいると思ってんの?つか、そもそも大昔にも魔女がいたかなんて分かんないけどな!」
「お前、何も分かってないな!僕は、自分が魔女だって言ってる彼女が好きなんだ!彼女を愛してるんだ!」
「ああなるほど、そう言う事か。」
「そう言う事だ!」
「それなら、おめでとう。」
「ありがとう。」
「お前も遂に結婚か。」
「僕も遂に結婚さ。」
「でも、魔女式結婚式は絶対にやめろよ!」

第六百五十五話
「空腹は最高のスパイス、孤独は効果絶大な恋の呪い」

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2019年1月 9日 (水)

「第六百五十六話」

「世界を征服してみませんか?」
「その小瓶で?」
「はい。」
「その空の小瓶で?」
「この空のような小瓶で、です。」
「ん?」
「はい?」
「いや、どう見てもそれ、空の小瓶だよな?」
「いえ、空のような小瓶です。」
「何か入ってるって事か?」
「はい。」
「それは、世界が征服出来るような何かって事か?」
「そうです。」
「そもそも、そんな小瓶の中に入ってる何かで、世界が征服出来るのか?」
「問題は、大きさではありません。重要なのは、小瓶の中身です。」
「中身?その空にしか見えない小瓶の中身ってのは、一体何なんだ?」
「それを教える前に一つ、お伺いしたい事があります。」
「何だ?」
「貴方は、世界を征服したいですか?」
「え?」
「その答えを聞かなければ、中身について教えられません。貴方は、世界を征服したいですか?」
「いいや。」
「では、この話は終了です。」
「いや、ちょっと待って!」
「待ちませんよ。」
「中身が何なのか教えろ!」
「世界を征服したくない人に中身を教えて、一体私にどんなメリットがあるんですか?」
「だから、ちょっと待って!」
「腕を放して下さい。こうしている間にも世界を征服したい人が、どうやって世界を征服したら良いのか悩み苦しんでいるんですよ。」
「ちょっとも教えてくれないのか?その小瓶の中身が何なのか?」
「ちょっとが全部なので無理です。」
「ヒントも教えられないのか?」
「ヒントが答えなので無理です。」
「気になるだろ!」
「では、今一度お伺いします。世界を征服したいですか?」
「いや、したくないよ。」
「では、失礼致します。」
「失礼致しますじゃなくて!」
「腕を放して下さい。この時間がどれだけ無駄な時間だかお分かりですか?」
「正直、分からない!」
「それは、貴方が世界を征服したくないからですよ。世界を征服したい人にとっては、寿命を縮めるほどに無駄な時間です。」
「なあ?だいたいその世界を征服って、具体的にどう言う事なんだ?大魔王的な事なのか?」
「いい大人が何を子供みたいな事を言ってるんですか?」
「空の小瓶を持って世界を征服したいですか?なんて尋ねて来る大人に言われたくないね!」
「その質問に対しての具体的な回答は、この小瓶の中身の答えにモロ直結なので、お答え出来ません。」
「じゃあもう、その小瓶の中身って凄いのが入ってるって事かよ!」
「世界を征服ですからね。どうですか?世界を征服したくなりました?」
「全然。」
「では。」
「待てって!」
「セーターが伸びるから!え?おかしくないですか?」
「何がだ?」
「小瓶の中身が凄く気になってるのに、世界を征服したくないって、おかしくないですか?」
「小瓶の中身は凄く気になるが、世界を征服したくないんだから、仕方ないだろ?」
「嘘でもいいじゃありませんか。」
「嘘?」
「そうですよ。」
「嘘って?」
「小瓶の中身が知りたいなら、嘘でも世界を征服したいって言えばいいじゃありませんか。そうすれば、私が小瓶の中身を喋るんですよ?」
「いや、俺は嘘でも世界を征服したくない。」
「では。」
「ちょい待ち!」
「セーターが!」
「セーターが伸びるの嫌なら小瓶の中身を教えてくれればいいだろ!」
「私は、セーターが伸びてもいいから教えられません。セーターを引きちぎられようが、世界を征服したくてしたくて思い悩み苦しんでいる人の元へ行かなければならないんです。」
「世界を征服したくてしたくて思い悩み苦しんでいる人って誰!王様とかか?」
「いい大人が何を子供みたいな事をまた言ってるんですか?」
「いや、世界を征服って、答えは明確だけど、課程が漠然とし過ぎてるんだよ!いや、世界を征服って言葉として明確だけど、一体何を持って世界を征服した事になるのかも漠然とし過ぎてるんだよな!何を持って?」
「では、最後のチャンスです。セーターが地球の裏側まで伸びようが、引きちぎられようが、私はこの質問の答えによって、この場を絶対に立ち去ります。お伺いします。」
「何だ!」

