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2019年4月10日 (水)

「第六百六十九話」

「先生!今ちょっといいですか?」
「おう、どうした?」
とある小学校の放課後の渡り廊下で六年生の女子がその担任教師を呼び止めた。
「アタシ、どうしたらいいんだろ?」
「いや、ちょっと先生、状況が飲み込めないんだけど、如何にもサッカーボールぐらいのエネルギーの弾がありますよ的な左手がどうかしたのか?」
「見えるんですか!?」
「いや、何も見えないが、如何にもだったから言ってみたんだが、もしかしたらもしかしてか?」
「もしかしたらもしかしてです。」
「おいおいおい!そう言う日でもないのに、先生をからかうもんじゃないぞ?そう言うのは、そう言う日にしてくれ。」
「からかってません!」
「いや、どう考えてもからかってだろ?」
「触っちゃダメ!!」
「びっくりした!?そう言うヤツは、そう言う時にしてくれよ!?」
「だって、先生が触ろうとするから!」
「なあ?学級委員長?本当に、あるのか?左手の手のひらの上に、サッカーボールぐらいのエネルギーの弾が。」
「あります!」
「でもな?先生には、何もないように見えるんだよ。」
「アタシにも何もないように見えます。」
「学級委員長にも見えてないのか!?」
「はい!見えてません!」
「なのに、そこにサッカーボールぐらいのエネルギーの弾があるって分かるのか?」
「はい!煙で確認済みです!」
「そうか。で?触るとどうなるんだ?」
「触ると触った箇所が消滅します。まるで別次元に消えるみたいに。」
「そうか。で?いつからあるんだ?そのサッカーボールぐらいのエネルギーの弾は?」
「今日、朝起きた時からです。」
「だから授業中もあんな不自然な格好だったのか。先生、あんまりツッコミに自信ないから受け流してたけど、そう言う理由だったんだな。」
「先生!アタシ、どうしたらいいの!」
「学級委員長?」
「はい。」
「やっぱりそう言うのは、そう言う日のそう言う時にしたほうがいいぞ!」
「先生!本当にあるんです!ここにサッカーボールぐらいのエネルギーの弾が!アタシ、どうしたらいいのか本当に困ってるんです!」
「いやもう、それは先生も全く同意見だ!先生に先生がいるなら、先生もその先生に聞きたいよ。でもきっと、先生に先生がいたとしても、その先生の先生も先生の先生の先生に聞きたくなるだろうな。」
「先生!」
「すまん。危うく先生スパイラルから抜け出せなくなるとこだった。でもな?学級委員長。そんな感じだよ。」
「どんな感じなんですか?」
「いや、先生も先生スパイラルから抜け出せなくなるぐらいの事案だって事だ。」
「ん?どんな感じなんですか?」
「先生は、小学校の先生だ。エネルギー弾の先生じゃない。」
「解決出来ないって事ですか?」
「それは違う!」
「違うの!?」
「ああ、学級委員長!そこを勘違いしたらダメだ!確かに、小学校の先生にはこの問題は解決出来ない!無理難題!難攻不落!絶体絶命!」
「もうメチャクチャ出来ないんじゃん!」
「ああ、出来ない!エネルギー弾の先生じゃなきゃ無理だ!だが、小学校の先生に小学校の先生なりの出来る事がある!それは、解決方法を生徒と一緒に考える事は出来る!」
「先生!」
「なあ?学級委員長?」
「はい?」
「単純に撃っちゃえば?」
「このエネルギーの弾をですか!?」
「そう!」
「先生にですか!?」
「違う違う違う!!おかしいだろ!触れたモノを消滅させちゃうようなエネルギー弾を先生に放ったら先生、消滅しゃうぞ!明日の遠足、先生行けなくなっちゃうぞ!先生、集合写真で上の隅の枠の中になっちゃうぞ!先生なのにだぞ!そうじゃなくて、人にぶつからないように、例えば空に向かって撃っちゃえばどうだって話だ。」
「先生、そんな事はもう、最初の方で試してる決まってるじゃないですか!」
「何!?」
「撃てないんです!手のひらの上に固定されてるみたいに、全然動かないんです!」
「何と!?」
「先生?アタシどうしたらいいの!」
「アタシ?先生どうしたらいいんだ!」
「先生!アタシは、真面目に悩んでるんです!真面目に答えて下さい!」
「こんな不真面目な状況なのに?先生、その不真面目に対して真面目に答えなきゃならないのか?」
「そうです!小学校の先生が出来る事は生徒と一緒に考える事だって言ったじゃないですか!」
「ぐぅ!」
「確かに現象は不真面目かもしれないけど、アタシは本気で悩んでるんです!」
「いやでもなぁ?先生もどうにかしたいと思ってるんだけど、どうにもしてやれないのが、先生の現状なんだよ。これはもう、先生の限界を遙かに上回る事案なんだよ。」
「そうですか。アタシは、こうして死ぬまで生きていかなきゃなんですね。」
「いや、ちょっと待てよ?」
「何か思い付いたんですか!」
「何か思い付いたぞ!」
「何ですか!」
「左手をちょん切ればいいんじゃねぇ?」
「え?」
「だってそうだろ?左手の手のひらからエネルギー弾が出てるなら、左手を切り落としちゃえば問題解決じゃないか!」
「問題が解決してるとは思えないんですけど?」
「でも、そうする事によって、学級委員長はエネルギー弾に悩まされる事はなくなるんだぞ?」
「でも、左手がない事に悩まされ続けるじゃないですか!」
「でも、同じだろ?今のまま生活してても左手が全く使えないなら、ないのも同然じゃないか!だったら、いらないだろ?」
「いるよ!いるに決まってんじゃん!左手ありきで、どうにか解決したいって話なんだから!」
「武器商人の知り合いとかいないのか?」
「何で普通の小学六年生に武器商人の知り合いがいるんですか!いたとしても左手だけ持って行かれて終わりですよ!」
「でも、一生遊んで暮らせるだけの金は貰えるぞ!」
「だから!そんな知り合いはいないし!左手を失いたくないんだってば!」
「我が儘だな。」
「我が儘?アタシ、我が儘なの?これって、アタシの我が儘なの?」
「ああ、そうだ!我が儘だ!先生なら、一生遊んで暮らせるだけの金を貰えるなら、喜んで左手を武器商人に渡すな。」
「そんなの結局他人事だから言えるんですよ!」
「その大金で凄いハイテクな未来の義手を買えばいいだろ?」
「嫌だだし!そもそも武器商人の知り合いがいないだし!その左手を失う選択肢は有り得ないって言ってんじゃん!」
「ん?」
「どうしたんですか?」
「下校の時間だ。早く帰れ。」
「ちょっと先生!まだ話が!」
「話なら明日聞いてやるから、今日はもう帰りなさい。」
「明日は遠足じゃん!せ、先生!」
「間違って顔を洗うんじゃないぞ!シャレにならないからな!」
「ちょっと!先生!」
「バナナは、おやつに入るが、お弁当箱に入ってるバナナ、それはお弁当だ!」
「何だそれ!ちょっと先生!え?何で逃げるの?何でダッシュ?先生!先生ってばーーー!・・・・・・もう!え?あれ?」
学級委員長の女子が手のひらを下に向けると、そのサッカーボールぐらいのエネルギーの弾は、消えた。
「消えた。消えた!やったーーー!え?」

第六百六十九話
「また手のひらを上にしたら、また出るやつ」

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