第六百五十六話
「世界を征服したいですか?」

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2019年1月16日 (水)

「第六百五十七話」

 とあるファンタジーな大陸では今、かつてない程の大規模な戦争が巻き起こっている。赤の国、青の国、金色の国、紫の国、そして黒の国。それぞれがそれぞれの思惑を持ち、大陸を統一しようと暗躍している。そしてこれはそんな戦乱の中、赤の国の城下町にある酒場で空腹を満たしている最中の男と少女の話である。
「ねぇ?」
「何だ?」
酒場は妙な賑わいを見せていた。客達は歌い踊り、カードゲームに興じ、それはまるで宴のような。そんな酒場の一番奥、テーブルを挟んで男と少女は座っていた。
「剣見せて!」
「ダメだ。」
「剣見せて!」
「ダメだ。」
「ケチ!」
「ケチで、結構。」
「むむむむむむ!」
「スープが零れてるぞ。」
「剣見せてくれないからだよ!」
「いいや、お前がいつまで経ってもスプーンの扱いが下手クソだからだ。」
「下手クソじゃないもん!」
「スープが上手く飲めるようになったら見せてやる。」
「お肉は上手く食べれるもん!」
「手が汚れるぞ。」
「ねぇ?久し振りだよね?」
「肉がか?」
「違う!赤の国!」
「ああ、女王のネックレスの呪いの時以来だな。」
「元気かな?病気の王様!」
「さあな?相変わらず病気なんじゃないか?」
「そっか!相変わらず病気なんだ!じゃあ、元気だね!」
「今回は、その病気を治す依頼だ。」
「治せるの?」
「さあな?俺は医者じゃない。本物の病気だとしたら、お手上げだ。」
「じゃあ!ドラゴンの仕業!」
「いいか?何度も言うが、ドラゴンなんてのは、どっかの誰かが考えた幻想の空想だ。旅をしていて一度でもドラゴンを見た事があるか?」
「うーん?・・・・・ない!」
「そうだ。ドラゴンもハーピーもセイレーンもゴブリンもオークも幻想の空想だ。」
「グリフィンも?」
「そうだ。」
「つまんないの。」
「この世界にモンスターは、スライムだけだ。」
「つまんないの。」
「夢見る少女のその夢をぶち壊して悪かったな。」
「つまんないの!」
「おい、どこへ行く。」
「・・・・・トイレ!」
「食事中だぞ?」
「トイレ!」
「モンスター図鑑を持ってトイレか?」
「そう!悪いの!」
「分かった分かった。ったく、アレを作った奴を恨むぞ。」
少女がトイレへ行く姿を見届けながら、男は蒸留酒の入ったジョッキを手に取り、一口飲んだ。そして、食べこぼされた少女のテーブルを見て笑みを浮かべていると、近付いてくる人影があった。
「早かったな。使用中だったのか?」
「いいや、お嬢ちゃんはまだ便所さ。」
その人影は、蒸留酒の入ったジョッキを片手にした男だった。
「誰だ!」
「おっとととと、剣を抜くんじゃないぞ?もちろん銃もだ。怪しいもんじゃない。」
「十分怪しいが?」
「俺が?俺が怪しいんだったら、アンタはその十倍は怪しいぞ?俺は、単にアンタに興味があって話し掛けただけさ。」
「俺にはない。」
「まあ、そう言わずにいいじゃないか。」
「座るな!」
「お嬢ちゃんが帰って来る頃には消えるさ。少し話がしたいだけさ。白の紋章、つまりアンタはSSだよな?」
「だから何だ?珍しくもないだろ?」
「いいや、興味をそそるには十分だ。スライムスレイヤーと少女。こんな組み合わせに興味を持たない奴がいるか?」
「エルフとドワーフが結婚する時代だぞ?」
「そのうち、精霊と人間も結婚するかもな。だが、犬猿の仲じゃない。水と油じゃない。」
「何が言いたい?」
「多くの奴等は誤魔化せても俺には通用しない。」
「お前、魔術師か?」
「違う違う違う。あんな魔法に頼るひ弱な奴等と一緒にしないでくれよ。」
「だったらもう消えろ。」
「いいや、まだ消えないね。なぜ、スライムスレイヤーとスライムが一緒に旅をしてるのか?しかも世にも珍しい変異体のスライムとな。一体その紋章を何色に染めるつもりだ?」
「いいか?スライムスレイヤーについて何か勘違いしてるようだから言っとくぞ。そもそもスライムスレイヤーは、スライムを討伐する事が目的じゃない。スライムとの共存が目的だ。それに、紋章の色を尋ねる事はタブーだぞ。」
「すまんすまん。なるほど。悪さをするスライムだけを裁くって訳か。変異体は保護してるって感じか?」
「さあな?裁くのは、最終決断だ。」
「なら、今回の病気の王様の原因もスライムだって考えてんのか?」
「さあな?」
「スライム病。」
「お前、本当に何者だ!」
「ほうほうほう。それが有名なスライム銃ですか。スライムを弾丸に?それもスライムとの共存の一環って訳か。」
「俺の機嫌がこれ以上悪くなる前に消えないと本当に頭に撃ち込むぞ?」
「そして俺は脳をスライムに支配されてアンタの命令で酒場から追い出されるって訳か?」
「いいや、悪いがこの弾には土のエレメントのスライムじゃなく、火のエレメントのスライムが込められてる。」
「ああ、だったら俺はこの場で即死だ。」
「分かったら消えろ。」
「そうも行かない。」
「何?」
「今回の王様の一件は、アンタが考えてるような単純なもんじゃない。」
「何だと?」
「かなり複雑な相関図だと俺は見てる。だから、アンタは王様に謁見した後に、必ず俺を探す。それは、俺の協力が必要だからな。」
「本当にお前は、一体何者なんだ?」
「ゴーレム使い。」
「何だって!?」
「俺の協力が必要になったら、墓場の地下に来い。じゃあな。」
「おい!」
「ただいまー!」
「お帰りお嬢ちゃん。」
「おじちゃん誰だ?」
「おじちゃん?お兄さんだろ?俺は、おじちゃんのお友達だ。またな、お嬢ちゃん。」
「うん!」
そう言うと男は蒸留酒の入ったジョッキを持ち、少女の頭を軽く数回手のひらで叩くと立ち去って行った。
「・・・・・・。」
「ねぇ。」
「・・・・・・。」
「ねぇってば!」
「さっさと食事を済ませ・・・どうなってる!?」
あれだけ宴のような賑わいだった酒場には、男と少女と店の人間達の姿しかなかった。
「あれ?みんなどこ行っちゃったの?」
「まさか・・・アレが全てゴーレムだったってのか?」
「え?」
「さあ、食べ終わったら行くぞ。」
「病気の王様のとこ?」
「そうだ。」
「その前に!」
「またトイレか?」
「違う!銃見せて!」
「ダメだ。」
「ケチ!」
「ケチで、結構。」
「むむむむむむ!」
「さあ、早く食べろ。」
「はーい。」
赤の国の城下町にある酒場で空腹を満たした男と少女は、お城へと向かった。

第六百五十七話
「赤の国ー病気の王様ー

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2019年1月23日 (水)

「第六百五十八話」

「完成!完成したぞ!」
「おめでとうございます!博士!」
「長かった!本当に長かった!」
「博士!本当におめでとうございます!」
「見よ!」
「そのスプレーが、人類を救うスプレーなんですね!」
「え?」
「え?」
「人類を救うかどうかは分からんが、とにかく遂に完成だ!」
「何か途轍もなく不安なんですけど?博士?一体どんなスプレーを完成させたんですか?」
「聞いて驚くなよ!」
「はい。」
「欠伸誘発スプレーだ!」
「えええええええええええ!?」
「驚くなっつったろ!」
「驚くわ!今や欠伸をしたら死ぬってなってる世界で、欠伸誘発スプレー作ったなんて聞かされたら、誰でも驚くわ!え?何作ってくれちゃってんですか?」
「ちょっと待て!わしの話を最後まで聞け!」
「そう言う事なら、どうぞ。」
「え?単純に凄くない?一回、欠伸をしたら死ぬって世界を忘れてみ?凄くない?欠伸誘発スプレー!」
「いや全然凄くないですよ。欠伸をしたら死ぬって世界なんですもん!」
「それを一回忘れろっつってんの!」
「つわれても!そう言う世界なんですもん!今や!」
「なら、ある意味でいいや。」
「何ですか?ある意味って!」
「ある意味は、ある意味だよ。ある意味、凄くない?」
「いやまあ、ある意味凄いですよ。」
「だろ!」
「欠伸をしたら死ぬって世界で、その原因を突き止めて根絶しようって研究機関が発足されて、そのトップが!その代表者が!欠伸誘発スプレーって、ある意味凄いですよ!!」
「鼓膜が破れる!」
「破れちゃえ!」
「嫌だ!」
「博士、お願いしますよ。」
「金なら貸せないぞ!」
「何でこのタイミングでアタシが博士からお金を借りようとしてると思いました?」
「それはキミがギャンブラーだからだ!」
「ギャンブラーじゃねぇわ!」
「ギャギャギャ、ギャギャギャ、ギャンブラーじゃねぇ!?」
「ふざけてます?」
「生まれる前から大真面目です。」
「その返しがふざけてるじゃないですか!いいですか?博士!博士は、世界を救うスプレーじゃなくて、世界を滅ぼすスプレーを開発したんですよ!」
「何で?」
「え?バカ?」
「バカに欠伸誘発スプレーが作れますかっつうの!」
「この場合、バカじゃなきゃ作らないでしょ!分かってますよね?」
「ああ、分かってるとも!今日は、わしがゴミ出し当番だ!」
「分かってないじゃないですか!」
「分かってるだろ!今日は、わしがゴミ出し当番だっつったろ!」
「ゴミ出し当番の事、どうでもいいから!この世界!今の世界の状況と博士に課せられた使命の事だ!!」
「鼓膜が破れる!」
「破れろ!」
「嫌だ!鼓膜が破れたらどうなるか分かってるのか?」
「耳が聞こえなくなるんじゃないんですか?」
「あそうなの?」
「知らなかったのかよ!」
「これな。まだ、動物実験しただけで、臨床試験はしてないんだよ。」
「ちょちょちょちょちょ!」
「まあまあまあまあ!」
「ちょちょちょちょちょ!」
「まあまあまあまあ!」
「え?バカ?」
「まあまあまあまあ!」
「バカなの?何でスプレーを噴射しようとしてるんですか?しかもアタシに向かって!」
「これな。まだ、動物実験しただけで、臨床試験はしてないんだよ。」
「ちょちょちょちょちょ!」
「まあまあまあまあ!」
「ちょっと!やめて下さい!」
「キミもこう言うの嫌いじゃないんだろ?」
「何でセクハラ上司みたいな言い方すんですか!」
「セクハラ上司だからだ!」
「違うでしょ!いや、そうだったんですか?」
「そうだよ!わしはな!キミの研究してる姿を見て、キミが研究してるなって想像してるんだよ!」
「どう言うセクハラですか?現実を想像にすり替えないで下さい!まるでアタシが働いてないみたいじゃないですか!」
「これな。まだ、動物実験しただけで、臨床試験はしてないんだよ。」
「いや、この下りまだやるんですか?臨床試験したいなら、御自分でなさったらどうですか?どうぞ。」
「どうもって、いや死ぬだろ!」
「知ってんじゃん!スプレーを噴射したらどうなるか分かってるじゃないですか!」
「博士だぞ?」
「ずっと疑わしい感じでしたけどね!」
「これな。」
「まだやんの!」
「なら!どうすればいいんだよ!欠伸止めスプレーを作ってたら!欠伸誘発スプレーが出来ちゃったの!」
「それを失敗と言うんですよ!また一から欠伸止めスプレーの研究をすればいいじゃないですか!」
「勿体ないだろ!」
「この場合!勿体なくない!どんな代物を作っちゃったのか分かって言ってます?ちょちょちょちょちょ!」
「まあまあまあまあ!」
「バカなの?」
「もうバカでもいいや!」
「ちょちょちょちょちょ!」
「痛い!足踏んだ!鼓膜が破れる!」
「どこもかしこも鼓膜に直結か!」
「よし!もう仕方ないからこのスプレーを欠伸止めスプレーとして発表しよう!」
「どうしたらその考えに行き着きました?」
「ぬははははははは!」
「悪魔みたいな笑い方!」
「あのさ?」
「何ですか?」
「欠伸したら死ぬ世界って、どゆこと?」
「知りませんよ!」
これな。」

第六百五十八話
「ちょちょちょちょちょ!まあまあまあまあ!」

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2019年1月30日 (水)

「第六百五十九話」

「ん?ここは?何処だ?」
男は、真っ暗で窮屈な場所で目を覚ました。
「っつ!」
そして、同時に体全体を痛みが走った。
「・・・何が起きた?思い出せ、思い出せ、思い出すんだ。」
男は、必死に思い出していた。
「・・・・・・ああ、突然建物が崩れて、その下敷きになってる最中、か。これはどうも、まったくまいった事態だな。」
男の脳裏には、必然的に死が過った。
「・・・・・・。」
男は、しばらく沈黙していた。そして、何やら会話を始めた。
「父親と娘がケンカしたんだ。まあ、ケンカの内容は些細な事さ。娘が通ってる中学のテストの結果だとか、夕飯のおかずの好き嫌いだとか、恋愛話だとか、まあとにかく下らない事で父親と娘は、ケンカしたんだ。」
真っ暗で窮屈な場所で、男の声と時折崩れ落ちる小石の音が包み込んでいた。
「しばらく父親の説教を聞いた後、娘は二階の自分の部屋に行った。ベットに座り、枕を抱き抱えながら、目に涙を浮かべていた。間もなくして、娘の部屋のドアをノックする音がした。父親だ。さっきはちょっと言い過ぎたって、謝りに来たんだ。だが、娘はドアを開けようとしない。そりゃあ、そうだ。頭ごなしに怒鳴られて、怒ってるからな。そんなのはもちろん理解してて、父親はドアをノックする。」
ノックするの言葉と共に、男は瓦礫を叩く、と共に小石が落ちる。
「もちろん、娘はドアを開けようとはしない。そのうち父親は、ドアの向こうで話し合いがしたいと言った。だが、娘は返事をしない。それでも父親は、ドアをノックし、話を聞いてくれないかと言い続ける。何度も何度もドアをノックする父親に対して娘は、そのドアの向こうの父親を睨み付けながら、こう言った。パパと話す事なんてない!」
小石を落としながら、男の声が真っ暗で窮屈な場所に響き渡った。
「それでも父親は、ドアをノックした。娘は、ドアの方に向けてた顔を窓の方に向け、あからさまに無視する体勢をとった。これは長期戦を予想する展開だった。」
男は、しばらく沈黙した。
「・・・すると父親は、ドアの向こう側の返事のない娘に対してドアをノックして今度はこう言ったんだ。」
そう言うとまた男は、しばらく沈黙した。
「・・・凄く大きな鼻クソが取れたから、見ないか?ってな。すると娘は、思わず吹き出し、困った様子で笑みを浮かべてドアを開け、父親を部屋に入れた。そして、父親と娘は仲直りした。この話で何が言いたいか分かるか?」
そう言うと男は、またしばらく沈黙した。静かに微笑んで、こう言った。

第六百五十九話
「ドアに鍵は掛かってない」

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